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昔から変わらない人

作者: 影畑凛星
last update 公開日: 2026-05-21 06:03:46

「失礼します」

 午後。

 三浦が追加資料を持ってマンションへやってきた。

「今日は確認事項だけですので、長くはかかりません」

「ありがとうございます」

 佳苗は小さく頭を下げる。

 リビングへ座り、資料を受け取る。

 だが次の瞬間。

 佳苗の指先が止まった。

 そこには悟と恵の写真。

 ホテルへ入る姿。

 腕を組んで笑い合う様子。

 言い逃れのできない証拠だった。

「……っ」

 胸がざわつく。

 分かっていたはずなのに。

 実際に目にすると苦しい。

「すみません、刺激が強かったですね」

 三浦が静かに資料を閉じようとする。

 だがその前に。

 すっと横から手が伸びた。

「今日はここまでだ」

 低い声。

 雄吾だった。

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   何をしているの?

    「お母さん!」 佳苗は慌てて浴室へ入り、シャワーを止めた。 母はブラウスもスカートも着たままだった。髪から水を滴らせ、呆然と佳苗を見ている。「何してるの? 転んだ?」「……佳苗」「怪我したの? 気分悪い?」 佳苗はタオルを取って母の肩へ掛けた。「とにかく着替えて。こんな格好してたら――」「今日、来るなんて言ってなかったでしょう」 母がぽつりと言った。 佳苗の手が止まる。「え?」「どうして来たの?」「連絡つかなかったからだよ。昨日具合悪いって言ってたし、心配したから」「……心配したの?」「当たり前でしょう?」 母の顔が、ほんの少し緩んだ。 その表情に、佳苗は言いようのない違和感を覚えた。「それより、どうして服着たままシャワー浴びてたの?」「……」「お母さん?」 母は目を逸らした。「ちょっと、濡れただけよ」「ちょっとって量じゃないでしょう」「もういいじゃない。着替えるから」 母が浴室から出ようとする。 佳苗はその腕を掴んだ。「待って」「何?」「昨日から、本当に具合悪かった?」 母の表情が変わった。「何よ、また疑うの?」「だっておかしいよ」「何がおかしいのよ」「病院には行きたくない。薬もいらない。でも私には来てほしいって、そればっかりでしょう?」「一人で具合悪くなったら心細いのは普通でしょう!」「だったら、なんで服着たままシャワー浴びてるの?」 母は答えなかった。 佳苗の胸の奥に、嫌な予感が広がっていく。「……お母さん」「何よ」

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   来てほしい理由

     それから数日、母から体調不良の連絡はなかった。 佳苗も気にはしていたが、何も言ってこないなら元気なのだろうと思っていた。 そんなある日の夜。 夕食を終えた頃、スマートフォンが鳴った。「お母さん?」『佳苗……今、大丈夫?』 弱々しい声だった。「どうしたの?」『ちょっと気分が悪くて』「また?」 佳苗は思わず聞き返した。『そんな言い方しなくてもいいでしょう』「ごめん。最近多いから心配になったの。熱は?」『熱はないと思う』「吐いたりした?」『そこまでは……』「立てる?」『立てるわよ』 話を聞く限り、緊急性はなさそうだった。「明日、病院行こう。最近何度も具合悪くなってるし」『病院はいいの』「でも――」『佳苗、来てくれない?』 まただった。「今から?」『少しだけでいいから』「何か買ってきてほしいものがあるの?」『そうじゃないけど……一人だと心細いのよ』 佳苗は時計を見た。 もう遅い。「今日は行けないよ」『どうして?』「もう夜だし、明日も仕事だから」『この前は来てくれたじゃない』 佳苗は黙った。「あのときは熱もあったし、食べるものもなかったでしょう?」『具合が悪くなかったら、来てくれないの?』「そういう話じゃないよ」『じゃあ来てよ』 その言葉に、佳苗は眉を寄せた。「お母さん。今、本当に具合悪い?」 電話の向こうが静かになった。『……何よ、それ』「病院には行きたくない。でも私には来てほしいって、最近ずっとそうだから」『仮病だって言いたいの?』「そこまでは言ってないよ」『言ってるのと同じでしょう!』 急に声が大きくなった。 さっきまでの弱々しい声とはまるで違う。 佳苗はますます違和感を覚えた。「とにかく、今日は行けない。明日も具合悪かったら病院、一緒に行くから」『もういい!』 電話は一方的に切れた。     ◇ 翌朝。 佳苗は念のため母へメッセージを送った。『体調どう?』 昼になっても既読がつかない。 夕方になっても同じだった。 電話も繋がらない。「……おかしいな」 昨日あれだけ具合が悪いと言っていたことを思い出すと、さすがに放っておけなかった。 仕事を終えた佳苗は、そのまま母の家へ向かった。 合鍵で中へ入る。「お母さん?」 返事はない。 靴はある。

