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第012話

Author: CHUE
last update Petsa ng paglalathala: 2026-06-27 23:04:57

「奴隷って呼ばれてもいいかも。

そんなふうに呼ばれたら、俺のチンポ、壊れそう。」

「もしかして……

 マゾなんですか?」

「今までは違ったけど。

 ご主人様相手なら、そうなのかもしれない」

「どうして私だけなんですか」

「ご主人様にしか反応しないんですから」

 ジュハは短くため息をつき、ひらひらと手を振った。

 本当はこんな話をするつもりではなかった。

 なのに、気づけば毎回こんな結論になってしまう。

「とにかく。

 外で『ご主人様』って呼ぶのは禁止です」

「なんで?

 じゃあ何て呼べばいい?

 ジュハさん?」

「呼ばなくていいです」

「えぇー。

 じゃあ、せめてタメ口くらい駄目?」

 その図体で「えぇー」って何なの。

 しかも拗ねるって。

 こんなことで。

 三十一歳にもなって。

 ジュハは急にどっと疲れ、額へ手を当てた。

 名前で呼ぶことすら難しいのに、いきなりタメ口など簡単にできる気がしない。

 それでも、やらなければならなかった。

 もっと無茶なことまでさせて、この男を諦めさせるつもりなのだから。

「……分かった」

 八歳も年上の大男へタメ口を使う日が来るなんて、考えたこともなかった。

 酔った勢いで見知らぬ男と関わってしまったことはあっても、それ以外はごく普通に生きてきた人生だった。

 八歳年下の小柄な女からタメ口を向けられた男は、なぜかさっきよりもずっと嬉しそうに笑っていた。

「確認も終わったし。

 今日はもう帰って」

「えっ。

 ここまでさせておいて、このまま帰れって?

 人をあんなに恥ずかしい目に遭わせておいて?」

「全然恥ずかしそうじゃなかったくせに。

 それに、奴隷なのにずいぶん口答えするんだね」

 面倒くさそうに言い放つジュハ。

 あれほど顔には弱そうなのに、態度だけはどこまでも素っ気ない。

 ドヒョクは、何か別の方法を考えなければいけないと思った。

 だから仕方なく頷く。

「分かった」

「あ、それと。

 連絡もしないで。

 学校へ来るのも駄目」

「それって放置じゃないですか、ご主人様!

 いつ連絡くれるんです?」

「三日以内」

 ドヒョクはじっとジュハを見つめた。

 本当に約束を守るのか、確かめるように。

 もっとも。

 三日経っても連絡が来なければ、また大学へ行けばいいだけなのだが。

「連絡がなかったら、また学校へ行きますからね」

「分かった。

 分かったって。

 ご主人様でも何でもやるって言ったじゃん。

 少しは人のこと信じてよ、本当に」

 ジュハはうるさい小鳥でも追い払うように、また手をひらひら振った。

 ……ああ、本当に。

 オ・ジュハ。

 どうしてこんなにも反応してしまうんだ。

 ドヒョク自身にも、その理由は分からない。

 思い返せば、二日前だって。

 彼女は自分を見ても終始あの気だるそうな顔のままだった。

 もし、それが好きなのだとしたら。

 本当にマゾだと言われても、言い返せない気がした。

「追い返して、ご主人様はどこへ行くんですか?」

「家。

 疲れたから」

「送っていきましょうか?」

 ジュハは二日前に見たドヒョクの車を思い出した。

 真っ赤なスポーツカー。

 しかも、とんでもなく高そうで、何をいじったのか爆音まで響かせる車だった。

 こんな安モーテルが並ぶ通りには、どう考えても似合わない代物だ。

「いい。

 バスで帰る」

「じゃあ、せめてタクシーだけでも。

 それくらいはさせてください。本当に」

 歩いて帰ると言っている人間に、どうしてそこまで食い下がるのか。

 そう思った。

 だが、これ以上断るのも、もう面倒だった。

 ジュハは仕方なく頷く。

 途端にドヒョクの表情がぱっと明るくなった。

 ……やっぱり、この人。

 本当にヤクザ……なんだろうな。

 そんなことを考えながら、ジュハは彼のうなじへ目を向けた。

 あの刺青を見れば、

 違うと言うほうが無理だった。

 結局、ドヒョクが呼んだタクシーへ乗り込み、そのまま家へ帰った。

 呆れたことに、ドヒョクは住所を聞きもしなかった。

 これでよく自営業なんて言えたものだ。

 ともかく。

 これから三日の間に考えなければならない。

 この男を諦めさせる方法を。

     ◇

「お金貸してって言ってみな。

 それで大体の男は逃げるから」

「…………」

 ジュハは頭の中でドヒョクを思い浮かべた。

 どう見ても、人に金を貸しまくっていそうな男を。

 頼まれたら誰よりも早く貸して、その代わり毎日のように取り立ての電話をかけてきそうな男を。

 ヘジンの言うように、「普通」の人なら効果はあるだろう。

 だが残念ながら、あの男は「普通」からは程遠い。

「普通、一千万とか二千万ウォンでも貸してって言えば逃げるよ?

 でも、しつこそうな相手なら一億くらい言っちゃえば?」

 ジュハはヘジンの言葉を聞きながら、自然とあの真っ赤なスポーツカーを思い浮かべた。

 あの男なら、一億ウォンくらい小遣いみたいに出しそうだった。

 ……その代わり、取り立てはもっとすごそうだけど。

 一日ごとに利息が何十万、何百万と膨れ上がって。

 にこにこ笑いながら、あっさり貸してくれそうだ。

 取り立てまで、あんな笑顔でするんだろうか。

 そんな想像ばかりが浮かぶ。

 金額をどれだけ増やしたところで。

 あの男を諦めさせられる気は、まったくしなかった。

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