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#4

Penulis: 七賀ごふん
last update Tanggal publikasi: 2026-04-04 08:50:39

「なあ。もう、一緒にいよう。……雅月」

名前を呼ばれる度、心臓が跳ねる。

俺を名前で呼ぶ人が学校にいないから、尚さら意識してしまうのかもしれない。

でも逆も然り。先輩を名前で呼んでる人は見たことがない。大体苗字か、姫の愛称。

そして、姫と言うにはカッコよすぎんか? というのが、個人の感想。

「で、ですね。一緒に……いますか。朋空先輩」

彼の隣に並んで歩く。すごい特権を手に入れてしまった気がする。意味もなく名前を呼んだりして、アホな俺は絶対浮かれてる。

訊きたいことはたくさんあるけど、とりあえず今は、傍にいられるだけで充分だと思った。

ただ一緒に校内を歩いてるだけで、ものすごい視線を感じた。先輩はこれをいつも一人で耐えてるのか。すごいな……。

すごいけど、やっぱり心配だ。

初めて一緒に学校から帰って、マンションのエレベーターで別れた。

その後もどこか浮き足立ち、一晩目ぇギンギンだった。結局、一睡もせずに朝を迎えてしまった。

「行ってきます……」

「行ってらっしゃーい」

倦怠感を抱えながら部屋を出て、エレベーターに乗る。

一夜明け、朋空先輩と話せるようになった喜びがじわじわ込み上げてくる。

俺なんかが先輩の傍にいたら色々迷惑かけちゃうかもしれないけど……それでも、これからはこっそり先輩を守ろう。なるべく目立たずに、陰ながらフォローするんだ。

改めて決意し、エントランスを出る。意気揚々と外に乗り出した俺の前に、彼が現れた。

「よう」

「うわああ!!」

そこにいたのは、眼鏡をかけた朋空先輩だった。

昨日会っていたとしても、自宅で三年以上出くわさなかった人に会うと結構驚くということを知った。自分でもびっくりするぐらい後ろに退いてしまい、先輩は苦笑する。

「会おうと思えばいつでも会えるに決まってるだろ。同じマンションなんだから」

「あぉ……っ」

心の準備ができなかったせいで、アザラシみたいにアオアオ言ってしまう。

「あ、おあようございます」

「おはよう」

二人で高校の方へ歩き出す。徒歩圏内だけど、時間はめちゃめちゃ長く感じた。

「と、朋空先輩。俺が捺高に入ったことは、いつから知ってました?」

「ん……去年の夏ぐらい?」

「余裕で半年以上経ってるし、俺より前に知ってたんじゃないですか。先輩も話しかけてくれたらいいのに」

さすがに酷いと思って頬を膨らますと、先輩は吹き出した。

「悪かった、拗ねるなって。……もう俺のことなんて忘れてそうだと思ったから」

「俺と全く同じこと思ってる……」

「だな。お互い杞憂だったと」

遠慮し合ってたんだ。

そう思うとものすごく時間を無駄にしたというか、……もったいないことをした。

再会したこと自体は、奇跡とまではいかない。

マンションから歩いて行ける距離の学校だ。たまたま同じ学力で、たまたま一個違いだったから、会う可能性は高い。でも。

「……馬鹿したなぁ。俺、先輩に話したいこといっぱいあったんです。合唱祭のコンクールに出たこととか、修学旅行でした失敗とか、高校に合格した時のこととか。すぐに会って伝えて、一緒に笑いたかった」

