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2:はじまり

مؤلف: けもこ
last update تاريخ النشر: 2026-07-09 23:02:06

綾香あやかは、大学を卒業して社会人になって1年半。

父が経営するセルリアンホテルグループの取締役秘書としてようやく仕事に慣れてきたところだ。

今のところは誰かの専属という訳ではなく、秘書課の他の同期と同じく、複数いる取締役の秘書としての役割を部署の若手みんなと分担している。

「ねぇ、聞いた? 御園先輩、営業部の藤堂課長と結婚するらしいわよ?」

隣の机の同期、冬月朱莉ふゆつきあかりが、ツンツンとボールペンの先で二の腕をつつきながら、ヒソヒソと声をかける。

「付き合ってるって公言して久しいし、御園先輩も藤堂課長もお似合いの二人だから素敵な話なんじゃない? いずれそうなるって思ってたし。」

隣を見ることなくPCに向かって役員のスケジュールを確認しながら、返事を返す。

「そうだけどさ、どうやら御園先輩、赤ちゃんがいるらしいの」

キーボードを打つ手が止まる。

「え?ということは御園先輩、産休に入られるの?」

「じゃなくて、退職されるみたいよ」

「そんな‥‥じゃぁ、今の水無瀬みなせ専務の秘書は誰がやるの?」

「それよ。どうやら2年目の私たちから一人繰り上がりがでるみたいよ。綾香は、社長令嬢だしアドバンテージがあるんじゃない?」

朱莉がニヤニヤと何やら含みを持たせたように笑みを浮かべる。

「ちょっと、高辻さん、冬月さん、私語が秘書室の外まで聞こえていますよ。秘書は特秘の情報が多いのですから、大声は控えてくださいね」

加賀谷かがや室長が穏やかに厳しく指摘をする。姿勢を正して二人とも自分のPCに向かった。

綾香はPCの取締役のスケジュール一覧を見ながら、上から2段目にある、もっともたくさんのタスクの帯の並ぶ取締役の名前を見た。

水無瀬みなせ れん

昨年までこのセルリアンマナーホテルズ&スパのアメリカ支社長を務め、この春に日本に戻って、本社の専務取締役になった。

私は彼をずっと幼い頃から知っている。一時期は、我が家でともに生活をしていたのだから。

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  • 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~   43:離れ離れの夜に気づくこと

    「で、今日は、お泊りはしないで帰るわけ? 綾香は」イブの夜、朱莉の家で朱莉の弟を入れた4人で鍋を囲む。フューシャピンクの部屋着を着てくつろぐ菱本が、半目で綾香を見つめる。「約束だから行っておいで、とは言ってくれたけど‥‥向こうは仕事で忙しいのになんだか申し訳ないなって‥‥思ったり、なんか、して‥‥ね」一応、昨日、会社で朱莉には直接伝えたし、グループメッセージであらかじめ連絡はしたのだが、菱本には、裏切り者っぽく扱われている。「まぁ、まぁ、いいじゃん。綾香もこの何週間かは、ニヤニヤする日もあれば目の下に巨大なクマを飼う日もあって、忙しかったんだからさ」朱莉が、ヨシヨシ、という感じでとりなしてくれる。「で、女になった感想はどうですか?」朱莉の(見た目は妹、戸籍上は)弟の聖がニヤニヤとしながら聞いてくる。菱本のことを知ったのは、この聖がきっかけだ。「ひ、聖ちゃん‥‥」あまりの直球に、綾香は口をパクパクさせるだけで、何も言葉が出てこない。「水無瀬専務、いい体してるもんね~。すごく良い仕事してくれそう」菱本がうっとりしながら鍋の中の餅麩をつついている。「すっごく、強そう」「あ、わかる、超強そう」「えー強そうな人なんだ。ワイルド系?」綾香が何も言わないのをいいことに、3人で好きに盛り上がっている。まぁ、このくらいはお泊りのドタキャンの贖罪として、良いことにしなくては。そう思って耐えることにした。菱本が『ワイルドって感じじゃないけど、もうずっと強そう。駅弁とかやりながら移動しそうな感じ』と言う言葉に、他の2人がキャー!と叫ぶ。残念なことに、綾香にはその意味がわからなかった。『駅弁』をする、とは何か、後で調べてみようと思った。12時近くまで、菱本の「目指せエリカ様ボディ計画」の話や朱莉の忘れられない元カレの話で盛り上がり、その後、深夜に綾香はタクシーを呼んでもらって帰宅した。タクシーの中で廉にメッセージを送る。『まだ、起きてる?』すぐ

