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ねえ、5分だけ付き合ってーーMorning Side
ねえ、5分だけ付き合ってーーMorning Side
ผู้แต่ง: Amy

1話

ผู้เขียน: Amy
last update วันที่เผยแพร่: 2026-09-13 12:32:57

朝7時52分。

そのクロワッサンは、最後の1個だった。

焼きたて。

表面はつやつやで、端は少しだけ焦げている。

ガラス越しでも分かる。

絶対においしい。

私はトングを伸ばした。

同時に、反対側から別のトングが伸びてきた。

カチン。

先端同士がぶつかる。

「……あ」

聞き覚えのない低い声。

顔を上げる。

背の高い男が立っていた。

白いシャツの上にネイビーのカーディガン。

寝起きなのか、髪は少し乱れている。

でもそれが妙に似合っていた。

私はクロワッサンを見る。

男も見る。

最後の1個。

譲るべきだろうか。

大人だし。

でも。

私は今日、このクロワッサンを食べるために、いつもより15分早く家を出た。

「どうぞ」

彼が先にトングを引いた。

一瞬、心が揺れた。

「いや、大丈夫です」

「でも取りたかったんですよね?」

「まあ」

「顔に出てます」

失礼だ。

「そんなに?」

「かなり」

彼が笑った。

ちょっと腹が立つ。

でも笑うと目尻が下がって、思ったより柔らかい顔になる。

「じゃあ」

私はクロワッサンを取った。

「遠慮なく」

「本当に取るんですね」

「譲ってくれたので」

「普通、1回くらい譲り返しません?」

「しました」

「1回だけ?」

「十分です」

彼が声を立てずに笑った。

朝から知らない男と、何をやってるんだろう。

私はクロワッサンをトレーに乗せた。

勝った。

なぜか少し嬉しい。

そのままレジへ向かおうとしたとき。

「あ」

彼が私のトレーを見る。

「それ、チョコ入ってるやつですよ」

「え?」

「プレーンじゃなくて」

札を見る。

【ショコラクロワッサン】

本当だ。

私はチョコが苦手だった。

朝から甘いものを食べると、少し気持ち悪くなる。

「……最悪」

思わず呟く。

彼が吹き出した。

「笑いました?」

「いや」

「笑いましたよね?」

「ちょっとだけ」

「失礼」

「でも、そんな顔するほど?」

「これを食べるために早起きしたんです」

「そこまで?」

「そこまでです」

彼は少し考えてから、自分のトレーを差し出した。

プレーンのクロワッサンが乗っていた。

「交換します?」

私は目を丸くした。

「持ってるじゃないですか」

「さっき取ったやつじゃないです。奥にもう1個ありました」

見ると、本当にある。

私が最後だと思っていただけだった。

なんだ。

「じゃあ普通にそれください」

「それだと面白くないので」

「何が?」

「さっき僕が譲った意味がなくなる」

意味なんて必要なんだろうか。

「じゃあ、交換」

「はい」

彼が私のトレーからショコラクロワッサンを取る。

そのとき、指が触れた。

ほんの少し。

指先だけ。

なのに。

朝はこういうのに弱い。

まだ頭がちゃんと起きていないからだろうか。

何でもない接触なのに、妙に意識してしまう。

彼の手は大きかった。

さっきトングを持っていたときより、近くで見ると指が長い。

親指の付け根に小さな傷がある。

そんなところまで目に入る。

「はい」

彼がプレーンのクロワッサンを私のトレーに置いた。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

「優しいですね」

「今さら気づきました?」

「そこまで自信ある?」

「朝なので」

「関係あります?」

「朝は少しくらい自分を高く評価してもいいかなって」

変な人だ。

でも嫌いじゃない。

私たちはそのまま並んでレジへ向かった。

彼が前。

私は後ろ。

白いシャツの背中。

肩幅が広い。

細身に見えたのに、意外としっかりしている。

朝から知らない男の背中を観察している自分に気づいて、視線を逸らす。

その瞬間。

彼が振り返った。

目が合った。

「何です?」

「いや」

「見てました?」

「見てません」

「即答ですね」

「見てません」

「2回言うと怪しい」

うるさい。

前向いててほしい。

彼は笑って、また前を向いた。

その拍子にカーディガンの襟が少しずれて、首の後ろが見えた。

なんとなく。

その首筋に指を這わせたら、どんな反応をするんだろう。

そんな考えが一瞬浮かんだ。

自分で自分に引いた。

何を考えてるんだ。

パン屋で。

朝8時前に。

「次の方どうぞ」

店員の声で現実に戻る。

彼が会計をする。

私はその後ろで、何事もなかった顔をした。

できているかは知らない。

会計を終えて店を出る。

外は少し風が冷たかった。

彼も同じ方向へ歩いていく。

少し前。

別れるなら今だろう。

知らない男。

名前も知らない。

クロワッサンを交換しただけ。

それで終わり。

その方が自然だ。

なのに。

「さっき」

彼が振り返った。

「本当に見てなかったんですか?」

「まだ言うんですか?」

「気になって」

「見てません」

「残念」

「何が?」

彼が歩幅を少し緩めた。

私と並ぶ。

近い。

肩が触れそうなくらい。

「見てたなら、ちょっと嬉しかったんで」

そういうことを、さらっと言う。

ずるい。

私は黙った。

彼が横から顔を覗き込む。

「今、顔赤いですよ」

「寒いから」

「耳まで?」

「体質です」

「便利ですね、その体質」

本当にうるさい。

私はクロワッサンの紙袋を胸元で持ち直した。

すると彼が、その袋を指さした。

「潰れますよ」

「え?」

「そんなに抱えたら」

「別に」

「せっかく僕が譲ったのに」

「交換しただけでしょ」

「じゃあ返してください」

「嫌です」

「気に入ってるじゃないですか」

クロワッサンの話なのか。

それとも。

一瞬だけ、分からなくなった。

彼が笑う。

絶対、分かって言ってる。

「じゃあ」

彼が少し身をかがめた。

耳元に顔が近づく。

「明日も来たら、今度はちゃんと最後の1個、譲ります」

声が近い。

朝の空気より少し低くて、少し温かい。

耳に息がかかった気がした。

身体が一瞬だけ固まる。

近い。

この距離なら、横を向いたら頬が触れる。

もう少しだけ彼が近づけば、唇だって。

……いや。

朝から何を考えてる。

「来るかどうか分かりません」

やっと言う。

「じゃあ、来なかったら僕が食べます」

「どうぞ」

「来たら?」

「考えます」

「クロワッサンを?」

「何を期待してるんですか」

彼がまた笑った。

名前を聞こうか迷った。

でも、今日は聞かなかった。

明日会えたら、そのときでいい。

私は曲がり角で足を止めた。

「私、こっちなので」

「僕はまっすぐ」

「じゃあ」

「はい」

2歩進んでから、彼が振り返る。

「ちなみに」

「まだ何か?」

「さっき、僕の背中見てましたよね」

私は無言で歩き出した。

後ろで笑い声がした。

朝8時6分。

紙袋の中には、ちゃんとプレーンのクロワッサン。

少しだけ温かい。

そして、なぜか耳もまだ熱かった。

明日。

15分早く起きる理由くらいには、なったかもしれない。

***

朝から人の背中を見て余計な想像をしたそこのあなた、大丈夫。私もです。

じゃあ、クロワッサン1個分くらい機嫌よく、今日も行ってらっしゃい。

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