Share

2 君の切ない告白と、とても悲しい言葉

Author: けいこ
last update Last Updated: 2025-03-26 22:16:04

「手の届かない人なんて、そんなことはないよ」

私は大きく首を横に振った。

「藍花さんは高嶺の花ですよ。みんなの憧れだし。あなたは男女問わず、誰からも好かれてます」

「や、やめて。そんなんじゃないよ」

あまりにも大げさな言葉に、ものすごく恥ずかしくて顔から火が出そうだった。

「藍花さんは本当に素敵な人です。側にいるだけで幸せになれる。その笑顔を見ると元気にもなれます。藍花さんは自分がどれだけ美人なのか、わかってないんです。ほんと、もったいないですよ」

「そんなこと……」

「人気者の藍花さんを独り占めしちゃいけないし、できるなんて思ってません。だから……このままで充分です。ただこのまま……あなたを好きでいさせてください。お願いします」

直立不動で顔も強ばって、それでも、瞳を潤ませながら一生懸命想いを言葉にしてくれた。

こんな私に「ただこのまま好きでいさせて」なんて……

何だか胸がキュッとなった。

だけど……

私の気持ちは変わることはない。

私は、どんなことがあっても蒼真さんが好き。

その想いは揺らぐことはないんだ。

歩夢君の気持ちはすごく嬉しい。

でも、今、ちゃんと言わなきゃいけない。

「歩夢君……。そんなこと言わないで。歩夢君のこれからの人生だよ。1度しかない大切な人生なんだから、もっとちゃんと考えてほしい。私のことを想い続けるなんて……ダメだよ、そんなこと」

私は想いを必死に伝えた。

「すみません、迷惑ですよね。やっぱりそうですよね……僕なんか相手にできませんよね」

うつむく歩夢君。

「め、迷惑とかじゃないよ。歩夢君がもし本当に私を好きになってくれたなら……やっぱり嬉しいし、有難いって思う。だけどね……」

「藍花さんには、誰か他に好きな人がいるんですよね。わかってます。藍花さんみたいな素敵な人に彼氏がいないわけ、ないですから。それくらい、わかってます」

悲しい顔をする歩夢君を見てはいられない。

誰かの気持ちを拒否することが、こんなにも苦しいことだなんて思いもしなかった。

「ごめんね。でも、ちゃんと言わなきゃダメって思うから言うね。私……私ね、好きな人がいるよ。だから……」

「だ、大丈夫です!わかってます、わかってますから。もう、本当に大丈夫です」

歩夢君は私の言葉を遮って、それ以上続けさせてはくれなかった。

心の中が罪悪感で満たされる。

歩夢君……ごめんなさい、本
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   3 君の切ない告白と、とても悲しい言葉

    「じゃあ、僕、帰ります。今日、藍花さんと話せて良かったです。ちゃんと自分の気持ちを伝えられたから。ずっとどうしようか悩んでたんで、本当に良かったと思ってます。明日からまた……仕事頑張りますね」歩夢君は、満面の笑みを浮かべて帰っていった。そうやって無理に笑ってくれていること、さすがの私にもわかる。上から目線かも知れないけれど、私は心の中で「好きになってあげられなくて……ごめんなさい」とつぶやいた。「ひどいですよね、そういうの」「えっ!」私の前に、突然出てきて冷たく言い放ったのは春香さんだった。心臓が止まるかと思った。「もしかして……聞いてたの?」「私も今、休憩中ですから。ここは別にあなたのためだけにあるわけじゃないですよね?」確かにそうだ。言い返す言葉がない。「全部聞いた?春香さん、私はね……」「藍花さんの好きな人は白川先生ですか?」「えっ!」「それとも七海先生?」春香さんの冷たい視線が私の胸に突き刺さる。「ごめんね。そういうの、プライベートなことだからあんまり答えたくないの」私は嫌な女だ。もし誰かに言いふらされたらどうしよう……と、春香さんを信じ切れない自分がいる。万が一、私のことで蒼真さんや七海先生に迷惑はかけられない。もちろん、歩夢君にも。「ズルいですよね。ちょっと可愛いからって手当り次第に男を惑わせて。本当に……いやらしい人」「春香さん、その言い方はさすがにひどいよ」「ひどいって……だって本当のことですよね?あなたは実際来栖さんを惑わせてる。色目を使って誘惑しておいて、平気でフッてしまうなんて」「色目なんて……使ってないよ」容赦ないトゲのある言葉に心が痛くて苦しくなる。「蓮見さん、私に来栖さんに告白しろって言いましたよね。来栖さんの気持ち知ってて、私に告白させてフラレるのを見たかったんですよね?本当に最低。信じられない性悪女」「ちょっと待って。知ってて言ったわけじゃないよ。フラレるのを見たいなんて、そんなことして楽しいわけないじゃない」私は、春香さんに、そんなことを平気でする人間だと思われているんだ。だとしたら、すごく悲しい。

