LOGIN「はーい!」と声高く玄関へ行ったきり、エリザさんは戻ってこない。
もしかしたら違ったのかな? それとも話し込んでる? 一人で待ちぼうけをしていた私は、目の前のモルデがけストゥリアが冷めるのがもったいないからしっかりと味わいながら食べていた。 深みのある味わいに舌鼓を打つ。 ああ、なんだかかっこいいこと言っちゃってるな、私。 ここに(笑)をつけたくなるくらい気取っちゃう食べ物は文句なしに美味しい。 エリザさんだけでもお店開けるんじゃ?私通っちゃうけど。 そんな気持ちでもある。 この世界に来てから、正直美味しいものしか食べてない。 いや、前世でも好きなものや美味しいものを食べたつもりだけど、未知の世界だからそうさせるのか? それとも案外前世では食に対しての興味が薄かったのか? いやいや、そんなつもりはないんだけど……ついつい頬が落ちちゃいそうな食事の数々を堪能している気がする。 「異世界の料理、なんでこんなに美味しいんだろう……」流石に思った言葉もついつい口から漏れてしまう。
私、食に対してこんなにも興味持ってたんだなぁ……。「――成る程、確かに美味そうに飯を食う」
「ッ!?」目を瞑ってじんわりとモルデの余韻を楽しんでいると、知らない(しかも男性)の声が耳に入ってびっくりした。
目を開ければゴツい身体に厳つい顔、丸太のようにぶっとい腕を組んだ男性がにこやかなエリザさんと一緒に、目の前に立っていた。 背はエリザさんより頭2つ分近く大っきい。 うん、見るからに大男。「うふふ、でしょぉー?」
エリザさん、でしょー?じゃない。
「ど、どーも……」
ど、どちら様でしょうか?
そう聞きたいけどスプーンを咥えてるからまともに喋れなかった。 とりあえず驚きながらも頭を下げるぐらい。「飯中に悪かったな。……ふむ、これがそれか?」
「うふふ、モルデがけストゥリアよ。ルシーちゃんが私のお料理を見たいっていうから、一緒に作ったのぉ。仲良くしてるでしょ?」 「そのようだな」男性はエリザさんと仲が良いらしい。
料理を見て「失礼」とエリザさんの分のフォークを手に取った。 上からじっくりと見て、フォークでストゥリアとモルデを絡ませながら持ち上げる。 それをもじっくりと見て、「成る程、確かに不揃いだ」と呟きながら口に入れる。 目を瞑って唸りながらももぐもぐと口を動かす男性。 しばらくすると飲み込んで「ふむ」と唸った。「確かにストゥリアが不揃いである分、通常よりも多くモルデが絡んでいる。モルデは口に含む量が多ければ多いほど味の深みを堪能できる料理だ。だが、その分ストゥリアの風味が弱まる。なのにこれは負けた感じはしない……寧ろ調和が取れている……?」
「え、エリザさん、あの……」 「うふふふ、この人料理になるといつもこれなのよぉ。ごめんなさいねぇ」突然始まった品評会にタジタジな私。
そもそもこの人誰なのか分かってないんですけど。 それをエリザさんに聞こうにも、こんな様子だ。「ルシーと言ったか」
「はわっ?! は、はい!」 「ストゥリアを担当したんだったな?作り方で趣向を凝らしたのは切り方だけか?」 「た、多分そうだと思います……?」 「そうか……」男性は更にううむと悩み始めた。
そこへエリザさんが声をかける。「ねえ、それをする為に来たんじゃないでしょ?」
「……ああそうだった。名を聞こう」はっと思い出されて、どうやら今から本来の用事が始まるらしい。
緊張しながらも私はやっと立ち上がった。「あ、ルシェット・サイファ=明音です!」
「私はイーズェット・デュランヌース、大衆食堂・万来堂の総料理長だ」イ、イーゼット……?デュ……多分原住民の人かな。
