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第623話

Author: かおる
影斗の唇には、相変わらず余裕をたたえた笑みが浮かんでいた。

その表情は終始くつろいでいて、目の前の殺気立った空気にも一切動じていない。

一方の靖は、顔に明らかな不快を滲ませながらも、やがて手を下ろした。

そして、冷ややかに吐き捨てるように言った。

「......愚か者が」

誰に向けて言ったのか、定かではない。

彼はすでに、事故の一部始終を目にしていた。

本来なら、朝陽の前で星を一度叱りつけ、それで葛西家の怒りをなだめ──大事にせず終わらせるつもりだったのだ。

星の行動は、どう取り繕っても動機があると見られる。

弁明しても通じる余地は少ない。

ならば、さっさと和解に持ち込むのが最も現実的な落としどころだった。

――星に平手打ちを一発くれてやり、彼女に朝陽へ謝罪させる。

そのうえで、明日香が口添えしてくれれば、雲井家と葛西家の付き合いからしても、自然と事は収まる。

だが、それを台無しにしたのが──目の前の二人。

靖の心中は冷めた軽蔑で満たされていた。

「本当に頭の回らない連中だ......」

星の取り巻きの質の低さには、改めて呆れるばかりだった。

明日香の周りの人間と比べれば、雲泥の差だ。

たとえ葛西家の後ろ盾があろうと、品位というものが決定的に欠けている。

「......ふん」

短く鼻を鳴らすと、靖は星から視線を外した。

彼女が自分の顔を立てる気がないなら、もう関わらない。

勝手に痛い目を見ればいい。

朝陽はその様子を見て、内心で薄く笑った。

靖の狙いがどこにあるのか、理解していないほど愚かではない。

──もし、あの平手打ちが決まっていたら?

そして明日香が「姉を許してあげて」と一言添えたなら、彼も恩に着せる形で矛を収めただろう。

だが、雅臣と影斗が横から割って入ったおかげで、すべてがご破算になった。

おかげで堂々と、星に報復できる。

これほど都合のいい展開はない。

――――

「どなたが通報されたんです?」

警察官が周囲を見回して尋ねた。

「故意による殺人という件で」

誠一が一歩前に出た。

「俺です。

ドライブレコーダーの映像はすでに提出済みです。

彼女の行動は、明らかに故意です」

警官は、先ほど水野弁護士が述べた理屈をそのまま伝えた。

誠一は一瞬呆気に取られたが、すぐに吹き出すように笑った
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