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1-4.Zen@mi(3/3)

last update Last Updated: 2025-07-08 18:00:00

 これはホントに深刻な問題なのだ。というのも、石を立てるというのは言葉通りでは庭石を設置することなのだけど、その昔庭造りをする坊主を石立僧と言ったように作庭そのものを表すからだ。ゆえにこのプロジェクトに限らずメタバース内で作庭することの根本問題といえるのだった。

 それでゼンアミさんに解決策を聞いたら、ゼンアミさんの時代には当たり前の風習だったようで、

「人柱をご用意ください。なに、赤子一人でいいのです」

 などと、ぞっとすることを言い出したので、以来それについてはゼンアミさんに限らず他の庭師AIにも相談しないことにしている。

 ゼンアミさんの案内のもと、伊礼社長とあたしは中島の須弥山石以外の進捗に関して、構築中の庭園を回りながら説明を受ける。どれもまだ未成のままだが、時間とともに養生がうまくいって完成すれば美しい日本庭園を構成してくれることははっきりと見てとれた。

「いてて!」

 こんなタイミングで電痛アラームだ。ロックインしてから二時間になろうとしていた。

「どうされましたか?」

 伊礼社長に問われたけれど、まだゼンアミさんが説明の途中だったので、

「なんでもありません」

 とごまかした。けれどすぐさまゼンアミさんに、

「カウンセラーの響カリン教諭から最初は短めにと言われませんでしたか?」

 とばらされてしまった。しかたなく、

「アラームを掛けていて」

「ならば、今日はここまでで」

 と伊礼社長がセッション終了を宣言した。

 州浜の縁を歩いてアクセスポイントの石橋の上に戻る。二人に挨拶して先にロックアウトしはじめたら、ゼンアミさんが伊礼社長に何か耳打ちしているのが見えた。それに対して伊礼社長が短く答えたのを見ながらあたしはルームから退出したのだった。

 伊礼社長とゼンアミさんは、時々十六夜やあたしが見ていない所で二人だけでやりとりすることがある。それが十六夜が伊礼社長とプロジェクトで鉢会うのを嫌う一番の理由だし、あたしだってこの二人ですらそこらのオトナと同じく女子を軽く見ているように思えていい気分はしないのだった。

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  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-105.流され子(1/3)

     鬼子に母親はいない。この社殿の船に戻って来る。 ミユキ母さんの言葉はあたしの記憶とは違うけれど、あたしはそれを知っていた。エニシはずっとそのことを教えてくれていた。魂がそれをわかっていた。薬指の疼きで、今そのことに気付いたのだった。 エニシはさらに鬼子の最初を、鬼子が鬼子になる時のことも知らせてくれていた。 今は失われてしまった母宮木野の墓所で見た辻沢の残留思念を思い出す。 宮木野と志野婦が屍人の母宮木野を離れて墓所の石室から出て行った後、場面は天井の沼に変わった。そこに現れた母宮木野は若かったけれど、顔は酷くやつれて憔悴しきった姿で葦原の水辺に佇んでいたのだった。その胸には牙が生えた赤ちゃんを抱いて困り果てているように見えた。母宮木野は意を決したように沼に浸かると赤ちゃんを水に沈めてしまう。水面に激しく泡が立ち断末魔の大泡が吹き出すと水に真紅が広がっていった。沼が真っ赤に染まって母宮木野が水から出てきたけれどその胸に赤ちゃんの姿はなかった。その沈められた赤ちゃんが後の夕霧だとヘルメット男は教えてくれた。 その時あたしは、赤ちゃんが流された先のことしか頭になく、どうやって生き延びたかまでは考えなかった。 伊左衛門を膝に乗せて額絵馬を見上げる紫子さんのその儚げな横顔に物語の夕霧太夫が重なった。エニシがあたしの魂に語りかけて来る声に耳を澄ます。 あの赤ちゃんが大きくなって夕霧になったわけではなかったんだ。夕霧は赤ちゃんの魂を我が身に引き受けたんだ。 ―――流され子。 名前すらつけてもらえず、誰にも知られることなくこの世を去る子ら。この世に生を受けたのに生きることが出来なかった子たち。行き場のない魂たち。「鬼子の体は魂を乗せる舟みたいなもの」 鬼子神社から四ツ辻に向かう山道でクロエちゃんが言ったのだった。 あたしたち鬼子は流され子の魂を乗せる舟なのか。彷徨う魂のためのゆりかごなんだ。エニ

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-104.鬼子の母親(3/3)

     ミユキ母さんがあたしをそっと抱き寄せてくれた。「そんなわけないよ。冬凪と夏波の二人の親とも事情があって育てられなかったんだよ」 じゃあ、どこかにいるってこと? それはミユキ母さんがいる前では口にすることはできなかった。紫子さんの膝の上伊左衛門がいたずらっぽい目であたしを見て、「建前ではね」 と言った。「こら! だまんなさい」 と紫子さんに窘められたけれど聞かないで続ける。「鬼子は沈まないんだよ。また浮き上がって生まれ変わる。だから親なんていないんだ」 沈む? 浮き上がる? 親がいない? 鈴風の記憶の中の柊と田鶴さんのことを思い出した。二人は鬼子と鬼子使いとして何百年も転生を繰り返し何度も出会ったと言っていた。ただ、転生するにしても親がなければ生まれて来られないんじゃ?「親がいないってどういうこと?」 ミユキ母さんが冬凪とあたしを交互に見た後、紫子さんに目を移した。紫子さんが小さく頷く。そしてミユキ母さんが再び冬凪とあたしに目を戻して言った。その言葉はミユキ母さんのものとは思えないほど重苦しかった。「あたしたちは」 ミユキ母さんはそこでちょっと言葉を切った。そして何かを決心したように口を開くと、「鬼子はね、この社殿の船に戻ってくるの」 潮時の翌朝、社殿から赤ちゃんの鳴き声が聞こえてくることがある。その声は必ず社殿の船底からだけど、船底に降りる階段は板と釘で封じてあるから誰かが忍び込んで置いていったのではない。そこで生まれたのだ。つまりこの船が鬼子の母体なのだそう。そんな想像の斜め上行くこと言われても、それがミユキ母さんの言葉である以上、冬凪もあたしも信じるしかないのだ。でも、あたしにはひっかかることがあった。それはあたしの一番古い記憶だ。その記憶の中のあたしは赤ちゃんで、船底のようなところで女性の胸に抱かれていたのだった。

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