تسجيل الدخول唐突すぎるパーティからの追放と戦力外の通告。
当然ながら、すんなりと納得できるはずもなかった。「俺は、お前と一緒に魔王を――」
「だから、足手まといはいらないんだよ」冷酷な声が、俺の言葉をあっさりと遮った。
(足手まとい……俺が……)
確かに、そうかもしれない。
呪いの装備のせいにしてはいるが、元より俺には華麗な魔法も、特殊な固有スキルもない。 地味な肉弾戦しか能がない『ただの戦士』だ。 魔王討伐という過酷な旅の後半において、俺の戦力不足が露呈するのは火を見るよりも明らかだった。イグナスには、もっと優秀な……強力な特技や魔法を持った新しいメンバーが必要なのだろう。
ひどく自虐的な思考が渦巻くが、あいつの言い分が事実であることも否定できない。 胸を抉られるような辛い現実。 だが、世界を救う勇者のためになるのなら――俺は、身を引くしかない。「……わかった。達者でな」
「ほらよ。少なからずの手切れ金だ。どっかの辺境の教会で、その薄汚い武器や防具の呪いでも解いてもらいな」チャリン、と。
イグナスが放り投げた小さな布袋が、床に転がった。 拾い上げてみると、中には申し訳程度のスピナ (この世界の貨幣)が数枚入っているだけだった。 これまでの俺の献身が、たったこれだけの価値しかないというのか。 正直言ってあまりに酷い仕打ちだが、これ以上、かつての仲間と揉めたくはなかった。「元気でな。案外、その呪いの装備も武器屋に売り払えば、多少の足しにはなるだろ?」
鼻で笑いながら放たれたイグナスの言葉は、何の慰めにもならなかった。
次の街まで、この禍々しい姿のまま行けというのか。 ――いや、よそう。 俺はギリッと拳を握り締め、沸き上がる感情を無理やり呑み込むと、無言で踵を返した。――ギィィ……。
部屋を出る時の、ひどく乾いたドアの音が、何故かやけに心に響いた。
今、この瞬間――俺は勇者パーティのメンバーではなくなったのだ。***
あてがわれた自室に戻った俺は、硬い木椅子にどっかと腰を下ろした。
本来なら柔らかいベッドで眠りたいところだが、この呪いの装備は外せない。 禍々しい装甲や兜を身に付けたまま横になることなど、到底不可能だった。 最初は苦労したが、人間とは恐ろしいもので、過酷な環境でも日々を過ごすうちに慣れてしまうものだ。 傍から見れば滑稽な姿だろうが、今はただ、身も心もすり減ったこの疲れを少しでも癒したかった。「明日の早朝には、ミラやジルにも別れを告げて村を発たなければ……」
そう思い、重い瞼を閉じようとした、その時だった。
「あれは……?」
ふと窓の外に目をやると、闇夜の中にふらふらと浮かぶ『火の玉』が見えた。
数は二つ。まさか、人魂か? 迷宮の森が近いこの村に、ウィル・オ・ウィスプのような……いや、違う。
もしアンデッドなら、火球の色はもっと青白く淀んでいるはずだ。 あれは、純粋な魔力によって生み出された炎。 嫌な予感がした俺は、鉛のように重い体を引きずりながら、外へと飛び出した。 炎の光源へと近づいていくと、赤々とした光に照らし出された人影が浮かび上がった。――女だ。
10代後半ほどの幼さを残す顔立ちながら、どこかゾッとするほど妖艶な相貌。 夜闇に溶けるような黒いローブを纏った彼女の両手には、ごうごうと燃え盛る火球が練り上げられていた。 間違いない。あれは火属性魔法『「そこで何をしているッ!」
俺が声を張り上げると、女はこちらに気付き、ピタリと動きを止めた。
あの炎の狙いは明らかだ。 彼女は民家に火を放ち、この村全体を火の海にするつもりだったのだろう。「そこで何をしていると聞いている!」