相変わらず発音が難しい。 ズとェで呼んでるようで、ヅの音も聞こえるのだ。 多分私は一生まともに聞き取れないし、発音出来ない。 で? 万来堂の総料理長って言った? 万来堂の……「大衆食堂の……万来堂…………ええええぇぇぇっ!?」
「はーい!」と声高く玄関へ行ったきり、エリザさんは戻ってこない。 もしかしたら違ったのかな? それとも話し込んでる? 一人で待ちぼうけをしていた私は、目の前のモルデがけストゥリアが冷めるのがもったいないからしっかりと味わいながら食べていた。 深みのある味わいに舌鼓を打つ。 ああ、なんだかかっこいいこと言っちゃってるな、私。 ここに(笑)をつけたくなるくらい気取っちゃう食べ物は文句なしに美味しい。 エリザさんだけでもお店開けるんじゃ?私通っちゃうけど。 そんな気持ちでもある。 この世界に来てから、正直美味しいものしか食べてない。 いや、前世でも好きなものや美味しいものを食べたつもりだけど、未知の世界だからそうさせるのか? それとも案外前世では食に対しての興味が薄かったのか? いやいや、そんなつもりはないんだけど……ついつい頬が落ちちゃいそうな食事の数々を堪能している気がする。 「異世界の料理、なんでこんなに美味しいんだろう……」 流石に思った言葉もついつい口から漏れてしまう。 私、食に対してこんなにも興味持ってたんだなぁ……。「――成る程、確かに美味そうに飯を食う」「ッ!?」 目を瞑ってじんわりとモルデの余韻を楽しんでいると、知らない(しかも男性)の声が耳に入ってびっくりした。 目を開ければゴツい身体に厳つい顔、丸太のようにぶっとい腕を組んだ男性がにこやかなエリザさんと一緒に、目の前に立っていた。 背はエリザさんより頭2つ分近く大っきい。 うん、見るからに大男。「うふふ、でしょぉー?」 エリザさん、でしょー?じゃない。「ど、どーも……」 ど、どちら様でしょうか? そう聞きたいけどスプーンを咥えてるからまともに喋れなかった。 とりあえず驚きながらも頭を下げるぐらい。「飯中に悪かっ
「さ、次はストゥリアをカットして茹でるわよぉ」 そんなエリザさんの掛け声に、目の前にはまな板と包丁が置かれた。 包丁は幅が小さいけど刃渡りは長い。 私の手のひらを縦に並べて指がちょっと出るくらい。25cmくらいかな……? 持ってみるととても軽くて、でもちょっと危なそう。「大丈夫よ、ルシーちゃん。ストゥリア専用のナイフは刃がついてないの。刃の部分は薄くして切れやすくはしてるけど、皮膚までは切れないわよ」 安全だそうです。よかった。「じゃあルシーちゃん、私はモルデの仕上げを始めるから、頑張ってストゥリアをカットしてね」「ふ、太さはどうすれば……?」「んー……ルシーちゃんが食べたい太さでいいわよぉ」 そ、そんなあ。 まさか食べたことのない麺料理の太さを委ねられてしまうなんて。 パスタだったら細い方が好きかな……でもうどんだったら太い方が好き。きしめんまではいかないけど、食べ応えを求めてしまう。 ラーメンは細い方が好き。他に何があったっけ。 麺、麺……?あ、そうだ。(いいこと考えちゃった!) 「お母さん、切りました」「ストゥリア用の鍋は用意できてるわよ。じゃあ投入してちょうだい」「はーいっ」 エリザさんに言われた通り、モルデを煮込んでいる鍋の隣にはすでにぐつぐつと沸騰している鍋がある。 寸胴の大きな鍋に比べて半分、両手鍋くらいの大きさの鍋に切り終えたストゥリアをひっくり返した。「……あら?ルシーちゃん、麺の太さバラバラにしたの?」 投入されたストゥリアは沸騰の波に激しく揺られている。 太いストゥリアに細いストゥリア、様々な太さのストゥリアが茹でられている姿が見えた。 「どんな料理なのかはまだはっきり分かってないですけど、私が住んでた国にも『手打ちそば』っ
