تسجيل الدخول僕とルダーには前世の記憶がある。
それもここよりずっと文明レベルの高いと思われる世界の記憶だ。 しかも、リリムによれば転生する際の「俺たち前世記憶を持った転生者の使命はこの世界で生き抜くこと……だったな?」
その質問にはリリムが答える。
「そうよ。世界のバランスが神様の思惑から外れかけているから、異世界から転生者を呼んでバランス調整をしようって話」
「生きてるだけでバランスが調整できるってのはどう言う仕組みなんだ?」
「さぁ」
「さぁ……って」
「それについては僕にちょっと
いずれにしても科学技術を基礎にした前世文明の恩恵を得られる僕は戦略戦術で勝負ができそうだ。 なにせ神様のおかげで数千年の戦いの歴史が頭の中に入ってる。 伊達に歴史オタクじゃないぞ。 専門分野は日本史だけど。 それから文明を持っているのは人族だけじゃないようで、ナルフ、ドゥワルフ、タルル、グフリ、オルグなどの亜人がいる。 ちなみにどれもその種族の言葉で「人」を指す単語だ。 「アイヌ」がアイヌ語で「人間」を意味する単語なのと一緒だ。 僕ら人族は彼らにとって亜人という位置付けになるんだね、ちょっと混乱しちゃうかも。 ちなみに大陸を八つの国に線引きしているのは人族なんだけど、それぞれの種族で別の線を引いて国や地域が分けられているらしい。 …………。 複雑だね。 人種以外に知性を持ったグループがいて、魔族ってカテゴライズされているようだけど、外見的に一定のパターンがないらしく、人型の親から鳥型の子が生まれたりするんだって。 デビルマンのデーモン族的なアレなのかね? そうそう、僕が前世の記憶を思い出した時リリムが言ってた神様の話。 基本的に一つの種族に一柱か二柱の神様が存在しているようだ。 他にも火の神様、水の神様みたいな存在があるようで、ここら辺りは八百万な感じだけれど、大きく違うのは実際に現世利益があることだ。 各種族は仲が良かったり悪かったりで普段はあまり交流がないらしい。 人族と一番友好的なのはドゥワルフ族で、魔族は敵対的。 その魔族とグフリ、オルグ族はある種の同盟を結んでいると文献に書かれている。 魔族とは別に魔獣という存在もあって、これは通常の動物と違って魔法と密接に関わっている存在を指すようだ。 具体的にはドラゴン(やっぱりいた)なんかがそれにあたる。 と、まあこれが五軒の家が建つ頃までに仕入れた知識だ。 その間ジョーは約束通り一度、新しい村人を連れてきて村の住人は二十人を超えた。 家が建つスピードと住人が増えるスピードがミスマッチで
詳しい地図がないのでなんとも言えないけど、この村のさらに奥に行くつか集落が確認されている。 定期キャラバンはここを終点にしているから奥の集落は王国内であっても王国じゃない感じなのかもしれない。 前世風に言えば未開の少数民族って扱いだろうか。 王国は封建制で五爵位の貴族階級があるようだ。 上から伯爵・仲爵・叔爵・季爵・男爵。 この村はズラカルト男爵領内にあるから、まぁそんなもんだ。 王国の歴史は後継問題で乱世突入してるからもうそんなに重要じゃないんでさらっと読み飛ばしたけど、そこから考察できる文化水準は中世的だ。 ただし近世に片足突っ込んでいるところがある。 まぁでもこれは前世の時代区分を適用するのが間違っていると考えるべきだろうか。 まず、医療が進んでいる。 魔法頼みではあるけれど、医療水準は近代的レベルにある。 どうやら魔力を通して人体に働きかけて怪我や病気を治すため、人体構造に関してよく研究されているからだろう。 病気に関して言えば、科学技術が発達していないので原因が特定できず治療できない事例があるみたいだけど、怪我に関して言えば千切れた腕でも完治させられるようだ。 もちろん魔法使いの腕によるみたいだけど。 魔法技術が発達していることによって火器の代わりとして用いられていることも文献から判った。 火力的には室町末期、戦国時代水準だな。 魔法使いはその適性者が少なく、ほとんどが国に抱えられているようだ。 この辺りは誰でも引き金を引けば人が殺せる鉄砲と違って数を揃えられない欠点と言える。 でも、優れた魔法使いは速射もできるし大火力の攻撃もできるらしい記述があるから侮れない。 今、この国にはどれだけ魔法使いがいて、どの勢力に所属しているか? そこら辺の情報収拾が必要だ。 伝説の大魔法使いは「空の星を落とした」とか語られてるけど、少なくとも近年の魔法技術では一撃で城壁を壊せるような破壊力はなさ