  • 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~   42:帰る場所

    「お帰り、綾ちゃん。廉くんも。孝くんと彼女さんもお待ちかねだったのよ」上機嫌の母が出迎えてくれる。廉はそっと綾香の腰に手を回してさりげなく寄りそう。「ねぇ、綾ちゃん、孝くんの彼女って誰だと思う?」玄関からリビングに向かう途中で母が嬉しそうに問う。さっき、答えを聞いてしまったの、ごめんね、お母さん。綾香は、心の中でそう呟いた。リビングに入ると、窓際の長いソファに、孝也とエリカが並んで座っていた。 エリカが、綾香の姿を目にして緊張した様子で立ち上がる。「あ、綾香、この間は夕飯に付き合ってくれてありがとう」非の打ちどころのないようなこの人でも、こんなに緊張して不安そうになることがあるのか、とそう感じた。ずっと勝手な勘違いで打ち解けられずにいたことが、本当に申し訳なく感じた。「こちらこそ、誘ってくれてありがとうございました。また、食事に行きましょうね」心からの笑顔を向けて、そう告げると、エリカの顔が明るく輝いた。「あら、綾ちゃん、声が随分と変よ。風邪? それで寝坊したの?」夕飯の準備ができたと宮島さんが教えてくれたので、ダイニングへ移動する。「俺は、綾香を送って来ただけだから、これで失礼します」「え、そんなこと言わないで廉くんも一緒に食べましょうよ。宮島さんにもそのつもりで準備してもらったし」結局、廉も一緒に食卓につき食事をすることになった。書斎から出て来た父がいつになく寡黙に食事を取っている。とはいえ、いつものように会話のほとんどを母が仕切っていて、エリカが質問攻めにされてアワアワしているのを皆で微笑ましく見ているという晩餐だったのだが。食後のコーヒーを運ぶ手伝いをしようと席を立つと、一緒に廉もついてきた。 台所の宮島さんに、あとはするから、と伝えて下がってもらう。「トレーは俺が運ぶから。無理しないで」コーヒーのトレーを廉に運んでもらい、リビングに足を踏み入れると、ちょうど孝也が真剣な表情で父に話をしていた。「結婚を前提にして、彼女と一緒に暮らしたいと思ってる」孝

  • 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~   41:愛され鳥の啼き声

    目が覚めると、昨夜着て来た部屋着で廉のベッドにいた。部屋に時計が無いので時間がわからないが、窓を厚く覆うカーテンの向こうが明るいので、朝が来たのはわかる。体全体が熱を持ったように火照っていて、頭もうまく働かない。微かに部屋の向こうに気配がするので、リビングの方に廉がいるのだろう。ベッドから下りようとして、体を動かすと、なんだか腰に違和感がある。「んっ‥‥」足をついて立とうとした瞬間、足に力が入らず、へなへなと前に倒れ込んだ。『びっ‥‥くりした』いわゆるこれは腰が抜けているという状態なのだろうか。床にペタンと座ってベッドを背もたれにして座っていると、物音に気付いて廉がマグカップを持って入ってきた。サイドボードにカップを置くと、座っている綾香を抱き上げ、膝に乗せてベッドに座った。綾香を抱きしめ、背中を撫でる。「‥‥ごめん」「ひば、だんじ‥‥」声が変だ。空咳をして、もう一度声を出そうとする。「ひば‥‥」掠れた声しか出ない。廉がサイドボードに手を伸ばしてマグカップを渡してくれる。「蜂蜜入りの紅茶だよ。まだ、熱いかも、気を付けて飲んで」マグカップを受け取ったのに、廉もマグカップから手を離さない。コクリと飲み込むとガサガサとした喉の違和感がマシになったように感じる。 ふぅため息を一つついてからもう一度聞く。「ひば‥‥じかん」全然、ダメ。マグカップをサイドボードに置いて、再び廉が抱きしめてくる。「今11時過ぎだよ。どこか痛いところない?」見上げると、申し訳なさそうな顔で、心配そうに見つめている。「ひだぐは‥‥ごへが…」声のあまりの可愛くなさに、話すのをあきらめて背中をさすられるままにした。声は出ないが、倦怠感はあれど体はどこも痛くは無い。どうやら、昨夜、啼かされすぎて喉が枯れたようだ。今日が休みで良かった。はっと気づいて、再び廉の顔を見つめる。「ばだしの‥‥げぃだぃ‥‥」

