ログイン「奥様、朝でございますよ」
「ううーん」
いつものように頭のある辺りに手を伸ばすと、その手は空を切った。
目を開けて見てみるとそこには誰もいなかった。
「あれ? リチャードは?」
「旦那様はもう起きて仕事しておられます」
珍しいこともあるものだ。
私と一緒に寝る時はいつも私に抱き着いたまま起こされるのに。
寝顔を見ながら頭をなでるちょっとした楽しみが出来なくて残念。
「あ、服着替えないと」
「もう着替えは終わっております」
言われて服を見てみるとたしかに寝る前と変わっている。
リチャードが起きた時にアナに伝えてくれたのかな?
ただ何か全体的に動きづらく感じる。
いつも着慣れている服なのにどうしてだろうか?
「お体の調子はどうですか?」
「まだまだ回復してないわね」
全体的にだるい。
やっぱり事故の影響なんだろうな。
……そういえば事故の傷ってあるのかな?
「ねぇ、アナ、私の体に事故の傷は残っているの?」
「っ!……ええ、多少」
「そうなのね、どのくらいで治るのかしら?」
「きっとすぐですよ」
変だ。
アナが言葉を濁す時は何か後ろめたいことがある時。
でも傷があることは答えたのに何を隠すと言うの?
……どこに傷があるのか聞こうと思った時、私の手を取って顔を近づけてきた。
「必ず治ります、そうお医者様もおっしゃっていました」
「そ、そうなのね」
鬼気迫るアナの雰囲気にちょっと押される。
あまり人に言えない場所なのかもしれない。
でもリチャードも何も言ってなかったから目立つ部分ではないのだと思う。
「食事はどうされますか?」
「ここで食べるので果物だけでいいわ」
「わかりました、すぐに持ってきます」
いまいち食欲がわかない。
食べないと元気が出ないのだけど……。
結局この日から4日たっても体調は回復するどころか悪化する一方だった。
・・・
「おはようございます、奥様」
「おはよう、アナ、ねえ、本当に私良くなってるの?」
「ええ、顔色も良くなっておりますよ」
「何も食べてないのに?」
「わたくしが寝ている間に食べさせておりますから」
嘘だ。
それなら口の中に多少なりとも何かが残る。
でも昨日も一昨日も何も口の中になかった。
それにもっとおかしいのは
これだけ食べていないのだからもっとお腹が空くはず。
なのに多少お腹が減っている程度しか感じない。
「ちょっと出歩こうかな」
「体調はよろしいのですか?」
やはりそうだ。
顔色が良くなっていると言っているのに体調を聞いてきた。
本当に顔色が良いなら聞く必要はないはず。
「ええ、大分良くなってきたから」
「……わかりました、お着替えは済んでいます」
そう、これも疑問だ。
毎日目覚める前に着替えが済んでいる。
でもなぜわざわざ寝ている間に着替えをするのか?
……それはつまり私に体を見られたくないということではないか?
もしそうなら見ただけで分かる何かが体にある。
ただ昨日は寝たふりをしてみたけどアナに気づかれていたので着替えを見るのは難しいだろう。
部屋の外に出て食堂に向かう。
3日ぶりに歩くせいか大分体が重い。
体がなまっているみたい。
いつもよりかなりスローペースで移動する。
食堂付近でコック長のジェフを見かけた。
丁度いいので朝食を頼んでおこう。
「ジェフ、ミルク粥を頂けるかしら?」
「あ、奥さm、ひっ!?」
振り向いたジェフの顔が恐怖に染まった。
イリーシャと同じ反応のように見えるけどタイミングがおかしい、
ジェフの場合は明らかに私と分かった上で驚いている。
「す、すみません、すぐお作りしますね」
「やっぱりいらないかも、ごめんなさいね」
「そんな」
「忙しそうなのに無理させちゃいけないよね」
そうそうに話を打ち切ってその場を離れる。
ジェフとイリーシャの反応は異常だった。
でもリチャードとアナの反応はいつも通り。
その差は何なのだろう。
私がここにいることが不自然だとか?
