공유

第一の王子・2

last update 게시일: 2026-09-28 16:33:08

 悲鳴を上げ父を引ひき摺ずってゆく母をぼんやりと眺めていると、後ろから、淡く笑いを含んだ柔らかな声がかけられた。

「随分なお父様をお持ちのようですね」

 振り向くと、少しだけ眉を下げたクララの微笑みの顔があった。

 一瞬クララのことが頭から吹き飛んでいたリプカは赤面し、おどおどと頭を下げた。

「ご、ごめんなさい。お恥ずかしいところを見せました……本当に……」

「いいえ。噂通りのお方のようですね、リプカ様は」

 クララはにこりと微笑み、そんなことを口にした。

 噂通り。

 いったい国を跨またいだ規模でどのような噂が流れているというのか。リプカは青ざめた。

「悪い噂ではありません。本当ですよ」

「そ、そうなのでしょうか……?」

「ええ。――さて、リプカ様、せっかくですし腰を落ち着けて、色々お話ししませんか?」

「は、はい。ええと、じゃあ、すみません、今すぐお紅茶を用意致します……」

「え? 使用人の方は…………いえ、申し訳ない、なんでもありません」

 クララはすぐに何かを察し、リプカの手を引いて席に導くと、懐ふところから水音のする小さな保管容器と、手のひらにちょこんと乗るサイズの水飲みを取り出した。

「携帯のもので申し訳ございませんが、私が一番に好きなお茶なんです。是非ぜひお試しになってください」

「あ、ありがとうございます、頂きます」

 注がれた、一口で空になる量のお茶をどきまぎしながら口に含むと、リプカは思わず「ほう」と息をついた。

 甘くも苦くもないが香り高い、不思議な味のお茶だった。

「お、美味しいです。初めて口にする味です……!」

「気に入っていただけたならよかった!」

 にっぱり笑ったクララの明るい顔を、リプカは不思議な面持おももちで見つめた。

 いったい彼女は、どういった心境でここを訪れたのだろう? これからどうするつもりなのか。どういった経緯けいいでこのような事になったのかは計り知れないが、このあり得ぬ縁談をどう収めるつもりなのだろうか? ――疑問は尽きない。

「――さて、リプカ様。少しだけ、此度こたびの事についてお話しさせてください」

 空からになったリプカのグラスにお茶を注ぎながら、クララはまさにリプカが疑問に思っていたことについて言及する姿勢を見せた。

 水筒容器を丁寧な手つきで脇に置くと、吸い込まれるように美しく輝く金色の瞳でリプカを真っ直ぐに見つめて、クララは話し始めた。――覚えのない情動に頬を染めて、リプカは僅かに身を捩よじり、どぎまぎを浮かべている。

「まず、この縁談は、私の国にとって正式な申し出であることを理解して頂きたいのです。私の国では、同性婚が認められていますから」

「あっ! そ、そうなのですね……!」

 リプカの知らなかった、他国の習わしであった。

 しかし、だとするなら――。

 先程、同性であることで動揺しリプカが取った態度は、大変な失礼に当たる失態である……。

「あ、あの、先程は……私、とんでもない態度を……」

 奇くしくも父が言った通りの、態度の間違いに、リプカは青褪あおざめ頭を下げようとしたが――。

 ふわりと、リプカの髪を優しく包むようにして、クララはそれを止めた。

「気にしていませんわ。知らなかったのなら仕方ありませんもの」

「で、ですが……あの……知らずの事とはいえ、し、失礼を致しましたわっ!」

 結局ガバチョと頭を下げたリプカだったが、クララは企たくらみの一切感じられない優しい手つきで、リプカの頭を胸に抱いだいた。

「大丈夫です……頭を上げて」

 おどおどと頭を上げれば、そこにはクララの優しい顔がある。

(――――なぜ、私にここまで?)

