ANMELDEN「一緒に住めってことですか?」
聞き返すと、祖母が眼鏡越しに私を見た。
「嫌なの?」
「そりゃ、もちろん……」律が私の脇腹を指で押した。
「わかりました」
「何がわかったの」 「紗奈のことは、俺が見ます」家族の前で、ごく自然に腰を抱かれた。薄いブラウス越しに手のひらの熱が広がる。私は笑顔のまま、彼の革靴を思いきり踏んだ。
びくともしない。法廷用の靴には鉄板でも入っているのか。
「離れには寝室が2つあります」
祖母が言った。
「朝食と夕食は母屋で一緒に。今週中に病院にも行きなさい」
病院。その2文字で口の中が乾いた。
「まだ早すぎるんじゃ……」
「何週なの?」頭が真っ白になった私の代わりに、律がすぐ答える。
「5週前後です。落ち着いてから受診します」
あまりに自信たっぷりで、私まで一瞬、自分のおなかを見下ろしてしまった。
離れの扉が閉まるなり、私は律の胸を押した。
「いったい何のつもり?」
「質問が広すぎる」 「膝ついたことも、結婚するって言ったことも、一緒に住むって言ったことも、全部!」律はネクタイをほどき、ソファに座った。
「俺の子だって言っただろ」
「生き延びるための嘘だったの。あんたが否定してくれたら、私がおかしかったってことで終わらせるつもりだった!」 「終わっただろうな」ジャケットを脱ぎながら、彼が言う。
「土曜日には黒瀬と食事。来月には婚約。『午後4時』は結婚祝いみたいに会社に置いていく」
「それは私が解決すること」 「で、選んだ解決策が妊娠?」図星だった。
私は腕を組み、ソファの向かいに立った。
「明日の朝、本当のことを言う」
「そしたら昼までに、おまえの祖母は黒瀬との婚約記事を出すぞ」 「……でしょうね」 「1か月だけ持たせろ」 「1か月?」 「その間に、おまえのブランドを一族の支配から切り離せる方法を探す。おまえは見合いを避ける。俺は嘘が崩れないようにする」 「なんでそこまで?」律が私を見上げた。
「おまえが俺を選んだから」
「パニックになって浮かんだ名前だっただけ」 「なおさら光栄だな。非常時に真っ先に思い出したんだろ」 「法廷でも屁理屈で勝つの?」 「相手がおまえくらい隙だらけなら」クッションをつかんだ瞬間、インターホンが鳴った。
家事スタッフが2人、私のスーツケースと律のスーツバッグを持って立っていた。母の行動力は宅配便より速い。
寝室の前には大きな箱まで置かれた。
[プレママ・プレパパ快眠セット]
中身は妊婦用の抱き枕、葉酸、ペアのパジャマ。胸には大きく書いてある。
ママになる準備中。
パパになる準備中。私は指2本で紺色のパジャマをつまんだ。ぱたん、と閉まった箱のふたまで、私を笑っている気がする。同居初日から、人間としての体面が先に退去しそうだ。
「着たら尊厳を失いそう」
律は平然と、自分のバッグの上に置いた。
「着用写真を要求されるかもしれない」
「うちの家族を捜査機関みたいに言わないで」 「捜査機関よりしつこいだろ」部屋割りもすぐ決まった。私は日当たりのいい大きい部屋を選び、律は異議を唱えなかった。
ただ、その部屋のシャワーは水圧が弱いと教えてくれた。じゃあ小さい部屋にすると言ったころには、彼はもう大きいほうに自分のスーツケースを運び込んでいた。
「詐欺じゃない?」
「重要事項は説明した。選んだのはおまえ」 「弁護士との同居って、毎日が契約トラブルなのね」律がスマホのメモを開く。
「だからルールを決める」
「同居のルール?」 「共犯者行動規範」1つ。家族の前では突き放さない。
2つ。妊娠についての質問に1人で答えない。 3つ。相手の発言を即座に否定しない。 4つ。嘘がばれる行動をしない。「4つ目、真っ先に破ったの誰?」
