登入香月先輩の発表が終わり、室内が明るくなった。
俺は少しぼんやりとした頭を覚醒させようと、軽く頭を振ってから室内を見回す。今しがた発表を終えたばかりの香月先輩は、一息つこうと思ったのだろう。優雅に珈琲を淹れている。
朝山先輩は、脳がショートでもしてしまったのだろうか、ポヤーっという擬音が発せられそうな面持ちで、ぼんやりと中空を見つめている。
神崎はというと、スマートフォンを片手に何かを調べているようだった。今の発表に対して調べているのだろうか。だとしたら流石優等生、勤勉なことだ。
「岩倉君、君も飲むだろう?」
コーヒーサーバを指さす香月先輩に、俺は「はい、いただきます」と頷いて返答する。
珈琲が注がれたカップを両手に持ち、香月先輩は俺の真向かいの席に腰掛けた。
お礼を言った後、彼女からカップを受取り珈琲に口を付ける。
スッキリとした苦みに舌が刺激され、思考が少しクリアになっていく気がした。
「妃那美はこんな風になっているから放置して……怜菜は何を調べているのかな?」
「小夜子先輩の発表に出てきた歴史上の人達について、知らない人もいたから調べてます」 「ほう、さすが学年主席。将来有望だね」そう言って、香月先輩は神崎の頭を優しくポンポンと叩いた。
そんな表情を見るのも珍しい、神崎は褒められて少しだけ照れくさそうにしている。
小夜子先輩と名前で呼んでいる辺り、俺が来ていない間に、この二人の距離は大分縮まったのだなと感じた。
「さて、岩倉君。一つ質問させてもらっても良いかな?」
「はい、なんでしょう?」 「先ほどの私の問いに対し、君は棄却主義者と答えたね。正直、意外だった。てっきり私は君も楽観主義者、あるいは悲観主義者のどちらかだろうと予想していたからね。棄却主義者は楽観主義者である私とは、真逆の立場を取る存在だ。だからこそ、その立場をとった君にとても興味が沸いた。君はなぜ、自分が棄却主義者であると考えたんだい?」そうやって改めて聞かれると、どのように答えて良いものか少し考えてしまう。
先ほど俺が棄却主義者であると言ったのは、三つしかない選択肢を狭めていった結果、自然と口を出たに過ぎなかったからだ。
しかし、こうやって香月先輩に真剣な目を向けられてから改めて考えてみても、俺の選択は変わらなかった。
その理由について思考を少し深めてから、静かに口を開く。
「えっと、素直に感じたことだけを言いますね」
香月先輩が頷いたのを確認してから、俺は言葉を続けた。
「存在に対してなぜ? という問いかけを繰り返した結果、無限後退が生じて行きつく先って現状は人間の理解や想像の範囲内に収まった何かですよね。であるなら、この問いを棄却するっていうのはある意味、合理的なのではと思ったんです」
「ほう……棄却する事が合理的か。そう感じた理由を説明できるかい?」 「そうですね、何と言ったらいいのか難しいんですけど……その問いに対する答えのみを追い求めるんじゃなくて、現時点でその問いに対する回答が得られないんだったら、その問いを一度棄却して、別の何かに目を向けた方が良いんじゃないかって思ったんです」 「……ふむ」考えこむように腕を組んだ香月先輩は、ゆっくりと目を瞑って動かなくなった。
何かまずいことを言ってしまっただろうか。気づけば香月先輩だけでなく、神崎と朝山先輩も俺の話に耳を傾けていた。
注目されている事に少し気恥ずかしさを覚えながらも、俺は更に言葉を続けた。
「えっとですね……あくまで現状はですが、その問いの答えにはどうやっても辿り着けないですよね。そうである以上は、問題として成立していないと思うんです。であるなら、俺なら一度棄却する立場をとると思ったんです。その問いに対する答えが見つかるかもしれない、そういった兆しって言うんですかね、それが見つかった段階にならないと、楽観主義者にはなれないなーって」
その場を、沈黙が支配する。
変な事を言ってしまっただろうかと、少し焦る。「あの、あくまで俺はですからね? 別に楽観主義者を否定するつもりは無いですし、人類の可能性を信じて、楽観主義者という立場をとる香月先輩の考え方、そういう考え方ができるっていう事は凄く素敵だと思いました。だから俺も、人類の可能性を信じたいという気持ちは同じなんですけど……」