ストゥリアとやらを寝かせている間、エリザさんは鼻歌をしながらお玉でアクをくすっていく。 中に入ってるのは牛肉みたいな真っ赤な肉塊とそれぞれ人参、玉ねぎ、ブロッコリーみたいな特徴を持つ野菜だ。「わあ……だんだんといい匂いがしてきちゃった……」「アクが出なくなってきたら、モルテは最後まで弱火で放置、そしたらルシーちゃんのストゥリアに戻りましょうね」 にこりと微笑むエリザさんは、それから10分くらいアクをとり続けた。 アクの色がだんだんと白く細かくなっていって、「そろそろかしら」と蓋をすると魔法で火の勢いを弱めた。「ずっと見てても、飽きないです……!」「うふふ、そう? じゃあそろそろストゥリアの様子を見ましょう!」 エリザさんはボウルの蓋を取る。 するとふわりと花のような、香り高い匂いが立ち込めた。「わあ、いい匂い……!」「ストゥリアに使われる粉は花から実になる時に、花の香りも一緒に込められてる感じなのよ。実を割るとルシーちゃんが捏ねたあの粉になるのよ」「実の中にこの粉が詰まってるってことですか……!?」「うふふ、そうよぉ」 捏ねてる時は強力粉みたいなものかと思ったけど、どうやら異世界作物だったみたい。 ちなみに人参っぽいものはヒトデの形をしていたし、玉ねぎの形をしたものは、にんにく味だった。 『メモ』 ・ステロット……星型人参 ・ガリオン……玉ねぎ風にんにく ・ストゥーナ……ストゥリアの原料。一応穀物でパンにも使われる(らしい) さて、ボウルに入っていたストゥリアは粉をまぶしたまな板に乗せられた。 所謂打ち粉だ。 そこへ見覚えのある棒が取り出されて、「これで伸ばしてちょうだい」と笑顔を向けられた。 ……これ、パン
「実はね、魔法にも色々あるのよ。……とは言っても、まずは復習から始めましょうか。さあルシーちゃん、魔法の属性はなんだったかしら?」「えっと……火、水、土、光、闇、治癒……ですよね?」「そうね。ではこの世界の魔法は何を使うのだったかしら?」「魔素、ですよね。空気中に含まれてるんですよね……?」「ええ、そうよ。私たちはこの魔素を具現化させて、それぞれの属性魔法として使ってるのね。異世界転生者には使えないけれど、私たちが魔法を扱えるのは空気中に散布されたこの魔素の存在を把握して更に魔法としてイメージを持ち、変換できるからなの」「はえぇ……。私には何も見えないけど、お母さんは何か見えるんですか?」「いいえ、魔素は無色透明だから何も見えないわね。でも、感じ取ることはできるわ。空気中や物や、生物から溢れている量とかね。私は魔素があるかないかが分かる程度だけど、魔法を上手に使える子はどの程度の魔法を放てるか、も把握してると思うわ」 そう言って、エリザさんは「えい」と可愛らしい声を発しながら鍋を指差す。 すると鍋の下でコンロと同様に鍋を温める火が湧き出た。 その姿はまるで魔女さながらで、私は突然の魔法につい「わっ」と声が漏らしてしまった。「これが魔法よ。でも、魔素について一番大きい違いはフォス=カタリナで生まれた私たちと、ルシーちゃん達かもしれないわね」「というと?」「私たちは身体から魔素を感じるけれど、異世界転生者から魔素を感じないの。異世界転生者は魔法を使えない、でもその代わりに『スキル』という存在を貰うのだけど……私たちからしたら、スキルという存在自体が不思議だわ」「な、なるほど……」 人差し指を口元に当ててじっと覗かれて、少しだけ恥ずかしいような、なんというか、すごく困惑してしまう。 それは私自身受け取ったスキルというものが『ベビースマイル』とかいうよくわからないものだからかもしれない。
