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24食目・『アグニード・キュイ』

Autor: 柊雪鐘
last update Última actualización: 2025-12-11 08:00:58

「ここだよ!」

 ネリーさんの案内で来たのは商店街の中央。

 中央はその名の通り大きな道が交差した真ん中で、前の世界ですら見慣れないくらい大きい筈の噴水すら小さく感じてしまうような、とても広々とした空間――を飲食屋台が貸し切っている状態だった。

 屋台がぐるりと中心を囲んで並んでいる。

 屋台から噴水までの間をテーブルとイスが所狭しと並んでいて、それでも空席を数える方が早いくらい。

 既に席に座っている人は住民だけでなく何かしらの制服を着ていたり、冒険者っぽい人だったり、本当にいろんな人が入り乱れている状態だった。

 そんな中でネリーさんが選んだのは、屋台に文字が書かれた看板を下げたお店。

 『カタリナ・ラリア』という看板を見たエリザさんはすかさず「ああ、カタリナ・ラリアね!」とこれまた嬉しそうな声を上げている。

 誰もが知ってる、有名なお店みたいだ。

「だって折角ならルシーちゃんにこっちのお料理を教えたいですよー。となったら紹介するのはここかなーって」

「ふふ、大正解だわ。ネリーちゃんとはこれからも一緒にご飯が食べられそうね」

「わあ、嬉しいです!ぜひぜひ、いつでも誘ってください!」

 どうやらエリザさんとネリーさんは一瞬にして打ち解けたらしく、既に和気あいあいとした空気を出して会話している。

 何も分かってない私は静かにするしかないのだけど、料理の注文はネリーさんがいち早く動いた。

「大将ー!『アグニード・キュイ』と『テラーラ・パルテ』を3つずつちょうだい!」

「おうよ、銀3枚と錫6枚な」

「じゃあこれでー」

「テーブルに届けるから待ってな」

 ネリーさんが注文したものはどんな食べ物だろう。

「じゃあ席に座ろ!」という声に合わせて近くの空席に移動した。

 腰を下ろすとここで初めて商店街に来て椅子に座ったことに気付いた。

「うあー……」と、ついでに情けない声すら出てしまう。

「うふふ、今日も疲れたわよね。あとはここのご飯を食べて楽しんで、またゆっくりしましょ」

「ルシーちゃんのこと色々聞きたいな!エリザさんは宿主制度でルシーちゃんと出会ったんです?」

「うふふ、そうなのよぉ」

「ええっと、ですね……」

 …………。

 ……。

 三人で会話に花を咲かせて少し、筋肉隆々で頭にタオルを巻いた漢らしさの塊の大男が「お待たせェ!」とテーブルに料理を置いた。

 ドン、と置かれて瞬く間に食欲をそそるスパイスの香りが辺りを充満した。

「んう、いい匂い……!」

「はぁっ、この香りがまさしく『アグニード・キュイ』よねぇ」

「働いた後に食べると強い幸福感で何もしたくなくなるんだよねぇ」

 見た目は皿に盛られたドネル・ケバブ、といったところかな。

 金属製の櫛に薄いお肉が何枚も重ねられて串本から先まで続いている。

 茶色のソースが絡まった料理からは甘くて辛くて少し酸味があって、言うなれば焼肉のタレのような香りが立ち込め、香りだけで口の中は唾液まみれになってしまう。

 昨日とはまた違った野性的な料理なのに、なんて美味しそうな見た目だろう。

「い、いただきます……!」

 あむっと一口。

 焼き立てで熱いのはもちろん、口に広がるのはスパイスの効いたソース……だけじゃない。

 味が濃いソースなのに野性的な肉な味が肉汁と一緒に広がってくる。

 2つが絡むと何故かくどくなくて、寧ろ更に食べたくなる……――。

「んまっ!んむっ……!」

「あ、間髪入れずに2口目」

「ルシーちゃん、昨日もだけどとっても美味しそうに食べるのよぉ。可愛いわよね、永遠に見ていたくなっちゃう」

「まー、でもわかる。烈火神アグニードの名前をとった肉焼きキュイほど野性的で本能くすぐるようなご飯は無いもんね」

「んもう、そんなご飯を一番に紹介しちゃうなんて、ネリーちゃんったら策士ね?」

「えへへ、人間おいしいものには抗えませんよーっ」

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