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元妻にビンタされ、昨日よりも痛快だと笑う御曹司
元妻にビンタされ、昨日よりも痛快だと笑う御曹司
Author: 妖精魔女

第1話

Author: 妖精魔女
「ネットで話題になっている、月城莉愛(つきしろ りあ)さんの妊婦健診に付き添っていた男性は、本当にあなたのご主人ですか?」

「星音さん、ご主人は最近、家族との時間を優先するためにすべての仕事をキャンセルし、休暇を取ると発表されました。しかし、星音さんとご一緒の姿は一度も目撃されていません。お休みはすべて、月城さんと過ごされているのでしょうか?」

「お二人の結婚生活は、世間の噂どおり、すでに形だけのものとなっているのでしょうか?」

星音がその場を抜け出そうとするたび、記者たちが厚い人垣を作って立ち塞がり、一歩も前へ進ませない。

とうとう彼女はその場に立ち止まり、マスクを外した。その顔に怒りの色はなく、ただ底知れぬ薄い笑みを浮かべていた。

「『形だけの結婚』なんて、生ぬるい表現ですね」と星音は言った。「私と鷹司暁は現在、離婚の準備を進めています。彼が誰の健診に付き添おうと、私には一切関係のないことです」

記者たちは一斉に目を見開いた。星音がいきなりこんな特大スクープを投下するとは思ってもみなかったのだ。皆、その場で呆然と立ち尽くした。

星音は、事態の混乱を冷ややかに楽しむかのように、ふっと笑みをこぼした。

「どうされました?あなた方、質問がお好きだったのではないですか。この程度のスクープも扱いきれないなら、そもそも何を聞くおつもりだったのですか?

……どいてください。家に帰りますので」

今度はもう、誰も彼女を引き止めようとはしなかった。

空港を出た星音は、大きく息を吸い込んだ。潮海市の冬はいつもどんよりと曇り、陽の光がほとんど差さない。彼女はこの陰鬱な空気が大嫌いだった。

タクシーを拾い、皇苑レジデンスへ向かった。

暁から電話がかかってきたのは、翌日の午後になってからだった。

「帰ってたのか。どうして俺に言わなかった?」

星音はスマホを握ったまま、何も答えなかった。

電話の向こうの暁はそれ以上追及せず、淡々と告げた。「夜は本邸で食事だ。まだ会議があって間に合わない。あとで悠宇に迎えに行かせる」

暁は1週間も姿を消し、家に帰ってこなかった。星音は昨日のニュースを見て初めて、彼がずっと莉愛に付き添っていたことを知った。

今日になってようやく連絡してきたと思えば、彼が真っ先に向かったのは会社だったのだ。

つまり、暁の優先順位は、星音よりも会社であり、そして会社よりも莉愛なのだ。

星音はソファに座ったまま、ふっと自嘲するように笑い、電話を切った。

星音と暁が結婚して、今年で4年目になる。

誰もが星音のことを、とてつもなく幸運な女だと言った。元執事の娘が、名家である雇い主の跡取り息子と結ばれたのだから。

さらに世間では、あの時暁が星音と結婚していなければ、彼女はとっくに月城家の者たちに殺されていただろう、とも噂されていた。

何しろ、月城家唯一の跡取りだった月城静真(つきしろ しずま)は、星音を救うために命を落としたのだ。

だからこそ、暁が静真の妹である莉愛にどれほど償おうと、それは当然のことだとされていた。

そして星音には、騒ぐことも、嫉妬することも、一切の不満を口にすることも許されていなかった。暁が莉愛に優しくするのは、すべて星音の代わりに借りを返しているからなのだ。

月城家への、借りを。

星音は莉愛にも、月城家にも、一生かけても返しきれない借りがあるのだ。

星音はソファにぼんやりと座っていた。目の前のテレビからは中身のないバラエティ番組が流れ、出演者たちが大口を開けて笑っている。だが、星音にはただただうるさいだけだった。

それでも、テレビを消すことはできなかった。

このだだっ広く生活感のない家では、その無機質な音だけが、唯一の生活音だったからだ。

どれほど時間が経った頃だろうか。やがて悠宇が到着し、玄関のインターホンが鳴った。

「奥様、社長の申し付けにより、本邸でのお食事にお迎えに上がりました」

行きたくない。星音は心からそう叫びたかった。

それでも立ち上がり、バッグを手に取ってドアを開け、悠宇の車に乗り込んだ。

車内にはほのかにバラの香りが漂っており、星音はこの匂いを嗅ぐたびに吐き気を覚えた。

莉愛がいちばん好きな花が、バラだからだ。

星音は窓を下ろし、外の空気を吸い込んだ。

鷹司家本邸に着く頃には、冷たい風に長くさらされすぎて、顔の感覚がなくなっているようだった。

鷹司家の門をくぐり、靴を履き替える間もなく、いきなり頬を平手で打たれた。

星音の顔は勢いよく横を向いたが、痛みはまったく感じなかった。

さっきまで冷たい風にさらされていたせいで、感覚が麻痺していたのだ。

莉愛は大きなお腹を抱えて歩み寄り、暁の母である鷹司麗子(たかつかさ れいこ)の手を取ってさすった。

「おば様、手は痛くありませんか?」

麗子は星音を見るなり、怒りを爆発させた。

「あんた、頭がおかしいんじゃないの?星音、鷹司家があんたに何か借りでもあるっていうの?ここ数年、ぜいたくな暮らしをさせてやったせいで、頭の中まで腐ったのね。記者に何をでたらめ吹き込んだのよ。離婚するですって?

