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新たな出会い⑦

last update 最終更新日: 2025-04-07 17:00:43

山登りを始めて一時間。

まだ中腹にも到達しておらず、僕らは一旦休憩を取ることになった。

少し開けた場所で腰を下ろすと、水を一気飲みする。

一時間も山登りしていれば流石に喉が渇く。

大して動いているわけではないが、運動をあまりしていない僕にしてみれば山登りも十分激しい運動だ。

「あら、そんなに疲れたのかしら?」

「あまり山登りの経験もないので……」

「男ならもっと体力をつけなさいな」

ソフィアさんは息一つ乱れていない。

お姫様なのに凄い体力をしているな。

戦う皇女って、なんかカッコいい。

「ここから日が暮れるまで登って、野宿。次の日には到着って感じかな?」

「頂上に家があるんですか?」

「そうなんだよ。面倒だろう?偏屈な爺さんだからねぇ」

アレンさんは呆れたような表情で肩を竦める。

食料とか自給自足なのかな。

頂上だったら街へ買い出しに行くのも一苦労のはずだ。

また、僕らは山を登り続ける。

やがて日が暮れると、テントを張りキャンプファイアーをする。

辺りは真っ暗でいつどこから魔物が襲って来るか分からない恐怖からか僕は全然落ち着かなかった。

「あまり食が進まないかい?」

アレンさんはそんな僕の様子を見てか、話し掛けて来た。

正直、落ち着かないせいであまり食欲が湧かなかった。

「それは安心していいよ。魔物が近づいてきたらアカリが対処するから」

「うん」

アカリを見るとドヤァと顔に書いてあった。

気配察知に関してはこの中でアカリが一番優れているらしい。

なんだかそれを聞いたからか急に食欲が湧いてきた。

安心感ってやっぱ大事なんだな。

食事を終え、近くの川で身体を洗った後僕はアレンさんと同じテントへと入った。

既に気が緩んだ格好で寝転がっているアレンさんもまだ寝てはいない。

「どうだい?初めての冒険は」

「そうですね…&hell
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