ANMELDEN事故後に初めて食堂に言った時、リチャードが「事故にあった」「よかった」と言っていた。
あの時のリチャードには驚きと喜びがあった。
私の顔の変化に対する驚きと私が生きていた喜びと考えれば辻褄が合う。
でもこれだけの怪我をしているのに、私に痛みはないのはなぜだろうか?
体を見せない、突然の改築、全身のだるさ、食欲のなさ。
軽く手をつねってみる。
総合的に考えて導き出される結論は……。
そうか、私は事故で死んだのか。
そして何らかの方法で生き返らされた。
……死者蘇生。
魔術師と呼ばれる存在が使うことが出来る秘術。
死んだものを生き返らせて
そうやって研究を進める召使いとする。
伝説上の話だと思っていたけどもし私が死んで死者蘇生を受けたのだとしたら……。
「リタ、こんな所にいたのかい!?」
「奥様!!」
焦った顔をしたリチャードとアナが駆け寄ろうとしてくる。
「近寄らないで!!」
顔を隠してしゃがみ込む。
こんな醜い姿を見られたくない。
それに誰かに操られているかもしれない。
もしそれでリチャードを傷つけることになったら後悔してもしきれない。
「もう私は昔の私じゃない、あなたに愛される資格なんてない」
あなたの好きだった私はもういない。
このまま誰の目にも触れずに消えてしまいたい。
「私はもう死んだと思って諦めて」
そう言った瞬間だった。
「はい、その通りーーー」
突然目の前から声がした。
目を開けてそちらを見ると男が立っている。
通路から来た気配も窓から入った気配もなかった。
まるで無から現れたような……。
「魔術師殿!?」
「やあやあ、一週間ぶりかな、リチャードくん」
リチャードの知り合いのようだ。
でも魔術師?
彼らは深い地下の奥底で研究に勤しんでいることがほとんどで、地上に姿を現すことは少ないと言われている。
ましてや私たちのような小貴族に会いに来るなんてありえない。
「契約の条件未達ということで回収に来たんだよ」
「待って下さい、まだ」
「もう貴方は気づいているよね、貴方は死んだんですよ」
目の前に鏡が現れる。
そこに映ってたのは。
「ひっ!?」
「それが貴方の姿、周りが隠していた醜い姿」
映る姿が自分だと信じたくなかった。
肌には大きな傷が幾つも走っていた。
鼻は削り取られて残っていない。
唇は引き裂かれてズタズタ。
そしてなにより彼が褒めて愛してくれた目はなかった。
「すごいだろう、そんな状態でも見えるようにしてあげたんだよ」
「な、んで?」
「見えなければ絶望出来ないだろう?」
悪意に満ちた笑みを見てようやく理解した。
リチャードに死者蘇生を持ち掛けたのはこいつだ。
「チャンスを、チャンスを頂けないでしょうか」
「そうだねぇ、彼女とキス出来るかい?」
「もちろん」
「やめて、リチャード」
「やめない」
「もう化け物なのよ!?」
「僕の目にはいつものリタしか見えない」
「あなたが好きだったものは何も残ってないのよ」
「リタが生きていてくれればそれでいい」
私を抱きしめて優しいキスをしてくれた。
それは事故から目覚めた時と同じ。
ああ、そうだ。
事故から目覚めたあの時から顔はこんなだったに違いない。
それでもリチャードはいつもと変わらないキスをしてくれた。
こんなに醜い私を。
「あっはっは、滑稽だねぇ、見ろよ、化け物とキスしてるぞ」
「リタは化け物なんかじゃない」
「彼は目が腐ってるのかな? あ、彼女は目がないからお似合いか、あははー」
「失礼な発言はご遠慮いただけますか?」
「いやぁ、誰が見てもそういうだろう、なぁ?」
「わたくしにも奥様の綺麗なお顔しか見えませんね」
アナの同意を得られなかったのが不愉快だったようだ。
「主従揃って目が腐ってるのか」
吐き捨てるように言うとこちらに向き直った。
「さあてそろそろ回収と行こうか」
「待って下さい!! お金なら差し上げます、家も差し上げます、だから」
膝をついて懇願するリチャード。
こんなになりふり構わない姿を見るのは初めてだった。
「契約は契約だからねぇ」
嫌らしい笑みでそう答える魔術師。
契約……、契約とは一体何だろうか。
さっきの断片的な話から考えると、死者蘇生で何らかの契約をしたんだろう。
ならその契約内容は?
