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105話

Auteur: 東雲桃矢
last update Date de publication: 2026-09-12 11:00:39

「深い意味はあらへんよ。ただ、君だけ呼ぶって、映画のワンシーンみたいで、意味深な感じせぇへん?」

「は?」

 理解できずに思わず素っ頓狂な声を出すと、正樹はケタケタ笑う。

「あっはは! えぇ反応するなぁ。っと、いたた……」

 傷に障ったのか、顔をしかめる。それでも正樹はどことなく楽しそう。

「はぁ、銃弾なんか受けるモンやないなぁ。百合ちゃんも気ぃつけるんやで」

 どう返していいか分からずに黙っていると、正樹は力なく笑った。

「ここ、笑うところなんやけど」

「いいから、話して」

「はいはい。相変わらずそっけないなぁ。ま、そういうところも好きやけど」

 軽口を叩く正樹にイラっとした百合は、バッグを振り上げた。

「冗談やって。妻夫木の妻やっとるだけあって、怖いなぁ」

「はやく話しなさい」

「その前に、百合ちゃんはシオン、やっけ? あれから話は聞いとるん?」

「そうよ、だからここに来たの」

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  • 性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした   105話

    「深い意味はあらへんよ。ただ、君だけ呼ぶって、映画のワンシーンみたいで、意味深な感じせぇへん?」「は?」 理解できずに思わず素っ頓狂な声を出すと、正樹はケタケタ笑う。「あっはは! えぇ反応するなぁ。っと、いたた……」 傷に障ったのか、顔をしかめる。それでも正樹はどことなく楽しそう。「はぁ、銃弾なんか受けるモンやないなぁ。百合ちゃんも気ぃつけるんやで」 どう返していいか分からずに黙っていると、正樹は力なく笑った。「ここ、笑うところなんやけど」「いいから、話して」「はいはい。相変わらずそっけないなぁ。ま、そういうところも好きやけど」 軽口を叩く正樹にイラっとした百合は、バッグを振り上げた。「冗談やって。妻夫木の妻やっとるだけあって、怖いなぁ」「はやく話しなさい」「その前に、百合ちゃんはシオン、やっけ? あれから話は聞いとるん?」「そうよ、だからここに来たの」「そらそうか。失礼しました。あの秘書くんにも言うた通り、熊谷サンとは手ぇ組んどるよ。前に商業パーティーで、君と熊谷サンがバチバチしとったやろ? あそこに俺もおったんや」 初めて参加した商業パーティーのことを思い返す。あの時百合は、熊谷矢絃とその恋人のマキに、パクリだなんだと言われたのだ。確かにあの会場には、和ニカケの新作も展示されていた。「それで熊谷サンと手ぇ組めば、妻夫木財閥に傷をつけるくらいはできる思うたんや」「そんな理由で、あの人と組んだの?」「和ニカケは、ある意味まっさらな会社なんよ。裏との繋がりなんて、なーんもあらへん。そないな会社が妻夫木財閥に喧嘩売っても、潰されるだけや。けど、熊谷サンも、妻夫木財閥と同じく裏との繋がりがあるやろ? その上、妻夫木財閥を恨んどる。せやから手ぇ組んだわけやけど、あかんかった……」 正樹は虚空を見つめる。彼が何を思っているのか、百合には想像することすらできない。「私の誘拐に、あの人はどれくらい関わってるの?」「君を眠らせた睡

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    「盗み聞きとは悪趣味だな、紫苑」 秋明は睨みつけるが、紫苑は楽しそうに笑っている。(流石は幼馴染……。秋明さんの怖い顔に動じないなんて……) 童顔で可愛い顔をした紫苑だが、その見た目に反して肝が据わっている。秋明は凄んでも無駄だと悟ったのか、ため息をつく。「いつからそこにいた?」「秋明様が奥様に、何故辞めたのか聞いたあたりからですね」「ほとんどずっとじゃないか」「大事な話をしていたので、廊下で待ってました」「まったく……。それで、何しに来た?」「中務正樹のところに行ったので、ご報告に」 中務の名前を聞き、百合に緊張が走る。すっかり忘れていたが、あの男も銃弾が当たって入院していた。「熊谷矢絃との繋がりを認めました」「熊谷だと?」 秋明は眉間にシワを寄せる。「百合の誘拐に、あの男も関わってたのか……」「中務の言葉を信じるのなら、関わっているといっても、ガッツリ関わってるわけではなさそうです」「間接的にってことか?」「おそらく。熊谷矢絃と手は組んだけど、今回の誘拐は、少し手を貸してもらっただけ、としか答えないんです」「そこまで喋ったなら、全部話せばいいものを……」「それが……。奥様になら、全部お話するとおっしゃっていまして……」 紫苑は困ったように百合を見て、秋明はテーブルを叩いて怒りを露わにする。指名された本人は、困惑した。「どうして私なのかしら?」「まずは当事者に話すのが筋だとか……」「俺も充分当事者だがな」 秋明は苦い顔をする。脇腹を撃たれた秋明は、医者から絶対安静を言い渡されており、ベッドから出られない。正樹は正樹で太ももを撃たれて思うように動けないだろう。「私、中務のところに行くわ。紫苑、案内してちょうだい」「バカなことを言うな。病院とはいえ、何をするか分からない相手のところに、お前を行かせられるか」「言ったでしょ、守られてばかりはもう嫌って。大丈夫、無理はしない」 しばらく見つめ合っていたが、秋明はため息をつき、ベッドにもたれかかる。「紫苑、案内してやれ。中務の病室前で待機だ」「はい、秋明様。奥様、行きましょうか」「えぇ。ありがとう、秋明さん」 秋明はそっぽを向き、返事もしない。それでも、秋明に少しだけ認められた気がして嬉しかった。 紫苑の案内で、中務正樹の病室に行く。秋明のふたつ隣のVIP用

