Share

第825話

Author: 北野 艾
――なるほど。

柊也が広王の周年パーティーに顔を出した本当の理由は、そういうことか。

私とあんな意味深な空気を漂わせながら、裏ではしっかり別の女に色目を使っている。

最低のクズ男だ。

苛立ちを隠せないまま踵を返し、テーブルに戻った詩織の表情は明らかに硬かった。

「どうかしたのかい?」

響太朗が気遣うように声をかけてきたが、詩織は「仕事で少し」とだけ短く返した。響太朗はそれ以上詮索しなかった。

ホテルに戻ると、密から『薬膳スープをデリバリーしておいたから、絶対飲んでくださいね』とメッセージが入っていた。

それを見て、詩織は自分の生理が近づいていることにようやく気がついた。

毎月、生理の1週間前になると、密はこうして体を温めるスープを手配してくれる。

そのおかげで生理前の不調はいくらか和らぐものの、根本的な解決にはならない。

元々、人より子宮内膜が薄い体質だった。

数年前の流産を機に重い生理痛を抱えるようになり、それ以来、どんなに体質改善を試みても効果はなかったのだ。

シャワーを浴びている最中、下腹部にずんと鈍い重みを感じた。

だが、周期からいえば生理は来週のは
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1235話

    ミキは素早く彼のシャツのボタンを留め直し、逃げるようにブランケットを掛け直した。そして大きく安堵の息を吐き出すと、足音を忍ばせてリビングから退散した。今度こそ寝室のベッドに潜り込んだ彼女は、大仕事を終えた疲労感からか、すぐに深い眠りに落ちていった。――しかし、その眠りは決して穏やかなものではなかった。夢の断片が、次から次へと頭の中を駆け巡っていく。両親に誕生日を祝ってもらった、遠い昔の温かい記憶。かつて叔母の蓉子によって、暗く冷たい物置部屋に閉じ込められた時の恐怖。そして――縁がなく、この腕に抱くことすらできなかった、あのお腹の子供の記憶……息苦しさと共に、ミキはハッと目を覚ました。全身がじっとりと汗ばんでいる。悪夢にうなされてかいた冷や汗なのか、それとも…………やけに熱い。ミキはぼんやりとした頭で、背中を覆う異様な熱気に気づいた。まるで巨大な火鉢を背負わされているかのように、薄いパジャマ越しに、絶え間なく高熱が背中を焦がしてくる。息が詰まるほどの熱さに耐えかねて身をよじろうとしたが、腰に回された強靭な腕にがっちりとホールドされていて、ピクリとも動けない。ちょっと待って……腕!?完全に覚醒したミキが恐る恐る首を巡らせると、すぐ背後に、男の端正な寝顔があった。リビングのソファにいたはずの澪士が、なぜか彼女のベッドに入り込み、背後から彼女をすっぽりと抱き込んでいたのだ!彼の頬は依然として熱で赤く染まり、その身体は火のように熱い。一晩中ずっと息苦しくて熱かったのは、この高熱男に抱き着かれていたからじゃない……!「ちょっと、澪士……っ!離して!」ミキは慌てて彼の腕を解こうとしたが、高熱でうなされているはずの男の腕は、まるで鋼の檻のようにびくともしない。「離してってば……!」焦って身をよじるミキを、澪士は手放すどころか、さらに強い力で己の懐へと引きずり込んだ。まるで、燃えるような苦痛を和らげてくれる特効薬をようやく見つけたかのように、彼の喉の奥から深い安堵の吐息が漏れる。彼は彼女のうなじに熱い頬を擦り寄せると、掠れた声で微かに呟いた。「……可愛い子ちゃん。行かないでくれ……」ピタリ、とミキの動きが止まった。可愛い子ちゃん……?澪士からそんな甘い呼び方をされたことは、