俺は呪われた武具『カタストハンマー』を片手に構え、じりじりと距離を詰める。
女の目的は分からない。だが、村を焼こうとしている凶行をこのまま見過ごすわけにはいかない。「あら? お兄さんじゃない」
「……?」 「宴の席のこと、もう忘れちゃったの? 残念だわ」くすくすと笑う女の声に、俺はハッとした。
見覚えのある黒いローブ。そして、フードの奥で妖しく光る赤い瞳。 間違いない。祝勝会の宴で、俺の隣に座って話しかけてきたあの不気味な女だ。「お前は確か……一体、何のつもりだ」
俺はやや半身に構え、いつでも攻防に転じられるよう警戒を強める。
一方の女は、口元に三日月のような薄ら笑いを浮かべたまま、悪びれもせずに答えた。「何のつもりって、決まってるじゃない。この村を綺麗に燃やしてあげるのよ」
「何故、罪もない村人にそんな真似を!」 「だって――私の『お友達』を殺したんだもの」友達……? 意味はわからないが、どうやら復讐が目的らしい。
だが、だからといって何の罪もない村人たちを犠牲にさせるわけにはいかない。「……そうはさせない」
「ふふっ、私の邪魔をするの?」 「ああ」 「じゃあ……あんたには、ここで灰になって消えてもらうわッ!」 女の両手から、灼熱の『
「ぬ、ううぅッ……!」
俺は一発目を左手に構えた『背反の盾』で受け流し、二発目を『ブラッドアーマー』の胸部で強引に相殺する。
肉が焼ける臭いが兜の中に充満するが、呪具の防壁は少女の想定を遥かに上回っていた。「バ、バカな……直撃を受けて、どうして止まらないの⁉」
驚愕に染まる赤い瞳。
だが、その隙を俺が見逃すはずもない。 さらに、盾の呪い――ダメージの三割を攻撃者に反射するカウンターが、物理的な衝撃を超えて彼女自身を蝕んだはずだ。「破ァッ!」
俺は身に纏い付く炎を強引に振り払い、一気に女の懐へと飛び込んだ。
「う、嘘でしょ!?」
狼狽する女が次の詠唱に入るより早く、俺はカタストハンマーの硬い『柄』の部分を女の鳩尾めがけて深々と突き入れた。
「がはッ……!?」
「流石に、頭を叩き割るわけにはいかんのでな」 「く、ぁ……」女は短い嗚咽を漏らすと、白目を剥いてその場に崩れ落ち、完全に気を失った。
盾のカウンターと柄打ちの一撃。 連続魔法を放つ手練れであっても、この重い一撃には耐えられなかったようだ。「……お前が使ったのが強力な魔法で助かったよ。跳ね返る分も大きかったからな」
気絶した女を見下ろし、小さく息を吐き出した時だった。
「どうした、ガルア。何やら大きな爆発音が聞こえたが……」
「ジルか」振り返ると、そこに立っていたのは魔法使いのジルだった。
ジルは俺の姿を認めると、すぐさま足元で倒れている女に視線を落とす。「こいつは……?」
「何者かは知らん。だが、村に火を放とうとしていたところを取り押さえた」 「ふむ……」ジルは顎に手を当て、気を失っている女の顔をまじまじと観察し始めた。
そして、鋭い目を細め、静かに告げた。「ガルア。こいつは……『魔族』だ」
「ま、魔族……?」魔族。
その言葉に、俺は思わず女の顔を凝視した。 よく見れば、少し開いた口元からは鋭い小さな牙が覗き、フードからこぼれ出た耳の先端は刃物のように尖っている。 それは紛れもなく、人間ではない『魔族』の証明だった。闘技場の中央、オレとドビーダスの視線が激突する。 そこに、かつて同じ山を駆け回った親友としての情は微塵もなかった。「越えてはならない一線だと?」「そうだ。お前は力を高めるために同胞を殺した」 オレは今、ドビーダスを明確な『敵』として見据えている。 新生魔王軍に反乱を目論む妖魔ベルタの駒となり、同族を屠って経験値を得る。 