二世の距離

夫の片桐澄晴（かたきり すはる）が義妹を海外から迎えてきた初日、彼は私たちの寝室を彼女に譲った。

「浅野奈津子（あさの なつこ）は夫を亡くしたばかりで、とても悲しんでいるんだ。少しでも快適に過ごさせてやりたい」

私はおとなしくうなずく。「わかった」

翌日は私の誕生日である。奈津子は悲しすぎたから、澄晴に星を見に連れて行ってほしいと言う。

澄晴は私に言う。「今の彼女にとって、兄の俺がそばにいなければならない。少し遅れるが、帰ってきてから誕生日を祝ってあげるよ」

私は相変わらず笑顔でうなずく。「わかった」

十年間の夫婦関係だったが、これ以上、未練な愛は要らない。

なぜなら私は生まれ変わったから。

前世では、誕生日の日に私が無理矢理澄晴をそばに留めて、奈津子と星を見に行かせなかった。

そのせいで奈津子は悲しみのあまり水に落ち、病院に運ばれて応急手当を受けた。

澄晴は私の頭を浴槽に押し込み、私が窒息して死ぬまで放さなかった。

そして、再び生を得た今——

澄晴が帰宅したのが普段より遅かった。今日は珍しく、先に寝室に行って奈津子と話すのではなく、直接ゲストルームの私のところに来る。

私はもう寝支度を終えていたが、彼は優しく布団から私を引き起こした。

そしてある箱を手渡した。

「凛（りん）、君がこのダイヤモンドネックレスをずっと気に入っているのを覚えているから、今日わざわざ買ってきた」

手の中のキラキラ輝くネックレスを見て、私は思わず心の中で苦笑いする。

これは私が好きだったものではない。午後、奈津子の首についていたネックレスこそが私の好きだったものだ。

午後、奈津子が笑いながら外から帰ってくると、すぐに私に見せびらかした。

「きれい？兄ちゃんが買ってくれたの。でも、やきもち焼かなくていいよ。ポイントで景品のネックレスと交換したから、後で兄ちゃんがあんたに渡してくれるよ」

澄晴は私がネックレスを持ったまま黙っているのを見て、次第に眉をひそめる。

「どうした、気に入らないのか？ここ数年、ほとんど君に贈り物をしたことがなかったから、せっかく贈ったのに嬉しくないか？」

私は苦笑いを漏らしてため息をつく。「あなたがほとんど贈り物をくれなかったこと、知ってたんだ」

彼の話は明らかに一瞬止まり、その後イライラと立ち上がってスーツを脱ぎ始める。

「毎月君にたっぷり小遣いを渡しているんだから、好きなものは自分で買えるだろう。何でわざわざ俺に送ってもらわなきゃいけないんだ。

要らないなら捨てろ」

私は淡々と一言を返す。「わかった」

次の瞬間にネックレスを箱ごとゴミ箱に捨てた。

彼の顔はたちまち怒りが浮かぶ。

「どういうつもりだ？ここ数年、俺があまりにも君を甘やかし過ぎたのか！」

私の口元は終始淡い微笑を浮かべるままで、彼が怒っているのを優しい眼差しで見つめて、何も言わない。

案の定、しばらくすると彼は自分で怒りを収めた。その後はブリーフケースから書類を一枚取り出して私に差し出す。

口調を和らげて言う。「これは離婚協議書だ。誤解しないでくれ。奈津子は外国人と結婚したから外国籍だって知っているだろう。今彼女が国籍を戻したいなら、本国の人と結婚するしかない。俺はただ彼女を助けたいんだ。

この件が済んだら、すぐ彼女と離婚して君と復縁する」

やはり、わけもなく恩着せがましい態度を取るのは、きっと私に頼み事があるに違いない。

前世、彼に浴槽の中に強く押さえ込まれたあの恐怖の窒息感は、今もまだ私の頭にまとわりついている。

離婚は私が望むどころか、早く彼のそばから逃げ出したいと思っている。

私がさっとペンを取り上げて名前を書こうとするとき、彼はかえって落ち着きを失ったように私の手を握る。

「君……よく見ないのか？財産分与の欄を空けておいたから、自由に記入していい」

私は素早くそのページをめくり、空白の行に直接【財産放棄】という四文字を書く。

彼は信じられないような様子で私を見る。「本当に何も要らないのか？」

彼と一緒にこれほど長い年月を過ごしてきたから、私は彼の意図を知っている。彼は私に申し訳ないと思い、金で補おうとしている。

たとえ将来、私が復縁を懇願しても彼は心安らかに拒否できる。

しかし私は本当に何も欲しくない。彼に恋したとき、彼は無一物だった。今彼から離れる時も、彼のものを一つも持ち去りたくない。彼とこれ以上何の関わりも持ちたくなく、ただ私の世界から徹底的に消え去ってほしいだけだ。