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作者: 水沼早紀
last update 公開日: 2026-06-25 19:38:49

「優しいんだな、あの人……」

あの一瞬で、彼がすごく紳士的な人だと感じた。

「お待たせしました。お水、飲んでください」

すぐに戻ってきた男性は、私にお水を渡してくれる。

「ありがとう、ございます」

私はお水を身体の中に流し込む。

「少し落ち着きましたか?」

「はい。……ご迷惑をおかけして、すみません」

その男性は「いえ、お気になさらず」と優しく微笑む。

少しの間沈黙が続くが、男性の方から「……あの、何かありましたか?」と声を掛けてくれる。

「もちろん、答えたくないなら、答えなくて大丈夫です」

そう言ってくれたその男性に、気付いたら私は「……実は、ついさっき婚約してた人と別れたんです」と伝えていた。

「え……?」

「ついさっきまで、婚約者だったんですけど……彼が浮気した女性との間に子供が出来たから、結婚出来ないって言われたんです」

そうやって愛想笑いしていると、急になんだか涙で視界が滲みだす。

「あれっ……」

私、泣いてる……?

涙が溢れていると知った瞬間にはもう遅くて、両眼からボタボタと涙がこぼれ落ちてくる。

「すみません……私、泣くつもりじゃっ……」

その瞬間、隣の彼は私の身体をそっと抱き寄せる。

「こういう時は、泣いていいんです。 むしろ、泣くべきです」

私はそんなことを言われたせいか、涙が止まらなくて声を押し殺して泣いてしまった。

「あなたは自分の人生をその彼に壊されたんです。 むしろ、もっと怒ってもいいくらいです」

どうしてこの人は、初対面の私にこんなに優しくしてくれるのだろうか。

妙にその優しさが、心にじんわりと染みていく。

「でも……両親は私の結婚をすごく喜んでくれてるんです。 だから、余計に心苦しくてっ……」

「……そうですよね。ご両親は、やっぱり嬉しいですよね」

彼は私の話を真剣に聞いてくれた。

「彼、雪輝って言うんですけど……彼の顔とかはまだ両親は知らなくて、婚約者を紹介したいとだけ言ってたんです。 彼を両親に紹介する日も、もう決めてたのに……まさか、こんなことになるなんて」

本当に情けないし、もう両親に合わせる顔もない。

「これから、幸せになるはずだったのにな……」

そんな私の言葉に、彼は「あなたなら、幸せになれますよ、きっと」と言葉をくれる。

「……私、男の見る目、なかったですね」

「そんなこと、ないと思いますよ」

「えっ……?」

その彼は、私に「たまたま婚約してた人が、そういう人だっただけで、見る目がないわけじゃないと思います」と言ってくれた。

「……そう、ですかね」

初対面の男性に慰めてもらうことになるなんて思わなかったけど、ちょっと嬉しい気持ちになる。

「その人の全てを理解するなんて、難しいと思います」

「え?」  

「家族だって、その全てを理解するなんて不可能だと思います。……だから、今回のことはあなたのせいじゃない」

彼は私の目を真剣な眼差しで、見つめる。

「……優しいんですね、あなたは」

すると突然、「賢哉けんや」と言われ「はい?」と聞き返す。

「俺の名前。四之宮しのみや賢哉、よろしくね」

「四之宮……さん」

いい名前だな、名前からして優しそう。

「私は……舞美絵です。 早瀬はやせ舞美絵まみえです。 よろしくお願いします、四之宮さん」

四之宮さんは私に「舞美絵さんか、いい名前ですね」と言ってくれた。

「ありがとうございます。……四之宮さんも、いい名前ですね」

四之宮さんと話しているうちに、涙は引っ込んでしまっていた。

「舞美絵さんと、呼んでもいいですか?」

「は、はい。……どうぞ」

四之宮さんに「舞美絵さん」と呼ばれても、何も嫌な気がしなかった。

「舞美絵さん」

「はい」

すると四之宮さんは、私に向かって「彼にあなたと婚約破棄したこと、後悔させてあげるというのは、どうでしょう?」と問いかけてくる。

「……はい?」

四之宮さんは続けて「舞美絵さんではなく、その彼女との未来を選んだ彼のことを、後悔させてあげるというのは、どうですか?」と再び口にした。

「え、あの……それって、どういう意味ですか?」

四之宮さんから言われている意味が、全く理解出来ない。

雪輝に後悔させる、とは……?

「舞美絵さん、良ければ……俺と結婚しませんか?」

「………」

えっ……?

「えっ!?」

け、結婚っ……?! 

「し、四之宮さん、何を言ってるんですかっ!?」

いきなり結婚だなんてっ……!

「俺と結婚すれば、舞美絵さんは必ず幸せになります。 いえ、俺が必ず幸せにします、あなたを」

「えっと……四之宮さん、本気ですか?」

こんなまだ出会って数十分の女にプロポーズするとか、何を考えてるんだろう?!

しかもさっき婚約破棄をしたばかりの私に、プロポーズだなんて……!

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