    Last Updated : 2025-03-27
  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   4 君の切ない告白と、とても悲しい言葉

    「どうだか。私は来栖さんには告白しません。フラレるの嫌ですから。あやうくあなたの罠にはまるところでした」「罠にはめるなんて、私、絶対にそんなことしないから」「あなたみたいな男たらしを好きになるなんて、来栖さんが可哀想です。その正体をバラしてやりたいです。早く誰かと結婚してさっさと看護師辞めて下さい。その方が来栖さんは幸せになれます」「春香さん……」「私、あなたの顔を見たくないので仕事に戻ります」言いたいことだけを言って、春香さんはその場を去った。靴音が消え、誰もいなくなり、全ての音が無くなった。ポツンと1人。静寂の中で、どうしようもない深い悲しみに襲われる。どうしてそんなひどいことが言えるのか……?看護師を辞めろなどと、なぜ春香さんに言われなければならないのか?私は、悔しくてつらくて、両手のこぶしを握りしめながら泣いた。冷たい雫がどんどん頬をつたって落ちていく。ほんのしばらく、私は人を責める気持ちに支配された。「……ダメ。こんなことで泣いてちゃ……ダメだよ」私は、自分の心に言い聞かせ、冷静になれるよう数回深呼吸した。無理をして口角を上げ笑顔を作る。脳に、「私は大丈夫、元気だから」と錯覚させるために。今、春香さんに腹を立てても仕方がない。私にはまだ大切な仕事が待っているんだから。患者さんのために、私ができることは「笑顔」で励ますこと。私にはそれしかできないから――その時、頭の中に蒼真さんが浮かんだ。私を優しく抱きしめて微笑む姿。一気に気持ちが晴れていく……そうか……春香さんは、歩夢君を好き過ぎてあんなことを言ってるだけなんだ。きっとそうだ。もし白川先生が私以外の誰かを好きだと聞いてしまったら……私も、春香さんと同じように苦しくなるに違いない。誰かにヤキモチを妬いて、憎んでしまうかも知れない。いや、それだけでは済まない、私はきっと……闇の中に閉じ込められてしまう。気持ちが自分で上手くコントロールできなくて、時々おかしくなることだって……好きな人を想うとは、そのくらい大変なことだ。今、私が蒼真さんを好きな気持ちを考えれば、春香さんの心情もわかるはずなのに、ついカーッとなってしまった自分が恥ずかしい。

    Last Updated : 2025-03-27
  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   5 君の切ない告白と、とても悲しい言葉

    確かに私に対する発言はキツ過ぎる。今の春香さんには言葉を選ぶ余裕がなかったのだから仕方がない……とはいえ、やはりまだ胸が痛む。この感覚を表現するのはとても難しいし、今まで味わったことがない。私も、本当なら春香さんの気持ちを理解してあげたいけれど、まだ自分がそれほど強くないことも、残念ながら同時に実感していた。今夜の告白……歩夢君の気持ちを受け入れられないことはとても申し訳ないと思う。歩夢君に対して私はどうすればいいのだろうか?わからない……私にはわかるはずがない。今はただ、与えられた目の前の仕事をしっかり頑張るしかない。きっと、それしか……ないと思う。とにかく、自分ができることを一生懸命頑張っていたら、いろいろなことが良い方向に動いていくような気がするから。大丈夫。絶対、みんな大丈夫――いつか歩夢君も素敵な人を見つけて必ず幸せになれる。七海先生にも、私の気持ち、ちゃんと言わなければいけない。先生にも、幸せになってもらわないと困るから。2人とも、私にはとても大切で、特別な人達。だから、ずっとずっと笑顔でいてほしい。いつだって笑っててほしいんだ。勝手だけれど、そう願わずにはいられなかった。