「膝をついたのは、むしろ信憑性を高めた」 「その自信、どこから来るの?」 「勝率」律はメモを保存した。
「恋人設定も合わせよう。交際開始日、初デート、どっちが告白したか」
「20年も一緒にいるんだよ。大抵のことは知ってるでしょ」 「初めてのキスは?」 「してない」 「初めて寝たのは?」 「それも当然、してな……」言葉が止まった。家族がいちばん喜んで聞きそうな質問だ。
私たちはソファに座り、即席の恋愛年表を作った。告白したのは律。場所はホテルの庭。交際3か月。
細かく決めるほど、穴が増える。
「どっちからキスした?」
律が聞いた。
「あんた」
「なんで俺?」 「ずっと好きだったんでしょ」 「わかった。場所は?」 「どこでもいい」 「『どこでも』じゃ記憶に残らない」律が身を乗り出す。ソファの上の距離が、いきなり縮んだ。
「作り話の記憶は、質問されると揺らぐ」
彼の視線が、私の唇に一瞬止まった。
「いっそ今、1つ作っておこうか」
「新郎が消えた」兄の言葉で、ブライズルームが凍った。母はまず警察を呼ぼうと言い、玲子さんは息子が逃げるはずがないと、まず兄の襟首をつかんだ。「最後に見たのは、あなたでしょう!」「なんで僕が容疑者なんですか!」私はもう1度、律に電話した。[電源が入っていないため、留守番電話サービスに接続します]脈が速くなった。それでも、結婚式から逃げたとは思わなかった。15年待った男だ。いなくなったなら、理由がある。問題は、その理由がどうして開始10分前に発生したのか、ということだった。そのとき、『5時から』の花音から電話が来た。『代表、庭の入口で、ウェディングケーキの配送車が接触事故を起こしたんです。運転手さんが頭を打って……』「けがは? 大丈夫?」『ケーキが遅れてるので一ノ瀬先生が確認に出てきたら、事故になっていて。すぐ119番してくれました。運転手さん、意識はあります。ただ、先生のスマホが車の下に落ちて、壊れちゃって』全員が窓へ殺到した。庭の入口から、黒いタキシード姿の律が歩いてくる。片手には事故車から取り出したケーキの箱。白いシャツの袖には、土埃がついていた。扉を開けた律の胸を、私はブーケで1度たたいた。「人を先に助けたのは、よかった。でも伝言くらい残してよ!」「悠真さんに、伝えてもらうよう頼んだけど」全員が兄を見た。兄は撮影スタッフ用のイヤホンを片耳から外し、固まった。「僕に言った?」「ケーキの車が事故を起こした。運転手さんを確認して、すぐ戻るって」「僕、『ケーキの車が着いた。運転手さんに確認してくる』って聞こえたんだけど……」「元凶、発見」律が息を整え、箱を開ける。星形の砂糖細工を飾った白いケーキは、片側が少し傾いていた。でも崩れてはいなかった。「予備もあるでしょ。どうしてこれを持ってきたの?」「おまえが作った、最初のウェディングケーキだろ。助けられるなら、助けたい」それ以上、怒れなかった。律はケーキより先に、私の顔を見た。「驚かせた?」「新郎の捜索願、出すところだった」「先に弁護人を選任する」「一生、無料で引き受けて」律が私の手を握る。「その契約なら、今すぐ署名するよ」開始まで、あと3分。母と玲子さんがクリームを拭い、ネクタイを直した。兄はケーキを持って走り、美緒は一部始終を撮影する。「
