LOGIN「はあああああああああああああああああああああああああ!!!」
キィン! レオの剣とエルの剣が交錯します。本物の剣です。身体に当たったら大変です。大怪我をしてしまいます。
二人ともチャンバラ遊びをしているのならいいのですが、完全に真剣です。「ふっ……思ったより腕を上げたな。レオ。以前よりやりがいがある」
「へっ。伊達に騎士団を率いてはないぜ。兄貴。油断してると足元救われるぞ! おらっ!」
キィン!
剣と剣がぶつかり合います。二人とも手加減をしているようには見えません。身体に当たったら最悪死んでしまいます。
こんなの間違っています。なんで兄弟で喧嘩なんてしなければならないんでしょうか。喧嘩ではなく決闘ですか。
どちらでも私からすれば同じようなものです。
「くっ!」
「へっ! どうだっ! 兄貴!」
レオの剣圧の凄まじさにエルが一歩後ずさってしまいます。小競り合いをレオが制したのです。
「なぜだ……レオ」
「ん? ……何かおかしな事でもあった」
「なぜアイリスに手を出した……貴様、アイリスを情婦か何かだとでも思っているのか?」
「へっ。なんだ、アイリスとキスした事を根に持ってんのかよ。それが俺の決闘する気になった理由か。憂さ晴らしってわけだな。けどな、勘違いするなよ。俺はマジでアイリスに惚れたんだよ」
「お前は俺に色々と言ってきただろうが。アイリスと俺達王族では身分が違うだのなんだの。矛盾している事に気付いてないのか?」
「うるせぇ! 前言撤回だ! 惚れちまったら身分も何も関係ねぇだろうが!」
レオは剣を振るってくる。キィン! エルはその剣を防ぐ。
「そうか。だったら今から俺とお前は兄弟じゃない。敵同士だ」
「上等じゃねぇか!」
「や、やめてって、二人とも!」
私は叫びます。ですがその声は届きそうにもありません。二人とも興奮
それは私が歩いていた時の事です。「え?」 私は見間違いかと思いました。廊下にはメイド服を着た、ディアンナによく似た少女がいたのです。 見間違いではありませんでした。似ているのではありません。本人なのです。で、でもどうして? 私は思いました。 ギルバルト家で今なお令嬢をしているはずのディアンナがなぜメイドとして奉仕をしているのか。とてもではありませんが理解が追い付いてきませんでした。「あら、噂に名高い薬師のアイリス様ではありませんか。ご機嫌うるわしゅうございますわ」「ど、どうして。どうしてディアンナがここにいるの? や、屋敷でお母さんやお父さんと生活しているんじゃないの?」「私たちは例の流行り病にかかったんですの。そしてそれでアイリス様の薬を買う為に屋敷を売り払ったんですのよ。それでお父様とお母様は離婚。極貧生活を強いられた私達母子。仕方なく、お母様は私を働かせる事にしたんですのよ。おわかりですか?」「そ……そう、私。知らなかったわ」「知らなかった? 呑気なものですわね。確かにあなたを追い出したのは私達の方ですけど、いくらなんでもあんまりじゃないですのっ! 私は令嬢としての身分も追われ、婚約者であったロズワール様とも婚約解消されて、その上でさらに。なぜわたくしが働かなければならないのですのっ! 嫌ですわもう!」「ディアンナ……」「ねぇ……お姉さま、立場を代わってはくれませんか?」「え? 立場? 何を言っているの?」「こんな生活嫌ですわっ! 私、エル王子やレオ王子のような、美しく、才覚に溢れた、社会的地位の高い殿方と結婚して、お姫様になって。優雅な生活をしたいんですのっ! こんなメイドとして馬車馬のように働いて! 毎日朝早く起きて、夜遅くなるまで働く生活、もうまっぴらごめんですわっ! いやですわっ! いやなんですのっ!」「そ、そんな事言われても」「代わってくださいませ! 代わってくださいませ! 代わってくださいませ!」 私の肩を
「ううっ……えらい事になってしまいましたわ」 ディアンナは王宮でメイドをやる事になったのだ。「これから毎日毎日、馬のように働くのですわっ! そんなの嫌なのですわっ!」「こらっ! そこの新入り!」 ビシッ! 鞭のような音がする。実際は棒のようなものを手のひらに叩きつけたのだ。相手を直接叩くわけではないが、そうやって音を出す事での威圧効果があった。 これはこれで立派なハラスメントだと取られても不思議ではない。「私語は慎みなさいっ!」 彼女の名はメイド長エリザベート。メイドたちの長として厳しくメイドを躾けているのだ。「は、はいですわっ! わかりましたわっ!」 渋々、ディアンナは答える。