「ねえ、魔術師さん、契約ってなんだったの?」
「そんなことも理解できなかったのかい? ああ、脳みそ死んでるんだったね」
いらつく喋り方だけど我慢する。
少しでも情報を引き出す方が大事。
「本人が一週間以内に気づかなければ成功、気づいたら失敗だよ」
「気づくって何を?」
「もちろん死者だと気づくかどうかという話だよ」
この姿で気づかないなんてことはあり得ないだろう。
私だってリチャードとアナが努力してくれていなければすぐにでも気づいた。
「成功したらどうなっていたの?」
「ちゃんとした形で蘇生してあげることになっていたね」
つまり成功すれば完全に生き返るということ。
それを餌にされてリチャードは話に乗ってしまったんだ。
ただ悪質なのは成功して完全に生き返れたとしても使役されたままであること。
魔術師の手駒となってお金をむしり取られるのが関の山だ。
「契約は"死んだことに気づくかどうか"なのね」
「そう言っただろ、頭悪いな」
なるほど、ならここで一つ問題が出てくる。
私が認識した時?
でもアナは言っていた。
「心の中は証明できないので大丈夫」だと。
それに心の中を読めていたなら魔術師の来たタイミングがおかしい。
魔術師が来たのは私がリチャードを拒否した時だった。
明らかにタイミングを測っていたのを考えればあの時が契約を破った時と思っているだろう。
「そ、その姿は!?」「え?」「奥様!!」 リチャードとアナが私に抱き着いてきた。 アナの抱きしめる力が強すぎて潰れそう。「戻ってるんだ、君の姿が!!」「え!?」 とっさに鼻に手を当てる。 ……存在する。それに肌に傷もないし弾力も違う。「奥様が骸骨の鎌に切られた瞬間、一瞬で元のお姿に」「よかった、よかったよ」 そう言うとリチャードが大泣きし始めた。 あまりの大声で人が集まってきてしまったのでアナと二人で寝室まで連れ帰る。 しばらくしてようやく落ち着いた後、リチャードが話し始めた。「おそらくリタの言った通りだったんだと思う」「魔術師の契約違反ですか?」「そう、気づくより先に教えてしまったことで契約違反となったんだ」「でもどうして強制執行するだけで魔術師は死ぬことになったのでしょうか?」 そこがいまいちわからない。 強制執行なら生き返らせて終わりのはず。 魔術師が死ぬ理由がない。「おそらく完全な死者蘇生には代償が必要だったのかと」「代償?」「人の命、か」「はい、代償が準備されていなかったので魔術師自身が代償になったのだと思います」 もしそうならたとえ契約を成功させていても代償は自分で用意しろと言われたんじゃないだろうか。 ……リチャードにそんなことをさせなくて本当によかった。 一通り話し終えた所で、リチャードがチラチラとこちらを伺っている。 それを見たアナがため息をつく。「二人とも入浴をお願いします」 リチャードは一人で、私はアナに連れられて入浴させられた。 その時アナが体を見て『よかった……』とつぶやいていたけど、よっぽどひどい状態だったんだろうな。 寝室に戻るとリチャードが飛びついてきた。 まだアナがいるというのにキスを始める。 それを見たアナがまたため息をついて出ていった。「リタ、リタ、リタ」 ついばむように何度もキスする合間に私の名前を呼ぶ。「傷一つない……本当によかった」 泣きながらキスしてくるのは反則ね。 どうすればいいか困ってしまう。「キスした時に気づかれるかと思って普段しないキスにしてたんだ」「そんなに気を遣うならしなければよかったのですよ」「それは嫌だった」 まるで駄々っ子のようなことを言ってキスしてくる。 でもあの時の私は化け物のような顔だった。 そんな私とする
「私は自分が死者だと気づいていなかった」「は? 何言ってる、彼に『私はもう死んだ』と言っていたじゃないか」「『私はもう死んだ"と思って"諦めて』としか言っていない」 ちょっとした言い回しの違い、それは契約においては致命的な違いとなる。 でも魔術師はそれに気づいていない。「その前にも鼻を触っていただろう? 存在しなくなった鼻を」「そう、てっきり事故でなくなったんだと思ってた」 実際はそこで蘇生されたと気づいていた。 でもそれは客観的に証明できない。 だって私は何も言っていないから。「死んだ"と思って諦めて"と言っている時点で死んでいるとは言っていない」「は?」「あなたが答えを教えたから気づいただけ、あなたの契約違反よ」 最初に私が死んだと言ったのは魔術師。 それは変えようのない事実。「言い訳は聞き苦しいよ」「でも今なら契約破棄してあげてもいい」「なるほど、それが目的か」 少し納得した顔をしている魔術師。 契約違反の可能性はある、それは間違いない。 なら私に出来るのは、可能性の話を広げて契約破棄を迫るしかない。「あなたの契約違反ならあなたに罰が下るわよ」「腐った頭で一生懸命考えたようだけど無駄だよ」 強い口調。 魔術師的には確信があるようだ。「貴方の動きはどう見ても死んだと気づいている動きだった」「死者が動くのと大怪我で生き延びたと考えるのとどちらが常識的かしら?」「目がないことに気づいたのに目が見えていることはどう思ったんだ?」「その二つの関連性にまったく気づいてなかった」 これは本当。 あの時そういう発想はまったくなかった。「都合の悪いことは聞いてません、知りません、が通るわけ無いだろう?」「契約は契約よ」「適当に誤魔化してるだけのくせに」 実際に気づいていたのは確かだから、変に無理やり理由付けると矛盾が出る。 口に出したことは絶対。 なら『知らない、分からない』で誤魔化すしかない。 魔術師がため息をついてこちらから視線を切る。 あ、駄目だ、会話が打ち切られた。 魔術師の懐から紙を出す。「強制執行だ!!」 魔術師がそう言った瞬間、私の背後から恐ろしい気配を感じた。 慌てて振り向くとそこには鎌を持ち黒装束を着た骸骨が立っていた。「こいつが出てきたってことは条件を満たしているってこと
事故後に初めて食堂に言った時、リチャードが「事故にあった」「よかった」と言っていた。 あの時のリチャードには驚きと喜びがあった。 私の顔の変化に対する驚きと私が生きていた喜びと考えれば辻褄が合う。 でもこれだけの怪我をしているのに、私に痛みはないのはなぜだろうか? 体を見せない、突然の改築、全身のだるさ、食欲のなさ。 軽く手をつねってみる。 まったく痛みを感じない。 総合的に考えて導き出される結論は……。 そうか、私は事故で死んだのか。 そして何らかの方法で生き返らされた。 ……死者蘇生。 魔術師と呼ばれる存在が使うことが出来る秘術。 死んだものを生き返らせて使役する。 そうやって研究を進める召使いとする。 伝説上の話だと思っていたけどもし私が死んで死者蘇生を受けたのだとしたら……。「リタ、こんな所にいたのかい!?」「奥様!!」 焦った顔をしたリチャードとアナが駆け寄ろうとしてくる。「近寄らないで!!」 顔を隠してしゃがみ込む。 こんな醜い姿を見られたくない。 それに誰かに操られているかもしれない。 もしそれでリチャードを傷つけることになったら後悔してもしきれない。「もう私は昔の私じゃない、あなたに愛される資格なんてない」 あなたの好きだった私はもういない。 このまま誰の目にも触れずに消えてしまいたい。「私はもう死んだと思って諦めて」 そう言った瞬間だった。「はい、その通りーーー」 突然目の前から声がした。 目を開けてそちらを見ると男が立っている。 通路から来た気配も窓から入った気配もなかった。 まるで無から現れたような……。「魔術師殿!?」「やあやあ、一週間ぶりかな、リチャードくん」 リチャードの知り合いのようだ。 でも魔術師? 彼らは深い地下の奥底で研究に勤しんでいることがほとんどで、地上に姿を現すことは少ないと言われている。 ましてや私たちのような小貴族に会いに来るなんてありえない。「契約の条件未達ということで回収に来たんだよ」「待って下さい、まだ」「もう貴方は気づいているよね、貴方は死んだんですよ」 目の前に鏡が現れる。 そこに映ってたのは。「ひっ!?」「それが貴方の姿、周りが隠していた醜い姿」 映る姿が自分だと信じたくなかった。 肌には大きな傷が