「岩倉君」この雰囲気を和らげようと言葉を続ける俺を、香月先輩が遮った。
スッと開いたその目には……これは意外だ。
彼女の目には、嬉しいという感情の色が見えた。「ありがとう、岩倉君。君の言葉になんというか、目の覚めるような思いがしたよ。私はこの問いに執着しすぎているのかもしれないな。棄却して兆しを見つけるか……ふむ、もっと多角的な視点で物事を見なければならないんだろうね……視野を広げて、別の事象に向き合う事が大切か……なるほどなるほど」
後半はブツブツと、独り言のようになっていた。
一先ず俺は香月先輩を不快にさせた訳ではないと分かり、ホっと胸を撫でおろす。
「うん、やはり君は、この研究会に入会すべきだよ。いや、違うな。これは私からのお願いだ。ぜひこの会に、入会してほしい。そういった忌憚のない意見を述べてくれる君の存在は、とても貴重だ。私だけじゃない。別の研究を進めている妃那美や、怜菜にとってもね。そうだろう?」
香月先輩に同意を求められた神崎と朝山先輩は、ほぼ同時にコクコクと頷いた。
「私の研究に対する意見、ぜひぜひ聞いてみたいかもー」と朝山先輩。
「そもそも、私の研究には貴方の存在が必要不可欠だから」と神崎。 「二人もこう言っているしね。それに、もし岩倉君に何か研究したいような対象があるのであれば、私は持っている知識をフル稼働して、その研究をサポートするよ。そうやって皆で研究に打ち込んだり、意見を交換しあったり、研究とはまったく関係ない話もするけどね。君にとっても、ここでの時間は少なくとも退屈なものにはならないだろうと思うのだが……どうだろうか」香月先輩の発表を聞いて、俺はこの人を尊敬する気持ちが芽生えていた。
真理への到達という、言葉にすると仰々しい目的に対してひたむきになる姿は、こんなことを絶対口に出しては言えないけれど、魅力的だなとさえ思った。
そんな人に真剣な表情で誘われて、断ることなどできるだろうか。
俺には、無理そうだった。
朝山先輩や神崎の研究が、どんなものなのかにも興味がある。
神崎に至っては、意味深な言葉を残しているので尚更だ。
それに、もしかしたらこれは良い機会なのかもしれない。
この会に入会するのであれば、自ずと研究テーマを決める必要がある。
そろそろ自分に目を向ける、良い頃合いなのかもしれない。
香月先輩、朝山先輩、神崎。
俺はこちらを見つめる三人と順番に目を合わせた後、少しだけ頭を下げて言った。
「よろしくお願いします」
こうして、俺は万物研究会に入会することとなった。
発表が終わり、質疑応答の時間となった。 皆がそれぞれの飲み物を片手に円卓へと集合した後、俺が発表した時と同様に会長特権を発動した香月先輩から発せられた質問は、このようなものだった。「岩倉君も妃那美も気になっているだろうからね。君の研究テーマである次元についてではなく、観測者という存在についてもっと詳しく話を聞かせてもらおう」「……はい。信じられないような話で皆さんを混乱させてしまっていると思うので、何でも質問してください」 それは、主に俺と朝山先輩へ向けられた言葉だった。 事実、朝山先輩の目と表情からは、困惑という感情が見て取れる。 それは、俺も同じなのだろう。「そうだね。君は観測者の視線を、岩倉君を通して感じ取ったと言っていたね。それは、どのような感覚なんだい?」「通常、人から感じる視線は一つです。でも、観測者が岩倉君の視点を持っている時、その視線を二重に感じます」「二重にか……人から視線を感じるというのは、まあ珍しいことではないだろう。しかし、それを一人の人間から二重に感じるというのは、想像し難い感覚だね。その二重の視線というのは、今も感じているんだよね?」「はい。今日、観測者の視線を感じたのは、私が発表の準備を進めている最中でした。それ以降も、まだ消えていません」 神崎の言う事を信じるのであれば、今も観測者とやらは俺の視点を借りて、皆に視線を送っているということだ。 その事実を改めて理解し、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。 俺の意思とは関係なく、よく分からない存在が勝手に俺の視点を借りているというのは、何とも気味が悪い。「あ、そっかー。私の発表の時に幽霊がいるかどうかって聞いてきたのって、それを確認する為だったってことかな?」 思い出したかのように言った朝山先輩の質問に、神崎は頷いて答える。「観測者の正体について、それが霊的な何かなのではないかという考えもありました。でも霊感があるといっていた朝山先輩の言葉で、その可能性は捨てました」 そういえば
