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過ぎ去った恋心は、海へと還っていく

過ぎ去った恋心は、海へと還っていく

By:  秋の残暑Completed
Language: Japanese
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七周年の結婚記念日。 須崎周作(すさきしゅうさく)は愛人を家に連れ帰ってきた。 その女は涙で目を潤ませ、私の前にいきなりひざまずいた。 「小林(こばやし)さん、愛に先も後もないわ。私と周作は心から愛し合っているの!どうか私たちを許してください!」 私は周作の方へ顔を向けた。 彼は心配そうに古井美和(ふるいみわ)を抱き上げ、いつもは潔癖な彼が、どうしたらいいのか分からないようにその涙をぬぐった。 そして顔を上げることなく、彼はこう言った。「美和は何もないまま俺に付いてきた。俺は彼女を裏切れない。安心しろ。美和には野心なんてない。ただ家にもう一人が増えるだけだ」 そう言い残し、彼は美和を抱いたまま寝室へと入っていき、扉を閉めた。 彼は忘れてしまったようだ。今日は私たちの結婚記念日だということを。 そして七年前も、何もないまま彼に付いていた少女がいたことを。 テーブルの上で「記念日おめでとう」と輝くライトを見つめながら、私は悟った。 もう、彼と私に未来はないのだと。

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Chapter 1

第1話

七周年の結婚記念日。

須崎周作(すさきしゅうさく)は愛人を家に連れ帰ってきた。

その女は涙で目を潤ませ、私の前にいきなりひざまずいた。

「小林(こばやし)さん、愛に先も後もないわ。私と周作は心から愛し合っているの!どうか私たちを許してください!」

私は周作の方へ顔を向けた。

彼は心配そうに古井美和(ふるいみわ)を抱き上げ、いつもは潔癖な彼が、どうしたらいいのか分からないようにその涙をぬぐった。

そして顔を上げることなく、彼はこう言った。「美和は何もないまま俺に付いてきた。俺は彼女を裏切れない。安心しろ。美和には野心なんてない。ただ家にもう一人が増えるだけだ」

そう言い残し、彼は美和を抱いたまま寝室へと入っていき、扉を閉めた。

彼は忘れてしまったようだ。今日は私たちの結婚記念日だということを。

そして七年前も、何もないまま彼に付いていた少女がいたことを。

テーブルの上で「記念日おめでとう」と輝くライトを見つめながら、私は悟った。

もう、彼と私に未来はないのだと。

テーブルの上のケーキは溶けている。

使用人が心を込めて用意してくれたディナーも、すでに冷めてしまっている。

私はスマホを取り出し、冷たいテーブルに向かって写真を撮った。

だが、どれだけ加工しても温かみのある写真にはなれなかった。

自嘲気味に笑い、私はスマホを閉じようとした。

ちょうどそのとき、美和のSNSがポップアップした。

【これから正妻になるわ!】

添えられた写真には、彼女と一人の男性が車内で手をぎゅっと握り合って座っている姿が写られている。

私は一目で分かった。あれは周作の車だ。

そして美和が座っている場所は、かつて周作が「永遠に君だけを乗せる」と約束してくれた助手席だ。

私は笑って「いいね」を押し、コメントした。

【おめでとう、愛人業は楽しい?】

視線を上げ、私は閉じられた主寝室の扉を見つめた。彼女の反応を見たい気もした。

その時、扉が突然開き、周作が水気を帯びたまま出てきた。

ちょうどシャワーを浴びたばかりで、全身にタオルを巻いただけだ。

その胸には至る所にキスマークが残っている。

私の視線に気付くと、彼は甘やかすように微笑んだ。

「美和がちょっとふざけただけだ。気にするなよ」

彼は顔を私の頬に近づけ、キスをしようとした。

私はそれを動じずにかわした。

周作は眉をひそめ、さっと私の向かいに座り、その口調には甘やかす気持ちがにじんでいる。

「今日のことは俺が悪い。さっき君に最新のジュエリーやバッグを注文したんだ。明日には届く。怒らないでくれ。

美和はまだ若いから、至らないところもある。君は気にしなくていい。コメントは消してやれ。今、中で泣きじゃくってるぞ。子猫みたいに」

私は同意せず、腕を組んでこの十年愛した男を見つめた。

この十年間愛し合ってきた男との結婚は、今年が七年目だ。

彼の顔が急に他人のように見えた。

思った通りの反応が得られず、周作は眉をひそめ、不満を押し殺して辛抱強く説得しようとした。

「星乃(ほしの)、俺にかまわないでくれ。君は今は美和を受け入れられないかもしれない。でも、二人で過ごせば分かる。彼女は純真で優しい子だ。素直にコメントを消してくれ」

私は無表情で彼を見つめながら言った。「もし私が消さなかったら、どうするつもり?」

彼の答えを待たず、美和の泣き声が聞こえてきた。

泣きじゃくりながら彼女は飛び出してきて、涙目で私を見ている。

「小林さんが私を嫌うなら、私はここを出る!」

振り返って立ち去ろうとしたが、周作が一気に彼女を抱きしめた。

「俺たち、もう寝ただろ。どこへ行こうっていうんだ!

初キスも、初夜も、初恋も、その相手は全部俺だ。君は一番大切なものをすべて俺にくれたじゃない?俺がいなければ、君はどう生きるんだ!」

美和は嗚咽交じりに言った。「私だって行きたくない。でも、小林さんが私を受け入れられないじゃん。私の欲張りすぎなの。周作、離して。あなたも小林さんも知らないところで幸せを祈るわ。私は小林さんみたいに、周作を独り占めしたくないもん。ただ、あなたが幸せなら、私は何でもできるわ」

周作は顔を上げ、冷たく私と視線を交わした。

「この家の主は俺だ。美和、他人の目なんて気にするな。俺が残せと言えば、誰も君を追い出せない!」
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