    Last Updated : 2025-03-28
  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   1 本当のさよなら

    あれからしばらくして七海先生は病院を去った。そのせいで産婦人科の看護師達は少しモチベーションが下がってしまった気がする。それだけ先生は素晴らしい人格者だったから。でも、新しく配属になった先生も腕の良い女医さんで、みんなで新しい命のため、患者さんのために一致団結してスタートしていた。私も、気持ちを新たにして頑張る決意をした。仕事に関してはそう思えていたけれど、プライベートのことはまだ解決できていなかった。早く七海先生に返事をしないと――結局、お互い忙しく、約束の1週間はとっくに過ぎてしまっていた。明日は私が休みで時間が取れることもあり、勇気を出して自分から七海先生に連絡してみた。先生はこの前の返事をしたいという言葉を受け入れて、快く会うことを承諾してくれた。何だか、今からとても緊張する。あの時、七海先生は精一杯告白してくれた。だからこそ、私も誠意を持って本当の気持ちを伝えたい。七海先生に会うことは、もちろん蒼真さんにも了解を得た。『2人きりで会うことには抵抗があるけれど、藍花の気持ちをちゃんと七海先生に伝えてほしい』と言われた。そして……次の日の夜、私は七海先生に久しぶりに会った。「こんばんは」先生は、今日はグレーのスーツ姿だった。とてもスタイルが良くて、タイトめのスーツが良く似合っていて素敵だ。そんな眼鏡の超イケメンを、周りの女性達が気にしていないわけがなかった。「あの人、めちゃくちゃカッコ良いんだけど」「うわぁ、色気あり過ぎ、ヤバい」聞こえるように言う女性達は、みんな美人揃いだ。どこにいても目を引くその容姿は、蒼真さんもだけれど、華があり過ぎる。本人は言われ慣れているのだろうか、まるで眼中に無いみたいに振舞っていた。「こんばんは。藍花ちゃん、来てくれてありがとう。会えて嬉しいよ」「こんな素敵なところに誘っていただいて嬉しいです」

    Last Updated : 2025-03-29
  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   2 本当のさよなら

    グレースホテル東京――要人も利用する世界的に有名な最高級ホテル。待ち合わせの場所を聞いて少しはオシャレをしてきたつもりだけれど、これでは七海先生と全然釣り合わない。見た目の違いに恥ずかしさを感じながらも、このホテルには1度来てみたかったから、宿泊は無理でも、ラウンジでお茶を飲めるだけで満足だった。「藍花ちゃんにそう言ってもらえて良かった。僕はここのホテルがとても好きでね。子どもの頃からよく利用してるんだ」子どもの頃からよく……やはり七海先生もとんでもないお金持ちだ。こんな一流ホテルを何度も利用できるなど、生活レベルがあまりにも違い過ぎて驚く。本当にうらやましい限りだ。「私は七海先生とは違って初めてで……。だから、先生からここで待ち合わせと聞いて、かなりテンションが上がってしまいました」幼稚なカミングアウトをしている自分が恥ずかしい。「そうだったんだね。それを聞いて安心したよ。待ち合わせ場所、どこが良いのかずいぶん悩んだんだ。僕はここのホテルに来るとホッとするから……だから、ぜひ藍花ちゃんにも良さを知ってもらえたと思って。格式高いホテルだけど、飾らずにとても温かく迎えてくれるんだよ」「そうなんですね。本当に、先生のおかげでこんな素敵なホテルに来ることができて嬉しいです。ありがとうございます」「いらっしゃいませ、七海様」えっ、だ、誰?!私は、突然現れた謎の超イケメンに目を疑った。「こんばんは。深月(みつき)総支配人」総支配人さん……?こんなにカッコ良いホテルマンは今まで見たことがない。「蓮見様も、よくいらして下さいました。七海様から伺っております」「えっ、あっ、はじめまして。とても素敵なホテルですね。さっきからずっと感動しています」「お褒めいただきありがとうございます。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」「あっ、はい。ありがとうございます」「七海様。最近は少しご多忙なようですね」総支配人さんは、七海先生に話しかけた。この2人のツーショットはかなり目を引く。「はい。最近、父の病院で働くことになって、まだまだ全然慣れなくて……今は毎日必死です」七海先生は苦笑いした。「お父様も先日いらして下さりお聞きしました。七海様と一緒に仕事ができると大変喜んでおられましたよ。私もいつかは父と……とは思っていますが」スラッと背が高く、