火曜日の放課後。神崎が研究テーマを発表する日となった。 万物研究会では既に研究会のメンバーが全員集まり、神崎が発表準備を進めているという状況だった。 流石にこれでもう、四回目だ。 発表までの流れを既に知っていた俺は、いつも先輩にその作業を任せるのも悪いだろうと思い「今回は俺がやりますよ」という言葉を残して、香月先輩が前回までそうしていたように、室内灯のスイッチ付近に立っていた。 先輩達二人は既にいつもの定位置に座っているので、後は神崎から準備完了の合図を待つだけだった。 配線作業が終わったのか、神崎の傍にあるノートPCの画面がスクリーンに映し出される。 それで準備が整ったのだろう、神崎がこちらに目線をくれたのを合図に、室内灯のスイッチをオフにする。 スクリーンに映し出された、スライドデータの表題に目を向ける。 そこには、こう書かれていた。【次元について】「それでは準備が出来たので、私の研究テーマについて発表します。私が研究テーマとして選んだのが、このスライドの表題となっている次元についてです。次元については既に知っていると思いますが、簡単に説明だけします」 神崎がPCを操作し、スライドを次のページへと移動させる。 映し出されたのは、真っ白な背景の中央に直線だけが引いてあるページだった。「そもそも次元というのは数学において、空間の広がりを示すための指標です。なので、一次元というのはその文字の通り、次元が一つしかない空間の事を言います。簡単に言ってしまえば、直線しかない空間が一次元です。一方向に伸びる長さだけがあり、それ以外の広がりを持ちません」 神崎によって、次のページが写し出される。 今度はページの中央に、縦方向と横方向に線が引かれていた。「今度は縦と横に空間が広がりました。これが二次元空間と呼ばれているものです。一次元との違いは、直線的な移動だけでなく、面状の移動が可能になったという点です。現代的な意味だと、アニメや漫画といったメディア媒体に登場する人物を、二次元キャラと言ったりしますが、それは二次元という平
休日をどのように過ごすかは人それぞれだと思うが、こと俺に関して言えば、一駅隣にある大型のショッピングセンターに足を運ぶ頻度が高かった。 そこは日本一大きなショッピングセンターと言われており、店舗面積は日本最大。 一日では到底、全店舗を回りきれないほどの広さを持っている。 求めているものを探せば、大抵は見つかると言っても過言ではない。 その場所に足を運ぶ機会が多いのは、やはり子供の頃から隣町に住んでいるからという理由が大きい。 区画は大きく月エリア、星エリア、空エリアに分かれている。 その中でも俺がよく利用しているのが、月エリアの一階に店舗を構えている書店だった。 古めかしさの全くないその書店には、本のみならず家電や食べ物、子供用のおもちゃなど多様なものが販売されている。 本を買った後、それを読む空間まで用意されているのだから、是非ともこの書店内で存分に寛いでくださいという企業からの想いが伝わってくるかのような場所だった。 俺はこの店で気になった本を手に取っては流し読み、面白そうだと感じた本を購入しては、併設されているカフェでその本をゆっくりと読む時間が好きだった。 今日もそんな時間を過ごそうと、俺は書店内を歩きながら本を物色していた。 基本的に選ぶ本はミステリ小説やホラー、SF、ライトノベルといったエンタメ要素の強い本だ。 普段はそういった作品を好んで読んでいるのだが、今回は少し趣向を変えてみることにした。 自身での発表を終えた事により、俺にも研究会メンバーとしての自覚が芽生えてきたのかもしれない。 手に取った本はそれぞれ香月先輩、朝山先輩、そして俺が研究している内容の参考になりそうな本だった。 合計三冊の本を購入した俺は、書店内に併設されているオープンカフェでアイス珈琲を注文する。 店員が珈琲を用意している間、なんとなしにテラス席の方へと視線を向ける。 その視線の先に、見知った顔を二つ見つけた。 五つ用意されているテラス席の一つに、向かいあった状態で腰かける香月先輩と、朝山先
