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第18話

Auteur: 歓乃
昼休みに入る前、凛はノートパソコンを抱えて部屋に入り、海斗の前に置いた。

「社長、できました」

海斗は少し驚いた。「もうできたのか?」

「はい。写真を撮って、識別して、データをグラフにしただけです」凛は平然と答えた。

研究所のデータに比べたら、ずっと簡単だった。

海斗はパソコンの画面に表示されたアイコンに目を落とした。データがグラフ化されているだけじゃない。分析や今後の対策までまとめられている。

「人並みだって?」彼は顔を上げて聞き返した。

凛はうなずいた。「はい、人並みです」

海斗は言葉を失った。

やはり、凛はただ者ではないと確信した。

「君は二宮先生の教え子だろう。それなのに、どうして竹内グループの事務職なんかに甘んじている?」海斗は立ち上がると、凛の周りをぐるりと歩いた。そして、突然腰をかがめて彼女に顔を近づけ、鋭い眼差しで尋ねた。「誰のために動いている?」

耳元で聞こえる声は低く冷たいのに、吐息は熱を帯びているようだった。

「叔母の千佳さんか?それとも、ホシゾラ・テクノロジーの谷口社長か?」

尋ね終えると、彼はゆっくりと体を起こし、いつもの表情に戻った
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    「急ぎで頼む」「承知いたしました」電話を切ると、海斗は手にしていたコートを強く握りしめ、顔を近づけた。そこからは、微かに凛のシャンプーの香りがした。海斗ははっとした。今、自分がしていることは、かなり気持ち悪い。それに今の自分は、昔心の底から軽蔑していた、恋に浮かれた若者そのものだった。海斗は静かにコートを下ろしたが、すぐには着ず、そのままにしておいた。本邸に入っても使用人には渡さず、椅子の背にそっと掛ける。瑶子がその様子に気づき、微笑んだ。「こんなに寒いのに、どうして着ないで持って帰ってきたの?」海斗は瑶子の方を向く。「凛を送ってきた」意味を理解した瑶子は、笑みを深めながら夫の隣へ腰を下ろした。隆が海斗に視線を移し、話し始める。「呼んだのは他でもない。今度、茂さんがA市に来ることになったんだが、ちょうど俺も母さんも草壁家に行かなくてはならない。だから、お前に接待してほしいんだ」瑶子も補足した。「挨拶をしてくれればいいだけだから。他には何もしなくていいわ」「いつ?来週は空いていない」隆が怪訝そうに尋ねる。「何かあるのか?」「凛の裁判が1週間延期になったんだ。凛の裁判が始まれば、俺も一緒に行く。凛を一人になんかできないから」最後の一言には、重みがあった。ちょうどその時、2階の手すりにもたれかかりながら、日和が携帯を握りしめて凛と電話をしていた。凛にも聞こえていたかは定かではないが、日和にはしっかりと聞こえていた。姿を現した妹に、海斗は少しだけ視線を上げたが、日和が凛と話しているとは知らなかったため、特に何も言わなかった。両親は、海斗が裁判に付き添うことに異論はないし、茂が来る日程もまだ確定していないので、時間が合えば対応するように、ということで話がまとまった。裁判だって夜まで続くわけではないのだから、都合はつくだろう。とりあえず了承している海斗だが、何よりも凛の件が優先だと、両親に念を押す。そんな中でも、携帯を耳にあて、2階でずっと黙っている日和。そんな日和に違和感を覚えた海斗は声をかけた。「降りてこい」「はーい」日和は1階へと降り、電話口の凛に別れを告げる。そのときになってようやく、日和が通話していたことに、皆が気づいた。「日和、誰と話してたの?」日和は海斗をちらりと見て答える