使用人の間では死んだことになっているならあり得る。
でもそれならイリーシャはともかくジェフが驚く理由はない。
少なくても一度は私のために料理を作っているし私が声をかけた時点では驚いてなかったから。
まだ足りない、何かが違うんだ。
廊下を歩きながら考えごとをしていたためか普段来ない使用人たちの部屋の近くまで来てしまった。こんなに遠くまで来てしまったら帰るのが大変だ。
そう思いながら振り返って帰ろうとした時のこと。
「め、目と鼻のない化け物!?」
使用人の子どもと思われる二人が私の方を見て逃げ出していった。
後ろを振り返っても誰もいない。
暗いから何かと見間違えたのかな?
それにしても化け物だけならともかくやけに具体的な内容だ。
目と鼻……か。
何の気なしに鼻を触ろうとして気づく。
鼻が……ない。
代わりに穴が空いているのが分かる。
それはつまり……。
あわてて目を軽く触ろうとしてみる。
奥様は貴族夫人として相応しくなるよう大変な努力をなされています。 毎日厳しい教育を受けている様子を見て旦那様はかなり心配しておいででした。「リタ、大丈夫かい? つらくないかい?」「大丈夫ですよ、リチャード」 ジョゼット様のことがあるからでしょう。 ことあるごとに声をかけていらっしゃいます。「心配性ですね、一人で大丈夫ですよ」「だって大変そうだよ」「リチャードも子どものころに一人で教わったのでしょう?」「でも……」「リチャードにずっと見られていたらアナスタシアもやりづらいですよ」「わかった、愛してるよ、リタ」「私も愛していますよ」 渋々といった表情で部屋を後にされる旦那様。 退出前に奥様の手を握って寂しそうにしてたのが印象的でした。「リチャードは甘えん坊ですね」 奥様はよくそうおっしゃいますが今までこのようなお姿はほとんど見たことがありませんでした。 奥様によほど心を開いていらっしゃるようです。 ただ毎日のように『好きだ』『愛してる』という言葉を聞くのでこちらが赤面してしまいます。「今日はリタに我慢させることになると思う」「構いませんわ」 今日は結婚後初めての貴族の交流会です。 平民である奥様にはいろいろと厳しいことを言われるでしょう。 旦那様はかなり気にしておいでですが奥様はあっけらかんとしておられます。 会場に到着しました。 周りの目が一斉にこちらを見ます。「まあ、あれが例の……?」「ええ、そうですわ、何でも平民の出だとか」「割れ鍋に綴じ蓋でちょうどいいでしょう」 わざと聞こえるように話しているのでしょう。 奥様にも聞こえたようですがなんの反応もありません。 しかし割り当てられた席に座ろうとした時、顔色が変わりました。「リチャード、それは?」「いいんだ、リタ」 旦那様に用意されていたのは子ども用の椅子。 さらに近くには踏み台まで用意されていました。「座りやすくてちょうどいいよ、ははは」「リチャード……」 最近こういうことが増えてきました。 旦那様が我慢しておられるので耐えていますが招いておいてこの対応は許せません。 しかし使用人の立場では言えないのが歯がゆく感じます。「さあ早くリタも座りなよ」「……ええ」 奥様も戸惑いながら座られました。 全員着席したところで主催の貴族
どうしましょうか。 突然の旦那様の願いに戸惑いを隠せません。 ジョゼット様の件以降、旦那様は婚約者をお作りになりませんでした。 相手が明らかに財産目当てだったのもありますが一番は旦那様が興味を持ちませんでした。 『僕が好きになった人と結婚したい』とおっしゃる旦那様はよほどジョゼット様のことが尾を引いていると思われます。 そんな旦那様が結婚なさるおつもりだと言うのは非常に喜ばしいことです。 ただ相手が平民となると話が変わります。 平民と貴族は住む世界が違います。 それは身分の差と言う意味だけでなく魔力の有無という意味もあります。 貴族の世界は魔力があることを前提に作られています。 わたくし達のような平民では呼び鈴すら鳴らすことができません。 もし平民が妻となれば社交で問題が出ることでしょう。 ただ先ほどの様子だと既に覚悟を決めておられるようです。 ……ならば使用人としては最善を尽くすのみでしょう。「分かりました、さっそく調べてまいります」・・・ 数日である程度情報は集まりました。 名前はリタ様と言うそうで旦那様と同い年の結婚経験なし。 