(なにか本当にのっぴきならない事情があるのでしょうか? フランシスの姉である私をなんとしてでも取り入れなければ、個人のみならず家々まで立場が危うくなるような事情が――)

「では、先程の続きをお話させてください。――先程もお話ししました通り、私の国では同性婚が認められています。故に、私が縁談の候補者に選ばれても、私たちの側から見れば……それは別段の不自然ではないのです」

「な、なるほど。それは理解しましたわ」

 また一つにっぱり笑うと、クララは先を続けた。

「私は大恩たいおんあるウィザ連合との親和しんわを形にするため――そしてフランシス・エルゴール様との繋がりを築くために、エレアニカ連合セラフィア領域から遣つかわされた婚約者候補です」

 フランシス・エルゴールとの繋がりを築くため。

 クララは顔色一つ変えず、躊躇もなくそれを口にした。

(やっぱり、無理矢理に……)

「ですがこの縁談自体は、私が望んだものなんです」

「――え!?」

 リプカの瞳が白黒に明滅した。

 クララはそんなリプカを真っ直ぐに見つめたまま、僅か、間を置いた。

 ――リプカは混乱しながら問うた。

「望んで……? どうしてです……?」

「――噂は聞き及んでおります。貴方様が、妹のフランシス様を救ったというお話を。妹様に差し向けられた腕利きの刺客を、たった一人で殲滅せんめつした話を」

 そう。

 それこそが、先の戦争でリプカが残した、栄光ある活躍の内実であった。

 フランシスこそが戦争を指揮する要かなめ、心の臓だと見抜いたオルエヴィア連合は、懐刀ふところがたなにして手段の最終、フランシスの元へ、精鋭せいえいたる刺客を放った。

 フランシスが一時、ここエルゴールの屋敷に帰還きかんし、一息をついたタイミングであった。

 帝国国家の精鋭は、恐るべき手腕しゅわんをもって、瞬またたく間まに屋敷を制圧した。最終的にその凶刃きょうじんは、今まさにフランシスの喉元を切り裂かんところまで差し迫ったのだ。

 ――そこに、獰猛な獣を越える覇気を纏まとった英傑が現れた。

 いつもそうだった。幼い頃から、感情がある一線を越えると獣性が如き衝動が溢れ出し、痛烈無比つうれつむひたる無双の力に支配される性質たちを宿やどしていた。

 神が遣つかわした獣神じゅうしんの力を見た。

 瞬またたく間まにリプカの手により昏倒させられた刺客の一人が、茫然と口にした言葉である。

 無くていい才能。

 令嬢にはおよそ必要のないその力が、勝負の分かれ目を栄光に導いたのだ。

「聞けばそのお方は、お家いえにおいて酷い扱いを受けている、苦難を背負うお人であるといいます。失礼ながら、俯きがちなお人であると。――私はそのお話を聞いたとき、思いました」

 目を瞑り、クララは静かに語った。

「――ああ、そのお方は本当に、慈愛じあいに溢れたお人なのだろうと。俯うつむきがちなその人が、大切な妹君いもうとぎみのためとあらば、無双の力を発揮する。私はこれより美しい感情を知りません」

「そ、そんな……。た、大切な妹です……たった一人の妹なんです……。あれは姉として、当たり前の感情で――」

「リプカ様」

 目を開き、再び真っ直ぐにリプカを見つめたクララの瞳には、誠実の焔ほのおが宿やどっていた。

「私は、貴方様のその感情が好きです。貫つらぬく強さを持った強靭なる意思、そして何よりも尊とうとい、深い慈愛じひを宿した貴方様が好きなのです。分かりますか? 私は望んでここに来たのです」

「――――な。――なにを……何故なぜ――私にそこまで――?」

 言葉に詰まるリプカへ、クララは微笑みを浮かべた。

「覚えていませんか? あの大広間にいたのはフランシス様だけではなかった。屋敷に招かれた要人ようじんと守衛しゅえい、そして、賓客ひんきゃくの椅子から崩れ落ち、その下で震えている女の姿があったはずです」

 ――そうだ。

 リプカは思い至った。

 あのとき、あの場所にいたのはフランシスと守衛しゅえいだけではなかった。エレアニカ連合から遣わされた要人もが揃そろうタイミングで、刺客は躍動やくどうしたのだ。

 言われておぼろげに思い出せる程度ではあったが――確かにあのとき、自分と同じ歳の頃の少女を一人見たことは、思い出せた。

「……あのときの?」

 フランシスに差さし迫せまる、心の臓が凍りつくような危機という事情があまりにショッキングすぎて、それ以外のことはよく覚えていなかったが――そこに、彼女クララが……?