オレたち魔物には魔物なりの、過酷な世界を生き抜くための矜持とルールがあるはずだ。「ケッ! 人間の魔王なんぞに仕えてるテメェに言われたくないなッ!」「……人間の軍門に下ったのは生きるためだ。だが、お前のように魂までは売っちゃいねェ」 ジリジリと間合いを詰めながら、オレはハンバルと背後で暴れ回る魔物たちに向けて短く告げた。「お前ら、手を出すなよ」「誰が手を出すものか。存分にやれ」 ハンバルは腕を組み、静かに闘技場の壁際へと退いた。 ドビーダスは奪い取った剣に、毒々しい魔力を込める。刃が紅蓮の炎を纏う『魔法剣』の構えだ。 本来、オレたちワーウルフやハイエナ人といった獣人種には、あんな強力な火属性の魔法など持ち合わせていねェ。「驚いたか、フサーム。俺はただ力をつけただけじゃねェんだよ! 見ろよ! この赤い毛並みをッ!」「それがどうした」「これは大聖師様の手によって上位種へと至りッ! 俺が『レッドジャッカル』という新たな獣人の魔物に進化した証明なのさッ!」「……火属性の魔法剣を纏うなんて、随分とモダンなこった。それと、その無駄のない重心……誰に教わり、どこで学んだ」 魔法剣が赤熱するのを見たオレは、バッドエイプから奪った粗末な剣を平正眼に構えた。「オレの愛刀『ムーンリーパー』はサッドの野郎に預けてきちまったが……魂までハリボテになっちまった今のテメェを斬るのに、わざわざ名刀を使うまでもねェ。この拾ったナマクラで十分だ」 本来、獣人種がどれほど高みへと至ったとしても、生来の適性として使用できるのは野生の脚力のみだ。 レッドジャッカルだか何だか知らねェが、外法に手を染めたってことになる。「大聖師様に与えられた力だ。あとは力をつけまくれば俺は天下無双……いずれ魔王もベルタもブチ殺して、俺がこの世界の頂点に立つ!」「そりゃ無理だ。その程度の付け焼き刃の力を持った奴なら、腐るほど見てきたぜ」「うるせェ!
「情けねェぞ……ドビー。誇り高きワーウルフ族が人間に飼い慣らされるなんてよ」 俺はその声に耳を疑った。 魔物の群れを割って現れたのはフサームだった。 そして、その後ろには見覚えのある巨体。トロルのハンバルも静かに控えていた。「……フサーム、それにハンバルまで。お前たち、いつの間に潜り込んでいたんだ」 俺の問いかけに、フサームは視線をドビーダスから外すことなく淡々とした口調で応えた。「ガルア、お前は地下牢に戻れ。そして、そのまま階段を上がり屋敷へ行け」「何を言っている! ここはどうするんだ。それに、この魔物の群れは一体……」「地下の牢獄に捕らわれていた連中だ。ハンバルが檻をこじ開けて解放してやったのさ」「ハンバルが解放しただと? だが、こいつらは怒りと憎しみで我を忘れているぞ」「お前たち二人だけで、この暴走した群れとドビーダスを相手にするつもりか!」「いいから行けと言っている。領主ゾルハン・バルザットの屋敷とこの賭博場は繋がっている」 フサームの声には、どこか深い悲しみと冷徹な決意が混ざり合っていた。「バルザットは魔王討伐隊という名目で冒険者を集め、ここでドビーのような『獣兵』に殺させて経験値として処理させていた。すべてはベルタという女妖魔の掌の上……行きな。お前には自分の仕事があるだろ」「しかし……」「あいつとカタをつけるのは俺の役目だ。人間には殺させはしない」 中央の貴賓席ではバルザットが椅子から転げ落ち、十本の指の指輪を虚しく煌めかせながら叫び続けている。「ドビーダス! 何をしている、さっさとその裏切り者どもを焼き殺せッ!!」 俺は魔剣アレイクを一振りしただけで訪れる、魂を削られるような猛烈な倦怠感。 それに喘ぎながらも、フサームとハンバルを見つめた。「……そうか。そういうことだったんだな」 ラナ