明るく優しく聡明な方で結婚していないのが不思議だとか。 妾であれば文句のない相手なのですが……。 旦那様に報告すると『すぐにでも挨拶に行く』とのことでした。 よほど待ちきれないのでしょう。 準備を整えて彼女の住む家に向かいます。「いきなり貴族の嫁になると言うのは大変でしょうが、必ず幸せにします」 それを聞いた彼女は興味深そうな目で旦那様を見ていました。 彼女の印象は悪くありませんね。 ただ家族の方はひどいものです。 彼女の母は得体の知れないものを見る目だったし彼女の姉に至っては嫌悪感を隠しもしない。 旦那様がひどい貴族であれば何らかの処罰を受けていたでしょう。「断っても不利益が生じることはない」 その言葉で彼女の母が安堵したのがわかります。 大事な娘を無理やり奪われると思ったことは理解できますが旦那様の誠意を理解していないことには腹立たしさを感じます。「少しお時間をいただけないかと」「わかった、しっかり考えてほしい」 旦那様は食い下がることなくその場を後にしました。 旦那様の雰囲気だと断られた時は素直に諦めてしまいそうです。 しかしここまで気に入られているなら妻
それから数年。 婚約の話は何度も来ていたが全て断っていた。 女性が財産目当てに媚びてくる姿があまりに悲しかったからだ。 ジョゼットは一度もそんな態度をしなかった。 お金ではなく僕の方を見てくれた。 もし結婚するならそんな相手であってほしい。 そして今度こそ自分が愛を与える側になりたい。 そんな相手を探していたある日のことだった。 その日は偶然が重なった。 たまたま馬車の幌が一部壊れていたこと、たまたま鳥の糞が落ちてきたこと、たまたまそれが幌の隙間を縫って落ちてきて僕の服についたこと。「運が悪いなぁ」「申し訳ございません、壊れた馬車に乗せたわたくしの責任です」 無表情に見えるけどよく見ると若干眉をひそめて下唇を噛んでいる。 よほど責任を感じているのだろう。「アナのせいじゃないし他の誰のせいでもないよ」「旦那様、ですが……」 こんなことで誰かを責めて何になるのか。 それに最終的に僕がいいと言ったのだから僕の責任だろう。「ちょうどそこに店があるし代わりを買おう」「……わかりました、すぐ交渉してまいります」 少しためらっていたけど承諾してくれた。 これでいい、そんなに気にすることじゃない。「貸し切りには出来ませんでしたがなんとか使えそうです」「よかった」 本当は貸し切りの方が迷惑にならないと思うけど店側がいいというなら構わない。 みんなを連れて店に入ると店員が怪訝な目で見てきた。 初めての店だから僕の姿に驚いているのだろう。 いつものことだ。「旦那様?」「いいよ、初めてのお店だし」 店員の怪訝な目にアナが気づいたけどたまたま通りがかった店に対してそこまでする必要もない。 貴族に慣れている店ならそういう反応を見せないものだけどここはあまり慣れていないんだろう。 建物の奥側に案内されて服を試着していく。 とりあえず家に帰るまで持てばいいのだからなんでもいいのだけど、アナ含めメイド達が『似合うものしか駄目です』と言っていた。 おかげで何着も試着している。 まあみんな楽しそうに選んでくれているのでいいか。「何あれ? 気持ち悪っ」「しっ、お貴族様だよ、下手なことを言うと首はねられるよ」「怖っ、え、聞こえてないよね?」 悪口と言うのは存外遠くまで聞こえるものだ。 かなり離れた入り口付近の店員が話している
お父さんとお母さんが長い旅に出かけてから少し経ったある日。「坊ちゃま、今日はわたくしの孫を紹介いたします」「アナスタシアです、よろしくお願いいたします」 すごくきれいでおとなしい女の人だ。 まごってばあやの家族ってことだよね? ええとこういう時はほめた方がいいってお父さんが言ってた。「ばあやのまごだからきれいだね」「おっほっほ、坊ちゃんはお世辞が上手ですね」 頭をなでてくれた。せいかいだったみたい。 あなすたしあさんもニコニコ笑ってる。 わらうとすごくびじんさんだ。 僕より大きく見えるけどいくつぐらいなんだろう?「あなすたしあさん?」「さんはいりませんのでアナとお呼びください」「え、僕よりお姉ちゃんじゃないの?」「主従関係はリチャード様の方が上になりますから」「ならぼくのことはリチャードって呼んでほしいよ」「それは……」「構いませんよ、アナスタシア。