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ep02.魔族の少女

Penulis: 理乃碧王
last update Tanggal publikasi: 2026-04-11 06:08:40

 唐突すぎるパーティからの追放と戦力外の通告。

 当然ながら、すんなりと納得できるはずもなかった。

「俺は、お前と一緒に魔王を――」

「だから、足手まといはいらないんだよ」

 冷酷な声が、俺の言葉をあっさりと遮った。

(足手まとい……俺が……)

 確かに、そうかもしれない。

 呪いの装備のせいにしてはいるが、元より俺には華麗な魔法も、特殊な固有スキルもない。

 地味な肉弾戦しか能がない『ただの戦士』だ。

 魔王討伐という過酷な旅の後半において、俺の戦力不足が露呈するのは火を見るよりも明らかだった。

 イグナスには、もっと優秀な……強力な特技や魔法を持った新しいメンバーが必要なのだろう。

 ひどく自虐的な思考が渦巻くが、あいつの言い分が事実であることも否定できない。

 胸を抉られるような辛い現実。

 だが、世界を救う勇者のためになるのなら――俺は、身を引くしかない。

「……わかった。達者でな」

「ほらよ。少なからずの手切れ金だ。どっかの辺境の教会で、その薄汚い武器や防具の呪いでも解いてもらいな」

 チャリン、と。

 イグナスが放り投げた小さな布袋が、床に転がった。

 拾い上げてみると、中には申し訳程度のスピナ (この世界の貨幣)が数枚入っているだけだった。

 これまでの俺の献身が、たったこれだけの価値しかないというのか。

 正直言ってあまりに酷い仕打ちだが、これ以上、かつての仲間と揉めたくはなかった。

「元気でな。案外、その呪いの装備も武器屋に売り払えば、多少の足しにはなるだろ?」

 鼻で笑いながら放たれたイグナスの言葉は、何の慰めにもならなかった。

 次の街まで、この禍々しい姿のまま行けというのか。

 ――いや、よそう。

 俺はギリッと拳を握り締め、沸き上がる感情を無理やり呑み込むと、無言で踵を返した。

 ――ギィィ……。

 部屋を出る時の、ひどく乾いたドアの音が、何故かやけに心に響いた。

 今、この瞬間――俺は勇者パーティのメンバーではなくなったのだ。

***

 あてがわれた自室に戻った俺は、硬い木椅子にどっかと腰を下ろした。

 本来なら柔らかいベッドで眠りたいところだが、この呪いの装備は外せない。

 禍々しい装甲や兜を身に付けたまま横になることなど、到底不可能だった。

 最初は苦労したが、人間とは恐ろしいもので、過酷な環境でも日々を過ごすうちに慣れてしまうものだ。

 傍から見れば滑稽な姿だろうが、今はただ、身も心もすり減ったこの疲れを少しでも癒したかった。

「明日の早朝には、ミラやジルにも別れを告げて村を発たなければ……」

 そう思い、重い瞼を閉じようとした、その時だった。

「あれは……?」

 ふと窓の外に目をやると、闇夜の中にふらふらと浮かぶ『火の玉』が見えた。

 数は二つ。まさか、人魂か?

