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第173話

Auteur: 木真知子
その時、柔は気づいた。小春が入って来てから、隼人の視線は一瞬も彼女から 離れていないことに気づいた。

瞬時に、強烈な不安と憤りが彼女の目に宿り、陰険な思いが心の奥底から湧き上がってきた。

「小春!」優希は目を細めて、彼女に向かって手を振った。

桜子は軽く頷き、微笑を浮かべて応えた。

優希が小春にこんなに 親しげに振る舞う姿を見て、白露は嫉妬で腹が煮えくり返りそうだった!

そして、小春が無表情で隼人のそばを通り過ぎようとしたその瞬間、彼は突然、大きな手で彼女の細い腕を掴んだ。

「どこに行くつもりだ?」

「まさか、あなたのそばにいるわけにはいかないでしょう、隼人社長?」桜子はゆっくりと腕を引き離しながら、微笑を浮かべた。

隼人は胸の中で不満を抑えきれず、何かを言おうとしたが、その時、秦が柔を連れて優雅に近づいてきた。

「小春、来てくれて本当に嬉しいわ。来ないかと思ってたのよ」

周囲の視線は彼らに集中し、和服の美人と宮沢家の関係を探っていた。

「宮沢夫人、そんなことありませんよ。私が来ないわけがないでしょう。おじい様が朝から私と隼人社長と一緒にお祝いするのを楽しみにしていたんですから」桜子はにっこり微笑みながら、冷静に答えた。

隼人の瞳がさらに深くなった。

周囲の客たちは、次第に柔に対する視線が奇妙なものになっていった。

「婚約発表の騒ぎは盛大だったけど、隼人社長が正式に言葉を出してないにしても、業界中が知ってるわよね。金原家のお嬢様が隼人社長の婚約者だって。でも今、この女性の話し方を見ると、彼女が正妻で、金原お嬢様が何か格下の存在みたいに見えるわ」

「確かに!それにしても、あの女性の気品、ただ者じゃないわ。彼女はどこの出身なの?」

「金原家のお嬢様よりもずっと美しいし、隼人社長と一緒にいるとまさにお似合いのカップルだわ!」

柔の顔は歪んでて、今にも崩れそうだった。

この女、私の道を完全に塞ごうとしてるの!?彼女が言ってることは、まさに私と隼人兄の関係が特別で、おじい様とも親しいってことを皆に伝えているようなものじゃない!

じゃあ、私、宮沢グループの社長の婚約者である私は、何なんだ?!

「小春、あなたとおじい様が仲良しなのは皆知ってるわ」秦は内心でほくそ笑みながら、優しく微笑んだ。「ところで、KSグループの樹社長はどうしたの?一緒に
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