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第1063話

Author: 木真知子
深夜、盛京の東郊外にある刑務所。

高原は桜子と隼人に会って以来、ほとんど眠れていなかった。

頭の中で、桜子の言葉が何度も何度も繰り返される。

あの女の口のうまさときたら――

提示された条件はあまりにも魅力的で、たとえ嘘でも心が揺らぐほどだった。

だが、彼はそれ以上にあの二人を憎んでいた。

美男美女のくせに、地位も金も権力もすべて持っている。

盛京の大物・隼人と、大富豪の令嬢・桜子。

考えるだけで胸が焼ける。

結局のところ、自分がこのざまになったのも、全部あの二人のせいだ。

だから彼は心の底で願っていた。

――秦が外であの二人を苦しめ続けてくれればいい。

できるなら、あの美男美女のペアを地獄へ落としてほしい、と。

数日のあいだ、高原は特に問題なく過ごしていた。

しかし、ここ二日ほど、どうも妙な気配を感じる。

まるで誰かが、闇の中から自分をじっと見張っているような――

その不気味な視線に、背筋が冷たくなり、食事も喉を通らなかった。

その夜。

薄汚れた狭いベッドに横になっても、体の芯が冷える。

何度も寝返りを打ち、ようやく眠気が訪れた、その瞬間――

「......シャリ......」

小さな音。だが、耳にこびりつくほど近い。

普通なら気づかないような微かな気配。

だが元傭兵の勘が、それを確かに捉えた。

高原は瞬時に身を起こそうとした。

――が、その前に冷たい風が背中を切り裂いた。

「ぐっ!」

焼けつくような痛みが、全身を突き抜ける。

暗闇の中で見たのは、同じ房の男。

手にしたのは、先を鋭く削った歯ブラシの柄。

それが、彼の首に深々と突き立っていた。

喉から血の音が溢れる。

「お、おまえ......誰だ......」

男は淡々と答えた。

「恨みはない。ただ、金をもらった。それだけだ」

――金をもらった?災いを金で消す?

高原の脳裏に、ひとりの女の名が閃く。

秦。

......

T国から戻った隼人は、すぐには宮沢グループに顔を出さなかった。

桜子の言いつけを守り、素直に自宅で療養していたのだ。

――少なくとも、桜子が起きている間は。

彼女が眠りについた夜、彼はこっそり書斎へ。

山のような書類を処理し、メールを確認し、決裁印を押す。

そして夜明け前、まるで泥棒のように静かに寝室へ戻る。

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