Mag-log in大きな背中に村の概略図を描くと、オギンにどんな風に移動していたのかを書いてもらう。
図にするとオギンにも彼の行動が判ったようだ。 そう、彼は正面門から倉庫や蔵の間を何通りものルートで行ったり来たりしていたのだ。 こりゃもうなにをしているのか一目瞭然だ。「これは……」
「うん、盗賊の下見だね」
「盗賊ですか!?」
ガーブラが戦闘モードになる。
いやいやいや、落ち着いて?「ガーブラ、殺気を収めて」
オギンにたしなめられて深呼吸を繰り返すガーブラがなんかかわいい。
三十過ぎのおっさんだけどね……。 確かに僕でも感じられたほどの強い気配だったからな。 あれが殺気というやつか……覚えとかなきゃ。「話を伺ってもいいですか?」
うーん……割と単細胞のお人好しキャラだからあんまり情報を提供すると顔に出たりして困るんだけどなぁ……。
とはいえ、ここで事情を説明しないのも信頼関係上そういえば今年はまだダリプ酒仕込んでいないんだっけ? 醸造技術が未熟で甘くてアルコール度数の低い果実酒だし、保存技術が確立していないから残ってんのは飲み切った方がいいのか。 うん、じゃ、ま・いっか。 全部飲み尽くしても。 ……そうか、醸造技術を洗練させれば長期保存のきく輸出用の酒ができるんだな。 フレイラやポモイトでも酒が作れないかな? 穀物酒は果実酒より日持ちしないんだっけ? …………。 どっちにしても僕の知識の中に醸造技術はないや。 ルダーならひょっとして……後で聞いてみよう。 一通り食べ歩いて腹も膨れた頃、そのルダーがみんなの注目を集める。「みんな、聞いてくれ!」 それまでの浮かれた喧騒が一度落ち着く。 すでに陽は落ちて肌寒い。 焚き木で暖と灯りをとっている。「野盗に襲われお館様以外すべてを失ったここで、再び村を作り始めてから二度目の秋を迎えた。村は復興し、俺たちはこうして楽しく穏やかに暮らせている」 そこで少し間を開ける。 村人から「そうだそうだ」などとはやし立てる声と笑い声が上がる。「これもお館様のおかげだと思わないか?」 賛同の声の奥の方でピリリと空気の変わる場所があった。「リリム」 僕は小声で妖精の名を呼んだ。「なに?」「僕の村長就任を快く思っていない人たちを数えておいてくれないか?」「判ったわ」 さて、ルダーはどう持っていくつもりだろう? 無理言って引き受けてもらった手前、僕は事の成り行きを黙って見守ることに徹する。「豊かな村は襲われるぞ!」 そう声をあげたのはイラードだった。「そこだ!」 と、ルダーがその懸念を引き受ける。
日が沈む頃、村の宴は始まった。 まぁ、準備ができたところから待ちきれない人たちが勝手に始めてあとは流れでお願いしますって感じだったので、僕が中央広場に着いた頃には始まっていたと言うのが正解だ。 くそっ! みんな浮かれすぎだよ。 なにかあったらどうするんだ!? ……ないだろうけど。「おつかれさま! はい、どうぞ」 僕を見つけてカルホが飲み物を持ってきてくれた。 お手伝いってやつか? ウエイトレスを買って出ているようだ。 お盆に飲み物を乗せてあっちこっちと飲み物を運んで、おじさんおばさんたちからなんかもらってる。 ちゃっかりしてんな。 この村は意図的に集められた人たちで構成されているためか、人口構成がいびつで女子供が極端に少ない。 未成年(十五歳未満)はクレタとカルホ、アニーの他はロット・バロさん家のブロロくん四歳しかいない。 ちなみにお母さんはマッハさん。 すでにクレタは大人に混じって仕事をしている。 時代や地域性もあるけど、二十一世紀日本で過ごした前世を持つ身としてはちょっと考えちゃうよね。 各家庭で作ってきた自慢の料理を少しづついただきながらぐるりと村人をねぎらい歩く。 一緒に歩いているのはヘレンとルダーが忙しく立ち働いていて暇そうだったアニー。 