「それではこれより新人研修を行いますっ! まず、起床は朝の5時っ!」「5時ですのっ!」 ディアンナは面食らったようだ。なにせ、今までまともに労働らしい労働をしてこなかったのだ。「我々が仕える主人様より遅く起きる事は許されませんっ! 食事と簡単な体操、ミーティングの後、朝6時から7時まで食事の準備。配膳などありますっ! それから王城内の掃除っ! それから外の掃除っ! トイレ掃除っ!」「トイレ掃除っ! そんな事もするんですのっ! 嫌ですわよっ!」 ディアンナは不平不満を並べた。「私語は慎みなさいっ! それから昼食を経て、午後にミーティング! それから掃除! 洗濯! 配膳! それから主人様の出迎えや見送りなど、それはもう無数にやる事があるのですっ! この内容は日によって変わりますので、適宜対応してください」「「「はいっ!」」」「はーい……ですわ」 やる気なさそうにディアンナだけ答える。「なんですかその覇気のない声は。やり直しなさい」「は、はい! ですわっ!」「よろしい。それから夜も食事の後、掃除や雑務がありますが、交代制ですのでたまに休める時もあります。休みは交代制です。週に1日は休める事でしょう」「ええっ!! 週に1日ですのっ! 少な
「マリア! ふざけるなっ! なんだこの飯は! あまりにも貧しすぎるだろ!!」「仕方ないじゃない!! あなたの稼ぎが少なすぎるからよっ!」 その日からディアンナの両親は喧嘩を始めた。ボロ小屋での生活、そして両親の絶えない喧嘩。さらには婚約者ロズワールからの婚約破棄。「あんまりですわ……こんなのあんまりですわ……しくしく」 あまりにも惨めな自分自身の現状に、ディアンナは涙が溢れ出してきて止まらなかった。 まさかこんな事になるとは思っていなかった。アイリスを追い出した時はこれからは自分の天下だと思っていた。全てが順調になると思っていた。 ディアンナの現状を当時の自分に言ってやっても、鼻で笑って一切信じようともしなかった事であろう。「そういえば……あの根暗女は何をしているのでしょうか」 ディアンナは根暗女――アイリスの事を義姉にも関わらずそう呼んでいた。 なんでもあの根暗女は宮廷で薬師をしているらしい。もしかしたらその薬を販売する事で、多額の利益を得ているかもしれない。沢山のお金を得ているかもしれない。 そして宮廷で生活するという事は、いわば王子様とひとつ屋根の下だ。 何かあるのかもしれない。そんな王子様とのラブロマンス。「ゆ、許せませんわ。なぜ私とあの根暗女で、そんな天と地ほどの境遇格差ができているのでしょうか。絶対に許せませんわ!」 ディアンナは一人、部屋で怒りに震えていた。自分のした事など一切反省していない。ただただ、他人の成功や幸福が妬ましかった。そういう醜い感情にディアンナは取り付かれていたのだ。 部屋の壁は薄かった。すぐ隣の部屋で父と母の喧嘩の声が聞こえてくる。そしてしかるべき時がやってきた。「離婚だ! マリア! もうお前とは一緒にいられないっ!」「私もよっ! こんな甲斐性なしじゃなくて、もっと稼げる、良い男を捕まえるわよ!」 こうして父レーガンと母マリアは離婚する事になったのだ。母マリアにとっては二度目の離婚
「う、嘘……エル王子、なんで……」 ヴィンセントさんに抱きしめられている時の事でした。「どうして、エル王子が」「使用人にアイリスの居場所を聞いてね。それでヴィンセントの部屋に行っているそうじゃないか。それで気になってきてみたら、ご覧のあり様だよ」「ち、違うんです! 別に私はヴィンセントさんに何かされているわけじゃないんです! ただ抱きしめられただけで!」「それが問題なんだよ。抱きしめられた!? 大事じゃないか。どういうつもりなんだ!? ヴィンセント。君とアイリスはただの主従関係。お前はアイリスに仕える執事じゃないのか!? 明らかに出過ぎた真似だよ、それは」 エル王子は怒っているようです。普段は温厚な笑顔しか見せない、紳士なエル王子ですが、私に関係している事に関しては穏やかではいられないようです。「申し訳ありません! エル王子! エル王子がアイリス様の事を愛している事は存じ上げております。そして自分の立場もわかっております。エル王子は王子、そして私は執事。アイリス様が私を選ぶはずがない。しかし自分の気持ちに嘘はつけないのです」 ヴィンセントさんはとんでもない事を言ってきました。「えっ!? ええっ!? ヴィンセントさんが……そんな」「へぇ……そうか。確かにそうだね。僕は王子でヴィンセントは執事だ。確かに立場の違いはある。だけどそれは世間一般での話だ。社会的立場は違う。だけどそれに対してアイリスがどう思うか、アイリスが誰を選ぶかは全くの別問題だ」「えっ! ええっ。選ぶなんてそんな」 とても選ぶなんてできません。皆素敵な殿方ばかりですから。選ぶなんてとても無理そうです。「ヴィンセント……この領域に関しては王子も執事も関係ない。確かに立場的に言えば君は僕に従うべき立場だ。だが、だからと言って、それは個人の感情や行動を縛っていいはずもない」 エル王子はヴィンセントさんに告げます。「ヴィンセント、これ
