LOGIN村長の悩むのも無理はない。
身分制度のある社会で、下層階級にいる人間に与えられている選択肢なんて多くない。 今回の場合だと、「甘んじて増税を受け入れる」「死を覚悟して減税を訴える」「死を覚悟で叛乱する」「死を覚悟して(てかそれ、四択って言えんの?)
(うーん……言えない?)
っていうか、思考に割って入ってくんじゃないよ、リリム。
八方塞がりの、抜き差しならない事態に今よりマシな選択肢を与えてあげられる。 僕ならね。 今の僕、相当悪い顔してる自覚あるな。「ご領主様が本格的な戦でも始められたらまだまだ課税されますよ」
と、追い打ちをかけてみる。
さらに「戦で兵が足りなくなったら男手を取られることもありましょう。戦火がこの村に及ぶことも考えられます」
ま、実際はこんな山奥の村まで兵を動員す
隣村との密約を交わした僕はその後、村の整備計画を立てるための情報収拾をした。 夕暮れ時に村長の息子夫婦が帰ってきて、僕をもてなす食事を用意してもらう。 去年の収穫からこっち食料に余裕のある僕の町と違ってとても質素なご馳走だったけど、心を込めて作ってもらったことに感謝しながら食べた。 夜は早々に寝る。 もちろん、リリムに眠りの魔法をかけてもらってだ。 そして翌日、早朝には村を立つ。 何か言いたそうなケイロ少年に「また来るよ」 と、約束して。「オギン」「はい」「一晩野宿したいんだけど、いい?」「……この時期なら野営の準備などせずに一晩過ごすことはできますが、どうしてまた」「経験しておきたいのが一つと、ちよっと道々確認したいことがあってさ」「経験……ですか?」「そう。ケ・イ・ケ・ン」「あの……」「ん?」 すげぇなんか言いたそうなんだけど。「いえ、かしこまりました」 オギンはそれっきり何も言ってこなかった。 さて、僕は懐から黒墨と、背負い袋から木簡を取り出した。 木簡は取り扱いを考慮して縦一シャッケン横三スンブの長さにしている。 ちょうど僕の前腕くらいの大きさだ。 今回はそれを六枚持ってきてる。 重ねた厚さが大体三スンブになる。 これがなければもっと入れられるものがあるとオギンに言われていたのだけど、これは絶対に必要だと主張して持ってきた貴重な木簡だ。 これを使って道々様々なことを書き込んでいく。 木簡は六枚しかないから書くことは厳選しなきゃならなくて苦労したよ。 そなんこんなで道程六割くらいのところで日が暮れ出した。「お館様、日暮れまでに野営地につかないと、野宿も危険になります」 と、オギンに促されて、後ろ髪ひかれる思いでホルスを走らせる。 少々ホルスには無理をさせた代わりになんとか日没までに間に合った。
「当然、徴税はいたしますが、耕地面積ではなく収穫量の七割を基準に一部労働奉仕で代弁するつもりです」「七!? ……代弁?」 ん? 難しすぎた? どう言えばいいんだべ?「例えば木材の伐採作業をする人手を出せばその分、農産物の量を減らせる……?」 いや、うまく説明できないな。「お兄さんのためにたくさん働けば、その分納めるフレイラの量を減らせるってこと?」 少年よ、君賢いね。 名前は……ケイロ・ボットだっけ? 優しい話し方で肯定しておこう。「そうだよ」 すげぇ満足そうな顔した。「働けば働くほど納める分が少なくなると言うことですか?」 おっと? 村長の言葉遣いに心持ち敬語感出てきたぞ。 もう一息だな。「そうです。もちろん徴税ですからこちらの要求以上の労働は対象外ですがね」 労働だけで納税されても困るから、その辺の塩梅はこちらで決めさせてもらうよ。「おじいちゃん、悪くない条件だよ?」「そうじゃのぅ……じゃが、こんな小さな村では収穫量も人手もたかが知れとるでのぅ……」「村に余所者が増えるのは好ましくありませんか?」「え?」 日本ではムラ社会なんて言葉があったくらい村ってものに排他的イメージを持っているんで聞いてみたんだけど、言い回しが判りにくかったかな?「新しく村人を増やすのは抵抗がありますか?」「働き手が増えて村が栄えるのを嫌がるわけもありません」 …………。 うん、細心の注意を払って施策しないと軋轢が問題になるな。 言動からそれが判る。 僕以外、流れ者が集まってるうちの町でさえ、いざこざの噂は時々聞こえてくるからなぁ。 これも、政策の検討案件だ。「さて、村長。どうでしょう? 私の庇護下に入る気はございませんか?」 長い沈黙が続く、やがてケイロがそっと村長の膝に自分の手を添える。 見つめ合う二人。 村長が
