LOGIN僕とルダーには前世の記憶がある。
それもここよりずっと文明レベルの高いと思われる世界の記憶だ。 しかも、リリムによれば転生する際の「俺たち前世記憶を持った転生者の使命はこの世界で生き抜くこと……だったな?」
その質問にはリリムが答える。
「そうよ。世界のバランスが神様の思惑から外れかけているから、異世界から転生者を呼んでバランス調整をしようって話」
「生きてるだけでバランスが調整できるってのはどう言う仕組みなんだ?」
「さぁ」
「さぁ……って」
「それについては僕にちょっと
「何か悩み事ですかな?」 あまりにも悩みすぎて深刻な顔をしていたようだ。 村長に心配されてしまった。 ええい、ままよ。 僕は意を決して、ズバリと懐に飛び込む決心をした。「村長。税についてですが、いかがですか?」「……いかがと言われましても、税のなんの話ですかな?」 おっといけね。 そうだよな、ちゃんと順を追って説明しなきゃ判んないよ、そりゃ。「ああ、失礼。今年の税負担、だいぶ重くなっているようですが、この村は耐えられますか?」 村長は「ふむ」と唸って腕組みをする。「収穫の半分を持っていかれるのは正直厳しいの。しかし、わしら農民には他にできることはない」 それで命が助かるならめっけもんってか? 地球じゃ、それで済んだ歴史はないぞ。 仮に僕が領主になったって兵糧に限って思案しても六割は取る。 徴した穀物が国家予算にも使われるってんなら八割だって取りたいくらいだ。「村長は、他領の話はご存知ですか?」 僕は難しい顔のまま問う。「いや、知らん」「夏の初めにご領主のお使者が来られたでしょう?」「ああ、オルバック様のご子息とかいうのがきておったの」「お付きのルビレルという方が申していたのですが、戦が始まっているところでは収穫の八割も取られているところがあるとか」 数字は嘘だ。 ルビレルは「戦をしているところなど……」 と濁したに過ぎない。 これは危機意識を持ってもらうためのブラフである。 でも、こういうのは有効なんだよね。「わたしも旅の中でそのような話を聞き及んでます」 すかさず、オギンが援護射撃に入ってくる。 オギンには度々外の情勢を探りにいかせているから、通り道であるこの村の長ならその信憑性はかなり高いと思ってくれるはずだ。 案の定、「ムムム」と唸って二の句が継げなくなった。
午前中は村長の孫という少年に案内してもらって村の視察をする。 まぁ、村なんて観光的に見るとこないんだけど、僕が知りたかったのはそういうとこじゃない。 まずは村の様子。 村人は事前にオギンから三十二名と教えてもらっていた。 村の中に家が点在していて、それぞれの家に自分家用の畑があるという、元の僕の村と同じ作りだった。 そして、村の外に畑。 昨日は暗くなってから村に着いたので判らなかったんだけど、この村の畑は僕の町側、方位でいうと北側に広がっていた。 広さはうちと変わらない。 そりゃそうだ。 三十人規模の村で維持管理できる規模ってのは決まってる。 うちは人口の増大に対応するために村の北側に新しい農地を広げているから、現状は三対二でうちの方が広いか。 農作物の育成状況は地球由来の知識を持ったルダーが指揮をとるうちの畑の方が断然いい。 きっと収穫量で十五パーセントは差があるだろう。 畑を囲む森は原生林のようだ。 この辺の地形は、町の周りと違って比較的なだらかだから、もっと農地を拡げられそうだ。 生活用の薪などを集める雑木林は南側の街道の左右に広がっている。 この村の雑木林の方が倍以上広い。 そりゃそうだ。 僕の町は西側が断崖で、東側にある雑木林の奥には主の森が広がっている。 南の街道は僕の町までのそれと違って、なんかそれなりに整備されているようだった。 村人の様子は普通か? 子供達は元気だ。 一通り見るべきものは見ましたが、さてどうしたものやら。 昼食の際、僕はどう話を持っていくのが最善かを考えていた。 今は国が乱れ始め、戦乱の時代に突入したばかり。 統一までには何年もかかるだろう。 だからと言って辺鄙な村が戦乱と無縁でいられるはずがない。 それは重税を課しに代官が僕の町にまでやってきたことでも明らかだ。 秋の攻防で負ける気はない。 しかし、最奥の村一つでは町の規模になったと言ってもたかが知れている。 そう何度も