笑わせないで!」

麗子は荒い息を吐き、さらにまくしたてた。

「あんたに離婚する度胸があるなら、私は先祖の墓前でありがたく手を合わせるわ!私が暁にあんたと別れてほしくないとでも思っているの?夢にまで見ているわよ!私が何年も死なずにいるのは、暁があんたみたいな疫病神を捨てるのを待っているからよ!」

そう言いながら、麗子は再び手を振り上げた。

星音は避けなかった。

莉愛は小さく悲鳴を上げた。「おば様、ぶたないでください」

だが、手を出して止める気は微塵もなく、口先だけで制止しているにすぎない。

結局、その平手は星音の頬に届かなかった。悠宇が間に入って止めたのだ。

最初の一撃はあまりに突然で、悠宇も反応できなかった。だが今回は警戒していたため、麗子を制止できた。

麗子は悠宇をにらみつけた。

「あなたは鷹司家の味方なの?それともこの女の味方?」

悠宇は静かに答えた。「奥様、社長は、ご自分の妻が平手打ちされたと知れば、きっとお怒りになります」

麗子は手を下ろし、鼻で笑った。

「暁は昔の情に免じて、この女と結婚しただけよ。本当にあの子がこの女を心から大切にしているとでも思っているの?」

そう言い捨てると、麗子は星音を一度にらみ、リビングへ戻っていった。

莉愛はまだ星音の前に立ち、慰めるように言った。

「星音、おば様を怒らないであげて。おば様も怒りすぎただけよ。昨日の夜、暁はあなたが離婚すると言ったというニュースを見て、もう寝ようとしていたのに、一人で会社へ戻って緊急対応したの。

朝になってようやく、報道各社に手を回して情報がすべて表に出ないようにしたんだから。一晩中、起きていたのよ」

「それだけじゃないわ!」

ソファに座った麗子が言葉を継いだ。

「莉愛は暁を心配して、一緒に会社までついて行ってくれたのよ。そのせいでろくに休めず、あやうくお腹の子に障るところだったわ。

もし莉愛のお腹の子に何かあったら、星音、また月城家の人間を犠牲にするつもり?あんた、月城家にどれだけ命の借りを重ねれば気が済むの?」

莉愛と麗子が責め立てているのは、星音が記者に「離婚する」と告げたことだった。

だが、星音の気にかかっていたのは別のことだ。昨夜、暁と莉愛が一晩中一緒にいたという事実である。

それでも今の星音には、怒る権利すらなかった。

月城家のこと、そして失われた静真の命を引き合いに出されると、星音はまるで罪人のように晒し者にされた気分になる。

胸の内が怒りと屈辱で燃え上がっても、彼女には言い返す権利など何一つなかった。

静真が星音のために死んだことは、紛れもない事実なのだ。

当時、月城家は星音に命で償えと迫った。もしあの時、暁が盾となって庇ってくれなければ、星音は生きて月城家の敷地を出ることはできなかっただろう。

あの時、星音は新しい人生を与えられたのだと思っていた。

だが、今になって思い知らされている。生きているほうが、死ぬよりずっと苦しいこともあるのだと。

星音が何か言い返そうと口を開きかけた瞬間、背後から莉愛の声が響いた。

「暁、もう着いたのね。会社の方は終わったの?」

その口調は、忙しい夫を気遣う妻そのものだった。

星音は背を向けたまま、振り返ろうとはしなかった。

やがて暁の手が彼女の肩に置かれ、頭上から低く沈んだ声が降ってきた。

「こんなところで突っ立って、何をしている。さっさと靴を脱いで上がれ」

麗子がすかさず金切り声を上げた。「家に入れるんじゃないわよ!ここは誰も彼女なんか歓迎してないわ。さっさと追い返しなさい!」

星音は「そう」とだけ短く呟き、「なら、帰る」と言い放った。

振り返って顔を上げ、暁を見る。確かに徹夜明けなのだろう。彼の目の下には濃い隈ができていた。だが、それを見ても星音の胸は少しも痛まなかった。

どうせ彼には、愛してくれる女がそばにいるのだから。

星音は極めて冷淡な声で告げた。「あなたが呼んだから来た。用がないなら帰るわ」

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