拳を握り、伏し目がちに零す。

本当に、ささいなことでも話したかった。先輩の反応を見たかったんだ。

今となっては後の祭りだけど。急に恥ずかくなり笑って誤魔化すと、彼も残念そうに答えた。

「そうか。一緒に喜んでやりたかったな。……ごめん」

「先輩が謝ることはありませんよ。俺が突撃すれば良かったんです」

「はは。でも尚さら、これからは今までの分取り返していこう」

先輩は軽く空を見上げ、次いで俺のネクタイを直した。

「昔とは違うし。もう大丈夫だから」

「……?」

昔、か。

先輩は時々、懐かしそうに呟く。それは俺も知らない、ずっと遠くの記憶を指してる気がした。

まるでなにかを悔いてる。それを知ろうと、脳の奥底に仕舞った過去を辿ろうとした。

先輩と会わなくなったのは、正確にはいつ頃だっけ。

会わなくなる前に、……何があったんだっけ。

「雅月」

ぼうっとしていたせいで、腕を引き寄せられる。見れば目の前は横断歩道で、信号は赤だった。

「危ないぞ。何か顔色も悪くないか」

「あぁ……すみません。寝不足で」

あなたのことを一晩中考えていました。なんて口が裂けても言えねえ。

「大丈夫ですよ。死ぬほど眠いけど」

学生鞄を肩に掛け直し、ため息をつく。すると先輩は少し考えて、それから俺の前髪を持ち上げた。

「じゃ、放課後は一緒に寝る?」

「え!」

先輩と寝る。何だ……早朝だってのに、何かすごく危うい響きに聞こえる。

フリーズしてると、先輩は手を離して歩き出した。

「お前さえ良ければな。心配しなくても、キスはもうしないし」

「あ。はぁ……」

何だ、しないのか。

……ん? 

何でちょっとがっかりしてんだ、俺。

意味不明過ぎて首を傾げる。

あのキスは事故みたいなもんで、深い意味はないはず。

そう思うのに、あっさりなかったことにされると……何故か胸の辺りがチクッとした。

それでも、やっぱり先輩が心配だから。

「それじゃ、放課後……研究室で」

別れ際に会う約束をした。互いの教室へ行こうとした時、彼の背中に声を掛けた。

朋空先輩は少しだけ振り返り、微笑んだ。

「まいったな。いつもの数倍、一日が長く感じそう」

言葉とは裏腹に、声はいくらか弾んでるように感じる。

「ううん……」

あと、俺も同じ感想。

放課後まで長い。長すぎる。

ひとりになった後も、その場で少し立ち尽くしてしまった。

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  • 帰ろうよ、朋空先輩   #2

    朋空先輩は、昔家に帰りたくなかった俺を救ってくれた。────だから俺も、家に帰ろうとしない朋空先輩を放っておけなかったんだ。時間が流れるのは本当に速い。自分が進まないと置いていかれてるような怖さがある。残酷。……だけど時間が解決してくれることもあるし、悪いことばかりじゃないんだ。俺は眠り姫並に知名度が上がってしまったけど、ファンクラブの人達の協力もあり、楽しく学校生活を送れた。( 三月か )カレンダーをめくり、春の暦を数える。季節は流れ、あっという間に卒業式を迎えた。俺も来月からは三年生。受験を控え、忙しい毎日が始まる。気を引き締めないと……!誰にも名前を覚えてもらえない睡眠研究会は、後輩の子に譲ることにした。俺ももう寝てるわけにはいかないし、あの研究室は朋空先輩と過ごす為の場所になってしまっていたから……もう留まる理由はなかった。あ、ベッドはさすがに問題なので家に持って帰った。睡眠に関する資料は残してるから、後は後輩が好きなように使ってくれたら嬉しい。桜は咲いてないけど、卒業式当日は晴れやかな青空だった。いつもと変わらない。けど落ち着かない、特別な日。体育館から卒業生が退場し、保護者も順々に帰っていく。あっという間に寂しくなった空間を後にし、俺も移動した。絶対に見つけるなら校門だな。大勢ひとが立ち話をしている門で捜していると、不意に肩を叩かれた。「入ちゃん! やっほー」「赤城先輩。卒業おめでとうございます」「ありがと。やー、思い返すとマジであっという間だったな。入ちゃんもやりたいことあったら後回しにしないで、やった方がいいよ。この感じだと次は気付いたとき四十路だから」「それは気が早すぎですって」苦笑しながら、いつもと変わらない調子の赤城先輩にお辞儀した。本当に色々あったけど、彼にも感謝しかない。なんとボタンまでくれたので、有り難くポケットに仕舞った。「でも先輩、好きな女の子にあげなくていいんですか?」 「あ、違う違う。これはアレ、あいつが来たら見せな」「あいつ?」誰のことかと不思議に思ってると、また誰かに名前を呼ばれた。「入川君!」「あ、進堂先輩も卒業おめでとうございます」俺のファンクラブの自称会長。彼はやつれた顔で俺の手をとった。「はぁ……これから毎日入川君の顔を見られなくなると思うと、胃に穴が空き

