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第6話

藤崎 美咲
星乃は自分がそこへ行けば悠真にますます嫌われることがわかっていた。それでも彼の母親の立場を考えると、断ることはできなかった。

そのため彼女はいつも板挟みになり、苦しんでいた。

「星乃、あなたが以前どんな立場だったかなんて関係ないのよ。悠真の妻になった経緯もどうでもいい。ただ嫁いできた以上、自分の立場をわきまえなさい」

「夫が三日も家に帰らないのを放っておくのも問題だけど、あなたまで三日も外で遊び歩くなんて、いったい何を考えているの? 悠真の妻だという自覚はもうないの?」

佳代の声は相変わらず耳障りで、責め立てるようだった。

以前の星乃なら、黙ってその叱責に耐えただろう。だが、今は違った。

彼女は珍しくその言葉を遮った。「お義母さん、さっきおっしゃったように、私は彼の妻です。彼の母親ではありません」

「悠真はあなたの息子であって、私の息子ではないです。だから私に彼を教育し直す義務なんてありません」

「……何ですって?」佳代の顔が怒りに歪んだ。「あなた、正気なの? 私に向かってそんな口をきくなんて!」

「ただ事実を言っただけです」

佳代は怒鳴ろうとしたが、ふと何かを思い出したかのように鼻で笑った。「ふん、嫉妬で理性を失っているのね」

「まさか結衣が戻ってきたことを知っているんじゃない? この三日間、悠真は彼女と一緒にいたんでしょう?」

星乃は何も答えなかった。

佳代が結衣の帰国を知っていても不思議ではない。情報通の彼女にとって、それくらい簡単なことだった。

星乃もまた、彼女がわざとそう訊いているのだと察していた。

黙っていると、それがまるで答えのように、佳代はふっと笑みを漏らした。

「やっぱりそうなのね。だからといって、こんなふうに八つ当たりしないでくれる? でも勘違いしないで。私は悠真の母親よ。彼が誰と一緒になるかは私が決めるの。もし私があなたと離婚させたいと思ったら、明日には荷物をまとめて出て行くことになるわよ」

「だから、私に話すときは、少しは自分の立場を考えて話しなさい」

星乃が黙っていると、佳代は自分の脅しが効いたと思い込み、得意げにまくしたてた。

しかし、彼女は今日の星乃の様子がいつもと違うことに気づいていなかった。

実のところ、星乃よりも、佳代の方が結衣をずっと嫌っていた。

星乃は欠点があったし、自分が理想とするような嫁とは違ったものの、性格は従順で扱いやすかった。

また、かつては名門・篠宮家の娘であり、今は没落したとはいえ、瑞原市ではいまだに一定の地位を保っていた。

その一方で結衣は、成績優秀で海外の大学も卒業しているのに、家庭は普通。しかもどこか毅然とした誇り高さがあり、それが佳代には気に障った。

――この女が冬川家に入ってきたら、きっと面倒なことになる。

そんな危機感を佳代は初めから持っていた。

悠真と結衣が付き合っていたときも、彼女は必死に二人の仲を引き裂こうとした。

星乃と結婚した際、悠真はそれを拒むかのように、結婚初夜に家を出てクラブにこもり、二日間も戻らなかった。

それ以降、彼は星乃を避け、家に寄りつくことも減り、笑顔も消えた。

母親としてそれを見るのは辛かった。

だからこそ、今になって結衣と悠真が三日も一緒に過ごしていたと聞いたとき、佳代の心は複雑な思いで揺れていた。

とはいえ、二人を無理に引き離すのは忍びなくて、彼女は星乃に連絡した。

「星乃。母親として、あなたのためにもう一度だけ手を貸してあげるわ」

「でも忠告しておく。もう少し危機感を持ちなさい。このままだと、悠真の妻の立場すら危うくなるかもしれないわよ?」

そう言い残し、佳代は星乃の返事を待たずに電話を切った。

――もし以前なら、「悠真の妻の立場が危うい」と聞いただけで、星乃はまるで世界が崩れたかのように感じただろう。しかし今は違う。おそらくずっと前から覚悟ができていたのかもしれない。彼女はほっとしたように微笑んだ。

もう、どうなってもいい。

どうせもう、望んでなんかいないんだから。

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