Mag-log in三日にわたって開催された戦略会議から十日、僕は自宅で割とのんびり過ごしていた。
村の行政は代官任せ、軍事方面は計画は済ませてあるし収穫前で予定なし、公共事業は必要人員をすでに派遣済み。 ここ二、三日はのんびり起きてサラが世話係のイゼルナと作ってくれる朝食を食べて昼まで剣術稽古か村内散策、午後は畑や牧場に出かけて農作業などを手伝い、腹をすかせてこれまたサラの手料理を食べる。 とまあ、こんなに幸せでいいのかしらと後が怖くなるくらいの平穏さだ。「そういえばご存知でしたか?」
「なにを?」
「この間の旅でイゼルナとチローが良い仲になったみたいなのですが」
まじか!
「全然気づかなかった」
「やっぱり」
「やっぱりって?」
「お館様は色恋に無頓着な方だとほうぼうで言われていますよ」
「無頓着……」
ちょっと心外だな。
「先日ルビレル殿に『お館にはキレイな女性が多く出入りしているのに囲った様子は見
三日にわたって開催された戦略会議から十日、僕は自宅で割とのんびり過ごしていた。 村の行政は代官任せ、軍事方面は計画は済ませてあるし収穫前で予定なし、公共事業は必要人員をすでに派遣済み。 ここ二、三日はのんびり起きてサラが世話係のイゼルナと作ってくれる朝食を食べて昼まで剣術稽古か村内散策、午後は畑や牧場に出かけて農作業などを手伝い、腹をすかせてこれまたサラの手料理を食べる。 とまあ、こんなに幸せでいいのかしらと後が怖くなるくらいの平穏さだ。「そういえばご存知でしたか?」「なにを?」「この間の旅でイゼルナとチローが良い仲になったみたいなのですが」 まじか!「全然気づかなかった」「やっぱり」「やっぱりって?」「お館様は色恋に無頓着な方だとほうぼうで言われていますよ」「無頓着……」 ちょっと心外だな。「先日ルビレル殿に『お館にはキレイな女性が多く出入りしているのに囲った様子は見られない。愛されていますね』などと言われてどう言う意味かと聞き返したら……」 と、そこまで口にして頬を染めて口ごもる。 初心いねぇ。 なんてほっこり眺めてしまう。 すると、すぐさま深刻そうな表情に変わって「でも、わたしが色恋に疎いのをいいことに上手にお付き合いしているのではないかと疑ってしまいまして、館にくる女性たちに聞いて回ったのです」 なにをしてんですか? 僕はきっと口をあんぐりと開けたバカ面晒しているに違いない。 リリム、わざと僕の目の前を漂いながら笑うんじゃない。「そうしたら、みんな『お館様は色恋に無頓着なだけですよ』というのです。ザイーダなどしょんぼりとして『うちは女として見られてないかもしれませんがね』などといっていましたが、あのような美しい女性が女として見られていないのではわたしもどう見られているのか……婚約はしていただいたけれどもやはり政略結婚、ただの政治的契約でしかないのかと落ち込んでしまいました」 それで何日か前に
「買収です。第六先の村にも支援物資を送るのです。残念ながら町を通らなければ行けない第四、第五先の村は諦めざるを得ないと思いますが、第六先の村なら町の代官に知られることなく物資を送ることもできるのではありませんか?」 採用! チャールズやるね。「そういう切り崩し工作ならハンジー町経由で第三先の村……いや、第二先の村まで買収できるかもしれませんよ?」 こういう策での思考展開は早いねー、イラード。「ジョー、ルダー、どれくらの物資が必要だろう?」「今すぐ見積もり出せってか? さすがに無理だぞ」 そりゃそうか。「そもそも現在の備蓄量を把握していないぞ、俺はずっとボット村にいたんだから」「備蓄量ならこのブロロが把握しています」 さすが、暫定首都バロ村の代官。 いやぁ、こんなに有能だとは思わなかった。「しかし、それをするなら今年は男爵側に納税する予定のハンジー町にも援助しなければならなくなりませんか?」 あ。 よく気づいた、オギン。「じゃあ、奪っちゃいますか」 イラードがなんでもないことのように恐ろしいことを言う。 ところが、それにカイジョーとチャールズが賛同した。 おっと?「今の第二中の村と第三先の村の間は徒歩二日の距離です。