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1234話

    澪士はミキの服の袖をそっと摘まむと、ひどく儚げな表情を作った。熱を帯びて潤んだ漆黒の瞳が、縋るように彼女を真っ直ぐに見つめ上げてくる。な、何よその顔……昔、雨の日に拾った捨て犬そっくりじゃない……その反則級のあざとさと痛々しさに、ミキの胸がチクリと痛む。「……追い出さないでくれ。駄目か?」ミキは咄嗟に「今すぐ帰れなんて言ってないわよ」と返すつもりだった。しかし、彼に見つめられた動揺からか、つい口が滑ってしまった。「……別に、帰れなんて言ってないわよ」澪士の反応は恐ろしいほど早かった。「……よかった。すごくしんどいんだ。少しだけ、ここで眠らせてくれないか?」あ……言質取られた。ミキは内心で頭を抱えたが、ここまで弱りきっている姿を見ると、さすがに無下にはできなかった。そもそも、彼がこんな高熱を出したのはプールに落ちた自分を助けるためだ。その上、これまでにも何かと彼には窮地を救ってもらってきた恩がある。それなのに無情に追い出せるほど、ミキも薄情ではない。それに、40度近い高熱を出してる重病人だもの。こんな状態で何かおかしな真似をする気力も体力もあるわけがないわ。ミキは小さくため息をつくと、諦めたように口調を和らげた。「……わかったわよ。ここでしっかり寝なさい。ぐっすり寝れば、少しは良くなるでしょ」「あぁ……」目的を果たした澪士は安心したように目を閉じ、もう彼女を困らせるようなことは言わず、大人しくソファに身を横たえた。数十分後。シャワーを浴びてバスルームから出てきたミキがリビングを覗くと、澪士はソファに身を丸くして、すでに深く眠り込んでいた。部屋には温かみのあるフロアランプだけが点いている。薄暗いオレンジ色の光に照らされた彼の顔は、普段の冷酷で鋭い威圧感がすっかり影を潜め、不思議なほど柔らかく見えた。横向きに寝る彼の額にはじっとりと汗が滲み、濡れた前髪が頬に張り付いている。高熱で赤く染まった頬と、微かに苦しそうな寝顔が、薄明かりの中でひどく無防備で脆いものに思えた。いつの間にか、彼が掛けていたブランケットが蹴飛ばされて床にずり落ちかけている。微かな鼻詰まりのせいで、彼の寝息はいつもより少し重苦しく、ゆっくりと繰り返されていた。ミキは少し迷ったが、そのまま風邪

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1233話

    「……出張?わざわざ挨拶に来たわけ?」ミキは戸惑いながら尋ねた。スーツケースを持っているということは、ここから直接空港にでも向かうのだろうか。それ以外に理由は思いつかない。しかし澪士は何も答えず、わずかに身を乗り出すと、有無を言わさずミキの手首を掴んだ。そして、彼女の掌を自身の額へとぴたりと押し当てたのだ。「え……っ」触れた瞬間に伝わってきたのは、火傷しそうなほどの異常な熱さだった。「ちょっと、すごい熱じゃない……!」ミキが驚いて声を上げると、澪士はどこか酷く愉しげに、喉の奥で低く笑った。「あぁ。昨日、お前を水から引きずり出した時に冷えたみたいだ」そして、言い逃れを許さない重い声で囁く。「お前が言ったんだぞ。もし俺が風邪を引いたら、看病するってな」「…………」ミキは絶句した。確かに勢いでそんな言葉を口にした気もするが、いくら何でも高熱で頭がおかしくなったのだろうか。スポンサー様ほどの権力とお金があるなら、超一流のプライベートドクターでも呼んで大人しく寝ていればいいのに。なんでわざわざスーツケース持参で私の部屋に来るのよ……!?だが、澪士は最初からミキの許可など求める気はなかった。彼は呆然とするミキの脇をすり抜け、まるで自分の所有地であるかのように堂々と部屋へ入り込んだ。そして、リビングの大きなソファに長い脚を投げ出して深く沈み込むと、微かに荒い息を吐き出した。「……苦しい」掠れた低い声が漏れる。その息苦しさは、決して演技ではない。「彼女の同情を買う」という狂気じみた目的のためだけに、何時間も氷水に浸かって作り出した40度という危険な高熱は、屈強な彼の肉体をもってしても、当然ながらシャレにならないほどのダメージを与えていた。ミキは慌てて体温計を引っ張り出し、容赦なく跳ね上がった赤い数字を見て顔を青ざめさせた。「ちょっとこれ、すぐに薬を飲まないと……!」彼女は急いでミネラルウォーターと解熱剤を用意し、ソファに沈む彼に差し出した。「飲ませてくれ」澪士は腕を動かそうともせず、ただ薄い唇をわずかに開いて見せた。手は動くでしょうが……ミキは内心で毒づきながらも、相手が重病人であるという事実には勝てず、仕方なく彼の傍らに膝をついて薬を口に含ませ、水を飲ませて