  • 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~   40:愛とは週末に育つもの

    ツンと立ちあがった乳嘴を舌で舐め上げられる。「はっ‥‥ん」「綾香、俺の服も脱がせて」おぼつかない指先で廉のシャツのボタンを外していく。その間も胸への愛撫は続いていて、キュッと先端を摘ままれる度にピクンと指先が止まる。ボタンを外したシャツを廉の肩から滑らせる。抱きしめられて、敏感になった胸が廉の胸に擦りあわされる。それだけで、背筋を快感が走り、この後、廉に与えられるであろう喜びを思い出して体が震えた。背中に回された手が、後ろから尻の丸みを確かめるようにして撫でている。体の向きを変えられ、ひじ掛けにあるクッションを背に大きく足を抱え上げられた。「あっ」下着を抜きとられ、大きく足を開かされた状態に、羞恥で顔が真っ赤になる。唇が、膝の裏から撫でるように足の合わさる中心へと向かっていく。どこに手をやっていいかわからず、片手を廉の二の腕にそっと触れると、指を絡めてギュッと握られた。蜜をたたえた襞の隙間を舌で舐め上げられ、その熱さに体の奥からさらに蜜が溢れた。廉は、足を肩に抱えるようにして、体を割り入れると、舌を隘路に突き入れてくる。「ふっ、んん」くちゅくちゅと水音がして、どうしようもないほどに体の奥から湧き出てくるものがある。「綾香、俺を欲しいと言って」足の付け根の窪みに頬を押し付けて、廉が掠れた声で呟く。羞恥と興奮で頭がパンクしそうになっている。絡められた指をギュッと再び握って、火照った顔で廉を見つめる。「廉、廉が欲しいの。お願い」「俺は、ずっと綾香が欲しかったよ。欲しいって思ってはいけない時も、ずっと‥‥」廉が体を起こし、唇を寄せる。蜜口に熱く固いものが触れる。「いつだって、俺は綾香にだけ余裕がないんだ。知らなかっただろう?」掠れるような語尾で呟いた後、一気に綾香の中に押し入ってくる。「あぁぁ、んん」思わずこぼれた嬌声を、廉の唇が掬う。舌を絡め、深く繋がり合って、互いを感じ合う。「ん、綾香、熱いね‥‥はぁ、綾香の中

