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第086話

Author: CHUE
last update publish date: 2026-08-29 23:02:06

「来たんですか?」

「あ。うん」

参ったな。

ただでさえ顔のいい男が、自分の気持ちを自覚してしまった途端、前よりずっと格好よく見えた。

しかも目が合えば、いつもああやって笑いかけてくるのだから、心臓が言うことを聞かなくなるのも当然なのかもしれない。

おまけにシャワーを浴びたばかりで、なんだかしっとりして見えるし。

最悪。

こいつのせいで目ばっかり肥えちゃって、これからどうすればいいんだろう。

珠葉は実にくだらない心配をした。

「覗いてたクソ……野郎どもは、みんな追い払いますね」

「ほっといて。気になるんでしょ」

悪口を言うなと言ったからと、わざわざ言い直すところまで感心に思えてしまう。

人生というものは、こんなふうに駄目になっていくこともあるのだと、珠葉は身に染みて思い知っていた。

「今日はどこを見るんですか?」

「サランチェに行こうと思って」

珠葉には、自

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    「来たんですか?」「あ。うん」参ったな。ただでさえ顔のいい男が、自分の気持ちを自覚してしまった途端、前よりずっと格好よく見えた。しかも目が合えば、いつもああやって笑いかけてくるのだから、心臓が言うことを聞かなくなるのも当然なのかもしれない。おまけにシャワーを浴びたばかりで、なんだかしっとりして見えるし。最悪。こいつのせいで目ばっかり肥えちゃって、これからどうすればいいんだろう。珠葉は実にくだらない心配をした。「覗いてたクソ……野郎どもは、みんな追い払いますね」「ほっといて。気になるんでしょ」悪口を言うなと言ったからと、わざわざ言い直すところまで感心に思えてしまう。人生というものは、こんなふうに駄目になっていくこともあるのだと、珠葉は身に染みて思い知っていた。「今日はどこを見るんですか?」「サランチェに行こうと思って」珠葉には、自分がいつも通りに振る舞えているのか分からなかった。勘のいい男なのだから、明らかにおかしな様子を見せていれば、きっと何か聞いてくるはずだ。そう考えるしかなかった。「あ。席、作っておきましたよ」「うん。聞いた」せっかく得意げに自慢しようと思ってたのに、パク・ギチャンの野郎、先に言いやがったな?道赫はそう思ったものの、珠葉と目が合うと、ただにっこり笑った。道赫は珠葉によく思われることで頭がいっぱいだったので、彼女が普段と違うことには気づかなかった。もともと珠葉は表情が豊かなほうではないし、ときどき『やっぱり顔はいいな』とでも言いたげな顔で道赫を見ることもあった。だから、その違和感に気づくのはなかなか難しかった。「ここです」「え……ありがとう」会議室の片隅どころか、ど真ん中に堂々と『彼女の席』として作られたスペースは、インテリアの雰囲気を壊さない範囲できれいに整えられていた。

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    はぁ。珠葉は深いため息をついた。最悪。いったい、どこから間違えたんだろう。そう考えてみても、いつからだったのかなんて分かるはずもなかった。顔にほだされている自覚ならあった。けれど、心まで許すつもりは絶対になかった。だって、自分みたいな大学生なんて、あの男にとってはただの遊びに決まっているから。傷つくのは自分だけだと、珠葉はそう思っていた。今になって考えてみれば、道赫とセックスするのが怖い理由も、彼を好きになってしまったからなのかもしれない。一度寝てしまったら、あんなに従順な男が別人になってしまうんじゃないか。そして何事もなかったように、この関係が終わってしまうんじゃないか。もう好きになってしまったものを、いったいどうすればいいんだろう。珠葉は机にゴンッと額をぶつけ、そのまま突っ伏した。とりあえず、この気持ちを悟られないことが大事だった。いつも軽薄そうに振る舞って(少なくとも初めて会ったときは、あんな感じじゃなかった。)本心を隠している男に、こんな気持ちを知られるわけにはいかない。絶対に弄ばれる。よく分からないことは多くても、珠葉とセックスしたくてたまらないことだけは確かだった。だったら、それをどうにか利用してみるほうがいいんだろうか。「……」珠葉は目を閉じた。逃げるつもりはなかった。かといって、彼を落としてみようなんて考えているわけでもない。今は考えなければならないことが多すぎた。バレないように、このまま維持しよう。それが珠葉の出した結論だった。課題と論文のために、あの家にはあと何度か行くことになっている。口実としては十分だった。写真もまだ足りないし、全体の構造も把握しきれていない。それにヌマルもまだ気になっている。しかも指導教授からも、もう一度現地を見てくるように言わ

