戦場に着くと、小隊ごとに別れることになった。ヘッディは初めて来た訳では無いということで、別の隊に配属となるらしい。
「ここまでありがとな。ヘッディー。」
「あぁ、お前も気をつけるんだぞ。初めは弱い魔物と戦うだけだが…慣れてくるとどんどん強い魔物と戦うことになる。まずは今のうちに身体を慣らしておけ。」
きっと初めは皆同じスタートなのだろう。ヘッディーからの忠告に私は一言礼を言った。相手はそこまで強くない魔物と言われても何があるか分からない。
「生き残ったら美味い酒を飲もう」と軽く握手を交わして私たちは別れる。
小隊長の所へ向かうと、「本当にお前戦えるのか?」という目で見られたが、恐らくその辺にいる奴らよりは戦えるはずだ。 今まで何人の男たちと喧嘩してきたかわからない。「俺はこの隊をまとめる、ノッラだ。」
「俺はアドルフと言います。よろしくお願いします。」
軽く挨拶をしてから、簡単に今回の魔物討伐について説明してもらう。
魔物はDランクからSランクに分類される。そして今回はSランクの魔物が出たことにより弱い魔物がこちらに逃げてきたそうだ。Sランクの魔物は倒し終わっているが逃げてきた魔物の殲滅が間に合っていないらしく、それを倒していく感じになるらしい。
「今日俺たちが戦うのはDランクの魔物だ。5人1組になって倒していく。」
今回逃げてきている魔物がかなり多いらしく、もしかしたら数年がかりでの討伐になるかもしれないそうだ。
「使える武器は何かあるか。」
「レイピアとかあると嬉しいんだが…出来れば細くて軽いヤツがいい。」
レイピアは軽い分、早く動けるし使い勝手がいいがどちらかと言えば女性騎に使う人が多い。そのせいか、皆がクスクスと笑っているのが見える。
「お、おま、クク。レイピアは女の武器だぜ。」
「女みたいな見た目してるもんなぁ。フフ…」
本当は女なんじゃないかと誰かが言うとどっと笑いが起きる。
「笑ってられるのも今のうちだぞ…」 と負け惜しみでもないが負け惜しみみたいな言葉が出てきてさらに笑いが起こる。笑いたいやつには笑わせて置けばいいかと、レイピアの剣をもらってその場を離れた。
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戦場にきてから半年くらい経つと周りの雰囲気も少しづつ変わってきていた。
疲労が顔に出てきている人も多くいる。この半年間、無心になって魔物を討伐してきたお陰か、私を笑うやつは少なくなっていた。
そして、最近1人だけやたらと私にくっついてくる奴がいる。「せんぱーい!一緒に飯食いましょう!」
ご飯を片手に寄ってくるのは今月からこちらに来た、ルエルという男だ。「いいけど、俺…に話しかけて…く…るのお前くらいだぞ!」
ご飯を口に頬張りながら話すと「食うか話すかどっちかにしてくださいよー。」と緩く返してくる。「今ではお前も中堅の仲間入りだしな。新人時代に伝説を残した男と有名になっているぞ。」
「へっびぃしゃん。おししゃしずりっしゅね!」「いや、食うか話すかどっちかにしろよ!」
といった頭をガシガシと撫でられる。口の中に入っていたものを飲み込み、
「すみません。お腹すいてたもんで…」と返すとお前らしいなと笑われた。「で、伝説ってなんすか?」
正直伝説になるほど何かをした覚えはないが…
「あ、あぁ…周りに興味無さそうだから仕方ないな。一日で100体以上の魔物をレイピア1本と素手で倒した男と言われてるんだよ。」
確かに、初めの頃は切っても切っても湧いてくる魔物にイライラして、途中から素手で倒していた記憶はあるけど…
「え?そのくらい倒すのが普通じゃないんですか?」
寧ろ、そのくらい倒せないとここでは生き残れないものだと思っていた…。
頭をバコンと叩かれて耳元で
「お、おまえ、他のやつに聞こえるように話したらさらに孤立するぞ…」「これ以上孤立するって…なくないっすか?今の時点でマイナスなんですから、それに兄貴が魔物討伐から帰ってきたとき言ってたんすよ。一日100体以上倒すのが基本だって…」
弟も似たようなこと言っていたし、てっきり普通なんだと思っていたんだけどな…
「お前の兄弟の名前ってもしかして…」
ん?まぁ、知っている人もいるのかなと思い、
「あぁ、兄がラウルで弟がマウロっすね。2人は似てるのに俺だけ名前にてないんですよねー。ハハハ」 アドルフという名前を使っているし、女の私だけ名前の雰囲気が違う。みんなにバレたらやばいと先手必勝。軽く言い訳を混ぜながら話した。 すると四方八方から 「「「「「「ええええええぇぇぇ!!」」」」」」と巨大なリアクションを頂いた。
魔物討伐が終わった後にも関わらず元気だなーと思ったのは言うまでもない。