  • 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~   39:変わるのは自分から②

    「どう‥‥どうでもよくはない‥‥です」語尾が少しずつ小さくなる。心のどこかから、もういいんじゃない?どうでもいいって言うんだし、わざわざ自分をさらけ出さなくても、そういう声が聞こえる。小さく首を振って、その声を振り払う。「昨日は、エリカさんと食事をして、すごく落ち込んでしまって。それで、どうしても廉と話をするのが怖くて」廉の眉間に皺が寄る。「なんで、エリカと話して落ち込むことがあるんだ? 何か言われたのか? そんな悪い奴じゃないと思ってたが。言い難くても何でも教えてくれ。綾香を傷つける言葉は許せないな」「あ、違う違う。エリカさんは私に意地悪を言ったりはしないわよ。本当に‥‥すごく良い人だから」廉の顔から目を反らして、大きく深呼吸をした後、口を開く。「なんでもできて、綺麗で優しいエリカさんが羨ましくて、妬ましくて仕方なかったの。私の何が廉の気持ちを引き寄せられるだろうって思ってしまって。で、何も思い浮かばないから、すっかり落ち込んでしまったの」言いながら、鼻の奥がツンとしてくる。情けないことに、泣いてしまいそうだ。「廉のように何でもできる人の隣に立つには、私は余りに出来が悪すぎて、本当に嫌になっちゃって。どうして、もっと頑張って来なかったかなぁ、とか、どうして、もっと綺麗に生まれてこなかったのかなぁ、とか、くだらない劣等感でいっぱいで」ポタポタと膝の上に握りしめた拳に涙が落ち始める。こんな女々しいのは良くないってわかってるのに、涙が止められない。「でも、廉が好きなの。ずっと好きなの。隣に立てなくても、傍にいられなくても大好き。どうしていいかわからないくらい好き‥‥」叫ぶように発していた言葉の途中で抱きしめられていた。シャツの胸に縋り付いて、嗚咽を漏らす。「俺のことがそんなに好きなの?」涙が少し落ち着いてきた時に、頭上から言葉が降って来る。いつもの優しく甘い口調。「‥‥大好き‥‥です」こもった掠れた声で返す。縋り付いている胸が大きくため息をつく。「もう一回言って、どのくらい俺

  • 上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~   38:変わるのは自分から①

    目の前で回る洗濯機を眺めながら、先週の週末は幸せに過ごしたな、と思い出した。御園さんの後任に選ばれてからのこの3週間余り。ジェットコースターのように気持ちが乱高下している。そして今はどん底だ。それもこれも全て自分が悪い。『明日、孝也も来るって。なんか大事な話があるんだって♡』母からのメッセージが携帯の画面に浮かんだ。メッセージの最後のハートマークにウキウキした感じが見える。兄に彼女がいるらしい、と言うのはそれとなく母から聞いていた。結婚でもするのかな。でも、まだ、大学院に行きながらの勤務医なんて生活大変なんじゃないかな。直面したくないことがあるときは、なぜかそれ以外のことにやたらと冷静に思考が働く。面倒なことから逃げたがる自分の性格を表していて、笑えてしまう。洗濯ものを浴室に干して、部屋に戻り、コーヒーを片手にカウンターに腰かける。明日は、午前中の内にクリスマスプレゼントを渡しに実家に帰る予定だ。テラスの吐き出し窓の横にある観葉植物に多めに水を入れておこうと窓辺に寄り、カーテンの外を見る。景色の端に廉の住むマンションが見えた。ここからではどれが彼の部屋かはわからないし、たぶん、まだ帰っていないだろう。 このままでいいのだろうか。彼が連絡をくれるまで待っていていいのだろうか。もし、このまま関係が終わってしまったら?恵まれた環境だからと、小さい頃から周囲にヒソヒソと妬まれることが多く、自分から行動を起こすことを控えてしまうようになっていた。主張をすれば、それに対して、何かの言葉が返ってくる。その中に含まれる小さな悪意が苦しかったのだ。それがいつしか後ろ向きな姿勢を作ってしまっていた。このまま、どうせ自分なんて、と廉への気持ちを沈めてしまって、それで今の恋が終わって後悔しないだろうか。菱本のように、目の前で幸せになっていく廉を見ていられる? 自分がどんな思いを抱えているか知ることなく笑う彼を見ていられるのだろうか?そうだ、私は、まだ、何も彼に伝えていなかった。惚けたように見つめていたら、自分の気持ちに気づいてくれるだろうと思っていただけだ。そして、優しい彼がそれに応えてくれただけなのだ。グルグルと絡まってい

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