砂煙の舞う闘技場。 俺の剣先が、ドビーダスの喉元を捉えようとしたその刹那だった。 地響きと共に闘技場の巨大な鉄扉が内側から弾け飛び、絶叫が渦を巻いて砂地に溢れ出した。「なっ……!?」 俺の集中が、予期せぬ乱入者たちによって一瞬だけ削がれる。 魔剣アレイクが喉笛を裂くよりも早く、ドビーダスはその混乱の隙を突いて後方へと大きく跳躍した。 死神の鎌が届く一瞬手前で、奴は『幸運』にもその命を繋ぎ止めたのだ。 魔剣の一振りに魂を啜り取られた俺の体は、鉛のように重い。 膝をつきそうになるのを必死に堪え、俺は背後から迫る『異変』を視界に捉えた。「ウギャアアア――ッ!!」 耳を劈く断末魔。 闇カジノの従業員であろう黒服が背中から無骨な剣を突き立てられ、鮮血をぶちまけて膝をつく。「ケケケ……流石は闘技場ってところだな。武器がごまんとありやがるぜ」 通路から溢れ出したのはどこから現れたのか、解き放たれた魔物の軍勢だった。 地下の檻にいるであろうの魔物たちがここにいる?「き、貴様らどうやって……!」「同じ魔物なのに人間どもの味方をしやがって、ぶっ殺してやるぜ!!」『グオオオオオン!!』 地響きと共に、四頭のフレア・バッファローが闘技場へ躍り出た。 巨体が踏みしめるたびに砂地が爆ぜ、場内は一瞬にして逆襲に燃える魔物の群れに支配される。 観客席の上流階級どもは、自分たちが喰われる番だと悟り、無様な悲鳴を上げた。「ま、魔物がどうして……地下にいたはずじゃないの!」「に、逃げなきゃ! 出口はどこよ!!」 先ほどまで安全な高みの見物を決め込んでいた貴婦人たちが、今は見るに堪えない醜態を晒している。 豪華なドレスの裾を自ら踏み抜き、宝石をぶち撒けながら、我先にと出口へ殺到していた。「ヒャハハハ! 踊れ、臭い人間どもめ! |赤の火
迫り来る紅紫の毒炎が、視界のすべてを焼き尽くそうとしている。 死を覚悟したその瞬間――。 俺の全身を包む呪いの鎧『パープル・ミラージュ』が理の外側にある不吉な脈動を刻み始めたのだ。 ――ガギィィッ! キリキリキリッ!! それは金属の軋みを超えた、世界の『バグ』が発する悲鳴だ。 直撃するはずの『紅紫の毒炎鎖』が、俺の数センチ手前で目に見えない断層に衝突したかのように霧散していく。 いや、霧散したのではない。 鎧が放つ悍ましい紫光が、毒炎という『事象』そのものを喰らい無効化していた。「なっ……!? 俺の紅紫の毒炎鎖が消えただと!?」 驚愕に目を見開くドビーダスの隙を突き、俺の体は影のようにブレた。 魔剣アレイクの切っ先が、爆炎の残滓を切り裂いてドビーダスの喉元へ肉薄する。 だが、その決着の瞬間を闘技場を揺るがす巨大な地響きが遮った。*** 地下牢獄。 オレは苛立たしげに、煤鉄色の拳で鉄格子をコンコンと叩いた。「手枷と足枷を外したけどよ、コイツはどうするンだ」「簡単なことだ」「簡単? 牢の鍵もないのにどうやって開けるんだ」「見ておけ」 頑丈な鉄格子を抜けるには本来カギが必要だが、隣に立つハンバルが静かに掌を鉄に当てた。 足を肩幅より少し広く開き、腰を深く落とす。 こいつは、魔物らしい荒々しさとは無縁の洗練された『型』というやつだな。「むんッ!!」 ハンバルの野郎の鋭い気合と共に、鉄格子が飴細工のようにぐにゃりとひしゃげた。 トロルの馬鹿力でこじ開けたんじゃない。 浸透する衝撃が鉄の分子を組み替えたかのような、拳法の極意に近い技術だ。「ヒュ~~ッ! 相変わらず器用なもんだぜ」 オレは口を尖らせて感心してみせた。「どこでそんな器用なことを覚えたんだ」「覚えたというよりも、身につけていたというのが妥当だな」「身に