「ルシーちゃん、折角だから一緒にお料理しない?」「へっ!?」 突然の提案に私はびっくりしてしまった。「どう?」と期待を込めた笑みを向けられているけど、生憎私は魔法が使えないから足手まといだ。 そんな私に一緒に、なんて言われても……。「ルシーちゃん、お料理をするのに火を使ったりするのは確かに魔法だけど、それだけじゃないのよ?包丁で食材を切ったり、材料を捏ねたり、混ぜたり、味付けするのはちゃんと人の手を使うんだから♪」「あ……」 確かに、それはそうだ。 何かをするには魔法を使うけど、それだけじゃないじゃないか。 優美な笑みを見せるエリザさんは楽しそうに調理の準備を始めた。「今日はモルデがけストゥリアを作りましょう!ルシーちゃん、お手伝いお願いできる?」「私、頑張ります……!」 料理名を教えてもらったけど、どんな料理なのかは全然想像つかない。 エリザさんは作業台にボウルを用意すると紙袋を取り出し、ひっくり返した。「ぶひゃっ」 少しの粉塵を上げながら投入されたのは真っ白できめ細かい粉。 そこに卵が片手割りで入れられ、エリザさんに「はい、どうぞ」とボウルごと渡された。「ひと思いにやっちゃって♡」 手をわきわきさせながら期待の眼差しを向けるエリザさんを見て察した。 なるほど、私が参加するお手伝いはどうやら混ぜる工程のようだ。 それなら前世のお母さん(敢えて前のお母さんを前世ということにしよう)がストレス発散にパンを焼いていた姿を見たことがある。 勢いに任せて両手を生地に突っ込み、私は指を立てて混ぜ始めた。
第五ノクスィ月、アグニードの日。 今日から日記を書こうと思う。そう思ってさっき、商店街に行ってペンと紙を買って来た。 あいにくこの世界の文字は読めても書くにはまだ分からなくて、日本語だ。 少しずつこの世界に慣れていきたいなと思うけど、どうなることやら。 まずは初めて一人で商店街に行ってみた。 商店街はやっぱり賑やかな場所だ。 人通りは多いしお店も多く、食べ物の匂いが食欲をそそる。 お金はまだちゃんと使える自信がないから最低限だけ買って帰ってきてしまった。 気になる料理が一つあったけど、なんて名前だったかな。ちゃんと見ておけばよかった…。 でもネリネラさんに会えたよ。 おんなじ所で洋服を売ってて、今日はどうしたの?って声かけられちゃった。 ちょっとお話できて嬉しいな。 そう考えたら、ちょっとだけこの世界にワクワクしてる気がする! あ、朝ごはんは『ミルファンテ』を食べたよ。 こんがりと焼いた厚切りのバケットの上に卵や野菜が乗って、お洒落な料理!チーズが入ったスープをかけた料理。 コンソメスープみたいな野菜たっぷりの香りが漂って、外はカリッとしてるのに中はとろーりとスープが染み込んだパンがふわふわっとしてて、すごく美味しかった! 野菜にはチーズが入ってたみたいで、ナイフでパンを切って、持ち上げればチーズが伸びてびっくり! 野菜と卵のスープにチーズを入れて、それを上からかける料理なんだって。私も覚えたら出来 いやできないわ。 あれ、また食べたいな…ぐぅ、魔法があればお料理できるのに…。 さて、ここまで日記を書いておいてこの世界に来て4日目なんだけど、今日はどうしよう。 ぶっちゃけ全然何にも考えてない。 お仕事のお話って早くて3日って言ってたっけ?それならもうそろそろかな?何か他の勉強とかしたほうがいいかな?