翌朝、朝日とともに目がさめる。 初めての旅の疲れと眠りの魔法でぐっすり眠れたからか、とても心地よい寝覚めになった。 いつもは僕より先に起きている(というか、いつ寝ているのか判らない)オギンが珍しくベッドの中で寝息を立てている。「珍しいな」「なかなか寝付けなかったみたいだから、サービスで彼女にも魔法をかけてあげたのよ」 それはいいことだったのか? 護衛として同行したオギンが正体なく寝ていて一朝事があったらどうするつもりだったんだ?「あー、考えてなかったわ。ごめんね」 ごめんじゃないよ。 僕の使命はこの世界を生き抜くことなんだから。 それをサポートするのがリリムの役目じゃないか! くそっ、おでこコツンにてへぺろなんてしやがって。 似合うんだよなぁ。 納得いかない気分でモヤモヤしていたら、ガバと起き上がったオギンがいきなりベッドの上で頭を下げる。「申し訳ございません!」「な、なに? いきなり」 寝間着姿のオギンはやっぱ若い女なわけで、朝であることも手伝ってムズムズするんだよ。「護衛として同行している立場にありながら正体なく寝入ってしまいました。あまつさえ、お館様より後に起きるなど、あってはならない不始末」(…………)(……ごめん、ジャン)「それはいい、初めてのことでもあるし、緊張し続けて精神的に疲弊していたんだろう」 ホントは魔法のせいなんだけど。「それより、その……目のやり場に困るというか……」 そこまでいうと、オギンは頬を朱に染めて掛け布団にもぐりこむ。 その時チラッと見えちゃったんだよねぇ、思ってた以上に大きな乳房が。 着痩せするタイプなんだ。 やばいな。 もう一晩泊まる予定なんだけど……。(今晩もジャンには魔法をかけなきゃだめね) う……ヨロシクオネガイシマス。 …………。 なんか
村に着くとオギンがテキパキと来訪を告げ、いかにも村長って感じのおじいちゃんが出てきた。「すいません、こんな夜中に訪ねることになって」 一通りの挨拶が終わって村長の家に腰を落ち着けた僕が開口一番発した言葉だ。「なんのなんの。噂には聞いておりましたが、これはまたえらくお若い村長ですな」 うん、もう村の規模じゃないという自負があるんだけど、元の村のイメージを引きずってるだろう村長にはそのままの認識でも仕方ないかと諦める。「で、このたびはどういった要件で?」「はい、村の復興が一段落いたしましたので、ご挨拶に伺うべきかと思いまして」「それはそれはご丁寧なことで」 などと互いに社交辞令を交わす。 夜も遅いということで、その日は挨拶だけで寝ることになったんだけど……。「…………」 僕が無言で立ち尽くす中、黙々とオギンが客室で荷物の片付けやベッドメイクを行なっている。「……あー……いいかな?」「何か?」「一応ツインルームになっているけど、一緒の部屋で寝るってこと?」「『ついんるうむ』というのがどういうものかは知りませんが、同じ部屋で寝るということで間違いありません」「あ・やっぱり」 頭の上ではリリムが腹を抱えて笑っている。 いや、家の規模からいって部屋数は想像できたか。 あまりにも今の館に慣れてたもんで、すっかりこの世界の村ってものの水準を忘れてたよ。 なるほど、オギンが同行をなんとなく嫌がっていたのはこれが原因だったか。 キャラバンの野営でも、男女は別々のテントで休むっていってたもんな。「お館様はそのようなことはなされないと思いますが、なさるつもりならお覚悟なさってください」 しねーよっ! あ、いや……不自由してるから間違いが起きる可能性も否定はできないけど、キレイだとは思うけどタイプじゃないし、おっかないからやらないよ! うん、たぶん……。(どーだか?) うるさい!