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   また具合が悪い

     母の風邪は、数日ですっかり良くなった。『もう熱もないし、元気よ』 そう連絡が来て、佳苗も安心した。『よかった。無理しないでね』『この前は本当にありがとう』『どういたしまして』 それからしばらく、母との間に大きな問題は起こらなかった。     ◇ 二週間ほど経ったある日の夕方。 仕事を終えた佳苗のもとへ、母から電話が掛かってきた。「もしもし?」『佳苗? 今、仕事終わった?』「うん。どうしたの?」『ちょっとね……また具合が悪くて』「また?」 佳苗は足を止めた。「風邪ぶり返したの?」『分からないけど、朝からなんとなくだるくて』「熱は?」『少しあるかもしれない』「測ってないの?」『まだ』「じゃあ測ってみて。食べるものはある?」『この前買ってきてもらったものは、もうないわね』 佳苗は時計を見る。 このあと雄吾と待ち合わせをしていた。「動けないくらい具合悪い?」『そこまでじゃないわよ』「じゃあ、とりあえず熱測ってみて。高かったら病院行った方がいいよ」『……来てくれないの?』「え?」『この前は来てくれたでしょう?』 佳苗は少し戸惑った。「あのときは本当に熱があって、食べるものもなかったから」『今日だって具合悪いのよ』「うん。だから心配してるよ。でも、動けるなら今日は家で休んで、明日も治らなかったら病院に行った方がいいと思う」 電話の向こうが静かになる。「何か必要なら、ネットスーパーで送ろうか?」『……いいわ』「本当に?」『そこまでしてもらわなくて大丈夫』

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   試すようなこと

     母との電話から数日後。 佳苗のもとへ、今度は恵から電話が掛かってきた。『お姉ちゃん、今大丈夫?』「うん。どうしたの?」『お母さんから変なこと言われた』「変なこと?」『しばらく私から連絡しないでって』 佳苗は眉を寄せた。「どうして?」『お姉ちゃんがいつ気づくか見たいんだって』「……何それ」 思わず声が低くなる。『私もやめなよって言ったんだけどさ』「うん」『だって、私がお母さんと普通に連絡取ってたら、本当に何かあったときはお姉ちゃんにも言うでしょ? それじゃ意味ないって』 佳苗はしばらく言葉が出なかった。 母が何を確かめたいのかは分かる。 自分から連絡しなくても、娘が心配してくれるのか。 けれど、そのために恵まで巻き込むのは違う。「恵は普通にしてて」『もちろん。そのつもり』「お母さんに何かあったら教えて」『当たり前じゃん』 恵は呆れたように言った。『こういうの、試すのよくないと思うんだけど』「私もそう思う」     ◇ その日の夜、佳苗は母へ電話を掛けた。『どうしたの?』「恵から聞いたよ」 母が黙る。「私がいつ連絡するか確かめたいって、本当?」『……恵、言ったのね』「お母さん」『別に大したことじゃないでしょう?』「大したことだよ」『ただ、あなたがどれくらい私のことを気にしてるのか知りたかっただけよ』「だったら普通に聞いて」『聞いたら意味ないじゃない』 佳苗は小さく息を吐いた。「そういうふうに試されるの、嫌だよ」『試すって……そんなつもり

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   待っているのに

     母から連絡が来なくなって、一週間が過ぎた。 佳苗も最初の数日は気にしていたが、仕事に追われているうちに、いつもの生活へ戻っていた。 そんなある日、恵からメッセージが届く。『お母さんから連絡あった?』『ないよ』『やっぱり』 嫌な予感がして、佳苗は電話を掛けた。「何かあった?」『いや、何もないんだけどさ。今日電話したら、お姉ちゃんから一週間も連絡ないって言ってたから』「……それだけ?」『それだけ』 佳苗は眉間を押さえた。「お母さんからも連絡ないよ」『私もそう言ったんだけど』「何て?」『たまには娘の方から連絡するものでしょうって』「この前、私から連絡したこともあったんだけどな……」『覚えてないんじゃない?』「覚えてると思う」 きっと、そういう問題ではない。 母は今、自分が何もしなくても佳苗が気づいてくれることを待っているのだ。     ◇ 電話を切ったあと、佳苗は迷った。 このまま放っておいてもいい。 けれど、母と話したくないわけでもなかった。 結局、その日の夜にメッセージを送った。『元気?』 すぐに既読がついた。『元気よ』『最近連絡なかったから』 返事はしばらく来なかった。『佳苗も連絡くれなかったでしょう』『うん。お互い様だね』 また沈黙する。 数分後。『普通、親が連絡しなかったら心配しない?』 佳苗は画面を見つめた。『一週間くらいなら、忙しいのかなって思うよ』『倒れてるかもしれないのに?』『そのときは連絡して。必要ならすぐ行くから』 母が求めている答えではないことは分かっていた。『連絡できない状態だったらどうするの?