読み書きを習い始めて判ったことは、この国の文字が表音文字だってこと。 それもアルファベットより仮名文字に近い。 これはすごくありがたい。 なにがありがたいって表意文字より圧倒的に覚える文字が少なくて済む。 そして仮名文字の最大の特徴は文字の並びで発音・読み方が変わらないってことだ。 「knight」で「k」を発音しないとか、ある意味余計なことを覚えなくて済む。 ただし母音だけで三十あるとか、拗音促音濁音に半濁音まで発音全部に文字が当てられているのが、二十六文字しかないアルファベットや五十音と呼ばれる仮名文字との違いだ。 最初はどの文字がどの発音を表しているのかを覚える。 ザイーダに指さされた文字の発音を答える。 間違えると罰ゲームで、僕は腕立て伏せや腹筋。 子供達は広場を一周だ。 なかなかにスパルタ教育だ。 次に地面に棒切れで黙々と文字を書いて覚える「書き取り」。 次に絵物語を読む……といった具合でまさに初等科教育さながらだ。 三軒目の家が完成する頃には四人とも一通り書物が読み下せるようになっていた。 なるほど、確かに僕は人よりちょっと優秀にしてもらっている。 前世の経験も生きているのだろうけど、四人の中で一番物覚えが早かった。 さて、大量の書物を読んで判ったことは、まずこの国がウズルマサル大陸にある八カ国(と、一自治区)の一つリフアカ王国だってこと。 国名は知ってたけどね。 大陸の南東部に位置していて、四カ国と国境を接している。 そのうちの一つがジョーの出身国ラシュラリア王国だ。 この村は王国内の北北西、二つの山脈の麓に当たる僻地で、山脈を超えればブチーチン帝国。 まぁ、今まで山脈を超えて行き来が行われた記録はないらしいので必然的に山脈からこっち側が王国で向こう側が帝国という国境線が引かれているようだ。
ジョーから送られてきた荷物の中には松明はあったけれど、ランプの類いはなかった。 これはこの国にはまだそんなものはないってことなのか、それとも普通には手に入らないほど高価なのか。 油が希少でランプだけあっても仕方ないってのも理由として考えられるよな。 ああ、考えるのは明日にしよう。 寝床で横になるとさすがに肉体労働者。 すぐにぐっすり眠りこけ、あっという間に朝が来た。 僕は日課の水汲みをして、昨日選り分けた文字表だけを持って村へ出勤。 いつもの朝礼とミーティングの時に文字表を広げる。「この中に文字の読める人はいますか?」 すると、案の定最初の七人からは誰も手が挙がらない。 判ってたよ。 田舎の識字率なんてそんなもんだ。 で、新規組五人の中で手が上がったのはなんとびっくり、ザイーダ一人。 こりゃ驚いた。 いや、まったく。「じゃあ、悪いが僕に文字を教えてくれないか」「ほんと悪いね」 ほんと君も口が悪いね。「まぁ、仕方ない。ジョー様とやりとりするのに村長が文盲じゃ話になんないからね」 できればあと一人二人読める方がいいなぁ……よし。「ついでに子供たちも一緒に頼む」「え? 教えてもらえるの!?」「やたー!!」「アニーもやるぅ!」 おーおー、食いつく食いつく。 クレタもカルホもアニーも目がキラッキラだよ。 日本でも小学校に入学するくらいまではみんな勉強大好きだからな。 息子も入学前にひらがなカタカナ覚えてた。 すぐ嫌いになるんだけど。 あれは教え方の問題だよな。 学習指導要領ってのがびっくりするくらい子供達から学習意欲を奪っていくんだ、きっと。 僕も歴史と国語以外は嫌いで嫌いで仕方なかった。 特に英語が駄目だったなぁ。 でも、社会に出てから必要に迫られて日常会話レベルなら普通に話せるようになった。
宴がおひらきになり、僕は自宅に戻ってきた。 …………。 ぼろっちい小屋だけど。 寝床にあぐらをかいてため息ひとつついたら、久しぶりに薪を囲炉裏に焼べる。 炎が上がって部屋の中が明るくなったのを確認して、僕は書物を漁り出す。 村の復興が始まってからこっち今までほとんど家の中で仕事してなかったし、あんまり気にしてなかったけど、室内の灯りは必要だよな。 村が襲われる前はどうしてたっけ? ああ、日暮れとともに寝てたかも。 そして日が登るとともに起き出して農作業だった。 …………。 今とほとんど変わってないや。 あれ? 冬の夜長はどうしてたかな? そんなこと気にもしないで暮らしてたな。「僕も灯りの魔法くらい使えればいいのにさ」 と、愚痴を言っても始まらないかと思いきや。「仕方ないなぁ」 と、天使の声……いやいや、妖精の救いの声が。 リリムがよく聞き取れない声で呪文を唱えると、パッと部屋の中が明るくなった。「すぐ消えちゃうけどね」 イヤイヤ、謙遜しなくていいよ。 魔法が使えるだけですごいことじゃないか。 転生者なんて都市伝説級の存在なんだろ? 魔法使いって。 今日はもう夜も遅いし、明日も早い。 なにがあるのかざっと確認するだけだから。 まだ文字の読めない僕に判ったのは手習い用の五十音的な文字表と地図くらい。 あとはたぶん絵本というか絵物語的な巻物だな。 この辺はたぶん伝説とかの類だと思う。 伝説伝承ってのは大抵子供に語って聞かせる教訓話や歴史的事象だからね。 いわゆる覚えやすい物語に脚色した歴史のお話だ。 あまりに脚色しすぎて現実とかけ離れちゃって教訓が伝わらないものが多いのだけどね。 前世での話だけどここでもそう変わらないだろ。 ってことでまずはこれからってとこだろうな。 …………。 ところでこれを使ってどう覚え