「そう」

 クララは目尻を下げた。

「……素敵だった。女性でありながら無双の強靭を宿やどす貴方に心惹かれました。そして貴方様の置かれる事情を聞いた後あとは、もっと、もっと。……だから私はこのたび、エレアニカ連合を代表する婿候補に立候補したのです」

「――――……」

「――これ以上の言葉は、不要な飾りにしかなりませんね」

 クララはリプカの手を取ると立ち上がり、誠実と愛情が躍おどる瞳でリプカを見つめて、その手を、ぎゅっと握った。

「私は今、貴方様のことを心から愛しています。あの鬼神の如き神性を発揮したお人と、遠くから見つめた、気弱な貴方様が同一人物であるなんて信じられなかった。私はその二面性に慈愛じあいの尊とうとさを見つけて、いつしか、触れてもいない貴方様に、愛するほどの想いを寄せるようになりました。――私は貴方様と、悠久ゆうきゅう、一緒の道を歩みたい。どうか私との婚約を真剣に考えては頂けないでしょうか……?」

 瞳と同じ、真っ直ぐな言葉。

 リプカは現実が信じられなかった。

 私は今、好意を向けられている。

 自分に好意を向ける人がいる。ただ一人であったフランシス以外で、今、ここに。

 ――鏡を確認するのが嫌いだった。

 だが今なら……以前ほどの暗い気持ちは抱いだかないような気がした。

 リプカが何も答えられないでいると、クララはそっと包んだその手を放し、感情に満ちた心深い微笑みを浮かべた。

「今日ほんじつは、この辺で失礼致します。――ああ、そうだ、もう一つ、ちょっとだけズルい方法を……」

 言うとクララは、それまでの表情からは予想もできなかった、企みの含まれた笑顔を浮かべて、こそっと耳打ちした。

「元々、我が国エレアニカ連合からは、オーレリア領域からレクトル・オーレリア様が貴方様の婿候補として遣つかわされる予定でした。それで問題のなかったところを、私が上方かみがたに掛け合い、無理を通したのです。それによってセラフィア領域が見込める利益は何一つありません。調べればすぐに分かることです」

 耳打ちを終えると、クララはさっと背を翻し数歩リプカから離れて、振り返り、またあの柔らかな微笑みを彼女リプカへ向けた。

 今はそこに、愛いつくしみを見出せる。

「今まで私が貴方様にとった態度は、誰にも向ける平等ではありません。それを、どうか分かってくださいませね……リプカ様」

 最後にそれだけ言って、深く礼をすると。

 今度こそクララ・ルミナレイ・セラフィアは、柔らかな雰囲気損なわぬ後ろ姿を見せ、去って行った。

 浮世離れした表情で茫然と立ち尽くす、リプカを残して。

이 작품을 무료로 읽으실 수 있습니다
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요

최신 챕터

  • 令嬢リプカと六人の百合王子様。   第十五話:地獄の晩餐会

    「…………」「…………」「…………」「…………」「あ、あーっ、お料理、美味しいっ! ね!」「ええ、とても。こういった香草を使用しない肉料理は、アリアメル方面では珍しいのですが――食べてみるものですね。美味しいです」「ウィザ連合の料理にも興味湧いてきた! 要所要所が独特でオモシロイな! ビビちゃんはどの料理が印象に残った?」「私はこの香草のスープがどうにも舌に合わなかった」「でゅぇ!? ――そ、そっか……」「確かにこの香草のスープは、舌触りからして独特ですね。あくまで習慣的な好みの問題で、合わない場合もあるかもしれません」「そ、そぅだねぇ……。……ク、クインちゃんはー……」「………………………………」「ぁう……うぅ、と……」「…………」「…………」「お、お料理、美味し……」「ええ、とても……」「…………」「…………」 カチャリ、カチャリ……。 食器が立てる音が虚しく響く。会話を主導して盛り上げようと頑張っていたアズも、今やガックシと俯き、ただ食事を口に運んでいた。 大勢で食卓を囲むと楽しいし、食事も美味しく頂ける。 そんな話を噂じみた伝聞として耳に挟んだことのあるリプカであったが――今日このとき、初めてその機会に恵まれて感じたことは、『地獄のよう』だった。 席にはフランシス、ミスティアを含めて、七人が食卓を囲んでいる。 始まる前は、所用があっての離席でクララが参加しないことを残念に思っていたリプカだったが、この沈黙に満ちた恐怖の食卓、その有り様を目にすると、むしろそれは、せめてもの幸いであるように思えた。 とてもじゃないが晩餐会とは呼べない凍りついた食卓には、必死で場を明るくしようとするアズの喋りと、あくまで冷静を失わないセラの、的確な受け答えだけがあった。 他の面々は、基本、無言。 ビビはこんな場でも我関せずと、マイペースに食事を進めている。 ティアドラは興味深げに、食卓の面々を観察していた。 ミスティアは、場の空気にすっかり恐怖し、セラの隣で縮こまっている。 そして、この地獄のような、重い沈黙の元凶――。「……………………」 ――クインは、死んだように光彩の失せた瞳で空虚を見つめながら、葬儀でも浮かべぬであろう闇を纏って、静かに、機械的に、食事を進めていた