  • 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚   第504話

    二人が研究室を出た瞬間、冷たい風が容赦なく顔に吹きつけた。袖口から入り込んだ冷気が服の中を這い、凛は思わず身震いし、コートの襟を抱き寄せた。今年の冬は、例年より寒い気がする。海斗は何も言わずに自分のコートを脱ぎ、凛の肩にかけた。「葛城から連絡があった。裁判が1週間延期になったそうだ」凛はもともとコートを着ていたため、さらに一枚重なって少し動きづらい。それでも、温かさは増した。海斗のコートからは、ほのかなウッディ系の香りがする。「延期?」裁判延期と聞いた瞬間、凛の足がわずかに止まり、彼女はそのまま海斗を見上げた。「ああ、被告人二人が入院して出廷できなくなったんだ。弁護士による代行やオンライン審理だと、反論する機会を失うから、二人にとって不利になる。だから、小林の弁護士が診断書を提出して、強制的に延期させたんだ」二人は肩を並べて歩く。凛は言った。「小林さんの弁護士、かなりやり手なんだね」詳しい事情を、すでに謙介から聞いていた海斗。「宮本先生って言うらしい。B市じゃ結構名の知れた弁護士らしいぞ」「B市……」「紹介したのが、神谷か美雪なのかは分からない」その二人の名前を聞いた瞬間、凛の眉間に僅かだが皺がよった。海斗が尋ねる。「どうした?もしまた神谷が変なことを言ってきたら、俺が神谷家に言ってやるから安心しろ」凛は首を振った。「神谷弁護士じゃなくて、美雪さんなの。なんだか美雪さん、少し変というか……」「変?」海斗の記憶では、凛が誰かをそんな言葉で表現することはほとんどない。それに、「変」というのはかなり曖昧な言葉だ。車が二人の前に止まると、凛が先に乗り込み、海斗もその後ろに続いた。仕事を終えた二人は、今日も一緒に帰宅する。凛は話を続けた。「初めて美雪さんと会ったのはカフェなの。その時、私たちは不注意でぶつかってしまったんだけど、そうしたら、美雪さんが謝罪のために、どうしてもコーヒーを奢らせてくれって言ってきて。それから、二度目に会ったのはあなたの実家。モデルになってほしいなんて理由で連絡先を聞かれた。そして、施設で出会ったのが三度目になる。私たちより先に行ってて、何か撮影をしてた。でも、結局は撮影の途中で帰っちゃったらしいの。それも、私たちがK市を離れたその日に。それに……美雪さんは、私のことをい

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  • 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚   第501話

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    夕飯の支度ができるまで、凛は謙介がまとめた資料に目を通していた。一つ確認するたびに、彼女の心は少しずつ冷えていく。あまりにも驚くべき数字で、かつての自分なら想像すらできなかった金額だった。智也はお金で柚葉の生活をすべて支え、少しずつ彼女の欲望を膨らませていった。その結果、膨れ上がった彼女の欲望が、最後には智也自身へと牙を剥いたのだ。資料を読むことに集中していた凛は、海斗がずっと彼女を見つめていることに気づいていなかった。食事ができあがり、美穂子に声をかけられてようやく顔を上げた凛の視線が、海斗の深い眼差しと真っ直ぐにぶつかった。凛の瞳がわずかに揺れるしかし、海斗には視線を逸らす気配がなかった。あまりにも自然に、当たり前のことのように彼女を見ている。「食事だ」と低い声が響く。海斗は立ち上がると凛のところまで歩き、彼女の手元から資料とペンを取り上げた。距離が近すぎて、凛の身体がわずかに強張る。凛は落ち着かない気持ちをごまかすように視線を逸らした。ダイニングへ向かって数歩歩いた海斗だったが、凛が追ってこないのに気づき、振り返った。「腹が減ってないのか?」凛は立ち上がって海斗の後を追った。この1号棟に来たのは今回が二度目で、前回は施設の子どもたちからの手紙を受け取りに来た。あの時は何でもなかったはずなのに、今回はなぜかひどく緊張している。凛は前を歩く海斗の背中を見つめた。暖房の効いた室内で、彼は白いシャツだけを着ている。ネクタイはきちんと締められ、まっすぐ伸びている長い脚。けれど歩幅は大きくないため、凛でもすぐに追いつけた。ダイニングでは、美穂子がすでに食器を並べ終えていた。「海斗様、もう一品出し忘れておりましたので、キッチンから持ってきていただけますか?」海斗は疑問に思った。自分にそんなことをしろと?しかし海斗は一目見ただけでダイニングテーブルに足りないものに気づき、静かにキッチンへと向かった。キッチンにあった大きな鍋の中には、具沢山の雑炊が入っていた。海斗はそれを運び、凛の前に置く。自分の前にだけ、ご飯と雑炊の両方が並んでいることに、凛は気づいた。雑炊と白米……主食と主食か。凛は美穂子に視線を向ける。「両方食べるってことですか?」「もちろんそんなことありませんよ。お好きな方を

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    「同姓同名なだけだよ。彼女はただの、ごく普通の会社員だから」智也は、淡々とした口調で説明した。「でもまあ、プロジェクトにいる凄い人と同姓同名なんて、凛にとっても光栄なことじゃないかな」「ええ、本当に光栄だわ」柚葉はにっこりと微笑んだ。「私たちのプロジェクトの凛さんは、本当に優秀なんですよ」もっとも、優秀すぎて腹立たしいくらいですけど。プロジェクトの責任者であることを盾に、自分を歓迎しないどころか、中心業務にも一切関わらせてくれないんです。やっぱり、「谷口凛」という名前の人はどうも気に食わない。凛は、柚葉をまっすぐに見つめて言った。「小林さんは、どんなプロジェクトを?

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