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恋人になった悪魔は甘すぎる

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-20 10:25:51

恋人になってから三日。総一は朝から困惑していた。

「おはよう、総一♡」

リリムが頬にキスをしながら起こしてくる。いつものことだが、今度は「恋人として」だ。

「うお!? いきなり何してんだよ!」

「恋人の朝のキスよ♡ 人間界のカップルは、こうするんでしょ?」

リリムはピンクのパジャマ姿で、髪も寝癖でぼさぼさ。それでも可愛いのが憎らしい。

「そんな急に変わられても……」

「何よ、嫌なの?」

リリムが唇を尖らせる。

「嫌じゃないけど、心の準備が……」

「じゃあ今度は口にしようかしら♡」

「やめろ! 朝からそんな……!」

ドアがノックされる。

「朝食の準備ができました」

ヴェルダの声だ。

「はーい! 今行くわ!」

リリムが元気よく返事をする。その頬は少し赤らんでいた。

食卓では、ヴェルダが微笑ましそうに二人を見ている。

「お二人とも、本当にお似合いですね」

「そ、そうですか?」

総一が照れくさそうに答える。

「ええ。リリム様も、以前より表情が豊かになられました」

「表情が豊か?」

「はい。恋をすると、女性は美しくなると言いますが、悪魔も同じようですね」

確かに、リリムは以前よりも輝いて見える。笑顔の回数も増えたし、仕草も柔らかくなった。

「ねえ、今日は一緒にお弁当食べましょう♡」

「いつも一緒に食べてるだろ」

「今度は恋人として、よ」

「何が違うんだよ……」

でも、内心では嬉しかった。こんな風に甘えられるのも悪くない。

登校途中、リリムは総一の腕にしがみついていた。

「ねえねえ、今度の休日、デートしない?」

「先週もデートしたじゃないか」

「あれは練習よ。今度は本格的なデート」

「本格的って?」

「映画館、遊園地、夜景の見えるレストラン♡」

「金かかりそうだな……」

「大丈夫よ! わたし、バイト始めたから」

「バイト?」

「セラフィーネのカフェを手伝ってるの。時給800円よ」

悪魔が時給800円で働く姿を想像すると、なんだか微笑ましかった。

学校に着くと、クラスメイトたちがさっそく話しかけてくる。

「霧島、リリムちゃんと付き合ってるって本当?」

「まあ……そうだな」

「マジか! 羨ましい!」

「でも大変そうだよな。あんな美人の彼女がいると」

「大変って?」

「他の男に狙われるだろ?」

確かに、リリムには告白してくる男子が後を絶たない。昨日だけで五人目だった。

「大丈夫よ」
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