  • 令嬢リプカと六人の百合王子様。   第十四話:それぞれの事情

     話は、リプカの元へ集った六人の婚約者候補が各々抱える、それぞれの事情についての詳説へ移行した。 フランシス個人の知見、その内実。リプカにとってこれ以上なく信頼のおける――真実の内訳ともいうべき参考意見である。「まずねー、エレアニカ連合セラフィア領域の娘、クララ、だっけ? 彼女、ガチだから」 だらしない格好で紅茶を飲みながら、フランシスはのんべんだらりとした態度のままに、特に感情を強調するでもない、ただの世間話のような口調でそう切り出した。 リプカは目を見開き、どきまぎに押されて息を上気させながら、鼓動する胸をおさえた。「そ、そう……」 口にした声は震えている。 ――真実の内訳と表現してもいい、参考意見。 心の底から嬉しく思い、思わず未来を想像してしまったほど浮かれていたとはいえ――どこかでは、その唐突な奇跡に対する疑心もあったのだろう。 都合の良すぎる奇跡であると、心の片隅では。 私なんかに……。 その疑心が溶けたとき芽吹いたのは、雪解けを待ち、歓喜と共に背を伸ばす若草のような、力強く青々とした感情だった。「もうほんとしつこかったかんね。実はさあ、縁談禁止令を解いた理由の大半も、あの女にあるんだよね」「――え?」「ぜひ、リプカ様との縁談の許しを、つって、何度も頭下げてきてさあ。何回あったっけ、途中で私マジギレ一歩手前までいったかんね」 暴君じみた口調とは裏腹に、フランシスの表情は穏やかだった。「そしたら、どうしてお姉さまを好きになったか、とか、私は如何にリプカ様を愛するか、とか、滔々と膝を折りながら熱弁してきて。プチギレとうんざりを通り越して納得してきちゃって。目を見ても本気だったし……そのうち、さ。……まあ、そんな感じ」「……そう。そうだったの」 瞳に涙を浮かして――リプカは俯きながら、呟いた。(……。…………。……………………)(私を、好いてくれる人がいた) クララを想いながら、リプカは頬を伝いそうになった滴を拭った。 そんなリプカをちらと見て――フランシスは、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた。「まあ後は、はっきり言ってお国の事情ね」 瞬間で表情を戻して、フランシスは話を続けた。「アルファミーナ連合の目的は、婚約と