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    そうだ、……これだ。俺が先輩にしたいこと。喜んでほしいことは。自分の部屋を出て、真っ直ぐキッチンに向かった。買ったは良いけど全然使ってなかったお弁当箱を取り出し、目の前に佇む。問題は、やっぱり中身のラインナップ。眉間に皺を寄せながら考えていると、リビングでテレビを観ていた母がやってきた。「あれ。雅月、お弁当持ってくの?」母は、今まで時間がある時は俺に弁当を作って持たせてくれていた。仕事が忙しくなってからは俺も自分で作っていた。とは言え二年に上がってからは、めんどくさくて売店に頼ってしまっている。でも今回は、自分の為に作るんじゃない。「うん。とりあえず、明日だけ?」「そうなの。お母さん作ろうか?」「あ! ありがとう、俺が作るから大丈夫!」俺が食べるわけじゃないし、俺が作らないと意味がない。母の提案は申し訳ないけど断り、久しぶりに弁当作りを開始した。いつもご飯を作ってるのに、弁当に詰めるメニューとなると緊張する。しかも、好きな人に渡すなら尚さら……。とりあえず厚焼き玉子は上手くいった。甘めにしちゃったけど、彼の好みだったら良いな。茹でブロッコリーとミニトマト、それから定番のウィンナー。メインはゆかりのおにぎり。彩りは我ながらばっちりだ。……よし。完成!何だかんだやってたら日付が変わりそうだった。これで寝坊したら笑えない。すぐに台所を片付けて、明日の為にベッドに入った。先輩、喜んでくれるかな……。どきどきとわくわくが同じ量放出されて、アドレナリンが出まくってる。結局また興奮して、あまり眠れなかった。( でもちゃんと起きれたからオッケーってことにしとこう……。 )ふらつきながら家を出る。いつもの時間に通学路へ出ると、朋空先輩を見つけた。「先輩、おはやいございます」「おはよう。何かろれつ回ってないけど、大丈夫か?」先輩は振り向きざま、俺のことを心配そうに見つめた。「何か目の下のクマもすごいし。……昨日寝てないのか?」「いえ、ちょっとは寝ました。放課後寝るから大丈夫ですよ」学校に到着し、校門を抜ける。人が多くなる前に渡そうと思い、手に持っていた紙袋を掲げた。「朋空先輩。その……弁当作ってきたんです。め、迷惑じゃなければ……食べてください」「弁当!?」「わわっ。弁当です」先輩は珍しく大声を上げた。俺もちょっとびっく

  • 帰ろうよ、朋空先輩   #3

    ううん……悩む。結局何も思いつかずに放課後を迎えた。研究室へ行こうとすると、ちょうど朋空先輩を見つけた。「朋……」すぐに駆け寄ろうとしたけと、同じタイミングで先輩に話しかけた男子がいた。おっと……。思わず口を押さえ、足を止める。「あの、辰野先輩。良かったらちょっとお話できませんか……?」どうやら一年生のようだ。恥ずかしそうに声を掛けてるから、多分朋空先輩に好意を持ってるんだろう。何もなければ応援してしまいたくなる。でも朋空先輩と付き合ってる俺としては、胸が痛くなった。先輩は何て返すんだろう……。不安に押されながら様子を見守っていると、朋空先輩は優しい声で、その男の子に振り返った。「ごめんね。今日はこれから用事があるんだ」「そ、そうですか。すみません、引き止めて」「ううん。君も気をつけて帰ってね」おぉ。さすがに慣れてる。二人のやりとりを見て、ホッとした。男の子に見つからないよう遠回りして研究室に向かう。部屋の前へ行くと、朋空先輩がこちらを見て笑った。「お疲れ」「お、お疲れ様です。すぐに鍵あけますね!」職員室で借りてきた鍵を取り出し、ドアを開ける。部屋に入ると、突然ドアに押しつけられた。「ち、ちょっと先輩っ?」「もう少しこのままでいさせて。体力回復してんだ」そのままぎゅっと抱き締められる。先輩からすれば抱き枕に思いきり抱き着いてるような感覚なんだろうけど、俺はめちゃくちゃ心臓に悪い。「ところで、さっき廊下にいただろ。何で声掛けなかったんだ?」「うぇっ。み、見えちゃいました?」「チラッとな」朋空先輩は体を離し、俺の顔を覗き込む。「……あの子が、先輩に告白するのかと思って……声掛けたらまずい気がして、隠れちゃいました」「隠れる必要はないだろ。OKするわけないんだから」「でも、躊躇はしちゃいますよ。可愛い子でしたし」先輩から視線を外し、俯く。ただでさえ可愛い子が照れくさそうにしてたら、勝てる気がしない。そう言って項垂れると、先輩は俺の腰を引き寄せた。「確かに可愛い子だったな」「や、やっぱり」「でも、俺は可愛いだけで付き合ったりしないから」ドアの鍵がかかる音が聞こえた。俯く俺の顔に手を添え、ゆっくりと上向かせる。「俺が欲しいのは、ずっと前からお前だけだよ。……雅月」「先輩……んっ」唇を塞がれる。以前

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