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第4話

Auteur: みみ
この五年間、自分で自分を安売りしてきたのは、これだけではない。いつも感情をぶつけきって、ひとりで勝手に落ち着いて。それから、わざと何でもないみたいな声で聞く。

「……で、ごはんどうするの?」

「会社の下にさ、海鮮料理の店できたんだよ。来れば?」

ある日、亮介は淡々とこう答えた。

けど私は、魚アレルギーだ。もちろん、亮介も知っていたはず。

それなのに……

軽く頭を振って、バカみたいな思い出をこれ以上掘り返すのはやめる。代わりに、指にはめていた指輪を外して、カウンターの店員さんに差し出した。

「さっき言ってた金額でいいです。ここのVIP会員なので、そのまま口座に振り込んでください」

そう告げて、私は振り返りもせずに歩き出した。亮介の、その驚きと怒りに満ちている目つきを浴びながら。

明日には、もう実家に帰るんだ。

結婚の準備で忙しくなる前に、ちゃんと睡眠を取っておかないと。

……

ここまでハッキリした態度を見せれば、さすがに伝わると思っていた。けれど、亮介はやっぱり、人の話なんて聞かない。

寝る前、スマホの画面がひっきりなしに光り始める。送信者は全部、亮介。

【はる、お前頭おかしくなったのか?ムキになって結婚指輪まで売り飛ばすとか!

そんなことしてカッコつけて、俺に土下座させたいわけ?悪いけど、それはねえからな。

今、みさとバーにいるんだよ。お前と違って、みさはちゃんと俺の機嫌取ってくれるんだぞ】

メッセージの最後には、バーの個室で撮った動画が添えられていた。

見慣れた斜めアングル。

見慣れた二人組。

美紗は、亮介の胸にもたれかかって、完全に「勝者の顔」をしている。

亮介は彼女の肩を抱き寄せ、冷えた目つきのまま、カメラに向かって吐き捨てるように言った。

「結婚なんてさ、誰としたって同じだろ。

お前とは五年も一緒にいたんだぞ。とっくに飽きてたし、正直どうでもいい。

ガキみたいに分別つかないなら、そのままお前を捨てるだけだぞ。今の俺には金もあるし、女なんていくらでも寄ってくる」

そう言い終わると、亮介はポケットに手を突っ込んで、見覚えのある指輪を取り出した。

ついさっき、私が売ったはずの指輪だ。それを、美紗の左手の薬指にはめる。

サイズはぴったりで、指にはきれいに収まっているのに、亮介の顔色はますます悪くなっていった。しばらく無言で指輪を見つめてから、歯の隙間から絞り出すような声で、一言だけを吐き出した。

「……似合ってるよ」

動画はそこでぷつりと途切れた。そのあとすぐ、亮介のつるんでいる連中から、個別メッセージが次々と飛んでくる。

【春菜さん、亮介マジでキレてるぞ。長い付き合いだけど、あいつ本気であんな顔してんの初めて見たぞ。心の中では春菜さんのこと大事にしてるからさ、そろそろ折れてやれって。これ以上こじらせんな】

【年末結婚するんだろ?俺ら、披露宴で飲むの楽しみにしてんだからさ】

【春菜さん、キツいこと言うけどさ、これ以上拗ねてると本当に全部パーになるぞ?】

【……】

スマホは震えっぱなしだったけれど、私は一通も返さなかった。

アラームをセットして、さっさと布団に潜り込む。目を閉じたら、そのまま朝までぐっすりだった。

……

翌朝早く、私はスーツケースを引いて空港へと向かう。チェックインを済ませて搭乗口へ移動する途中、亮介から一通のメッセージが届いた。

グランドパレスホテルの、個室予約の確認画面。

そのスクリーンショットには、一行の文字が添えられていた。

【春菜、お前の勝ちでいい】

続けて届いたボイスメッセージ。かすれた声に、弱々しい芝居がかったトーンが混じっている。

「親への挨拶、俺が悪かった。みさも呼ばねえ。今日の夜、グランドパレスホテルでさ。叔父さんと叔母さんも連れてきてくれ。ちゃんと謝るから」

続いて、一枚の写真が届いた。写真には、値札のタグすら残っている、新品そのままの指輪が写っていた。

「スターリースカイ」シリーズ——この五年間、私がずっと欲しかった、あの夢みたいな指輪。

私が「別の人と結婚する」と決めたあとになって、よりによって目の前に現れるなんてね。本当に、タイミングだけはドラマみたいで笑える。

しばらく無言のまま画面を見つめ、それから短く返信する。

【謝るのはいい。でも親への挨拶は遠慮しとくよ。

私、もうすぐ結婚するんだから。あんたとは無関係だけど】

送信ボタンを押した次の瞬間、スマホは壊れたみたいに激しく震え出した。

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