騎士団に入ってから3年が経った。この3年は他の領地にある騎士団が魔物討伐に向かっているため、比較的平和な時間を過ごしていたように思う。騎士団に入ってから知ったことだが、この国では魔物討伐を率いる騎士団は領地ごとで順番になっていたようだ。たまたま私が行った時の魔物討伐部隊を率いていたのが自領のダグワール騎士団だったらしい。「団長、エルヴィール・アルデンテです。失礼いたします。」朝一で団長から呼び出された私は、急いで団長室へ向かう。「あぁ。待っていた。そこに座ってくれ。」団長に促されてソファに腰を掛けると、団長も前のソファに座った。「それで…話とは、何でしょうか?」最近、これといって呼び出されるようなことはしていないと思うのだが…確かに以前は訓練で女だとバカにしてきたやつを片っ端から倒していたが、それもかなり前の話で今は落ち着いている。今でも喧嘩を吹っかけてくるのは新兵くらいだ。「魔物討伐遠征に行くことになりそうなんだ。」「なんだ…そんなことか…また、何かしたのかと思っていたので安心しました。それで次の遠征期間はどのくらいでしょうか。」また5年とかかるのだろうか…それなら父さんたちに伝えてから行かないとまた大変なことになりそうだ。「…次は1年の予定だ。以前のように魔物が活性化しているわけではないし、調査してもし活性化しそうであれば早めに対処しておこうということになった。」1年なら、全然問題なさそうだ。活性化していないということであればそこまで強い魔物もいないだろう。「その、お前は寂しくないのか?ほら、俺に死んでほしくないと…以前言っていたじゃないか。」「なんで寂しくなるんです?それに今回の魔物討伐で死んでしまう予定があるのでしょうか…?」この人は何を言っているんだろうか。私も行くわけだし、寂しいも何もないと思うのだけど…確かに魔物討伐に行くのだ。急に
騎士団に入団してから1年が経った。入団してからすぐのころは確かに女だからとバカにされることが多かったが、いつからかバカにされることはなくなっていた。恐らく、アルデンテと家名を伝えれば初めからバカにされることはなかったのだろうと今になっては思う。「バルコ副団長。私のわがままで申し訳ございませんが、家名は伏せておきたいと思っています。」「どうして?エルの家名を伝えればほとんどの人が黙るはずだよ。」「だからですよ…やっぱりこれから長い付き合いになるわけですし、自分自身のことを見てほしいと思いまして…」アルデンテ一家の名前が偉大なのはここ数か月で何となくわかった気がするが、「アルデンテ家だから」と思われるのは少し嫌だったし、やっぱりエルヴィールとして見られたい。そう思ってこの一年はがむしゃらに頑張っていたら、いつの間にか、部隊長にまでなっていたのである…。そして、もう一つ…この一年は団長と約束していた通り、休みの日は一緒に食事をしたり、出かけたりした。この1年間で気づいた事といえば、団長は思っていた以上に抜けていることが多いということだった。仕事の時は皺やシミのない制服をきちんと着飾っているような人が、休みの日になると少しヨレっとした服を着ているという感じだろうか。きっと女性たちはこういったギャップに弱いのだろう。あとは食べ歩きをしているとトマトなどのシミがついてしまうことが多い…そんな姿もかわいいと感じる部分なのかもしれないが…普段のしっかりとした団長を知っている手前、なんだか少し恥ずかしい気持ちになってしまうことが強かった。今日もそんな団長と休みがかぶっているため、一緒に食事に行
「え?結婚ですか?」就職先がやっと決まり、明日から念願の騎士団で働けると喜んでいたのも束の間、団長が他にも話があると言うので待っていると、まさかの話だった…。「結婚ってあの結婚ですよね?」単刀直入過ぎて頭がショートする。離婚して半年は経ったが、まさか自分が告白されるなんて思っていなかった。いや、告白なのか?好きと言われた訳でもないが…「そうだ。その結婚だ…」もしかして早く結婚でもしろと言われているのだろうか。でも団長ならモテそうだし、女性が放っておかなさそうだが…「なぜ私なのでしょうか。団長でしたら引く手数多でしょう。」私はそのまま疑問に思ったことを直接聞く。バツイチだし、とうが立っているしどこもいい所がないと思うが…「お、お前のことが昔から好きなんだ。」好き!?私を?!昔って喧嘩しかしてなかったけど…。「はぁ。昔って喧嘩しかしていなかったと思いますが…そんな話とかしましたっけ?」「確かに、昔は喧嘩ばかりだったが、喧嘩の理由だってお前のことが多かったんだ。それにお前が楽しそうに喧嘩したり、魔物討伐している姿をみると胸が高鳴るというか…」え…?それはさすがに…「私に殴られたいってことですか?もしかしてそういう趣味をお持ちなんですか?」「ちがう!そうじゃない!ただお前の戦い方は清々しいほど真っ直ぐでかっこいいんだ。お前が戦っている姿を見てさらに惚れた。だから結婚してほしい。」何となく団長が言いたいことは、わかった。兎に角好きだから結婚したいということなのだろう。「私は、1度結婚に失敗しています。なのでもし次結婚するなら失敗はしたくないと思っています。」「あぁ…」結婚してみて思ったが、我慢する生活は良くないとつくづく思った。言いたいこと言ってお互いのことを尊重し合えるようなそんな関係がいい