こっちから戦を仕掛けておいて「末長く平穏であるため」もへったくれもないのは重々承知してる。 けど、静かに暮らしたくても勝手に「うぇ〜い」てな具合でちょっかいを出される局面は少なくない。 この国の現在の状況はまさにそれだ。 調子に乗っているやつほど、大人しく目立ちたくないやつにちょっかいを出してくる。 いわゆるマウントってやつだ。 弱いやつに言うことを聞かせ、自分の思いのままに振る舞い、周りに対して勢力を誇示し、ヒエラルキーの頂点を目指す。 権力なんてそんなもんだ。 弱いままだと虐げられる。 平穏に過ごすためには力の誇示が必要なんだ。 てなことを懇々と説得する。 村長は難しい顔のまま黙って聞いているだけだったが、僕は気づいているぞ。 孫の少年の瞳が爛々と輝き出したのに。 やがて村長が重い口を開く。「で? 具体的になをさせたいのじゃ?」 うん、条件闘争に入ったとみたね。 僕らが争うのは既定路線だ。 ここはすでにこの村がどうこうできるものじゃない。 あと一、二ヶ月で戦になると言うことが避けられないならば、少しでも村の被害が少なくなる道を選ぶ。 村長の選択は間違っていない。 ただし、考え方は間違ってるぞ。 被害を減らす方向で交渉しちゃダメだ。 どさくさで利益を得る算段を考えなきゃ乱世じゃ生き残れないよ。 僕は心の内でこの村の長の首をすげ替える方策を考えつつ、この話し合いで一気に同盟を取り付けるための条件提示を始める。 もともとある程度考えてきてる。 当たり前だけど、こちら側に少しでも有利な取引にしたい。 それも互いにwin=winの関係に見えるようにだ。 最悪6:4出来れば7:3の関係が望ましい。(悪党) リリムになんて言われようが構わんよ。「男爵に対して何もしないと言うのが理想です」 無理を承知で言っている。 ここらへんは相手
村長の悩むのも無理はない。 身分制度のある社会で、下層階級にいる人間に与えられている選択肢なんて多くない。 今回の場合だと、「甘んじて増税を受け入れる」「死を覚悟して減税を訴える」「死を覚悟で叛乱する」「死を覚悟して逃散する」の四択だろう。 村人ならいざ知らず、村長が逃散というのは選択しにくいよな。(てかそれ、四択って言えんの?)(うーん……言えない?) っていうか、思考に割って入ってくんじゃないよ、リリム。 八方塞がりの、抜き差しならない事態に今よりマシな選択肢を与えてあげられる。 僕ならね。 今の僕、相当悪い顔してる自覚あるな。「ご領主様が本格的な戦でも始められたらまだまだ課税されますよ」 と、追い打ちをかけてみる。 さらに「戦で兵が足りなくなったら男手を取られることもありましょう。戦火がこの村に及ぶことも考えられます」 ま、実際はこんな山奥の村まで兵を動員する物好きは……あぁ、僕が秋に反旗を翻したらここも平穏じゃいられないかもしれないや。 ここは正直に打ち明けるのが誠意ってもんだ。「ここだけの話、私どもの町はこの秋の徴税を機にご領主様の支配を抜けようと思っています」「なんと!?」 村長はそりゃあ驚いたよ。 同席していたのは孫の少年ただ一人、息子さん夫婦は畑で昼食をとっているようだ。 …………。 この少年、口軽くなきゃいいな。 と、言ってから思ったことは言うまでもない。「……それで、わしらに何をさせたいのじゃ?」 さすがは村長、察しがいいね。「我々に合力していただきたい。いや、戦を手伝えと言っているのではありません。この辺境の地が、末長く平穏であるために我々に協力して欲しいのです」