ただし家族の中だけです」 アナがちょっとこまっていたけど、ばあやからはおゆるしをもらえた。 せっかくともだちになるならあんまり気をつかってほしくない。「分かりました、リチャード」・・・ アナはぼくより5つ上で、なんでも知っていてこまった時はいつも助けてくれる。「アナー」「なんですか、リチャード」「ほんがとれない」「わかりました……、あら、この本は」「アナとおなじほんよみたかったんだ」 そう言うとうっすらと笑って頭をなでてくれた。 お姉ちゃんがいたらこんな感じなんだろうな。「アナスタシアは綺麗ね」「そうだよね」 こんやくしゃ?のジョゼットもほめている。 ちょっとうらやましそうな顔をしているけどジョゼットもとてもかわいいので気にしなくていいと思う。「リチャードも懐きすぎよ」「だって……」「ジョゼット様の言う通りでございます、わたくしよりジョゼット様と仲良くしてください」「大丈夫、アナもジョゼットも大好きだから」「何が大好きなのよ」 アナはジョゼットといっしょにいるといつもこうだ。 話しかけても全然相手してくれないし、いっしょにあそんでもくれない。 しょうらいジョゼットとふうふになったらずっとこんなかんじならいやだな。・・・数年後。 今日は婚約者のジョゼットが来ている。 両親がいたころに決めた相手で、そのころはとても仲が良かった。
「ここ、どこ?」 お父さんとお母さんと馬車にのっていて……。 なんかすごい音がして……。 あれ? 体が動かない。 何かが上にのってるみたいだ。 重たいからどけようとしたけどぜんぜん動かない。「ああー、駄目だ、頭が潰れると駄目なのか」 遠くでだれかが大きな声で話している。 でもまわりに誰もいないような。「失敗したなぁ、とりあえず使役しとけばいいだろうと思ったのに」 大きな何かをなげすてるとこちらに近づいてきた。 よかった、この人におねがいしたら動かしてもらえるかもしれない。 助けて。 あれ? 声が出ない。 なんど声を出そうとしても声が出ない。 どうしたんだろう?「ん? そこにいるのは?」 こちらに近づいてきた。 変なかっこう。 なんかところどころ赤くなったマントなんてカッコわるい。 それになんかくさい。「やあやあやあ、坊ちゃまじゃないですか」 いきなり変な顔をして声をかけてきた。 だれ? 見たことない人だと思うんだけど。「計画変更といこう、ガキに恩を売って援助をもらうか」 何か小さな声でひとりでしゃべってまたはなれていった。 ああ、どっかいっちゃった。 声が出ないから呼び止めることも出来ない。 どうしよう、頭が動かせないからまわりがあんまり見えない。 ぼくの体の上にいったいなにがのっているのかな?「やあやあ、坊ちゃま、こいつが今回の事件の主犯です」 さっきの人がとつぜん目の前に出てきた。 となりには、なわでしばられた男の人がいる。 じけん? しゅはん? ってなんだろう? それに目の前にいるこの人もだれなんだろう?「もう声が出るはずですよ」「え?」 あ、ほんとだ。声が出た。 さっきまでのはなんだったんだろう?「あなたは誰?」「俺は魔術師ですよ、貴方を助けに来たんです」 助けに来た? よく分からないけど助けてもらったならおれいをいわないと。「ありがとうございます」 そう伝えたらまじゅつしさんがスッと目をほそめた。 ちょっとこわかったけどすぐふつうの目に戻ってやさしく声をかけてくれた。「子どもには早いので少し目を閉じてくださいねー」 言われたとおり目をとじる。 すると体にのっていた重いものが動かされた。 ようやく苦しいのが楽になった。「まだまだ目を開けないで下さいね」
「そ、その姿は!?」「え?」「奥様!!」 リチャードとアナが私に抱き着いてきた。 アナの抱きしめる力が強すぎて潰れそう。「戻ってるんだ、君の姿が!!」「え!?」 とっさに鼻に手を当てる。 ……存在する。それに肌に傷もないし弾力も違う。「奥様が骸骨の鎌に切られた瞬間、一瞬で元のお姿に」「よかった、よかったよ」 そう言うとリチャードが大泣きし始めた。 あまりの大声で人が集まってきてしまったのでアナと二人で寝室まで連れ帰る。 しばらくしてようやく落ち着いた後、リチャードが話し始めた。「おそらくリタの言った通りだったんだと思う」「魔術師の契約違反ですか?」