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応募

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-06-12 18:49:16

 離婚協議の日程が決まってから数日後。

 佳苗はパソコンの前に座っていた。

 画面には求人サイト。

 例の事務職の募集ページが表示されている。

 佳苗は何度も内容を読み返した。

 勤務時間。

 勤務地。

 仕事内容。

 もう覚えてしまうほど読んでいる。

「……どうしよう」

 小さく呟く。

 応募するだけだ。

 まだ採用が決まったわけではない。

 それなのに。

 妙に緊張する。

 その時。

 後ろから声がした。

「応募しないのか」

 佳苗は肩を震わせる。

「先輩」

 振り返る。

 雄吾が立っていた。

「驚かせないでください」

「お前が気づかないだけだ」

 いつものやり取りだった。

 佳苗は苦笑する。

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   前日の夜

     面接の前日。 佳苗は朝から落ち着かなかった。 参考書を開いても。 テレビをつけても。 何だか集中できない。「……緊張してる」 誰もいない部屋で呟く。 自分でも分かっていた。 面接なんて何年ぶりだろう。 いや。 十年以上かもしれない。 そう思うだけで胃が重くなる。 その日の夕方。 雄吾が帰宅した。「ただいま」「おかえりなさい」 佳苗はソファから立ち上がる。 雄吾はその顔を見るなり言った。「緊張してるな」 佳苗は固まった。「そんなに分かりやすいですか」「ああ」 即答だった。 佳苗は肩を落とす。「面接ですから」 そう言う。 すると。 雄吾は鞄を置きながら答えた。「そうだな」 珍しく否定しなかった。 佳苗は少しだけ安心する。 緊張して当たり前らしい。 夕食の後。 佳苗はノートを見直していた。 志望動機。 自己紹介。 想定質問。 何度も読み返しているうちに。 逆に不安になってくる。「これでいいのかな……」 その時。 向かいの席へコーヒーが置かれた。 雄吾だった。「ありがとうございます」 佳苗はカップを受け取る。 温かい。 少しだけ肩の力が抜けた。「先輩」「何だ」「私、変なこと言ったらどうしましょう」 雄吾は少し考える。 そして。「言うかもしれないな」 真顔で答えた。

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   返事

     応募を済ませてから三日後。 佳苗は朝から落ち着かなかった。 理由は分かっている。 メールだ。 応募した会社からの連絡が来るかもしれない。 そう思うだけで。 何度もスマホを確認してしまう。「気になるなら見ればいいだろ」 コーヒーを飲みながら雄吾が言った。 佳苗は苦笑する。「見てるんです」「じゃあ待て」 正論だった。 佳苗は反論できない。 その時。 スマホが震えた。 二人とも視線を向ける。 佳苗の心臓が跳ねた。 画面を見る。 メール。 応募先の会社だった。「えっ」 思わず声が出る。 佳苗は慌ててメールを開いた。 数秒。 画面を見つめる。 そして。「面接です」 顔を上げた。「面接の日程調整だそうです」 雄吾は小さく頷く。「そうか」 いつも通りの反応。 だが。 佳苗にはそれで十分だった。 不採用ではなかった。 まずはそこが嬉しい。「どうしよう」 思わず呟く。「何がだ」「面接です」「そうだな」「緊張します」 すると。 雄吾は少しだけ考えた。 そして。「落ち着け」 と言った。「それができたら苦労しません」 佳苗は即座に返す。 雄吾は珍しく少しだけ笑った。 その日の夜。 佳苗は面接の練習をしていた。 志望動機。 自己紹介。 職歴。 ノートへ書き出してみる。 だが。

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   応募

     離婚協議の日程が決まってから数日後。 佳苗はパソコンの前に座っていた。 画面には求人サイト。 例の事務職の募集ページが表示されている。 佳苗は何度も内容を読み返した。 勤務時間。 勤務地。 仕事内容。 もう覚えてしまうほど読んでいる。「……どうしよう」 小さく呟く。 応募するだけだ。 まだ採用が決まったわけではない。 それなのに。 妙に緊張する。 その時。 後ろから声がした。「応募しないのか」 佳苗は肩を震わせる。「先輩」 振り返る。 雄吾が立っていた。「驚かせないでください」「お前が気づかないだけだ」 いつものやり取りだった。 佳苗は苦笑する。 そして。 画面へ視線を戻した。「迷ってるんです」「何を」「採用されなかったらどうしようかなって」 正直な気持ちだった。 ブランクは長い。 資格もまだ取得していない。 年齢だって若くない。 不安はたくさんある。 すると。 雄吾は椅子の背もたれへ手を置いた。「落ちたら別を受ければいい」 あっさりした答え。 佳苗は思わず笑う。「簡単に言いますね」「簡単な話だからな」 雄吾は本気らしい。 佳苗は少しだけ肩の力を抜いた。 この人はいつもそうだ。 難しく考えない。 いや。 考えているのだろうけれど。 余計な不安まで背負わせない。「先輩」「何だ」「私、本当に働けますかね」