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     帰宅した百合は、探偵からの情報、秋明と藤子から聞いた話を自分なりにノートにまとめてみた。「……なんで熊谷矢絃は、金庫を壊さないのかしら?」 まとめて出たのは、素朴な疑問。熊谷家だって大手企業で金はたくさんある。それなら鍵師を呼ぶなり、破壊するなりすればいい。「中身が繊細なものか、金庫が特殊か……。なんにせよ、私がいないと開けられないと思ってるみたいだけど……」 乏しい知識で金庫を想像してみるが、SF映画に出てくるような金庫しか想像できなかった。「バカなこと考えてないで、私にできることをしないと」 百合はスマホを手に取り、エトワールに電話をかけた。「もしもし? お世話になってます。妻夫木百合です」『百合さん、どうしたんですか?』「勝手は重々承知ですが、エトワールを辞めます」 その頃、秋明の病室には紫苑が来ていた。「で、中務はなんて?」「てんで話になりませんよ。妻夫木財閥に恨みこそあれど、奥様を誘拐した理由はそれではないと言うんですから?」「どういうことだ?」「ギャンブル感覚だったんですよ。もし秋明様が来なければ、秋明様は奥様を見殺しにするような冷たい男だと、週刊誌などに売るつもりだったそうです。来たら来たで、妻夫木財閥に損害が出る。そう考えていたようで……」 呆れ返りながら報告する紫苑に、秋明はため息をつく。「バックがいるはずだ」「えぇ、そう思って色々聞きましたが、答えてくれませんでした」「生ぬるいんじゃないのか?」「残念ながら、盾になるものがなかったんです」「なんだと?」 秋明は眉間にシワを寄せる。人間誰しも、弱みがある。特に家族、友人、恋人は、弱みとして最適だ。こういった業界にいれば、それ以外でも、世間に知られたらまずいことを抱えていたりするものだ。「家族はいないのか?」「中務正樹は、由緒正しい呉服屋に産まれました。ですが、家族と反りが合わずに出ていき、和ニカケを起ち上げたんですよ。交流は広く浅く、特に親しいと呼べる人もいません。試しに家族をチラつかせましたが、始末してくれたら泣いて喜ぶと言われましたよ……」「すごいな。家族なんかどうでもいいと言ってても、いざ名前を出すと動揺するヤツが多いのに」「感心してる場合ですか」 紫苑は眉間のシワを深くし、秋明を睨む。秋明は立場が危うくなっても、焦った様子を見せることは

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    「懐かしいわ……。でも、どうして百合がこんな写真を?」「シグネットリングと、妻夫木財閥の紋章が同じだったから色々調べたの。ねぇ、母さん。熊谷家と何があったの? 秋明さんは、私が相続するはずの遺産は、熊谷家にあるって言ってたわ」「流石は律子さんの息子さんね。そこまで分かってたなんて」 藤子は力なく笑った。懐古と諦めが入り混じった笑みに、胸が痛む。「秋明さんのこと、知ってたの?」「知ってたというより、なんとなくそんな気がしたの。目元が律子さんにそっくりだったから」 藤子は1枚の写真を手に取る。それは藤子と律子が並んで写っている写真だ。「律子さんとは、仲が良かったの。同じ時期に妊娠してね。それで、お互いを励ましたりしてたわ。私達の夫は仲が悪かったし、律子さん達が引っ越してしまったから、それっきりなんだけどね」「そう……。ねぇ、どうしてアレグリアは潰れたの?」「騙されたのよ……。あぁ、本当に情けないわ……」 藤子は悔しそうに拳を握る。彼女は怒りで震えていた。「私は箱入り娘でね。働いた経験なんてないし、経営なんてさっぱりだったの。夫が亡くなった喪失感もあって、あの頃の私は冷静でいられなかった……。アレグリアの他の従業員達は、誰も社長をやりたがらなかったし、私にもできない。途方に暮れていた私に声をかけたのが、矢絃さんのお父様……」「もしかして、あの契約って……」「えぇ、熊谷学さんと契約したの。最初はね、優秀な経営者を貸してもらう代わりに、母さんが時給1200円で、使用人として働くっていう契約だったの。でも、私が金庫の番号を知らないと知ると、契約内容を書き換えて、時給を下げたの。それからどんどん内容を変えられて、百合まで巻き込むことになってしまって……。本当に、情けない母親でごめんね」「情けないなんて思ってないわ。一応確認だけど、金庫