応接室の中で待っているとガチャりと扉が開く音が聞こえる。私はその音が聞こえた瞬間立ち上がった。「待たせたな。」「とんでもないことでございます。こちらこそ、お忙しい中、急遽面接を行って頂きありがとうございます。」一言挨拶をしてから頭を下げる。「いい。頭をあげてくれ。それでは面接を始めようか。」「は…い…?あれ?だ、だ、だんちょう?」頭をあげると目の前には昨日も一緒にお酒を飲んでいたはずの団長が座っていた。「魔物討伐部隊では挨拶をしたが、ここでは初めてだったな。改めてオディロン・ダックワーズだ。ダックワーズ辺境伯領にあるダックワーズ騎士団長をしている。」団長が目の前にいることにびっくりしたが、自分も改めて挨拶しなくてはならないと思い、気を持ち直して挨拶をする。「改めまして。ダックワーズ団長。この度は面接の機会を頂きありがとうございます。私、エルヴィール・アルデンテと申します。先日、名誉なことに騎士爵を賜りました。特技は戦闘全般です。よ、よろしくお願いいたします。」「こちらこそよろしく頼む。仕事内容を話したいので座ってくれ。」いつも団長は鎧を着ていることが多かったからか、スーツを着ているのが少し新鮮だ。「失礼します。」私は団長に言われた通り、ソファに座ると団長も私の前に腰を下ろした。⟡.·*.··································&m
「いたたたたた…」昨日途中までは皆で騒いでいたのを覚えているけどいつの間にか寝てしまっていたようだ。椅子で寝てしまったせいか腰と頭がすごく痛い。頭は二日酔いのせいだろう…。周りにもそのまま寝てしまったのかイカつい男たちが店の中で雑魚寝している。少し伸びをしてから立ち上がり首や肩を軽く回すと、隣で眠っていたルエルが目を覚ました。「すまん、起こしたか?」「そんなことないですよ。おはようございます。隊長。」ルエルも横で伸びをする。そろそろ仕込みが始まる時間なのか、父さんたちも起きてきたようだ。「おい、お前らそろそろ起きろ。」「あぁぃぃ。おはようございます。」少し大きい声でみなに聞こえるように声をかけるとのそのそと起き上がる。団長と副団長が居ないところを見ると昨夜のうちに帰ったようだ。「そろそろ開店準備をする時間だから帰れ。」少し眠いのか目が空いていない人や二日酔いで頭を押えているものがいる。「ルエルは大丈夫なのか?」「僕は大丈夫ですよー!隊長こそ、昨日話したこと覚えてますか?」ルエルは昔からやたらと酒が強かった。皆が酔っ払っていてもそれを見ながら笑っているくらいでケロリとしている。「あぁ、準備が出来たら地図のところに向かうよ。」「よろしくお願いしますね!門番に僕の紹介できたことを伝えてもらえれば入れますんで!それじゃあ、そろそろお暇します。」「わかった。こちらこそよろしく頼む。また後でな。」面接の時に会えるか分か
「アドルフの話はこのくらいにしておいて、そろそろ隊長の話を聞きたいです。隊長は仕事決まったんですか?」「わ、わ、私か!?仕事はな…見つかりそうではあるのだが…」4人がこちらを同時にみて「やっぱりまだ見つかっていないのか…」というような顔をしてくる。失礼な奴らだ。今まで全く求職活動をしてこなかったわけではないんだ。ただ、自分に見合う仕事がなかった…というだけのこと。「そうなんですねー。見つかりそうだったならよかったです。もし見つかっていないのであれば、以前お話していたお仕事を紹介しようかなと思っていたんですけど…」ルエルはこちらをチラチラ見ながら話してくる。この顔は本当は紹介してほしいんでしょ?という目だ。「ゴホン。ル、ルエルもしよければ参考までに、その仕事の内容だけでも教えてくれないか?」「えぇ。参考ですか?そんなの面倒くさいですよ!守秘義務というのもありますし、ここではお伝えは難しいですね。それに隊長は仕事見つかりそうなんですよね?でしたら必要ないじゃないですか。」「た、たしかにそうなんだが…な…その…すまない…仕事はまだ決まっていないんだ…」正直言ってルエルが仕事を紹介してくれるというのは渡りに船だった。半年間色々面接は受けたもののうまくいかず、最近では本当に仕事ができるのかさえ不安になってくる始末だ。「最悪、自分で傭兵団を作るのかもありかなと思っていたところだ。」傭兵団に入ることも何度か考えたが、女性が入れる傭兵団は限られておりあまりいい噂を聞かな