連れ出して歩いてたらなんかいっぱいもらってる。 子供は得だな。 村人には普段からの働きに対する感謝の言葉を送り、昨日の戦闘に参加した男たちには自慢話をさせる。 部下の手柄はちゃんと聴いて、正当に評価して褒めてあげる。 これって結構大事なことなんだ。 人間、叱るより褒めた方がずっと伸びる。 日本じゃとかく減点評価が幅を聞かせていて学生時代も社会人になってからも苦労させられた。 叱るのも必要なんだけどさ。 それにしたってこの世界、酒を水代わりに飲むよな。 売り物に手をつけんじゃないぞ。 大事な収入源なんだから。
「ふむ……このタイミングならできなくないぞ、ザイーダ。村の復興に尽力してきたことは誰もが認めるところだ。そして昨日の野盗襲撃を陣頭指揮をとって見事に防ぎきった手腕。これでお館様を村長として認めないなんて他の村人が許さないだろうよ」「ああ、そりゃそうだね」「で? 俺たちに村長にしてくれってのはどう言うことだ」「いい質問だよ、ルダー。イラードが言った通り、今は絶好のタイミングなんだ。だけど僕が言ったんじゃ角が立つし下心見え見えだ。とは言っても、誰かが言い出さなきゃ不満を持っている村人の認識がいつまでも仮の村長のまま……しばらくすると『あいつでいいのか?』問題が再発するかもしれない」「なるほど、それでうちらに正式に村長に決めようって言ってもらいたいってことですね」「ご名答」 理解の早い人たちで助かるよ。「今なら嫌とは言いにくいからな。一度正式に村長と認めた以上、後から否やと言い出しても『イヤイヤあの日村の総意で決めたじゃないか』と説得できる」 僕はたぶん時代劇の悪代官的なニヤリ顔を作ったと思う。「多数派工作はいらないか?」 前世的発想だね、ルダー。「それはいらないでしょう。察しのいいオギンやサビーを始め、ジャスやチャールズも賛同するに違いありません」「で、この提案をする役をルダーにやってもらいたいんだ」「え? お、俺!?」「そう、ザイーダやイラードだとジョーの思惑を感じちゃう人が出ないとも限らない。村に来て日の浅い村人の提案では説得力がない。その点最古参のルダーなら『ああ言いそう』ってみんなに思ってもらえるだろ?」「う……うーん…………」「頼むよ」「……仕方ない。引き受けよう」 やったね!
「さて……」 と、飲み物で一息ついた三人を見回し視線を集める。「今晩宴が開かれるわけだけど、みんなにはこの宴で僕を正式な村長にしてもらいたい」「正式な村長?」 と、ザイーダが「なにを言ってんだ?」って顔で聞き返す。 イラードも「正式もなにもお館様はこの村の村長でしょう」 と、さも当然と言った口調で言う。 判ってないなぁ。 チラリとルダーを見るとこっちはなんとなくニュアンスがつかめていそうだ。 イラードもザイーダも村の中では結構な知識人なはずだけど、この辺りの機微は文字が読めるからと言って理解認識できるもんじゃないのかな?「今僕は、元々の村の住人ということで村長をやっている」 そこで区切ってみんながうなずくの確認する。「最初の七人はその経緯を知っているしある意味納得している」「知識や復興活動の運営を率先して行なっていたし、実績もある。誰もが納得していると思うが?」 と、ルダーは言うけどそうとも言えない。「さて、それはどうだろう? 後から来た人たちの中には僕を幼くて経験不足、信用ならないと思っている人も少なくないと思うんだ」「確かに若いと侮っている村人が数人いますね」 さすが、諜報部。 ザイーダはそこらへんの情報もちゃんと持っていたようだ。「なるほど、今は復興に力をあわせる都合もあって声に出していないだけで、お館様が村長でいることに不満を持っているものがいるのですね」「そう! 彼らはきっと『仮の村長』と思っているんだと僕は考えてる。復興作業も一段落したら『今の村長で本当にいいのか?』とか言い始めるに違いない」 ま、この辺は半分被害妄想なんだけど。「そこで、この機会に村の総意として僕を村長として正式に認めさせる」「できますか?」 いい質問だよ、ザイーダ。
