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第12話

Author: 楽しくお金を稼ごう
天音はドアが開く音を聞いた。

天音は蓮司に関わりたくもないし、もう二度と彼の顔を見たくなかった。

目を閉じて眠ったふりをした。

残り28日――もうすぐだ。

蓮司は天音が眠っているのを見て、反応がないことを確認すると、ベッドのそばに座り、天音の冷たい手を握りしめた。深い黒い瞳には、溢れんばかりの想いが宿っていた。

蓮司は健太の言葉を思い返した。天音が蓮司と恵里のことを知れば、必ず離婚して蓮司のもとを去るだろうと。

だが今、天音はおとなしく病床に横たわり、真実を知った人間には到底見えなかった。

それほど蓮司は天音を気にしすぎて、いつも不安だった。

「天音は絶対に俺から離れられない」

「俺が必ず守る。もう二度と天音に何も起きさせない」

蓮司はもう一方の手を天音の下腹に当て、そっと撫でた。

蓮司の掌の温もりを感じながら、天音の目尻からは一筋の涙が滑り落ちた。

天音は生理痛がひどくて、大智を産んでからはさらに悪化していた。生理の日には蓮司が付き添い、薬を飲ませ、お腹をさすり、寝つくまで看病してくれていた。

しかし今、蓮司のその優しさは毒のようで、天音を苦しめるだけだった。

天音の苦しみは言葉では言い表せず、全身が痛かった。

どれほど時間が経ったか分からないが、疲れ果てた彼女はいつの間にか眠ってしまった。

目を覚ますと、自分はSUVの後部座席にいた。車は大智の幼稚園の近くに停まっていた。

バッグはすぐそばにあった。

天音は携帯を取り出し、美咲に電話をかけた。病院での話を、一人のうちに確かめておきたかった。

何度かけても応答がなかったので、天音は仕方なく電話を切った。

午後四時半――大智が下校する時間だった。

蓮司は大智を迎えに行っているはずだった。

頭がぼんやりしたまま、携帯を持って車を降り、少し歩くことにした。

「パパ、どうして恵里さんを海外に行かせるの?

恵里さんが海外に行ったら、もう会えなくなるじゃん」

「大智、パパにも事情があるんだよ」

聞き覚えのある声がすぐ近くから聞こえてきて、天音はその方向に進み、茂みの隙間からそっと覗いた。

そこには、蓮司が冷たい表情で立ち尽くし、恵里はしゃがんで大智の涙を拭いていた。

「大智くん、私が海外に行っても電話するからね。

学校が休みになったら、私に会いに来てくれてもいいのよ。

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Comments (1)
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YOKO
此奴の気持ち、 理解不能。 下半身脳思考で行動するし‥ 獣同様に24時間愛人と。 しかも絵里だっけ?あの女と従姉妹だか親戚じゃないか? tabooでしょ。
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