俺の発表が終わると、例の如く機材の片づけから始まり、香月先輩が入れた珈琲をお供に四人で円卓を囲む形となった。「さて、ここで会長特権を使わせてもらおう」 皆が珈琲に口を付けた後、いの一番に口を開いたのは香月先輩だった。「会長特権?」 首を傾げて疑問を投げた朝山先輩に対し、香月先輩はコクリと頷く。「妃那美も怜菜も、岩倉君に質問したい事があるのは分かっているが、ここは会長特権を使わせてもらう。つまり……質問は私からだ」「えー、なんだそれー。ずるいぞー!」 やんややんやと文句を言う朝山先輩を無視して、香月先輩は俺へと視線を向けた。 ちなみに神崎はというと、親指ってそんな速さで動くのかと驚かざるを得ない速度で、スマートフォンを弄っている。 また、何か調べているのだろう。「まずは岩倉君、発表お疲れ様。とても……本当にとても興味深い内容の発表だったよ。シナスタジア、私もその言葉自体は知っていたけどね。君の発表からは私の知らない新しい知識が沢山得られたよ。特に共感覚の知覚現象の例や、君自身に生じている現象については、とても興味深いね。なんというか、私達人間の感覚、知覚と呼ばれているものは想像以上に複雑で奥深く、どこか神秘的とさえ感じた」 そう話す香月先輩は、どこか楽しそうだ。 その瞳からは楽しい、関心といった感情の色が見えた。「さて、私からの質問だが、君は他人の目から感情の色が見えると言っていたね。いま私の目からも、その色が見えるのかな?」「はい、見えますね」「どんな感情の色が見えているんだい?」「今は黄色と橙色なので、楽しい、もしくは嬉しいかな。後は興味、関心といった感情の色も混じって見えます」「……ふむ、当たっているね。私自身の今の感情として、それが正しいと思う。楽しい、嬉しいと言った感情は喜びに付随するものだから、同じ色に見えるということかな。興味、関心に関しても類似した感情と言える……感情と色の結びつきについ
水曜日の放課後になった。 俺は緊張に弾む心臓の音を少しでも落ち着かせようと、一度だけ深呼吸をしてから、万物研究会への扉を開く。 部屋には既に、香月先輩の姿があった。 今日は俺が研究テーマを発表する日なのだが、彼女は機材の準備だけ既に進めてくれているようだった。「やあ、岩倉君。発表用のデータは持ってきてくれたかな?」「あ、はい。これです」 俺は学生鞄の中から、予め香月先輩から預かっていたSDカードを取り出し、それを彼女に渡す。 SDカードの中には発表用に使うスライドデータのテンプレートと、それを元にして俺が作成したスライドデータが格納されている。 香月先輩は俺から受け取ったSDカードを、彼女が持っていたノートPCにあるメモリースロットに差し込んだ。 SDカードから読み込まれたスライドのデータが、PC上に表示される。「ほう、興味深いね。これは、もしかして君自身の――」 そこまで言った所で、香月先輩は言葉を止めて緩やかに首を左右に振った。 ふわりと香ってきたシャンプーの香りに、一瞬だけ気を取られた。「いや、すまないね。発表前だというのに、つい質問してしまいそうになってしまった。質問は、後の楽しみにとっておこう。あとはこのケーブルをここに差し込めば、スクリーンにPCの画面が表示される。スライドのページ移動に関しては分かるよね?」「はい、大丈夫です」「よろしい。では、準備完了だ」 そんなやり取りから数分も経たない内に、朝山先輩がいつもの「やほー」という挨拶で登場した。 そのすぐ後に、神崎が無言のままペコリと頭を下げながら姿を見せた。 メンバー全員が揃い、それぞれが定位置へと着いた所で、香月先輩によって部屋の電気が消灯される。 そのタイミングに合わせて、俺は先ほど言われた通りにケーブルを配線した。 問題なくPCの画面がスクリーンに投影されているかを確認した後、皆の反応を伺う。 朝山先輩は首を傾げている。その様子から察するに、どうやら彼女はスクリーンに映し出