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     迷った挙げ句、百合は自宅に帰ることにした。秋明の書斎に入り、鍵付きの引き出しを開ける。引き出しの中は以前と同じだ。 百合は椅子に座ると、封筒を手に取り、アレグリアの文字を指先でなぞる。アレグリアがどんな宝石店だったのかは、百合は知らない。存在自体を知ったのも、最近だ。「ここに、手がかりが……」 ずっと見たいと思っていたのに、真実が近づいていると思うと、言いようのない恐怖に手が止まってしまう。「もう、情けないわね、私ったら。知るために探偵を雇ったりしてたのに。はっきりさせないと意味ないでしょ」 自分にそう言い聞かせ、封筒を開けた。中には数枚の写真と、書類が入っている。「これは……」 写真は昔のもので、若い宝生夫妻が、赤ん坊を抱っこして店の前で笑っている。看板には、アレグリアと書かれていた。 他の写真には、幼稚園児くらいの百合や、店内が写っている。最後の1枚に、百合は釘付けになった。「もしかして、これって……!」 写っていたのは、ひとつのネックレス。台座にはドーム状の赤い宝石がはめ込まれており、宝石には薔薇が彫刻されている。「これが、ローズジュエリー……」 古い写真越しでも、その美しさや繊細さが伝わる。実物はもっと美しいだろう。矢絃や秋明が欲しがるのもうなずける。この技術を手に入れたら、きっと売れる。 しばらく写真を眺めた後、書類に目を通す。書類には、アレグリアの売上が書かれていた。どの数字も好調に見える。こうして見ると、アレグリアが愛されていたと分かるが、潰れた理由は分からない。「よし、行こう……!」 百合は書類や写真を封筒に戻すと、クリアファイルに入れ、大きめのバッグにしまい、車を走らせた。 ついたのは藤子の家。どうやら収穫を終えたらしく、畑はがらんとしていた。 インターホンを押すと、藤子が眠そうに目をこすりながら出てきた。「あら百合! 

  • 性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした   2話

    「何がおかしいの? 言っておきますけどね、私ひとりの稼ぎでも、母とやっていけるのよ」 更に言葉を続けるも、矢絃の勝ち誇った顔が崩れることはない。「出て行くだと? お前の母親は終身サービス契約にサインしている。違約すれば8千万だ」「8千万!? どういうこと……!?」 母の藤子は、矢絃が副社長を務める会社で清掃員として働いている。母は常々、「今の生活があるのは熊谷さんのおかげなんだよ」と言っていた。百合はてっきり、母は矢絃が自分を雇ってくれたことに感謝しているのかと思っていた。(そういえば、最近そういう言葉聞かなくなった……)「聞いてなかったのか? お前の母親が、契約書をまともに読ま

  • 性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした   1話

     平日の昼下がり。スーツを着こなした女性が、長い黒髪をなびかせながら高級住宅街を歩く。彼女の名は宝生百合。有名ブランドのデザイナーとして成功した上に、大企業の副社長という肩書をもつ優しくて顔のいい婚約者がいる。 セレブが多いこの高級住宅街の住人に身近な成功者を聞いたら、多くの人が彼女の名前をあげるだろう。百合は元々、高級住宅街に住めるような身分ではない。富裕層とは縁のない一般家庭で産まれ、物心付く前から、母とふたり暮らしをしていた。 熊谷矢絃《くまがいやいと》という肩書も顔も完璧な男と婚約し、高級住宅街に住むようになった。彼とは政略結婚の予定ではあるが、矢絃は百合を大事にしてくれている。

  • 性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした   6話

     ビルから出ると、リムジンが停まっていた。ボディガードのひとりがドアを開ける。秋明は何食わぬ顔でリムジンに乗ると、困惑しながら立ったままの百合に目を向ける。「何ぼさっと突っ立ってるんだ。はやく乗れ」「え、えぇ……」 おずおずとリムジンに乗り、百合は目を見開く。L字型をした革張りの座席があり、その向かいには小さなバーカウンターを想起させるテーブルがある。小型の冷蔵庫と食器棚もあり、食器棚の中には高そうなグラスが並んでいた。「お前は俺の隣に座るんだ」「分かったわ」 少し距離を作って座ると、秋明はあからさまに不機嫌になる。どうしたらいいか分からずにいると、秋明は距離を詰め、百合の肩に手

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     百合は疲れ切った顔で家に帰る。あの後、秋明と情報を共有していて遅くなってしまった。彼は百合が矢絃の家に住んでいると知ると、新しい家を用意するからすぐに出られるようにしろと言っていた。 これは百合にとって嬉しい話だ。1秒でもはやく、この家から出たいと思っている。(色々話したいけど、母さんはもう、寝てるだろうな……) 腕時計を見ると、もう12時になろうとしている。早朝から仕事がある母はきっと寝ているはずだ。(私も、シャワー浴びてはやく寝よう……) 自室に戻ることを考えながら玄関の前に立つと、ドアが開いた。「母さん……!」「おかえり、百合」 パジャマにカーディガンを羽織った母・藤

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