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#65 吹雪の主

last update تاريخ النشر: 2026-10-21 20:03:45

 ガタガタと、猛吹雪に叩かれた窓が鳴る。空どころか一寸先さえ雪に覆い隠され、ガラス窓から外を見上げる春香の心までも押し殺しそうだった。

「止まないねえ」

 ミルクティーを傾ける真弓が、そんな彼を眺めながら、脚を組んでそう言った。ストーブはパチパチと音を立て、二階建ての家を温めるばかり。

「こうも足止めされるのでは、予定が狂ってしまうな」

 窓から視線を外し、溜息交じりで春香は言う。

「すみませんね、こうも長い吹雪というのは珍しいのですが」

 銀髪の夫が、苦い顔で応じる。夕食も終わり、夫婦揃って後片付けをしている所だった。

「もう四日になるな。食料や水の備蓄は大丈夫なのか?」

「一応、この時期になると二日閉じ込められることはよくあるので、念のため一週間程度は籠れるようにはしてあるんですよ。四日というのは、三年ぶりですかね」

 食器洗いを終えた夫妻は、淹れておいたミルクティーをカップに注ぐ。まだ熱い。湯気が立つ。

「雷業様も、どうぞ」

 勧められた春香に断る理由などなく、短い感謝と共に席に着いた。

「奥様がご無事であればいいのですが」

 妻は、下半身をブランケットに覆った状態で言う。

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     ガタガタと、猛吹雪に叩かれた窓が鳴る。空どころか一寸先さえ雪に覆い隠され、ガラス窓から外を見上げる春香の心までも押し殺しそうだった。「止まないねえ」 ミルクティーを傾ける真弓が、そんな彼を眺めながら、脚を組んでそう言った。ストーブはパチパチと音を立て、二階建ての家を温めるばかり。「こうも足止めされるのでは、予定が狂ってしまうな」 窓から視線を外し、溜息交じりで春香は言う。「すみませんね、こうも長い吹雪というのは珍しいのですが」 銀髪の夫が、苦い顔で応じる。夕食も終わり、夫婦揃って後片付けをしている所だった。「もう四日になるな。食料や水の備蓄は大丈夫なのか?」 「一応、この時期になると二日閉じ込められることはよくあるので、念のため一週間程度は籠れるようにはしてあるんですよ。四日というのは、三年ぶりですかね」 食器洗いを終えた夫妻は、淹れておいたミルクティーをカップに注ぐ。まだ熱い。湯気が立つ。「雷業様も、どうぞ」 勧められた春香に断る理由などなく、短い感謝と共に席に着いた。「奥様がご無事であればいいのですが」 妻は、下半身をブランケットに覆った状態で言う。「無事ではあるだろう。彼奴は、元よりリズが自分の妻であるかのように語っていたからな」 「それは……どういうことなのですか?」 力なく首を横に振る春香。「わからない。ただ、彼奴にとってリズが特別な存在であることは確かだ。詳しく聞く前に逃げられてしまった」 「その、『彼奴』とは、何者なのですか?」 ティーカップを置いて、夫も会話に参加した。「言えば、君たちを巻き込んでしまう。だから、すまない、訊かないでくれ」 「龍仕人ですか?」 訊かないでくれと言ったろう、と言ってしまいたい春香だが、ぐっと抑える。まずは社交だ。「まあ、そんな所だな。とても強い、犯罪王を相手にしている」 「なるほど、雷業様がそう評されるなら、確かに田舎の衛兵など何の役にも立ちませんな……」 その会話の横、真弓は追加の角砂糖を紅茶に溶かす。「そこで、一つ聞きたいのだが」 ガラス製の砂糖壺を彼女から離しつつも、春香は夫妻に言葉を投げかけた。「吹雪の中を突破する進み方、というのはないか?」 「いえ、ないですね。誰も試みていませんし、試みた者がいたとしても帰ってきていません」 「隔靴掻痒、といった所

  • 幽世の狩人~不死の少女と妖魔狩りの少年~   #64 吹雪の前に

     巌号の欠伸が、スグフ東門で陽光に輝いた。敬礼を送る騎馬隊を背後に、春香と真弓はそれぞれの馬に跨っているが、頭の高さはまるで違う。大人と子供だ。相棒でもなく兄妹でもなく、親と子にしか見えない。「まずは、国境で出入国の審査を受けなければな」 力強く雪を巻き上げる黒い足は、そんな話をする彼に心地よい振動を齎す。「でも、狩人さんが思いの外すぐに解放してくれてよかったね。最悪、あそこに釘付けだったかもしれないし」 真弓は、春香の隣で栗毛を操る。鞄も鞍に括りつけ、持つのは弓だけ。「半日で捜査を切り上げた、ヅッダの強権のお陰だがな。仮に戻ってきた時、多少俺は嫌われているかもしれない」 ドッ、ドッと黒馬は春香の重い武具や荷物も何のその、安定した足取りで坂を上っていく。よく晴れた空に、白い雲。それでも雪は解けず、黒いマントを羽織った上でも冷気が体に届く。春香は、ハアッと白い息を吐き出した。 馬は速歩。彼の思考は、その速さと地図とを重ね合わせて所要時間を算出する。「この調子なら、日が沈む前に森の入り口の村に着くだろうな」 「夜の森を抜ける?」 「いや、危険すぎる。俺は君が逸れても構わないが、君はそうではないだろう?」 「舐めちゃってさ」 隣で、フフンと真弓は笑う。「アタシの実力は見たでしょ? そこらの龍仕人なら弓だけで殺せるから安心していいよ。むしろ、あんたが厄介なのを呼び込んでくるかもね」 「そうだな、そうとも言える」 純朴を通り過ぎて天然だよ、と言いかけた所、彼女は喉で言葉を止める。おそらく天然は通じない種類の天然だ、と推測したからだ。 一方の春香は、坂を上り切った所で、馬を止めた。ずっと向こう、黒く尖った森が見える。スグフとヘヴノヴールの間、本来なら鉄道で通り抜けるはずの森だ。レヴェダギ政府軍の鎮圧を遅らせるために、叛乱軍が線路を爆破。そこから行われた幾度とない破壊工作から鉄道が復旧するまでの目途は、まるで立っていないと春香は聞いていた。「どうしたの?」 真弓に呼びかけられ、彼は首を横に振る。「進もう。村で一泊してから、一日かけて森を抜けるぞ」 進むに連れ、空に黒雲が現れる。風も勢いを増す。バタバタと、マントの端がはためいて仕方がない。妙だな、と違和感を覚える春香の頭には、二択がある。手頃な場所に隠れ、吹雪をやり過ごすか。それとも、馬を

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