    Last Updated : 2025-03-29
  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   3 本当のさよなら

    「私はまだまだこれからですよ。深月総支配人はもうご立派です。いつもアドバイスをいただいて感謝しています」「こちらこそ七海様には感謝しております」そう言ってから、総支配人さんは私を見た。その美しい顔立ちには女性である私でさえドキッとする。「では、蓮見様。これで失礼致します」「あっ、はい。お声がけをいただいてありがとうございました」「七海様から『明日は大切な人と伺います』とお聞きしておりましたから。本日はお会いできて光栄でした」「た、大切な人……?」七海先生はそんな紹介の仕方をしたのか?まさかこんな私を彼女や結婚相手と間違えることはないと思うけれど……「七海様の大切な方なら私どもにとっても大切なお客様です。またいつでもグレースホテル東京にお越し下さい。お待ちしております」総支配人さんの笑顔が眩し過ぎて照れてしまう。すぐ近くに超ド級のイケメンが2人もいて、その間に挟まれている私はいったい何者なのかわからなくなる。どちらからも良い匂いがするうえに、モデルみたいにキラキラ輝いてる人達と一緒にいるこの状況には全く現実味を感じられない。「あっ、はい、すみません。お気遣いありがとうございます」確かに、昔から憧れていたこのホテルにはまた来たいと思う。だけど……これから先、七海先生と一緒に来ることは二度とないんだ。大切な人だと紹介してくれた先生の想いを考えると、急に胸が苦しくなった。私達は総支配人と別れ、ラウンジに向かった。静かな時間が流れる素敵な空間の奥の席に座り、飲み物を注文する。数分して、七海先生の前にはブラックのコーヒーが運ばれ、私は気持ちを落ち着かせるために温かい紅茶を選んだ。上品で可愛いカップに口をつけ、ゆっくりと1口。とても美味しくて癒された……のもつかの間、なぜか少しの沈黙に気まずい空気が流れた。

    Last Updated : 2025-03-29
  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   4 本当のさよなら

    私達は嫌な静けさをかき消そうと、全く同じタイミングで声を発した。思わず見つめ合い、苦笑いする。「すみません、先生からどうぞ」「あ、ああ。ごめん、じゃあ……藍花ちゃん、体調は大丈夫?元気かな?」まずは私の体を心配してくれる七海先生。こういうところは相変わらず優しくて紳士的だ。「ありがとうございます。いつもと変わらず元気にしてます」「そっか、それなら良かった。安心したよ」七海先生は、ホッとしたように一息吐いてから微笑んだ。その顔を見たら、本当に心配してくれていたんだとわかった。「七海先生がいなくなって、病院のみんな寂しがってますよ。患者さん達も『七海先生はいないのか?』って。みんなで先生の存在の大きさを改めて感じてます。それでも産婦人科の看護師さん達は、新しい先生と一緒に毎日頑張ってますよ」「有難いね、僕のことを覚えていてくれて。でも、あの先生は素晴らしい人だから。僕も父も以前から良く知っててね。今回は彼女を是非にと松下院長に紹介させてもらったんだ。腕は確かだし、志も熱いしね」「そうだったんですね。本当にすごく前向きで良い先生だってお聞きしました。またいろいろお話ししてみたいです」「彼女、喜ぶよ。藍花ちゃんみたいな可愛い人が話しかけてくれたら。きっと勉強になると思うし、機会があれば本当に話しかけてあげて」七海先生は、さっきからずっと私だけを見つめて微笑んでくれている。少し離れたテーブルに座っている若い綺麗な女性達がずっと先生のことを見ているのに、熱い視線は気にならないのだろうか?他のテーブルにいる女性だって、チラチラこちらを見ているのに、視線を向けようともしない。きっと、気配は感じているはずなのに。普通の男性なら女性に見つめられたら嫌な気はしないと思う。でも、七海先生はずっと私だけを見てくれている。全く目を逸らさずに、にこやかに。「あの……七海先生」優しい眼差しの先生に、今から言うことはとても残酷なことかも知れない。それでも私は、今、このタイミングで切り出さなければならないと思った。