最強の獣兵、ドビーダス。 銀の鉄仮面に覆われ素顔は窺い知れないが、その強靭な四肢と尾は獣人族の魔物であることを雄弁に物語っていた。 領主バルザットは『最強の獣兵』と嘯いていた。 その毛並みは本来の種族特性に反して、異様なほど鮮やかな『赤』に変質している。 ――シャキ……シャキ……。 静寂を切り裂き、巨大な『大ばさみ』の刃が擦れる音が鳴り響く。 ドビーダスは、片手を下段、もう一方の手を顎に添える独特の構えを取った。 肩幅に開かれた脚は地を掴み、寸分の隙もない。魔物というよりは高度な武術を修めた闘士のそれだ。「俺に一撃でも当てられたら、生かしてやろう」 ドビーダスが放ったのは、あまりにも悪党じみた慈悲の宣言だった。 魔物の言葉など信じるべくもない。 しかし、極限状態の人間にとっては蜘蛛の糸にも等しい。 俺以外の男たちは震える手で木の棒を握り締め、必死にドビーダスへと切っ先を向けた。「ほ、本当か……? 当てれば、出してくれるのか!?」「ああ、約束しよう」「なら――ッ!」 言葉が途切れるよりも早く、結末が訪れた。 一歩踏み出した男の顔面が閃光のような『大ばさみ』に両断され、言葉を失った肉塊へと変わる。「ヒ、ヒィィィッ!!」「ウワアアア! 助けてくれ!!」「フン……今の動きも見切れねェか。さっき殺したAランク冒険者の方が、まだマシな手応えだったぜ」 目にも留まらぬ瞬速の斬撃。 ドビーダスは返り血を浴びてさらに赤さを増した毛並みを揺らし、退屈そうに吐き捨てた。「い、今だッ!」 傲慢に喋り続けるドビーダスの隙を突き、一人の男が木の棒を振り下ろした。 かつて宿屋を経営していたアルスランだ。 乾いた衝撃音がドビーダスの鉄仮面に吸い込まれる。「おおーっと! クリーンヒットだァ!!」
俺はゼイクの不意打ちを喰らい意識を失った。 目が醒めると――。「……牢獄……なのか?」 そこは冷たい石壁に囲まれた牢獄だった。 幸い、武具は身につけたままだ。 呪われた装備品は持ち主の意志では外せないため、奪いようがなかったのだろう。「あんたも連れてこられたのかい」 後ろから掠れた声がした。 振り返ると、灰色の囚人服を着た男が四名。 どの者も髪と髭は伸び放題で瞳からは生への執着が消え、深い絶望だけが沈殿していた。「ここはどこだ」 「闇カジノの地下牢だよ」 やはり俺の正体は見抜かれていたのか。 それにしてもゼイクめ、彼は精神干渉を弾く『蒼月鉱の首飾り』を所持していたはずだ。 ベルタの『誘惑の甘息』が効くはずはない。一体何を考えている?「ケケケ……鎧を着たままの『客』は初めてだな」 奥にいた男が喉を鳴らして笑った。「あんたらは、なぜここにいる」 「なぜって……兄ちゃんもギャンブルの借金を払えずにぶち込まれたクズの一人じゃないのかい?」 ここは賭博場。彼らは甘い夢に溺れ、対価として己の人生をここに投獄されたのだ。 ――カツン、カツン。 硬い足音が通路に響く。「ヒィッ!」 さっきまで俺をせせら笑っていた男が、一瞬で恐怖に顔を引き攣らせた。 現れたのは三匹のブラッド・ライカンだ。 屋敷で遭遇したブラッド・ライカンの生き残りだろうか。「い、嫌だ! 死にたくない!!」 「ガタガタ抜かすな」 鋭い爪を首筋に突き立てられ、男は涙を流しながら硬直した。 一匹のブラッド・ライカンが俺を指差す。「ガルアと言ったな。腰の剣は抜こうとするなよ。抜いた瞬間にこのナマモノどもの首を撥ねる」 ……人質か。 魔物らしい姑息な手段だが、今は従うしかない。「分かった」 「よし。さっさとバトルコロシアムへ上がれ