 迷宮の森が近いこの村に、ウィル・オ・ウィスプのような不死系アンデッドの魔物が迷い込んだのだろうか。

 ……いや、違う。

 もしアンデッドなら、火球の色はもっと青白く淀んでいるはずだ。

 あれは、純粋な魔力によって生み出された炎。

 嫌な予感がした俺は、鉛のように重い体を引きずりながら、外へと飛び出した。

 炎の光源へと近づいていくと、赤々とした光に照らし出された人影が浮かび上がった。

 ――女だ。

 10代後半ほどの幼さを残す顔立ちながら、どこかゾッとするほど妖艶な相貌。

 夜闇に溶けるような黒いローブを纏った彼女の両手には、ごうごうと燃え盛る火球が練り上げられていた。

 間違いない。あれは火属性魔法『赤の火弾レッドショット』だ。

「そこで何をしているッ!」

 俺が声を張り上げると、女はこちらに気付き、ピタリと動きを止めた。

 あの炎の狙いは明らかだ。

 彼女は民家に火を放ち、この村全体を火の海にするつもりだったのだろう。

「そこで何をしていると聞いている!」

 俺は呪われた武具『カタストハンマー』を片手に構え、じりじりと距離を詰める。

 女の目的は分からない。だが、村を焼こうとしている凶行をこのまま見過ごすわけにはいかない。

「あら? お兄さんじゃない」

「……?」

「宴の席のこと、もう忘れちゃったの? 残念だわ」

 くすくすと笑う女の声に、俺はハッとした。

 見覚えのある黒いローブ。そして、フードの奥で妖しく光る赤い瞳。

 間違いない。祝勝会の宴で、俺の隣に座って話しかけてきたあの不気味な女だ。

「お前は確か……一体、何のつもりだ」

 俺はやや半身に構え、いつでも攻防に転じられるよう警戒を強める。

 一方の女は、口元に三日月のような薄ら笑いを浮かべたまま、悪びれもせずに答えた。

「何のつもりって、決まってるじゃない。この村を綺麗に燃やしてあげるのよ」

「何故、罪もない村人にそんな真似を!」

「だって――私の『お友達』を殺したんだもの」

 友達……? 意味はわからないが、どうやら復讐が目的らしい。

 だが、だからといって何の罪もない村人たちを犠牲にさせるわけにはいかない。

「……そうはさせない」

「ふふっ、私の邪魔をするの?」

「ああ」

「じゃあ……あんたには、ここで灰になって消えてもらうわッ!」

 女の両手から、灼熱の『赤の火弾レッドショット』が連続で放たれた。

 回避は不可能。だが――俺には回避など必要ない。

「ぬ、ううぅッ……!」

 俺は一発目を左手に構えた『背反の盾』で受け流し、二発目を『ブラッドアーマー』の胸部で強引に相殺する。

 肉が焼ける臭いが兜の中に充満するが、呪具の防壁は少女の想定を遥かに上回っていた。

「バ、バカな……直撃を受けて、どうして止まらないの⁉」

 驚愕に染まる赤い瞳。

 だが、その隙を俺が見逃すはずもない。

 さらに、盾の呪い――ダメージの三割を攻撃者に反射するカウンターが、物理的な衝撃を超えて彼女自身を蝕んだはずだ。

「破ァッ!」

 俺は身に纏い付く炎を強引に振り払い、一気に女の懐へと飛び込んだ。

「う、嘘でしょ!?」

 狼狽する女が次の詠唱に入るより早く、俺はカタストハンマーの硬い『柄』の部分を女の鳩尾めがけて深々と突き入れた。

「がはッ……!?」

「流石に、頭を叩き割るわけにはいかんのでな」

「く、ぁ……」

 女は短い嗚咽を漏らすと、白目を剥いてその場に崩れ落ち、完全に気を失った。

 盾のカウンターと柄打ちの一撃。

 連続魔法を放つ手練れであっても、この重い一撃には耐えられなかったようだ。

「……お前が使ったのが強力な魔法で助かったよ。跳ね返る分も大きかったからな」

 気絶した女を見下ろし、小さく息を吐き出した時だった。

「どうした、ガルア。何やら大きな爆発音が聞こえたが……」

「ジルか」

 振り返ると、そこに立っていたのは魔法使いのジルだった。

 ジルは俺の姿を認めると、すぐさま足元で倒れている女に視線を落とす。

「こいつは……?」

「何者かは知らん。だが、村に火を放とうとしていたところを取り押さえた」

「ふむ……」

 ジルは顎に手を当て、気を失っている女の顔をまじまじと観察し始めた。

 そして、鋭い目を細め、静かに告げた。

「ガルア。こいつは……『魔族』だ」

「ま、魔族……?」

 魔族。

 その言葉に、俺は思わず女の顔を凝視した。

 よく見れば、少し開いた口元からは鋭い小さな牙が覗き、フードからこぼれ出た耳の先端は刃物のように尖っている。

 それは紛れもなく、人間ではない『魔族』の証明だった。

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