露営地前で荷を奪えばオグマリー市までは第三、第二、第一先の村を通って徒歩四日、仮にホルスを飛ばしたとしても片道二日はかかりますから悠々逃げられるんじゃないですかね?」 なるほど、悪党働きおっぱじめようってか? 楠木正成を目指そうとか言ってたもんな、僕。 そりゃいいね。「よし、それを採用しよう。ついでに僕の名を売ることにも利用しよう」「お館様自ら出陣なさるのですか?」「何かまずいことでも?」「いえ、お館様の戦術は防衛戦で身をもって体験しております。その掠奪戦、ワタシもお供に加えてください」 いいのか? ルビンス。 ルビレルの眉間にシワが寄っ
会議は続く。 次の議題は第四中の村の接収計画だ。 第四中の村自体はこちらに寝返る気があるようなのだけれど、中核にある町がそんな気ないのだ。 こちらはハンジー町より大きく一町四ヶ村で構成されていて人口七百人以上。 他三ヶ村は先の町と呼ばれているので第四中の村は冷遇されている(実際そうなのか、そう感じているだけなのかはこの際関係ない)ので帰順したいのだという。 コロニー立地でいえば商都ゼニナルの側にあってオグマリー市にも近い。 とはいえ中の町の名の通り、コロニーの一番奥に存在していて旧第五中の村ことセザン村の繁栄っぷり、ひいては僕の評判が高まっているという現在の状況的に、放置は良くないだろうというのが会議参加者の一致した見解だ。「とはいえ、本格的な軍事衝突は難しいぞ」 セザン村で軍隊長に就いているカイジョーがいう。「特にハンジー町にバンバたちを派遣するとなるとセザン村の戦力もおぼつかないくらいですからね」 と、イラードが補足する。「けど、増税に苦しむ村が助けを呼ぶような形なんだろ? それを宙ぶらりんでほっとくとなると仮にその後穏便に接収できたとしても村人たちにしこりを残さないか?」 ルダーは宙に視線をさまよわせて人差し指を立てた右手をくるくると回す。 残る。 そりゃ、きっと残るぞ。「ワタシも年内の接収は無理筋だと思います。しかし、秋波を送られているのを無視することも得策ではないことは理解できます。次善の策を考えるという方向で考えるしかありませんね」「息子よ、次善ではダメだ。最善を模索するのが為政者の務めである」 この親子は固い。「じゃあよ、ルビレルの考える最善ってのはなんだい?」「村の接収はできないが、なんらかの援助をする策……ということでしょうか?」「援助ねぇ……ルビレルなら承知の上だとは思うがよ、第四中の村は第六先の村と町と隣接してるんだぜ?」「承知している」「気づかれずにできる援助って具体的にどんなことだと思うのよ?」 ジョー
「じゃあ、交渉は二人に任せる。ルビレルはそのまま宿場町の建設指揮も任せる」「今まで、ジャスに丸投げしてたのに、どういう風の吹き回しだ?」 ルダーの疑問もまぁもっともだ。「今回はグリフ族だけでなくモンスターも出る地域だからね、開拓チームの護衛も任務だってことだよ」「なるほど」「町の開発はどうする予定なんだ?」「その件はワタシから説明します」 説明を引き受けたルビンスは街を囲んでいる城壁を解体して周辺三ヶ村を繋ぐ街道沿いを全て農地にするという計画を話す。 これに目を輝かせたのはルダーだ。「俺に、その事業、俺に任せてくれ!」 いうと思った。「そのつもりだった。今年の収穫が終わったら信頼のできる部下を数人選んで移動してくれ。それまでに代官の後任を選んでおく」「後任人事は俺の要望を聞いてくれるのか?」「ああ、ある程度は要望をいれよう。まだまだわだかまりも燻っているのだろう?」「まあな」 ちらりとイラードを見ると、心なしか居心地が悪そうだ。「ルダーと一緒にバンバ、ブンター、カレンも派遣する」「え?」 難色を示したのはカイジョーだ。 最前線セザン村に集中させている三十人の駐留軍の主力である職業軍人十人から三人とられるとなれば、当然の反応だ。 けれど、旧来の領地人口四百五十人に対して新領地ハンジー町は六百四十人にのぼる。 常備軍に傭兵も含めて百三十はいるというのだから、自由裁量の軍事力なんかそのまま握らせておくわけにはいかない。「──というわけで、カイジョーを送り込むわけにいかないんだから、仕方ないだろ?」「うむ、確かに仕方ないのか……」「軍は再編する予定だからその下調べも兼ねている。その仕事はサビーやガーブラには向かないし、イラードには残念だが任せられない」 独善的にことを進めてやらかしてるからね。「それとオギン」「はい」「ハ