「今度は、何から逃げるつもり?」祖母の質問に、私は病院の検査結果を取り出した。「何からも逃げません。本当に妊娠したんです」母は紙を受け取り、光に透かした。「これ、本物?」「病院でもらったの」兄はスマホで、病院の印を調べた。「印は同じだな」「なんで偽造鑑定までしてるの!」律が密封袋に入れた検査薬4本を、テーブルに並べた。「今日、紗奈が自分で検査したものです」玲子さんは2本ずつの線を確かめても、すぐには喜べなかった。「前のも、陽性だったでしょう?」「あれは、美緒のでした」「今回は美緒に、尿まで借りたんじゃないわよね?」「玲子さん!」悔しい。でも、返す言葉はない。信頼を1度失うと、真実1つに、証拠が4つずつ必要になる。母が試すように聞いた。「赤ちゃんの呼び名は?」「まだない」「前もそう言ったわよ」「本当に妊娠したからって、呼び名が自動で降ってくるわけじゃないから!」兄が顎に手を当てる。「今回は、より悔しそうではあるな」「それ、科学的な基準なの?」祖母が立ち上がった。「病院へ行きましょう」「もう夜9時です」「救急外来は開いているでしょう」「妊娠の確認だけで行ったら、家族全員出入り禁止にされます!」結局、律が担当医に電話した。医師は私の同意を確認してから、検査結果が陽性だったと説明した。それでも祖母は、自分で直接聞くと言って、翌日、家族全員を病院へ連れていった。診察室の前に、祖母、母、兄、玲子さん、秘書まで並んで座る。ほかの患者さんが、私たちを見物していた。「ご家族が大勢なんですね」医師が言った。「妊娠したって嘘をついた前科がありまして」医師は意味がわからないまま、笑った。血液検査の結果まで確認して、ようやく家族の顔が変わる。「妊娠初期に合う数値です」母は3度も聞き直し、兄は結果の氏名と生年月日を照合した。祖母が院長に電話しようとしたので、私はスマホを取り上げた。「もう信じてください」「あなたの実績が、華々しいものだから」「1回だけです!」母が私を抱きしめた。玲子さんはバッグから、黄色い靴下を取り出す。最初に帰国した日に持ってきて、私に片方を渡したあと、大切に残していたものだった。「奇跡ちゃん、おばあちゃんですよ!」「まだ呼び名は決めてません」「先に押さえた者勝ちよ」兄が
2本の線が出た検査薬を持って出ると、美緒が立ち上がった。「本当なの?」「不良品かもしれないじゃない」「さっき薬局で買ったばかりよ」「蒸発線ってことも……」「そんなにはっきりした蒸発線なら、メーカーが賞をくれるわよ」私は検査薬を明かりにかざした。最初の嘘のときに借りたものと、同じ2本の線。あのときは、ばれるのが怖くて手が震えた。今は、信じていいのかわからなくて震えている。「律に電話して」「だめ」「どうして?」「また信じてもらえなかったら?」美緒があきれた顔をした。「あの男なら、あんたが宇宙人の子を妊娠したって言っても、まず宇宙法を調べるわよ」「家族が信じてくれない」「見合いもないのに、何から逃げるためだと思うわけ?」「妊娠したって嘘をつく癖がついた、とか」自分で言っていて、ばかばかしくなった。信頼をなくした人間は、本当のことを前にしても、まず証拠を考えてしまう。美緒が検査薬を、あと3本買ってきた。私は水を飲み、待ってから、1本ずつ確かめた。4本全部、陽性だった。写真を撮って、消した。前のように証拠を作るより、先に律と喜びたかった。「私、お母さんになるのかな」口にすると、急に涙が出た。美緒が抱きしめ、背中をさすってくれる。「うん。本当にね」「でも、まだ病院へ行ってない」「じゃあ、今から行こう」「律なしで?」「さっきは、言わないって言ったじゃない」私が右往左往していると、トイレの外から聞き慣れた声がした。「紗奈?」律だった。「裁判が終わった。ケーキ、決まった?」私は検査薬をペーパーで隠した。美緒が口だけで聞く。言う?勢いよく首を横に振った。扉を開けると、律がケーキの箱を持って立っていた。青ざめた私を見るなり、眉を寄せる。「具合、悪いのか?」「違う」「吐いたって聞いたけど」「バター、食べすぎただけ」彼の視線が、後ろの洗面台へ向いた。体で隠したけれど、ペーパーの下から検査薬の持ち手が1つのぞいていた。「それ、何?」「何でもない」「前もそう言って、美緒の検査薬を持ってたよな」律が近づく。私は4本まとめて背中へ隠した。「今回も、美緒の?」「違う」「じゃあ?」もう、耐えられなかった。4本を一度に差し出す。「私の」律が、そのまま固まった。「4本とも?」「うん」
