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第1015話

Author: 夜月 アヤメ
若子の苦しそうで、ショックを受けた様子を見て、修は小さくため息をついた。

「これで分かっただろ......まだ俺が嘘をついてるとか、騒ぎすぎだとか思うのか?」

若子は何も言えなかった。

「これだけのことをしておいて、お前はまだあいつをかばうつもりか?あいつがここまで大がかりなことをして、俺を殺そうとしてたって、今も思わないのか?動画には、全部映ってたろ。俺が銃を奪わなかったら、今頃どうなってたか分からないんだぞ?」

修はじっと待っていた。

若子がどんな言葉で西也をかばうのか―それを。

若子は静かに目を閉じ、内側から湧き上がる痛みと衝撃を必死に押し込めた。

長い沈黙のあと、彼女はゆっくりと顔を上げ、修をまっすぐに見つめた。

「......ごめんなさい。私、あなたを誤解してた」

かすれる声で言った。

「私は......こんなに酷いことになってるなんて、思ってなかった。きっと、そこまでじゃないって......」

喉が痛くて、もう何も言葉が出なかった。

全部、勘違いだった。

信じたかったけど―

現実は、残酷だった。

西也は、本当にそんなことをしていた。

あの状況でも、修は西也を殺さなかった。

代わりに、必死で自分を探してくれた。

―結局、彼は、元夫でありながら、いまも自分を想ってくれていた。

それなのに、どうして、こんなふうになってしまったんだろう。

離婚する前、修のそばには雅子がいた。

そして今は、侑子がいる。

......でも、この件に関しては、確かに自分が修を誤解していた。

たとえ、修がこのまま警察に通報したとしても、若子には何も言う資格はなかった。

「......」

修は、心のどこかで覚悟していた。

若子は、きっと最後まで西也をかばう。

きっと、あんな映像を見せても、「きっと何か事情がある」と言う―

そう思っていた。

だから、彼女がこんなふうに素直に謝るとは思っていなかった。

修は、どう反応していいか分からなくなった。

悲しみと絶望に浸る覚悟をしていたのに―

若子は、またしても彼に希望を与えたのだった。

この世界で、修の心をここまで揺さぶることができるのは―きっと若子しかいない。

修はそっと手を伸ばし、彼女の肩に軽く触れた。そして、
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Comments (4)
goodnovel comment avatar
barairose88
やっとやっと少しだけ転機が訪れましたね…   若子は、何とか修の真実の愛に気がつくことが出来た…  そして、修の命を狙った西也に驚き、裁く気持ちも納得出来た… でも、まだまだお互い、大切なことが言えてない… 過去のしがらみに縛られていて、齟齬もある… 次回、いよいよ修が侑子に疑いの目を向ける展開か…  侑子は、庇護欲を掻き立てる手練手管と、更には伝家の宝刀 心臓発作で抗うのでしょうね… 修!もう絶対に、騙されないで! そして1日も早く病を治し、近い未来、暁ちゃんをその腕に抱いて欲しい!
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hayelow488
確かに西也は、事故後から、ノラに脳を改造されたんじゃないかってくらい別人だから、昔の彼を知ってれば信じたい気持ちも分かる。 でも、ここまで来たら、西也を庇ってる場合じゃない。犯罪者に息子を預けてることに危機感を持たないと! 今の若子では、侑子やノラの悪巧みにも太刀打できない気がする。 若子、もっと真実を見抜ける強い女の子に覚醒できないかな?
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むーちゃん
騙されやすく人を見抜けないのは若子も修もある意味温室育ちな部分があるからなのでしょうか。 若子も暁の父親は修だと言えばいいのに… 仮に侑子が妊娠していたとしても暁は修の子である事は変わらないのだから、存在を隠す意味が分かりません。 それに、あんな映像を見せられたら真っ先に西也に託した暁の身が心配になると思うのだけど…映像見せられてもまだ西也の弁護? 色々と???です。
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