  • 令嬢リプカと六人の百合王子様。   姉妹・4

     両親への挨拶もそこそこに、フランシスは自室へリプカを招き、二人きりで、テーブルを挟んで向かい合った。 綺麗に整頓の行き届いた部屋。しかし長い間留守にしていたためか、僅かながらに人間味に欠ける空気感……私室であるのに、倉庫に似た乾いた印象を受ける。「それで、フランシス」 その空気に僅かばかりの寂しさと心細さを覚えながら、温かい紅茶を一口頂くと、リプカは早速、話を向けた。「あなたの企みは関係しないということは分かったけれど――でも、今回の一連は、あまりにも急すぎる。いきなり、こんな示し合せたようにどっと押し寄せるなんて。なにか理由があるとしか考えられないのだけれど……」「あー、それね」 はしたなく円形のテーブルに頬をつき寝そべりながら、フランシスは呟くように漏らした。「まあ、それは私の判断が関係している」「判断?」「うん。実は、お姉さまへの婚約話はね、私のほうで全部塞き止めて、無いものにしてきたの」「そ、そうなの……?」「そー。お姉さまは婚約破棄を交わしたばかりで、自由になったばっかだから、まだそういうのは億劫かなーっていうのもあったし、お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしいっていうのもあったしー」 おそらく後半の主張こそ主だなと感じながらも、リプカは驚いていた。 フランシスが、あのフランシスが、自身の意思――我儘を撤回するなんて。 お姉さまはできるだけ私の傍にいてほしい。 その言葉からリプカは、フランシスが最近、実家に寄り付く暇もなかったという事情を思った。傍にいれないから、いいかなと思った、ということだろうか……。胸の奥に痛みが走る寂しさを感じながら、リプカはそんな想像を巡らせたが――。 続いて口にされたフランシスの答えは、リプカにとって意想外の理由であった。「でもさー、お姉さまさー、…………私を助けてくれたじゃん? あのとき」 ――あのとき。 リプカはすぐに察した。 フランシスが自宅で刺客に狙われた、あのとき。 リプカが助けなければ歴史が終わっていた、あの場面――。 フランシスは、テーブルにべったり頬を付けながら、ここではないどこかを見つめるようにして、続きを語った。「あの時さー、お姉さまを私だけのものにするのは、

  • 令嬢リプカと六人の百合王子様。   姉妹・3

    「ごきげんよう。お、お姉さま、お疲れーん。お久しぶりのハグ。――相変わらずちっちゃ!」「ほっときなさいな……」 街中でもよく見かける、いたって普通の外見を装った馬車に乗って、フランシスは現れた。 見る者を圧倒する佇まいで座についていたフランシスだったが、門の内で待っていたリプカの姿を認めると、微笑みと――僅かばかりの疲労の色を浮かべて、表情を和らげた。(やっぱり、相当な無理をしているのね……) いくらこの子といえど、無尽蔵ではない。 世間には意外に思われるかもしれないが――これまで幾度と見てきた、フランシス・エルゴールの、疲労の色。――しかしさすがに、今回ほど色濃い疲弊は始めて見る。 過労への心配、そこから見える世界情勢の不安、フランシスのこれから――。 そんな心配を胸の奥底に隠しながら、リプカはただフランシスにモフられ続けた。「ハス。ハスハス。――はー、お姉さま成分補充」「私から何らかの成分が漂ってるみたいな見出しはやめて……」 そう言いながらも、リプカは引っ付くフランシスの背に手を回し、軽く添えた手で優しく抱き留めていた。 ――ふと、フランシスの背後、馬車の中から、見知らぬ二人が姿を見せた。 一人は長身の男性。 一人は細身の女性。 二人は地に降りるとすぐさま、リプカに恭しく礼をした。――リプカもおずおずと、首だけの中途半端な礼を返した。(――護衛) 腰を折る二人をじっと見つめる。(男性はかなり腕が立つ。足周りの肉が特に、戦う形に発達している。女性は、緊急時の臨機応変に長けているタイプに見える。そして、暗器の扱いに長けた者の体つきをしている――)「スターップ、お姉さま」 自然と目の前に立つ者の分析に思考を割いたリプカへ、フランシスは不機嫌な声を投げかけた。「私が目の前にいるのに、他のことに思考を割かないで」「あ、ええ、ごめんなさ――いや乱暴者の考えじゃないの、それ」「なに? なーにー? ご不満がー?」「はいはい、今は目の前の貴方に集中するわね。――フランシス」「なに?」「何か、隠し事なんかしてない?」「――してないわ。何もないわよ」「そう」 リプカは笑顔になった。「なら、よかった」 その笑顔を見て、フランシスもまた、|屈託《