ルダーを連れ立って僕は館に戻る。 館につくとザイーダが現れた。「なにかあったのか?」「いえ、御用がおありかと」 よく気がつきますこと。「じゃあ、イラードを呼んできてもらえないかな?」「ワタシならここに」 うおっ! 後ろから突然声をかけてこないでくれ。「じゃあ、みんな中へ」 と三人を招き入れる。 館の一階は基本的にはこの世界の常識にならって土足でいいのだけど、二階と奥座敷は土足禁止になっている。 その奥座敷には囲炉裏が切ってあって常時火種を絶やさない。 その囲炉裏に炭をくべ水を入れた深鍋を乗せる。 お茶が欲しいなぁ……。 他の地域がどうか知らないけど、この村では昔から水を沸かして飲んでいた。 白湯であったり湯冷ましであったり、基本生水は飲まない。 この季節ならダリプの果汁が子供達に人気だった。 大人たちはまぁダリプ酒を昼日中から飲んでた。 原始的な醸造だからか、甘くてアルコール分低めなので水のようにがぶがぶ飲めてしまえる。 けど今は、僕の前世知識から平日は仕事中に飲んではいけないことにしている。 アルコールは脱水を促すし、肝臓に悪いしね。 ルダーが四人分のカップを持ってくる。 勝手知ったる他人の家ってやつか? ザイーダは野生のスタベラをジャムにしたものを湯の中に入れる。 甘酸っぱくて疲れた体になかなか効果がある。 そうか、日本茶的なのは難しくてもハーブティー的なものなら飲めるかもしれない。「ルダー、ハーブティー的なものってできそう?」「ん? 食える草はいくつかあるけど、うまい飲み物になるかどうかは……」「アニーたちと一緒に試してみてよ」「んーん……まぁ、来年な」 あ。 そろそろ冬枯れの時期か。 仕方ないな、本題に入ろう。
「貴重な話が聞けたよ、ありがとう」 すっかり打ち解けた気になっていた男は「なんのなんの」と横柄に手をふる。「君の処遇は改めて明日決定するつもりだけれど、今日のところはこのまま部屋に戻ってもらうことにしよう」 なんというか、ジャスは阿吽の呼吸でも心得ているかのようになにも言わないうちに男に縄をかけ出す。「ちょっ、ちょっとこれは?」「君が囚われの身であることに変わりはないんだよ?」 そう金魚みたいに言葉もなく口をパクパクされても対応は変わらないよ? ま、対応は最初から決まっているんだけど今日はこれから村をあげての大宴会だからね、不測の事態は困るんだ。 ジャスが部屋に男を押し込むのを確認して僕は家を出る。「終わったのかい?」 外では律儀に見張りについていたルダーが声をかけてきた。「終わった終わった。今後の村の計画になかなか有意義な情報があったよ」「そりゃあよかった」 遅れて鍋を抱えたジャスが出てくる。「見張りの当番はいつまでなんだい?」「日暮れまで」 とルダーに鍋を返しつつ答える。「じゃあ、宴で待ってるよ」 僕はそう言い残してルダーとその場を離れた。 向かったのは正面門。 二棟の櫓にはサビーとオギンがいる。「お館様」 僕らを見つけたオギンがスクワラーのようにするすると降りてくる。「見張りは通常体制に戻すよ」「襲撃の危険はない……と?」「そ。あいつの情報だ。信憑性は僕が保証する。二人とも宴まで休んでいいよ、ご苦労様」 そう告げて、今度はルダーの家へ。 家の前ではアニーがカルホと遊んでいた。 年の近い友達がいるのはいいことだよ。 多すぎるとそれはそれでややこしいことになるんだけどね。 あ、これは前世の経験だわ。 二人に軽く挨拶をして家に入ると、ヘレンは宴の準備で大鍋に食材を放り込んでいた。 僕は彼女にスープ
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす