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   協議の日程

     翌日の夕方。 佳苗はリビングのテーブルで資格の勉強をしていた。 問題集を開く。 ノートへ答えを書く。 以前より集中できている。 自分でもそう思った。 その時。 スマホが震えた。 雄吾だった。 画面を確認する。 そして。 小さく息を吐いた。「佳苗」 呼ばれる。「はい」 佳苗は顔を上げた。 雄吾はスマホを置く。「三浦からだ」 佳苗の背筋が伸びる。 離婚の話だと分かった。「日程が決まったらしい」 佳苗は黙る。 いよいよだ。 そう思った。「来週だそうだ」 思ったより早い。 佳苗は小さく頷いた。「そうですか」 自分でも驚くほど落ち着いていた。 もっと緊張すると思っていた。 もっと怖くなると思っていた。 けれど。 不思議と冷静だった。「出るかどうかはまだ決まってない」 雄吾が続ける。「まずは代理人同士の話し合いだ」 佳苗は少し安心する。 いきなり悟と顔を合わせるわけではないらしい。「先輩」「何だ」「悟さんは来るんですか」 尋ねる。 雄吾は少し考えた。「おそらくな」 佳苗は黙る。 そうだろう。 本人同士の問題なのだから。 当然だ。 その時。 雄吾が佳苗を見る。「会いたいか」 静かな声。 佳苗は少しだけ考える。 そして。 首を横に振った。「まだ」 それが正直な気持ちだった。 怒り

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   覚悟

     離婚協議。 その言葉は思ったより重かった。 夕食のあと。 佳苗は一人で自室にいた。 履歴書の画面は開いたまま。 けれど。 視線はほとんど動いていない。 考えているのは別のことだった。 ――離婚協議。 つまり、 離婚に向けた具体的な話し合いだ。 佳苗は小さく息を吐く。 いよいよ来た。 そう思った。 これまでは書類や連絡だけだった。 けれど。 ここからは違う。 現実になる。 その時。 ドアがノックされた。「佳苗」 雄吾だった。「はい」 ドアを開ける。 雄吾はいつものようにコーヒーを持っていた。 佳苗は思わず笑う。「ありがとうございます」 受け取る。 温かい。 最近。 このやり取りが当たり前になっていた。「考え事か」 雄吾が言う。 佳苗は少しだけ苦笑した。「顔に出てます?」「ああ」 即答だった。 佳苗は観念する。「離婚協議のことです」 正直に言った。 雄吾は頷く。「そうだろうな」 そして。 しばらく黙る。 佳苗も黙った。 静かな時間。 やがて。 佳苗はぽつりと呟く。「変ですよね」「何がだ」「離婚したいと思っていたのに」 佳苗はカップへ視線を落とす。「いざ進むと緊張します」 雄吾は何も言わない。 続きを待っている。 佳苗は少しだけ笑った。「怖いわけじゃないんです」 本当に。

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   小さな自信

     翌日の午後。 佳苗はノートパソコンの前に座っていた。 画面には履歴書作成サイト。 何度も入力しては消して。 また入力する。「難しい……」 思わず呟く。 職歴。 資格。 志望動機。 昔なら普通に書けたはずなのに。 長いブランクがあるだけで、 急に自信がなくなる。 その時。 リビングのドアが開いた。 雄吾だった。「何してる」 佳苗は画面を指差す。「履歴書です」 雄吾が覗き込む。「進んでないな」「うっ」 図星だった。 佳苗は顔をしかめる。「志望動機が書けなくて」「本当のことを書けばいい」 簡単に言う。 佳苗はため息を吐いた。「それが難しいんです」「何でだ」「ブランクが長いので」 雄吾は少し黙る。 そして。「それが理由か」「え?」「働きたいから働く」 雄吾は淡々と言った。「それで十分だろ」 佳苗は目を瞬かせる。 そんなものでいいのだろうか。「みんな立派なこと書いてますよ」「建前だ」 即答だった。 佳苗は思わず吹き出す。「先輩」「何だ」「夢がないです」「現実的と言え」 真顔で返される。 佳苗は声を上げて笑った。 その時。 ふと気づく。 最近。 こうして笑うことが増えた。 何気ない会話。 何気ない毎日。 それだけで。 少しずつ元気になっている。

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