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   約束の順番

     日曜日。 佳苗は予定通り雄吾と出かけた。 昼食を済ませ、以前から見たかった家具店を回る。それだけの休日だった。 それでも、佳苗はときどきスマートフォンを気にしていた。「母親から連絡?」「いえ。来てないです」「なら何で見る」「なんとなく……」 雄吾は少し呆れたように佳苗を見る。「昨日のこと気にしてるのか?」「少し」「佳苗は午後なら会えるって言ったんだろ」「はい」「それを断ったのは向こうだ」「分かってるんですけど」 佳苗は苦笑した。「お母さん、楽しみにしてたのかなって」「だったら午後から来ればよかっただろ」「……そうなんですよね」 雄吾の答えは単純だった。 けれど、その通りでもある。 佳苗は母に会うことを拒否していない。 ただ、先に入っていた約束を守っただけだ。     ◇ 夕方、恵からメッセージが届いた。『今日お母さんち行った?』『行ってないよ』『だよね』『どうしたの?』 しばらくして、電話が掛かってきた。『私、今日呼ばれたんだよね』「お母さんに?」『うん。お姉ちゃんが来なくなったから、ご飯食べない?って』「行ったの?」『行ったよ。暇だったし』 そこまでは何も問題ない。『でもさ、お母さん、お姉ちゃんの話ばっかりするの』「私の?」『雄吾さんとの予定を優先されたって』 佳苗はため息をついた。「優先したんじゃなくて、先に約束してたの」『そう言ったよ』「恵が?」『うん。そしたら、結婚したら夫が一番になるものなのかって聞かれた』

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   監視する妹

     ホテルへ入る佳苗と雄吾。 暗い夜道で撮られたはずなのに、驚くほど鮮明だった。「……どうして」 佳苗の指先が震える。 まるで誰かに見張られていたみたいだった。『ねぇお姉ちゃん』『その人、誰?』『もしかして浮気?』 次々届くメッセージ。 佳苗は顔を青ざめさせた。 浮気。 その言葉に胸が痛む。 裏切っていたのは悟たちの方なのに、なぜ自分が責められなければいけないのだろう。「見せろ」 雄吾が静かにスマホを受け取る。 メッセージ画面を見た瞬間、その目が冷えた。「……なるほど」「先輩」「撮られていたな」 低い声。 感情を押し殺したような響き。「どうしよう……」

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   今夜だけでも、俺を頼れ

    「俺は昔から、お前しか欲しくない」 低い声が耳元で響く。 佳苗は息を呑んだ。 車内の空気が熱い。 逃げ場がない。 雄吾の視線は真っ直ぐで、冗談の気配なんて微塵もなかった。「……先輩」 喉が震える。 理解が追いつかない。 昔から? ずっと? そんなはずない。 自分は特別な人間じゃない。 妹みたいに愛嬌があるわけでも、美人なわけでもない。 ただ都合よく利用されるだけの女だった。「信じられないか」 雄吾が静かに言う。 佳苗は答えられなかった。 すると雄吾は小さく息を吐き、身体を離す。「まあいい」「え……」「今すぐ答えを求める気はない」 その言葉に、佳苗は

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   監視されていた女

     もう二度と、お前をあいつらのところへ戻したりしない。 その言葉が、佳苗の胸に重く落ちる。「……どうして」 気づけば口にしていた。 雄吾が視線を向ける。「どうして、そこまでしてくれるんですか」 本当に分からなかった。 大学時代、少し関わりがあっただけ。 卒業後は一度も会っていない。 それなのに、この男は突然現れて、自分を助けると言う。 しかも、まるで最初から全部知っていたみたいに。「昔世話になった」 雄吾は短く答えた。「レポート、覚えてるか」 佳苗は目を瞬く。 大学二年の頃。 雄吾が長期入院していた時期があった。 単位が危ないと聞いて、佳苗は講義ノートをまと

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   逃がすつもりはない

    「やっと捕まえた」 耳元で囁かれた低い声に、佳苗の心臓が大きく跳ねた。 捕まえた。 その言葉は、優しいのにどこか危険だった。「榊原、先輩……?」 佳苗が戸惑う中、雄吾は佳苗の手首を掴んだまま、ゆっくり顔を上げる。 その視線の先には、こちらへ歩いてくる悟がいた。「佳苗!」 苛立った声。 悟は佳苗を見るなり、露骨に顔をしかめた。「何やってんだよ」 だが次の瞬間、雄吾の姿に気づき、動きが止まる。「……誰?」 警戒した声音。 雄吾は答えない。 ただ静かに佳苗の前へ立った。 庇うように。 その背中の広さに、佳苗は息を呑む。「佳苗、こっち来い」 悟が手を伸ばす。 

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