日曜日の午後、俺は学校からタブレットPCを家に持ち帰り、そのキーボードを叩いては、頭を捻るという行動をひたすらに繰り返していた。 香月先輩と朝山先輩、万物研究会の既存メンバーである二人の発表が終わった。 そのため、次は新メンバーである俺と神崎が研究テーマについて発表する運びとなったのがその原因だ。 香月先輩からは、今週どこかのタイミングで、簡単に研究テーマについての発表をしてほしいと頼まれている。 しかし、その研究テーマというものが、中々決まらない。 研究対象は何でも良いとは言われているものの、そこまで自由だと逆にテーマを選定するのが難しいと感じた。 いや、実を言うと一つだけ頭に浮かんでいる事が、あるにはあるのだ。 だが、それを研究テーマとして皆の前で発表するというのには、若干抵抗を覚えた。 なぜならそれは、自分自身に関連することだから。 幼少期にその事を他者に告げた事で、周りから奇異の目で見られたり、からかわれたりする事となった経験は、俺の中でまだ少しトラウマとして残っている。 これはあまり他人に吹聴して回る事ではないという考えは、そういった経験から来るものだった。 しかし、その一方でこうも思うのだ。 香月先輩や朝山先輩が俺の何かを知った所で、俺への態度を変えることなんてあるだろうかと。 まだ短い付き合いなのだが、俺はそう思えるくらいにあの人たちの事を信用しているし、好意的な存在だと捉えている。 神崎に関しては、正直よく分からない。 あの不思議系美少女に関しては、何を考えているか全く分からないからだ。 俺を困惑させる数々の発言や行為は、未だ留まる事を知らない。 そもそも、俺があいつの事をどう思っているのか、俺自身がよく分かっていない。 苦手である事は、間違いない。 あの非日常的な何かを感じる瞳が、好きになれない事は間違いない。 でも、だからと言って神崎の事が嫌いかというと、そういう訳でもない。 あいつの事を考えると発
朝山先輩の発表が終わり、機材の片づけを皆で協力して完了させた後、俺たち万物研究会のメンバー四人は中央のテーブルに集まって一息ついていた。 発表を終えた朝山先輩は何だかんだ緊張していたようで、その糸がほぐれたかのように脱力している。 香月先輩は優雅に珈琲の入ったカップを啜っており、その視線はテーブルに突っ伏している朝山先輩へと向いている。 神崎はというと、前回と同様にスマートフォンで何かを調べているようだった。「妃那美、発表について質疑応答の時間を取りたいんだが、いけるかな?」 香月先輩の言葉に勢いよく体を起
そんなこんなで火曜、水曜、木曜日と日々は過ぎていき、あっという間に朝山先輩が発表する日である金曜日になった。 放課後に研究会へとやってきた俺は、既に三人揃っていた面々への挨拶を済ませた後、いつもの定位置へと腰かける。 今日の主役とも言える朝山先輩は「配線間違えたー」とか「あれー? スライドどこに格納したっけー」等と独り言を言いながら、準備を進めている途中だった。 そこから発表までの流れは、香月先輩の時とほとんど同じだった。 朝山先輩の「準備かんりょー」という言葉を合図に、香月先輩が室内灯のスイッチをオフにする。
「新メンバーの歓迎会をしよう」 研究会へ到着し、先に待っていた香月先輩から発せられたのは、そんな言葉だった。 見ると中央のテーブル上には、ペットボトル飲料やお菓子の類が並んでいた。 香月先輩が用意してくれたようだ。 お菓子類に目を輝かせた朝山先輩と神崎は、我先にと席へ着くと、好みのお菓子について談義を始めた。 香月先輩が俺を呼び出したのには、こういう理由があったらしい。 今日は研究活動ではなく、親睦を深めることが目的のようだ。 二人に続き、俺も席へと腰かける。 なん
万物研究会への入会が決まった日から数日が経ち、翌週の月曜日。 予想通りではあったが、バスケ部に俺を誘ったクラスメイトからは、香月先輩との関係について教えろと詰められた。 面倒だなと思いつつも、とある会へ入会する事になり、彼女はその会の会長であることを正直に伝えた。 最初は興味を持ったクラスメイトだったが、活動内容について説明すると彼はつまらなそう、モテなさそうという感想を残し、すぐに興味を失ったかのように話題を転換させた。 変な波風が立たなかったことに、俺はとりあえず一安心だった。 その日の放課後、クラスの