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第189話

Author: レイシ大好き
匠は京弥の様子を見て、内心少し驚いていた。

外でこんな姿の社長を見るのは初めてだったし、何とも言えない気分だった。

普段彼が知っている京弥は冷静で強く、野心的で、感情を表に出すことはない人物。

だから今回のことも、やっぱり二川さんが原因なのだろうか?

「社長、ちょっと飲みすぎじゃないですか?今日はもうこの辺で......?」

匠は思い切って、酒を控えるように進言した。

だが京弥は黒い瞳を鋭く光らせて言った。

「呼び出したのは無駄話をさせるためじゃない」

そのままカウンターを指さす。

仕方なく、匠はため息をついて、文句ひとつ言わずにまた強い酒を取りに行った。

どうせ自分はただの雇われ人で、給料を出してるのは目の前のこの人なのだ。

結局、匠はその夜ずっと京弥の隣で付き合う羽目になった。

時折自分も一口飲みながら、「こんな社長の下でよく今まで生きてこられたな」としみじみ感じていた。

京弥の心は鬱々としていた。

紗雪の態度がどうしてこうも冷たくなったり熱くなったりするのか、まったく理解できなかったのだ。

......

翌日、紗雪は車を運転して会社へ向かった。

一睡もしておらず、顔色はやや疲れ気味。

今日は少しでも印象を良くするために、わざわざナチュラルメイクを施していた。

会社のビルの下に着いたとき、彼女は大きなバラの花束を抱えている加津也の姿を見かけた。

その姿を見た瞬間、紗雪の心には理由もなく苛立ちが湧き上がってきた。

無視してそのまま通り過ぎようとしたが、彼はわざわざ彼女の目の前に立ちふさがった。

ついに我慢の限界に達した紗雪は、語気を強めて言った。

「何が目的?今から仕事なの。前に警察に突っ込まれて、まだ反省してないわけ?」

その言葉を聞いた瞬間、加津也の顔から笑みが少し消えた。

触れられたくない過去を思い出してしまったのだ。

あの時、弁護士を通じて早く出られるはずだった。

なにしろ父親にとっては大きな面汚しだったから。

だが、なぜか警察は強硬に彼を二、三日勾留し、それからようやく釈放した。

やっとの思いで出てきた後、西山父からは「二度と問題を起こすな」と何度も釘を刺された。

西山家の顔に泥を塗るな、と。

だが、加津也は違う考えだった。

西山家の御曹司が警察に留め置かれるほどの力を紗雪が持っていたとした
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