「何か悩み事ですかな?」 あまりにも悩みすぎて深刻な顔をしていたようだ。 村長に心配されてしまった。 ええい、ままよ。 僕は意を決して、ズバリと懐に飛び込む決心をした。「村長。税についてですが、いかがですか?」「……いかがと言われましても、税のなんの話ですかな?」 おっといけね。 そうだよな、ちゃんと順を追って説明しなきゃ判んないよ、そりゃ。「ああ、失礼。今年の税負担、だいぶ重くなっているようですが、この村は耐えられますか?」 村長は「ふむ」と唸って腕組みをする。「収穫の半分を持っていかれるのは正直厳しいの。しかし、わしら農民には他にできることはない」 それで命が助かるならめっけもんってか? 地球じゃ、それで済んだ歴史はないぞ。 仮に僕が領主になったって兵糧に限って思案しても六割は取る。 徴した穀物が国家予算にも使われるってんなら八割だって取りたいくらいだ。「村長は、他領の話はご存知ですか?」 僕は難しい顔のまま問う。「いや、知らん」「夏の初めにご領主のお使者が来られたでしょう?」「ああ、オルバック様のご子息とかいうのがきておったの」「お付きのルビレルという方が申していたのですが、戦が始まっているところでは収穫の八割も取られているところがあるとか」 数字は嘘だ。 ルビレルは「戦をしているところなど……」 と濁したに過ぎない。 これは危機意識を持ってもらうためのブラフである。 でも、こういうのは有効なんだよね。「わたしも旅の中でそのような話を聞き及んでます」 すかさず、オギンが援護射撃に入ってくる。 オギンには度々外の情勢を探りにいかせているから、通り道であるこの村の長ならその信憑性はかなり高いと思ってくれるはずだ。 案の定、「ムムム」と唸って二の句が継げなくなった。
午前中は村長の孫という少年に案内してもらって村の視察をする。 まぁ、村なんて観光的に見るとこないんだけど、僕が知りたかったのはそういうとこじゃない。 まずは村の様子。 村人は事前にオギンから三十二名と教えてもらっていた。 村の中に家が点在していて、それぞれの家に自分家用の畑があるという、元の僕の村と同じ作りだった。 そして、村の外に畑。 昨日は暗くなってから村に着いたので判らなかったんだけど、この村の畑は僕の町側、方位でいうと北側に広がっていた。 広さはうちと変わらない。 そりゃそうだ。 三十人規模の村で維持管理できる規模ってのは決まってる。 うちは人口の増大に対応するために村の北側に新しい農地を広げているから、現状は三対二でうちの方が広いか。 農作物の育成状況は地球由来の知識を持ったルダーが指揮をとるうちの畑の方が断然いい。 きっと収穫量で十五パーセントは差があるだろう。 畑を囲む森は原生林のようだ。 この辺の地形は、町の周りと違って比較的なだらかだから、もっと農地を拡げられそうだ。 生活用の薪などを集める雑木林は南側の街道の左右に広がっている。 この村の雑木林の方が倍以上広い。 そりゃそうだ。 僕の町は西側が断崖で、東側にある雑木林の奥には主の森が広がっている。 南の街道は僕の町までのそれと違って、なんかそれなりに整備されているようだった。 村人の様子は普通か? 子供達は元気だ。 一通り見るべきものは見ましたが、さてどうしたものやら。 昼食の際、僕はどう話を持っていくのが最善かを考えていた。 今は国が乱れ始め、戦乱の時代に突入したばかり。 統一までには何年もかかるだろう。 だからと言って辺鄙な村が戦乱と無縁でいられるはずがない。 それは重税を課しに代官が僕の町にまでやってきたことでも明らかだ。 秋の攻防で負ける気はない。 しかし、最奥の村一つでは町の規模になったと言ってもたかが知れている。 そう何度も
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵