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  • ボスの密やかな秘密 ~冷酷なボスは私にだけ甘すぎる~   第083話

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    「ああ、まあ……今度機会があったら呼んでよ」「必要でしたら、いつでも言ってください。一本電話をくだされば、今からでも来ると思います」あまりにも魅力的な提案だった。今すぐ電話して呼んでほしい――そう言いたくなるくらいに。権力というものが、これほど人を誘惑するものだとは思ってもみなかった。珠葉は慌てて視線をノートへ落とす。平然としていなければならない。「うん」自分はそこまで学問に熱心な人間ではないと思っていた。けれど実際に韓屋を目の当たりにし、自分の好みにぴったりな内装を見ていると、次から次へと知りたいことが湧いてくる。卒業論文を書いている最中だから、なおさらなのかもしれない。「お昼でも食べてから、続きを見ませんか?」「あ、ご飯食べなきゃね。外に行く?」「いえ。ビョルチェに食堂があります」食堂?珠葉は聞き返さず、おとなしく道赫の後について歩いた。その途中で、なぜアンチェを本棟と呼ぶのか、韓屋はいつ完成したのか――気になっていたことを次々と尋ねる。道赫は一度も言葉に詰まることなく答え、その様子が珠葉は少し気に入った。建物同士の距離がかなり離れていたため、ビョルチェまで歩くだけでも相当時間がかかったが、その道のりは少しも退屈ではなかった。「ここは?」三十人は軽く座れそうな長いテーブルと椅子が並ぶ空間だった。ちょっとしたレストランにも負けないほど立派だ。研究室の人たちを連れてきて、そのまま議論でも始められそうなほど、興味をそそられる場所ばかりだった。「韓国料理を用意しましたけど、大丈夫ですか?」食堂では二、三人が食事をしていたが、やはり道赫と一緒に現れた珠葉を見るや、挨拶もできないまま慌てて席を立ってしまった。「そのまま食べてていいのに」そう言う暇もなく、男たちは姿を消していく。珠葉は食器だけが残された食堂を眺め、それ

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  • ボスの密やかな秘密 ~冷酷なボスは私にだけ甘すぎる~   第003話

    「もう、今にもイきそうですけど」「そんなわけない」 軽い挑発のつもりだった。 平然と言い返したつもりなのだろうが、その声は少しも格好よくなかった。 思った以上に震えていたからだ。 緊張しているようには見えなかった。 それでも、その声を聞いた途端、ジュハは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。「そうですか?」 その一言が、ひどく挑発的に聞こえた。 どこまで耐えられるか試してみる、とでも言いたげに。 ドヒョクは少し意地になった。 だが、酒の入った身体は意思とは裏腹に勝手な反応を始める。 ここ数年、まともな性行為から遠ざかっていたせいかもしれない。 ――いや。 そんなものは

  • ボスの密やかな秘密 ~冷酷なボスは私にだけ甘すぎる~   第002話

    「まあ、この辺ならホテルなんていくらでもありますし」 この辺りはラブホテルだらけだった。 ドヒョクはジュハの言葉に、小さく周囲を見回す。 生まれながらの坊ちゃん育ちで、こんな場所に来たことは一度もない。 もっとも、今さら二人でタクシーに乗ってホテルを探すというのも、それはそれで妙な話だった。「ふーん」「手でしかしませんけど。 それでもいいなら」「……何?」 ずいぶんと肝が据わっていた。 自分より倍は大きな男に向かって言う言葉とは思えない。 世間知らずなのか。 それとも、何か根拠のない自信でもあるのか。 酒に酔っているはずなのに、その瞳だけは不思議なほど生き生きとして

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