「奥様、朝でございますよ」「ううーん」 いつものように頭のある辺りに手を伸ばすと、その手は空を切った。 目を開けて見てみるとそこには誰もいなかった。「あれ? リチャードは?」「旦那様はもう起きて仕事しておられます」 珍しいこともあるものだ。 私と一緒に寝る時はいつも私に抱き着いたまま起こされるのに。 寝顔を見ながら頭をなでるちょっとした楽しみが出来なくて残念。「あ、服着替えないと」「もう着替えは終わっております」 言われて服を見てみるとたしかに寝る前と変わっている。 リチャードが起きた時にアナに伝えてくれたのかな? ただ何か全体的に動きづらく感じる。 いつも着慣れている服なのにどうしてだろうか?「お体の調子はどうですか?」「まだまだ回復してないわね」 全体的にだるい。 やっぱり事故の影響なんだろうな。 ……そういえば事故の傷ってあるのかな?「ねぇ、アナ、私の体に事故の傷は残っているの?」「っ!……ええ、多少」「そうなのね、どのくらいで治るのかしら?」「きっとすぐですよ」 変だ。 アナが言葉を濁す時は何か後ろめたいことがある時。 でも傷があることは答えたのに何を隠すと言うの? ……どこに傷があるのか聞こうと思った時、私の手を取って顔を近づけてきた。「必ず治ります、そうお医者様もおっしゃっていました」「そ、そうなのね」 鬼気迫るアナの雰囲気にちょっと押される。 あまり人に言えない場所なのかもしれない。 でもリチャードも何も言ってなかったから目立つ部分ではないのだと思う。「食事はどうされますか?」「ここで食べるので果物だけでいいわ」「わかりました、すぐに持ってきます」 いまいち食欲がわかない。 食べないと元気が出ないのだけど……。 結局この日から4日たっても体調は回復するどころか悪化する一方だった。・・・「おはようございます、奥様」「おはよう、アナ、ねえ、本当に私良くなってるの?」「ええ、顔色も良くなっておりますよ」「何も食べてないのに?」「わたくしが寝ている間に食べさせておりますから」 嘘だ。 それなら口の中に多少なりとも何かが残る。 でも昨日も一昨日も何も口の中になかった。 それにもっとおかしいのは何も食べていないのに空腹感が少ないこと。 これだけ食べていないのだ
「あれ……、私?」「もう朝だよ」「え!?」 目が覚めるとリチャードがベッドの隣の椅子に座っていた。 どうもベッドで横になってそのまま寝入ってしまったらしい。「久々にリタの寝顔を堪能できたよ」 目じりを下げて満面の笑みを浮かべるリチャード。 普段は私の方がリチャードの寝顔を堪能するのに今日は堪能されてしまったらしい。 何か悔しいのでほっぺたをタプタプしておく。「おおお、やへるんだ(やめるんだ)」「恥ずかしい思いをしたからお返しです」 昔より贅肉が増えている気がする。 もう少し運動してもらわないと駄目ね。 ……そういえばしばらく夜の営みをしてないし、今日の夜に誘ってみようかな。 十分にほっぺたを堪能した後に離す。「つらいなら無理して起きてこなくていいからね」「大丈夫ですよ」 そう言ってベッドから降りて立ち上がる。 その瞬間、頭の血の気が引く感覚があった。 あ、駄目、立ち眩みが……。「ほら、危ない」 でもリチャードが私を支えてくれた。 まるで私が体勢を崩すのが分かっていたみたいだ。「今日はずっとここで一緒にいようか」「お仕事はいいのですか?」「リタの看病より大事な仕事はないよ」 穏やかに、でも強い意志で答えるリチャードを見て結婚が決まった時のことを思い出した。