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1232話

    澪士は何かとんでもない大発見でもしたかのように、これまで瞳の奥に燻らせていた苛立ちをふっと散らした。その指摘に、ミキは心臓を鷲掴みにされたようにハッとした。私が、ヤキモチ……?だがすぐにバッと顔を背け、彼の指を振り払う。本能の防衛機制が働き、できるだけ冷たい声でその事実を否定した。「……自意識過剰よ。勘違いしないで」だが澪士は全く気にした風もなかった。彼の中ではすでに「そういうこと」として完結しているらしい。だからこそ、彼女を見つめる視線は先ほどよりも熱を帯び、じっとりと深い情念のようなものが揺らめいていた。もし彼が稀代のプレイボーイだと知らなければ、本当に自分を深く愛してくれているのだと錯覚してしまいそうなほどに。どうせ、思い通りにならない私を落としたいだけの、単なる征服欲でしょ。手に入らない子猫をからかって遊んでるだけよ。男という生き物がどういうものか、ミキは元夫で嫌というほど思い知らされている。もう二度と、あんな甘い罠には騙されない。バシャァァーーンッ!!「ぎゃあああああっ!」ルナの二度目の悲惨な絶叫がプールに響き渡った瞬間、ミキの心は完全に凪いだように冷え切った。ルナの方を振り返ることもなく、立ち上がる。「もう遅いから、ホテルに帰るわ」「送ろう」澪士はあっさりと同意し、引き留めはしなかった。ミキは少し立ち止まり、「……ルナのことは、どうするつもり?」と尋ねた。澪士は艶やかに微笑んだ。「心配するな。彼女とは『穏便に話し合う』つもりだから」穏便に話し合う、ね……ミキは自分の心配が全くの杞憂だと悟った。彼がここまで大胆な制裁を下す以上、後始末の算段などとうについているに決まっている。澪士は自ら彼女をホテルまで送り届けた。車内での一件で完全に学習したミキは、車がホテルのエントランスに滑り込んだ瞬間、挨拶もそこそこにドアを開けて逃げるように飛び出した。澪士は今回は車から降りることなく、逃げ去る彼女の細い背中へ向かって低く囁いた。「おやすみ」ミキは振り返らず、小走りでホテルのロビーへと消えていった。彼女の姿が完全に見えなくなると、澪士の瞳からスッと温度が消えた。……機嫌、直ってなかったな。彼は小さく舌打ちし、運転席の部下に冷徹な声で命じた。