セザン村からこっち領主特権で毎日風呂に入ってきたとはいえ、やっぱり家風呂はいいもんだ。 たとえ宿の銭湯と違って小さな五右衛門風呂だったとしても、一人で湯船に浸かれるしゆったり落ち着ける。 旅の垢をクレタが開発した石鹸で落としてさっぱりした後、頭に手拭いをのせて肩まで浸かって「いい湯だな、あははん♪」なんて唄ってみる。 最高だね。「このまましばらくゆったり過ごしたいんだけどなぁ……」 戦国時代の弱小下克上領主にそんな余裕なんかないんだけどね。 ざばりと勢いよく風呂から上がった僕は、おろしたての服に身を包み、サラを残して中央広場の一角に建てられた会館に向かう。 会議に参加する人数が増えたことで館では手狭になったんで急遽作られた平屋の会館である。 会議室にはすでに全員集まっていた。 バロ村からは代官のブロロとルビレル、ルビンス、オギン、チャールズにたまたま村に戻っていたキャラバンのジョー。 ボット村からは代官のルダー。 セザン村からは村長ベハッチ、イラード、カイジョー。 それに僕を入れて総勢十一名だ。「やっときたか、待ちくたびれたぞ」 遠慮ないな、ルダー。「じゃあ、会議を始めようか」 ジョーの音頭で会議が始まる。 立場上、僕は領主なので議事進行は他人に任せている。「今日はなにを話し合うんだ?」 たまたま村に戻っていたジョーのために、まずは現状報告からということになった。 村の経営はいたって順調のようだ。 もちろん、どの村も急激に人口が膨張したためにインフラ整備に追われていたのだけれど、ズラカルト男爵の居住地移動禁止令で流入人口が一段落ついたのでだいぶ整備が進んだ。 宿場町は銭湯の流行で経営が安定したという報告も受けた。 でもそこら辺は今日の議題じゃない。 先日調略に成功したハンジー町の開発計画と街道整備、野営地に宿場兼グリフ族との交易拠点を作る計画についてだ。「交易拠点!?」 さっそくジョーが喰いついてきた。
本拠地であるバロ村に戻ってきて、最初にしたのはお風呂に入ることだった。 村では僕の館の離れにだけある湯船に浸かれるお風呂。 用水路から水道管でひかれた水を釜で沸かして湯船にお湯をはる。 なかなかの重労働だったりするので風呂に入るのは三日に一回なのが残念ではあるけれど、この世界ではそれでもそうとう贅沢なことである。 ちゃんと湯船があるのは館の他は二ヶ村の代官館と宿場宿くらいなんだけれど、とても評判がいい。 そりゃそうだ。 温かい風呂は貴族でも贅沢の一つらしい。 それを庶民が利用できるんだからね。 館の風呂は来賓のもてなしで村人は利用できないし、宿の風呂は有料で少しお高いけど。 最近では庶民の道楽に宿場に風呂に入りに行くのがはやっているそうだ。 ちょっとした公衆浴場ブームだな。 しかし、「ちょいと近場の銭湯へ」みたいな感覚なのか? 家に戻る頃には旅の汗で元の木阿弥って気もするんだけど。 まあおかげもあるのか、中央広場の池を「清浄の泉」と呼んで水浴びを推奨してきて四年、沐浴は村人の日課として定着したようだ。 衛生観念の向上は疫病や感染症などの抑制につながり、死亡率を低下させる。 長年医者としていろいろな村を診てきたソルブも感心していた。 チャールズが魔法関係で忙しくなり(ラバナルは何を始めたんだ?)、一時的にソルブの妻で同じく医者のジャンヌがバロ村にきて診察しているのだけど、助手としてつけているチャールズの妻ガブリエルがなかなか優秀らしく、二、三年で一人で任せられるんじゃないかと言っていた。 地球で二十一世紀を生きていた僕としては、「たった2、3年で?」 と、思ってしまうけれどね。
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、