  • 令嬢リプカと六人の百合王子様。   姉妹・2

     木立の隙間に挟まるようにして、彼女は身を隠していた。 隠す気もなく近付く足音に振り向いた彼女は、足音の主を認めると、牙を剥くように表情を険しくした。「そこでなにをしているのですか? ……クイン様」 敵対心を露わにするクインに物怖じすることなく、リプカは真っ直ぐな視線を彼女へ投げかけた。 蝋よりも青白い顔に煌々と灯る、燃ゆる瞳でリプカを睨むクインは、歯軋りの音を立てながら、腹の奥底からの声を漏らした。「どこにいようと私の勝手であろう。お前に指図を受ける謂れはない。この家の内ですら、まるで冷笑されるためだけに存在しているような、腫れモノ扱いを受けているお前には、特にな」 最後は蔑むように言いながら、クイン自身も冷笑を浮かべた。 そんなあからさまな見下しを受けても、リプカは表情を変えることなく鋭い視線を見つめ続けた。「他者がどれだけ私を蔑み見下そうと、私が貴方様にお伝えしなければならない忠告が無意味となる理由にはなりません。聞いて頂けますか?」「ほう? いったいなに――」 ――クインの言葉は萎むように消えた。 豹変したリプカの瞳を見つめてしまった瞬間、彼女から一切の余裕が剥奪されてしまったのだ――。「お伝えしたいことはたった一つ」 手の届く距離まで詰め、足腰の折れてしまったクインを見下ろしながら、リプカは平時と変わらぬ声色で先を続けた。「貴方様程度に遅れをとるあの子ではないでしょうが、ですがもし万が一、貴方様がフランシスに直接的な害意を向けた場合――私は貴方を決して許しません」 決して許しません。 リプカがそれを口にすると、クインの瞳が恐怖で揺れた。「クイン様。確認致しますが、貴方様がここにいたのは、あともう僅かでここを訪れるであろうフランシスを待ち伏せし、害意を及ぼすため――などではありませんよね?」「――――ち、違う! 違う……!」 必死に首を振るクインに、リプカはこくりと一つ頷いた。「ならよかったです。私の勘違いでした、ごめんなさい。――そう、しかし、今は国政的な理由の心配は、どうか捨ててください。私が貴方を許さないという、そのたった一つの事実にどうか注視してく

  • 令嬢リプカと六人の百合王子様。   第十三話:姉妹・1

    「あのさ、もしかして私どこかでミスティアちゃんと会ってたりする?」「ええ、私は貴方様のことを存じておりました、アズナメルトゥ様」「あーやっぱり? 最初から、私とどっちがリプカちゃんなのか見抜いてたもんね」「直接の挨拶はありませんでしたが、晩餐会でお見かけする機会がありましたね」「マジ!? ゴメン、覚えてないかも。どこのパーティー?」「アグアキャナルの立食会で。お兄様の代わりに顔を出しまして」「あー、あそこにいたんだぁ。ていうかアズナメルトゥ様じゃなくてアズでいいって! 畏まるような間柄じゃないっしょ? 言葉も固くしなくていいし」「ではアズ様で。これが私のデフォルトです。私のことはミスティとお呼びください」「んじゃ、ミスティ! ねね、今度ミスティゃんとも遊びに行きたいなっ。あっ、それとリプカちゃんとシィライトミア領域に遊びに行くとき、色々案内してほしい!」「いいですね。私もパレミアヴァルカ連合には足を運びたいと常々思っていたので、そのときは是非――」(この短い間で、とてつもなく仲良くなっている……!) セラとのファーストコンタクトを終え大広間から出ると、そこにはすっかり仲良しになったアズとミスティアの姿があった。「あ、リプカちゃん! ねっ、ねっ、どだった!?」「い、いえ、今回は顔合わせ程度のお話だったので、なんとも……。でも、楽しい一時でしたわ」 至極無難な返事を返しながら、リプカは周囲を窺った。(……見られている)「ん? どしたん?」「いえ、なんでも……。――ああ、あの、ミスティア様、セラ様は私のお母様の元へ、挨拶へ向かわれたようです。戻られるまで、しばし待ってほしいとのことで……」「分かりました、ありがとうございます」「んじゃ、もうしばらく三人で、リプカちゃんのお家探検する? リプカちゃんのお部屋とか見てみたい!」「ああいえ、ごめんなさい、私ちょっと向かうところがありまして――」「おっ、そかそか。どこ行くの?」「フランシスのところへ行ってまいります。まだ来てないようですが、まあ、出迎えなどでも」「そ、そか。それじゃ、わ、私たちもお出迎えに向かったほうがいいよね?」「――ああ、私一人で結構ですよ」 緊張が見て取れる、アズの若干焦った物言いに、リプカは珍しく、はっ

더보기
좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 작품을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 작품을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status