「紗奈。俺と、本当に結婚してくれる?」私は膝をついた律を見下ろした。「嫌」その顔が、一瞬で固まる。「どうして?」「あんただけが、プロポーズするのは」「どういうこと?」私は椅子を下り、向かいに膝をついた。焦げた卵の匂いがいっぱいの、キッチンの床。私は律のシャツを着て、彼もさっき拾ったシャツ姿。プロポーズにしては、ロマンより焦げた卵の存在感のほうが強かった。「最初は、律だけが責任を取るって言ったでしょ。今度は、一緒にしよう」彼の目が、ゆっくり大きくなる。「私も、律と結婚したい」「本当に?」「家族も会社も、嘘も関係なく。私が、そうしたいの」昨夜の彼の質問を、そのまま返した。律の目元が赤くなる。「録音しとけばよかった」「一生、繰り返し言ってあげるから。覚えて」ようやく、こわばっていた口元が上がった。「人を驚かせる才能は、相変わらずだな」「嘘の才能もあったし」「それはなかった。全国にばれただろ」律は何度も、私の答えを確かめた。「最初の『嫌』は撤回?」「律だけがするプロポーズについては、嫌」「結婚の意思は確定?」「はい」「撤回不可?」「律、口を閉じて」そこでやっと、長く息を吐いた。私をさらに強く抱きしめ、そのまま2人で床に座り込む。「私からのプロポーズの贈り物は?」「おまえでいい」「後悔しないでね。維持費、高いよ」「15年分、前払いしてる」彼が、私の指輪に口づけた。その夜、私たちはもう1度、両家の家族を呼んだ。同じ食卓で最初の婚約を取り消してから、半月もたっていない。祖母は話を聞いても、しばらく無表情だった。「妊娠したからでは、ないわね?」「違います」母が慎重に聞く。「検査薬とかは、ないのよね?」「ないってば!」兄がスマホを持ち上げる。「プロポーズの証拠動画は?」「ない」「妊娠を偽った前科者の単独証言で、結婚を承認してもいいんですか?」母が兄の背中を強くたたいた。「妹のお祝いの日に、わざわざそんなこと言わなきゃだめ?」「信頼回復の手順を提案しただけなのに」律が、焦げた卵の隣で撮った自撮りを見せた。2人とも髪はぼさぼさ。私はスプーンを持って笑っている。母はその写真だけで涙を拭い、玲子さんはテーブルをたたいた。「やっと、本当に親戚になれる!」玲子さんは最初の婚約時に買っ
完売を祝う打ち上げが終わったのは、夜11時だった。兄が律の肩をたたく。「紗奈をまた泣かせたら、次は監視カメラじゃなく、おまえの黒歴史を公開するからな」「悠真さんがお持ちのものより、俺のほうが紗奈の動画を持ってます」「2人とも、消して」美緒はタクシーに乗りながら、私にウインクした。「今日は私の検査薬が要らなくて済むように、気をつけてね」「美緒!」タクシーは、もう走り出していた。律が笑いをこらえ、車のドアを開けてくれる。「どちらまで、お送りしましょうか。代表」自分のワンルーム、と言うべきだった。でも今日だけは、1人で帰りたくなかった。「律の家」ドアにかけた彼の手が止まる。「本当に?」「うん」「飲んだだろ」「シャンパン半杯。アルコール検査する?」「後悔しないか、検査してる」私はネクタイをつかみ、引き寄せた。「15年待ったんでしょ。