「そう、気づくより先に教えてしまったことで契約違反となったんだ」「でもどうして強制執行するだけで魔術師は死ぬことになったのでしょうか?」 そこがいまいちわからない。 強制執行なら生き返らせて終わりのはず。 魔術師が死ぬ理由がない。「おそらく完全な死者蘇生には代償が必要だったのかと」「代償?」「人の命、か」「はい、代償が準備されていなかったので魔術師自身が代償になったのだと思います」 もしそうならたとえ契約を成功させていても代償は自分で用意しろと言われたんじゃないだろうか。 ……リチャードにそんなことをさせなくて本当によかった。 一通り話し終えた所で、リチャードがチラチラとこちらを伺っている。 それを見たアナがため息をつく。「二人とも入浴をお願いします」 リチャードは一人で、私はアナに連れられて入浴させられた。 その時アナが体を見て『よかった……』とつぶやいていたけど、よっぽどひどい状態だったんだろうな。 寝室に戻るとリチャードが飛びついてきた。 まだアナがいるというのにキスを始める。 それを見たアナがまたため息をついて出ていった。「リタ、リタ、リタ」 ついばむように何度もキスする合間に私の名前を呼ぶ。「傷一つない……本当によかった」 泣きながらキスしてくるのは反則ね。 どうすればいいか困ってしまう。「キスした時に気づかれるかと思って普段しないキスにしてたんだ」「そんなに気を遣うならしなければよかったのですよ」「それは嫌だった」 まるで駄々っ子のようなことを言ってキスしてくる。 でもあの時の私は化け物のような顔だった。 そんな私とする
事故後に初めて食堂に言った時、リチャードが「事故にあった」「よかった」と言っていた。 あの時のリチャードには驚きと喜びがあった。 私の顔の変化に対する驚きと私が生きていた喜びと考えれば辻褄が合う。 でもこれだけの怪我をしているのに、私に痛みはないのはなぜだろうか? 体を見せない、突然の改築、全身のだるさ、食欲のなさ。 軽く手をつねってみる。 まったく痛みを感じない。 総合的に考えて導き出される結論は……。 そうか、私は事故で死んだのか。 そして何らかの方法で生き返らされた。 ……死者蘇生。 魔術師と呼ばれる存在が使うことが出来る秘術。 死んだものを生き返らせて
「あれ……、私?」「もう朝だよ」「え!?」 目が覚めるとリチャードがベッドの隣の椅子に座っていた。 どうもベッドで横になってそのまま寝入ってしまったらしい。「久々にリタの寝顔を堪能できたよ」 目じりを下げて満面の笑みを浮かべるリチャード。 普段は私の方がリチャードの寝顔を堪能するのに今日は堪能されてしまったらしい。 何か悔しいのでほっぺたをタプタプしておく。「おおお、やへるんだ(やめるんだ)」「恥ずかしい思いをしたからお返しです」 昔より贅肉が増えている気がする。 もう少し運動してもらわないと駄目ね。 ……そういえばしばらく夜の営みをしてないし、今日の夜に誘ってみよ
食堂に入ると予想通りリチャードがそこにいた。「おはようございます、リチャード」「っ、あ、ああ、おはよう」 少し驚いた顔をしている彼が私の旦那様だ。 かなりの小柄で丸顔の太った体。 女性と比べてもさらに小さくて子どものような大きさ。 本人はすごく気にしているけど私はかわいいと思っている。 手にはコップを持っている。 リチャードは朝食前に必ずミルクを飲むのでまだ朝食を済ませていないんだろう。 一緒に食べることが出来ると思い椅子に座ろうとするとリチャードが私を抱きしめた。「リタ……よかった……」 そう言って背伸びして唇を合わせてくる。 なんとなくいつもと唇の感触が違う。
「奥様、もうお時間ですよ」 メイド長のアナスタシアの声で目が覚める。 嫌な夢だった。 体がばらばらに引き裂かれる夢。 手足がちぎれていく感覚はものすごく生々しくて、起きた今でも思い出せる。 思わず体を身震いさせてしまう。「どうされましたか?」「なんでもないの、アナが起こしに来るなんて珍しいわね」「ちょっと事情がございまして」 少し困った表情をしているので何かあったのだろう。 普段ならスフィーナやイリーシャが起こしに来るはずで、わざわざアナが起こしに来る必要なんてない。「それにどうしてこんなに真っ暗なの?」 あまりの暗さで夜かと思ってしまった。 窓を見ると外側から何か