「げほっ……ごほっ!」 仕事中、ヴィンセントさんが咳き込んでいました。「どうされましたか? ヴィンセントさん。随分調子が悪いみたいですが」「申し訳ありません。アイリス様、自分の自己管理のできてなさを深くお詫びします。本日の業務は他の者に代わります」「待ってください」 私はヴィンセントさんのおでこに手をやろうとしました。「うーっ」 私は必死に手を伸ばします。しかしおでこまで手が届かないのです。「どうしたのですか? アイリス様」「うーっ! 背が高くて手が届かないんですっ! 少しかがんでください! 熱を計りづらいんですっ!」「わ、わかりました。申し訳ありません。アイリス様」 ヴィンセントさんはかがみます。そうすれば私だって手が届きます。「熱がありますね」 私は熱があるのを確認した。「まさか……件の流行り病でしょうか?」「病にはいろいろな病があります。中には普通の風邪の場合もあります。ヴィンセントさんの様子を見ているに、普通の風邪ですね」「なんだ、良かったです」 ヴィンセントさんは胸を撫でおろします。「ただの風邪を舐めてはいけないですっ! 風邪は風邪でもヴィンセントさんの風邪はすごい高熱なんですっ! 寝てないとダメなんですっ! それとお薬もちゃんと飲まないと! それと、風邪薬を調薬するからちゃんと飲んでくださいっ!」「そ、そんな、アイリス様!! 滅相もありません、そんなお手間を!!」「ダメですっ! ヴィンセントさんが万全でないと私の仕事もはかどらないんですっ! それと今日はもうお仕事終わりにするんで、あとはヴィンセントさんの看病をします」「い、いけません! アイリス様! アイリス様の貴重なお時間を私の看病のために割くなど、という真似」「いいんですっ! 私がしたいからしたいだけなんですっ! 気にしないでください。それにヴィンセントさんには普段お世話になっていますから」
「アイリス様」 私は国王様と王妃様と会食をしていました。テーブルには豪華な料理が盛りだくさんです。とてもですがたべきれそうにありません。見ているだけでお腹がいっぱいになってきます。 国王様と王妃様からのお誘いです。私が断れるはずもありませんでした。ドレスを着て、とびっきりおめかしをしてこの会食会に参加したのです。 エル王子とレオ王子がその場にいない事にはやはり深い意味があるのでしょうか。そう考えざるを得ません。「はい。なんでしょうか? 国王陛下、王妃様」「突然だけど、アイリス様は恋人とかいるの? 祖国に婚約者がいたりはしない?」「い、いません! そういう人は!」 ここに来るより前に婚約破棄されてきましたけど。今の私は特にそういう相手はいません。寂しいですがフリーです。「そう。だったらよかったわ。見ての通り、私達の息子二人があなたにぞっこんみたいでね」「よろしければどうだい? アイリス様。うちの息子、どちらかと結婚し、妻になってみる気はないか?」「つ、つまですか!?」 私は国王様と王妃様の提案には驚きました。エル王子とレオ王子は立派な王子様です。二人と結婚するという事はいわばお姫様になるという事です。そして二人のうちどちらかが王様になったら、将来は王妃様になってしまうのです。 ギルバルト家を追い出された時の私からは想像もできないような境遇です。「君はエルとレオをどう思う?」「どちらもタイプは異なりますが、とても素敵な殿方だと思います。誰にとっても理想の王子様です。勿論、私にとってもそうです」「良かった。だったら問題ないじゃない。ね? あなた」「そうだな」 二人ともそう言って笑う。「で、ですがいいんですか? 私は王族ではないんですよ。ただの薬師です。そんな人間が王子様と結婚なんて、とてもつり合いが取れていると思えません。きっと反対する人も出てくると思います」「それなら心配いらないよ。我が国にとっては薬師であるアイリス様の立場は英雄と言っていい」「きっ







