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2-3 本当のことが言えない

Author: 青サバ
last update publish date: 2026-06-24 19:01:21

 水曜日。

 駿は部活を休み、複合商業施設に向かった。

◆◆◆

 館内は、穏やかなBGMが流れており、夕方ということもあって、多くの人が買い物をしていた。

 到着すると、既に、美生が待っていた。

 エコバッグを片手に、こっちに気づいて手を振った。

「ごめん、待たせた?」

「うんうん、大丈夫だよ」

 昔から変わらない柔らかな笑顔。

 その笑顔を見るたび、少しだけ肩の力が抜けた。

 中へと入り、最初に向かったのは日用品売り場だった。

 女性用のシャンプーのコーナーへと向かい、結が使ってるシャンプーを探す。

 棚一面に同じようなボトルが並んでおり、色も形も似ている。

 香り違い、詰め替え用、限定パッケージ。

 似たようなシャンプーばかりで、頭がちんぷんかんぷんしてしまう。

 取り敢えず、それっぽいシャンプーを美生に聞いて入れることにする。

「結がシャンプー買ってきて欲しいって言ってたんだけど、これでいいの?」

「違うよ」

 即答で答えた美生は、棚の奥から一本のシャンプーを取り出した。

「結ちゃんが欲しいって言ってるシャンプーはこっち」

「そうなんだ…….どれも似たような物ばかり全く分からない」

「男性のシャンプーも、どれも似たようなものばかりで、同じくらい分かりにくいと思うよ」

「そう?」

「うん。それに、駿君の家庭事情もあるけど、駿君が結ちゃんの欲しい物を買い間違えないようにするのも込みで、私が一緒に来ているんだから」

 優しく答える美生に頭が上がらない。

「ほんと、毎回ありがとう」

「どういたしまして」

 シャンプーのコーナーを後にして、必要なものをかごへと入れていく。

 洗剤。

 ティッシュ。

 スポンジ。

 どれも家に必要なものばかりだった。

 高校に入ったのと同時に、お父さんの仕事が増え、美生とこうして買い物する機会ができた。

 最初は、不思議な感覚だったが、今は当たり前となっていた。

 日用品の会計を済ませ、夕飯の買い物をした後、美生と帰り道を並んで歩く。

 夕暮れが少しずつ街に落ちていた。

「そういえば、最近果奈ちゃん変わったと思うの。なにか心当たりない?」

 足が一瞬止まりかける。

 果奈と美生は一年生の時に同じクラスになり、意気投合して親友となった。

 今はクラスが違うが、連絡し合ったり、休日も共に遊ぶほどの仲で、二年生になる前から、美生と話していると、たまに果奈の話題が出ることもあった。

「……そうなんだ」

「うん」

 美生は前を向いたまま続ける。

「前よりも更に明るくなった気がする」

 胸の奥が小さく跳ねた。

 周りから見ても分かるほどなのか。

 その事実に、少し嬉しくなる。

「もしかして、誰か好きな人でも出来たとか?」

 びくりと肩が揺れる。

 それを誤魔化すように、視線を逸らした。

「……そうなのかな」

 なんでもない口調。

 けれど、鼓動は少し速くなっていた。

「なんでそう思ったの?」

「なんとなくそんな感じがしただけ」

 なんでもいいから話題を逸らしたくて、咄嗟に質問してみる。

「そうなんだ……因みに美生って好きな人居るの?」

 した後に、もっと違う質問があっただろと、心の中で後悔した。

「……そうね」

 夕陽が横顔を照らしていた。

「駿君と同じテニス部の辰巳君はかっこいいと思うけど、今は特にいないかな」

 その返答に、駿は小さく息を吐く。

 安心したのか。

 違うのか。

 自分でもよく分からなかった。

「逆に駿君は好きな人は居るの?」

 話を逸らす為の質問が、最終的に自分の首を絞めることになり、動揺が走る。

 同時に。

 頭に果奈の姿が浮かぶ。

 笑った顔。

 怒った顔。

 「またデートしようね」と袖を引いた指先。

 即答できる筈だった。

 それなのに。

「……俺も、まだ居ないかな」

 気づけば、そう答えていた。

 息を吸うように。

 あまりにも自然に。

 言葉が口を出た瞬間、胸の奥に鈍いものが落ちる。

 罪悪感だった。

 なぜ言えなかったのか、自分でも分からない。

 タイミングなのか。

 気まずさなのか。

 それを無視するかのように、公園にある時計を見る。

 見てみると、時間が押していることに気付き、少し急かすように話し出す。

「ヤバい!もうこんな時間か」

「ほんとだ!早く帰らないとね」

 結局。

 美生に果奈との関係を言えないまま、家に着いてしまった。

 美生も家に帰り、明日の準備も終わらせて、寝ようとするが、モヤモヤして寝れないでいた。

 天井を見つめると、さっきの会話が、何度も頭の中で繰り返される。

『駿君は?』

『俺も、まだ居ないかな』

 言えなかった。

 言わなかった。

 その違いが、自分でも分からない。

 一向にモヤモヤが晴れないので、夜遅いが、直己に電話をかけることにする。

「どうしたんだ駿、こんな時間に?」

「ごめんな、実は相談があってさ」

「何だよ、相談って?」

「今日、美生と買い物に行ってたんだけど……」

「島内さんとね……」

 何気ない一言だったが、それだけで、直己の葛藤が伝わってくる。

「俺もなにかしら協力出来ることがあったら、協力しようか?」

「心配してくれてありがとう。でも、自分で何とかするから大丈夫。それでなにがあったんだ?」

 大丈夫って言うなら、大丈夫なんだろうと思い、美生に果奈と付き合っていることを言えなくて悩んでいるのだと打ち明かす。

 直己は途中で茶化すこともなく、最後まで聞いてくれた。

「なるほどな」

 少しの沈黙。

「個人的な意見だけど、もう少し早川さんとの関係が深まったら、島内さんに言えばいいと思う」

 真剣に話す直己に、ただただ耳を傾ける。

「駿と早川さんがどこまでの仲になっているのか分からないけど、まだ付き合ってからあまり日にちが経ってないだろ?」

「確かにそうだけど」

「早川さんは分からないけど、駿は人と付き合うことが初めてなんだし、だから今は関係を深めていくのに、集中すればいいんじゃないのか?」

 いつもくだらない会話ばかりをしてきた友からのアドバイスに心のモヤモヤが少し晴れる。

「相談してちょっと気持ちが楽になった。ありがとう」

「それはよかった。夜も遅いし、また明日な~」

「また明日」

 電話が切れ、スマホを枕元へ置き、目を閉じる。

 果奈との時間。

 美生との会話。

 言えなかったこと。

 全部を抱えたまま。

 それでも今は。

 果奈との関係を大切にしよう。

 そして、ちゃんと深まったら、美生へ伝えよう。

 そう決めると、ようやく呼吸が少し軽くなった。

 決意を固めると、何かから解放されたように。自然と眠りへ落ちていった。

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