指差すだけかよ! 仕方なく僕も彼らのところへ歩き出す。「なるほど、少年が村長やってるって聞いちゃいたけど、本当に少年だな」 口悪いな、ザイーダ。「ジャン・ロイです。一応十五歳」「十五になったから『ハイ、大人です』とはいかないんだよ? 少年」 いちいち一言多いな……まぁ、元服してないからそう言う意味でも間違っちゃいないんだけど……。「ワタシはイラード・タン。この口が悪い女はザイーダ・ベックです。今日からお世話になります」 しっかりした人だ。「こちらこそよろしくお願いします」「早速ですが、荷物を降ろす場所は?」「ああ……」 僕は村に残っている住人を集めてみんなで僕の小屋へ移動する。 ルンカー作りをしていたジャリたちにも手伝ってもらって、小屋に積んでいた炭を一度出し、荷車の荷を小屋の中に運び込む。 目立ったのは書物だ。 いわゆる本の形で綴じられているものは全体の一割くらい。 あとは巻物だった。 その大半が皮紙でわずかに紙と呼べるものが混ざっている。 ここから類推すればやっぱり近代には到達していないようだ。 他には日用雑貨と農耕具。 これはあれだ。 ホルスを農耕動物として使えと言うジョーの配慮があるようだ。 あ・農耕具はしまわなくていいよ。 他に金床や槌、フイゴなんかがあった。 ジャリが目を輝かせている。 …………。 判ってる。 判ってるから。 使わせてあげるよ、いずれ。 その他には斧、鋸、鉈といった開拓必需品と丈夫な縄や袋など。 なるほど便利道具がいっぱいだ。 空になった荷車には炭を載せる。 次回のルンカーを焼く分を残して村に持っていくんだ。 基本的に村で煮炊きに使ってるからね。 今まではここと村とを往復する人が抱えて持って行ってたんだけど、これで手間が省ける。「今度ルンカーを焼いたら、そ
この世界でも石に名前がついている。 人の生活になくてはならない鉄鉱石、世界の価値基準を形作っている金銀銅の鉱石などがそれだ。 もっとも前世世界のように細かく分類されているわけじゃない。 前世で言うところの黒曜石、まずはこいつを見つけなきゃならない。 この世界の歴史がどんなものかはわからないけど、有史以前の道具としてほとんど加工せずに利用できる骨や木、石などの鉱物は利用しているはずだ。 …………。 地球的進化をしてればの話だけど。「リリム、黒曜石って知ってるか?」「何それ」
「リリム」「何?」「何したらいい?」「またざっくりとした質問ね。そんなの答えられるわけないじゃない」 だよねー。 考えろ? 僕に必要なものはなんだ。 外のかまどは簡易なもので、いつ壊れても不思議じゃない。 家の中に囲炉裏を作ったからここで煮炊きもできるからいいか。 いやいや、かまどの火力は捨てがたい。玄関フードに作り直すか。 次は服だな。 着た切り雀ってやつでひと月過ごしたからなぁ。 冬用の装備にしないと外で活動できなくなる。
ということで、僕は早速作業に取り掛かる。 まずは炉を切ってそこにカマドから火を移す。 本格的な冬場は火力を調節しないといけないっぽいけど今は燃えてればとりあえずいい。 炉に薪を突っ込んどいてから、斧を持って雑木林に入る。 一本切り倒して小屋まで持ってくる。 これで丸一日仕事。 それをとりあえず小屋の横に置いといて今度は雑木林から草を刈ってくる。 前世知識によれば、葦だの茅だの蒲だのといった植物の名前が出てくるわけだけど、異世界で植生の違うこの辺にそんなものはなく、一応それっぽいものを選んで持ち帰った。
と、とりあえずDIYの知識を呼び出さなきゃ。 っつーか、先に思い出しとけばもっとマシな小屋が建てられたんじゃなかろうか? ジト目ってやつでリリムを見ると満面の笑顔を返してくる。 チッ! こいつ、妖精らしく顔だけは可愛いんだよな。 まぁいい。 小屋は大体八畳一間サイズ。 天井高七シャッケン半ってとこか。 出入り口は今んとこ戸板立ててるだけだけど、これは蝶番なんて便利なものは再現が難しいから引き戸にするか。 でも敷居と鴨居を作るのって大変だよなー。