------------------------------------------------------------------------------------------「いきなり貴族の嫁になると言うのは大変でしょうが、必ず幸せにします」 リチャードは私の家に来て結婚を申し込んだ。 ただの平民の家にわざわざ貴族様がやってくるなんて普通ありえない。 ましてや"申し込む"なんて考えられない。 ほとんどは貴族の指示でやってきた部下が"金で買っていく"であり最悪の場合はお金すら支払われず攫われるだけ。 でもリチャードは自分でやってきて私に選択肢を与えた。「断っても不利益が生じることはない」「受け入れれば家に対する十全な支援と君への幸せを約束する」 普通なら喜んで受ける話だけど、母や姉は執拗に『断れ』と言ってきた。 その理由は彼の容姿にあるのだと思う。 小柄で丸顔で太った姿は貴族どころか大人にすら見えない。 せめて童顔ならまだしも顔自体は
食堂に入ると予想通りリチャードがそこにいた。「おはようございます、リチャード」「っ、あ、ああ、おはよう」 少し驚いた顔をしている彼が私の旦那様だ。 かなりの小柄で丸顔の太った体。 女性と比べてもさらに小さくて子どものような大きさ。 本人はすごく気にしているけど私はかわいいと思っている。 手にはコップを持っている。 リチャードは朝食前に必ずミルクを飲むのでまだ朝食を済ませていないんだろう。 一緒に食べることが出来ると思い椅子に座ろうとするとリチャードが私を抱きしめた。「リタ……よかった……」 そう言って背伸びして唇を合わせてくる。 なんとなくいつもと唇の感触が違う。 それにベタベタしたがるのはいつものことだけど今日は抱きしめる力が強い気がする。「覚えてないかい? 君は馬車で事故にあったんだよ」「え?」「ほら、僕と一緒に買い物に出かけて」 事故? そういえばリチャードと一緒に買い物に行ったんだ。 いろいろ買ってそこから記憶がない。「数日間目覚めなかったんだ」 え……? 全然そんな意識がなかった。 普通に寝て起きただけだと思っていた。「まだ怪我が治りきっていないから安静にしてないといけない」「そうなのですね」 体が重いのもそれが原因なのかもしれない。 肩を回してみるとちょっと違和感がある。「あああ、無理しちゃいけない」「これくらい大丈夫ですよ、心配性ですね」「だってまだ事故からそんなに経ってないから」 相変わらず心配性な人。 私が熱を出した時はずっと私のそばで手を握っていて自分に感染したら『リタから病気を奪えてよかった』というぐらい筋金入り。 すごくかわいい。「朝食は食べられそう?」「あまり食欲がわきませんね」「ならミルク粥にしてもらおうか」 体調を崩した時は必ず作ってもらう私の大好物。 リチャードがさっそく鈴を鳴らしたけど誰も来ない。 そういえば屋敷の塗装で大勢駆り出されてるって言ってたな。 それなら厨房まで行こうと思い立ち上がろうとしたらリチャードが慌てて駆け寄ってきた。「僕が頼みにいくからいいよ」「でもそれぐらいは私が」「体調が戻ってないんだから旦那さんに任せなさい」 普段甘えたがりなのにこういう時は年上っぽく振舞いたがる。 後でいっぱい甘えさせてあげよう。「ならお願いしま
「奥様、もうお時間ですよ」 メイド長のアナスタシアの声で目が覚める。 嫌な夢だった。 体がばらばらに引き裂かれる夢。 手足がちぎれていく感覚はものすごく生々しくて、起きた今でも思い出せる。 思わず体を身震いさせてしまう。「どうされましたか?」「なんでもないの、アナが起こしに来るなんて珍しいわね」「ちょっと事情がございまして」 少し困った表情をしているので何かあったのだろう。 普段ならスフィーナやイリーシャが起こしに来るはずで、わざわざアナが起こしに来る必要なんてない。「それにどうしてこんなに真っ暗なの?」 あまりの暗さで夜かと思ってしまった。 窓を見ると外側から何か