僕はちょっと目を閉じて深くゆっくりと呼吸を繰り返すと大自然の音に耳をすます。 葉を揺らす風の音。 虫の鳴き声。 ホルスが草を食む音。 遠く、せせらぎも聞こえる。 あれ?「これは人の気配?」「え?」 小川の側かな? ってことはオギン?「あれ、僕結構すごくない?」「本当に感じているんだったら確かにすごいわね。他にも感じられる?」 リリムに促されて、再び心をすます。 小さな気配がせわしなく動くのが判るぞ。 リリムの言ってたラバトってこれか? だとしたら近づいてきてるな。 僕は、弓を取り出し矢を番え、気配のする方角へ向ける。 林の奥に目をこらすと……うん、ラバトだ。 僕だって神様から少しは優遇されているらしいじゃないか、当たるさ、絶対。 きりきりと引き絞って狙いを定めると、ヒョウと矢を放つ。 狙い違わず命中する。 よしっ! 草をかき分けラバトを取ってくると、オギンが戻ってくるまでの間に血抜きなどをする。「お館様」「おかえり」「どうしたのですか? そのラバト」「たまたま近くに来てたんで仕留めた」「村へのいい手土産になりますね」「ん? そうだね」 すっかり忘れてたよ、礼儀がなってないと思われるところだった。「でも、だったらあと二、三羽は仕留めたいかな?」「欲張りですね」「そうかな?」 休憩は半時間ほどで終わる。 ホルスが水を飲み干したら出発だ。 移動と休憩を何度か繰り返して進むと、途中で野営の跡が何カ所かに見て取れた。 この何カ所かを全部宿にするのは無駄だな。あんな奥の村には早々用もないしね。 ま、それもこれも男爵との戦が一段落してからだけど。 もしかしたら男爵が道を整備してくれるかもしれないし。 道々そんなことを考えたり、オギン
道はデコボコの砂利道でとりあえずキャラバンが通った轍が草の中に見えている程度。 最近は人の往来がそこそこあるっていうのにこれが道かという有様だ。 一応、原生の森を切り開いて作られた「道」ではあるけど、ここまで獣道然としたものだとは思ってなかった。「これを徒歩で歩くのか……そりゃあ三日はかかるよなぁ」 下手したら迷子だよ。「この辺りはモンスターが出ないのでマシな方です」 と、オギンが答える。 そうか、この世界はモンスターもでるんだよね。「悪いことしたな」「何がですか?」「あー……いや、ちょくちょくオギンを一人で行かせてるじゃない? こんなだと思ってなかった。僕は元々村で生まれ育って村から出たことがなかったし、野盗に襲われて以降は村の復興で手一杯だったのもあるんだけど、これからは町の外のことも考えていかなきゃダメだ。うん」「……具体的にはどうなされるんですか?」「ん? そうだね……もう少し往来を増やすのがいいかな? 片道三日は遠すぎるから間に二箇所、駅を作るのが先かな?」「……エキ?」 ん? ああ、そうか。 駅伝制度があるならこんな道路事情な訳がないよな。「ええと……宿場?」「道の半ばに宿を作るのですか?」「そうだよ。野宿は大変だろ?」「確かにナルフやバヤルなどの獣におびえながら夜を過ごすのは神経をすり減らしますから、宿があるのなら助かりますね」 ホント、ごめん。 しばらくすると道脇の林の下草がやたらとハゲ散らかした感じのところに出くわす。「お館様、そろそろ休憩の時間です」「休憩?」「はい、ホルスを休ませる時間です」 ああ、なるほど。 ホルスをおりて木に繋ぐと、オギンが桶を持ってこういった。「水を汲んできます」「一緒に行こうその方が早いし……」「いえ、一人が水を汲み、一人がホルスの番をする。
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影