私から来たのに、なんであんたが怖がるの?」律の目が、一瞬で変わった。彼のマンションには、私の痕跡がまだあった。玄関のスリッパ。洗面所の新しい歯ブラシ。好きな桃の香りのクレンジングと、ヘアゴム。「いつ用意したの?」「たまに泊まるから」「3回だけだよ」「4回目を待ってた」リビングの棚には、古い写真が飾られていた。端に、20歳のころ失くしたと大騒ぎしたヘアピンまである。「なんで、これがここに?」「車の中で見つけた」「10年以上、返す機会なかったの?」「返したら、おまえのものが1つ減るだろ」むちゃくちゃな理屈なのに、彼にはかなり真剣な理由だったらしい。高校の卒業式、大学祭、私が初めてブランドを立ち上げた日。どの写真でも、律はカメラより私を見ていた。「知らなかったの、私だけか」「おまえは俺を、安全だと思いすぎてた」写真の隣には、映画の半券とメモが、小さな額に入っていた。20歳のころ、ナプキンに書いた『次はあんたがポップコーン買って』まである。「こんなのも、取っておくんだ」「おまえにもらったものの捨て方は、覚えなかった」15年が数字ではなく物として並ぶと、鼻の奥がつんとした。後ろから律に抱きしめられる。肩に顎が触れ、腰に両腕が回った。「今、見てくれたから。それでいい」私は振り返って、キスをした。玄関よりゆっくりで、観覧車より深い。律の手が腰をなぞり、止まる。
「あちらとの結婚も、する気はないの?」祖母の質問に、店内の視線が一斉に集まった。律は電卓を持ったまま固まっている。ピンクのエプロン姿で、結婚の許可を待つ冷静な弁護士。一生に1度見られるかどうかの光景だった。「結婚は、まだです」律の顔から光が消えた。私は笑いをこらえ、続ける。「先に私からちゃんと告白して、ちゃんと付き合ってからにします」「15年待った人を、まだ待たせるの?」祖母が律の味方についたので、兄が感心した。「うちの権力関係、更新されたな」律がエプロンを外し、近づいてくる。「あと、どれくらい?」「1か月って言ったでしょ」「今日で11日」「本当に数えてたんだ」「分単位で」「仕事に戻ったら、困りそうね」私は彼の手を取った。「でも、減刑の可能性はある」律の目が、すぐ明るくなった。祖母はせき払いし、店を見回す。「明日の社員用のおやつに、全量注文しましょう」「予約の順番は守ってください」「割り込むと言っているのではなく、先払いするということです」「返金不可ですよ」「すっかり商売人ね」祖母が法人カードを差し出した。『5時から』初めての、大口注文だった。午後3時、用意した商品はすべて売り切れた。怜司側の法務からは、納入取り消しによる損害を補償し、録音資料を削除するという合意案が届いた。律がタブレットを差し出す。「受ける?」「公開謝罪までは要らない。その代わり、二度と私の事業や私生活に関わらないって条項を入れて」「代表のご指示どおりに」「それと、フィナンシェを1箱送って」「どうして?」「お金だけじゃできない商売も、食べてみないとわからないでしょ」「内容証明の代わりに、お菓子?」「お詫び兼、授業料」「味で反省してくれたら、成功だな」真顔で言うから、笑いがこぼれた。私たちは扉に『完売』の紙を貼った。美緒がおなかをなで、ぼやく。「嘘の妊娠のせいで、本物の妊婦がいちばん苦労したわ」「ずっと座ってたじゃない」「悪質なコメントを読む精神労働を、甘く見ないで」兄と花音が片づけを引き受け、私たちを裏へ押し出した。「代表は先生と、たまってる契約交渉を済ませてきてください」律と私は、店の裏の細い路地に出た。傾いた日に、看板の影が長く伸びている。自分で生地を作り、契約書を読み、失敗したお菓子を捨て