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1231話

    だが、視線を上げて「それ」を見た瞬間、彼女は絶句した。水面から十メートルもある飛び込み台の先端に、見覚えのある女が立っていたのだ。ルナだった。その後ろには、退路を塞ぐように黒服の屈強な男が立ちはだかっている。ルナは真っ青な顔でガタガタと震え、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにして飛び込み台のギリギリに立たされていた。その姿は、なんとも惨めだった。いや、惨めを通り越して哀れでさえある。澪士はミキを観客席に座らせると、ふと片手を上げて合図を送った。それを見た黒服の男が、ルナの背後から無機質な声で命じる。「飛べ」「や、いやっ!やだぁっ!」ルナは幼児のように泣き喚いた。「怖いっ!お願い、許して!もう二度とあんなことしないからぁっ!」しかし黒服の男は、彼女の凄惨な命乞いにも一切顔色を変えなかった。「飛べ」先ほどよりも、明らかに苛立ちの混じった低い声だ。「自分で飛ばないなら、ここから突き落とすぞ」「ひぃぃっ!!」ルナの絶叫と泣き声が、夜の静かなプールに不気味に木霊する。あまりの光景に、ミキは思わず隣の男を見た。「これ……ちょっと、やりすぎじゃない?」ルナに同情したわけではない。ただ、こんな真似をして澪士の立場が危うくならないか、それが心配だったのだ。澪士は微動だにせず、退屈そうに鼻を鳴らした。「何を怖がる必要がある?何か起きても、俺が全てもみ消してやる」彼はそう言いながら、ミキの黒髪の毛先を指に絡め、愛おしそうに弄り始めた。「いいか、よく覚えておけ。お前に牙を剥く奴がいれば、その何倍も残酷に噛みちぎってやれ。相手がどれだけ権力を持っていようが関係ない。お前の手には負えない獲物なら、代わりに俺が確実に仕留めてやる」そこまで言うと、彼はゆっくりと視線を上げ、ミキの瞳を真っ直ぐに射抜いた。その口元に、ひどく扇情的で危険な笑みが浮かぶ。「お前が気持ちよくなってくれないと、俺も満たされないタチでね」ミキが何か言葉を返す間もなく、空気を切り裂くような悲鳴が響き渡った。ルナが、十メートルの飛び込み台から真っ逆さまに落下したのだ。いや、正確に言えば、黒服に背中を蹴り落とされたのである。激しい水柱が上がり、耳障りな絶叫がプツリと途絶えた。プールの水面に大量の気泡が

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1230話

    澪士は彼女を完全に逃げ場のないシートの隅まで追い詰めると、片手でその柔らかい頬をむにっと挟み込み、強引に自分と視線を合わせさせた。「……なぜ怒っている」「怒ってなんか――気のせいじゃないの!だいたい、私が怒る理由なんてないでしょ!?あなたって、ほんとにおかしい……」条件反射のように、ミキは矢継ぎ早に言葉を並べ立てた。だが、顔を上げると、澪士がじっと彼女を見つめ下ろしていた。その涼しげな瞳の奥で、仄暗い情念のような光が揺らめいているのを見て、ミキは理由もなく心臓を跳ねさせた。急に口調がしどろもどろになる。「な、なによ、その目は……怒ってなんかないわよ。そもそも、私があなたに腹を立てる資格なんて……」言い訳を重ねれば重ねるほど、自分の心が透けて見えそうで焦った。焦れば焦るほど、声は尻すぼみになっていく。澪士の視線は、慌てて開閉する彼女の愛らしい唇に釘付けになっていた。喉仏が、ゴクリと上下に動く。至近距離まで詰め寄ったせいで、理性が吹き飛びそうだった。香水などつけていないはずなのに、ひどく甘くていい匂いがする。まるで上質なケーキのように。……こいつはさっきから、何をギャーギャー喚いているんだ?――キスしたい。その衝動が脳裏を掠めた次の瞬間、彼はミキの顎をぐっと引き寄せ、有無を言わさずその唇を塞いでいた。「んっ……!」ミキは抗議の声を漏らし、身を捩って逃げようとした。だが澪士は容赦なく追撃し、車内に燻っていた危険な火種が一気に燃え上がる。唇と唇が重なり、理性を欠いた荒々しい口づけが交わされる。熱を帯びた彼の吐息が、何度もミキの頬を撫でた。ミキは必死に彼を押し返そうと、その分厚い胸板に指先を立てる。だが、圧倒的なオスとしての力の前では、そんな抵抗はひどく滑稽で無意味なものだった。キスの角度が変わり、さらに深く貪られる。澪士の大きな掌が背中のラインをなぞるように滑り落ち、ミキの身体をまるごと抱き込んだ。まるで彼女を自分の骨肉に溶け込ませてしまおうとするかのような、狂気じみた力強さで。いつしか彼の呼吸は、飢えた獣のように荒く重くなっていた。本能的な危険信号にミキはパニックになり、何か叫ぼうと口を開いた拍子に、うっかり彼の唇をガリッと噛んでしまった。「……

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status