    Last Updated : 2025-03-30
  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   5 本当のさよなら

    「うん」何かを覚悟したような返事、少し顔が強ばったような気がした。私の中に緊張が走る。「七海先生に、この前のお返事をさせていただきたいと思っています」「……だよね。でも不思議だね、藍花ちゃんの返事を待っていたはずなのに、今はあまり聞きたくないと思ってる。そう思うのは何故かな……」「先生……」「ごめん。大丈夫。聞かせてくれるかな?」自分に言い聞かせるような言葉に、申し訳ない気持ちが溢れる。「あの、私……。七海先生から告白してもらった時は、本当に自分の気持ちがわからなくて迷っていました。でも、それから、すぐに自分の気持ちがわかった……というか、素直になれたというか……」何を言ってるのか、ドキドキし過ぎてよくわからない。でも、大丈夫、キチンと伝えなければ……私自身も自分に言い聞かせ、話を続けた。「あの、私……」上手く言おうとして言葉がもつれる。私は急いで呼吸を整えようとした。「藍花ちゃん、大丈夫だよ。ゆっくりでいいから。落ち着いて」きっと顔が引きつっているだろう。こんな素敵な場所で、みっともない姿を晒しているかも知れないと思うと情けない。私は、意を決して、七海先生を見つめた。「すみません。私……他に好きな人がいます」それだけ言って目をギュッと閉じる。七海先生の顔が……見れない。膝の上でギュッと手を握りしめ、体中に力が入った時、私の頭の上に大きな手のひらが触れた。「えっ……」ハッとして目を開ける。すぐ近くに先生の顔がある。すごく穏やかで優しくて、魅力的な笑顔が。その瞬間、胸がキュンとして泣きたくなった。「それは白川先生だね」七海先生に名前を先に出されて、言葉が出てこなくなる。「今、藍花ちゃんの顔を見て確信したよ。君は、本当に……白川先生が好きなんだって」「先生……」「彼はやっぱりモテるね。大学時代と変わらない。うらやましいよ」「……」「2人はもう付き合ってるのかな?」「……はい」そう言った瞬間、先生は眼鏡の奥の瞳をゆっくりと閉じた。「……そっか、わかった。なら、僕は藍花ちゃんにフラれたってことだね」「……」いったいどういう風に答えればいいのだろうか?「覚悟してたよ。ちゃんと覚悟は決めてたんだ。でもやっぱり……つらいんだね、大好きな人にフラれるのって。初めてだよ、こんなに胸が苦しいのは。君には他

    Last Updated : 2025-03-31

Latest chapter

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   4【another story】藍花の幸せ

    翌日、堂本先生が内科の診察前に、私に会いに来てくれた。「済まなかったね、昨日は」「まさか蒼真さんに電話されるとは……びっくりしました」「何だかね……無性に電話しないとって体が勝手に動いてた。自分でもよくわからないけど……そうしなきゃいけないって」「先生は優しい人です」「買いかぶりすぎだよ」「いいえ。じゃなかったら、電話なんかしないですよ。でも……本当にありがとうございました」「え?」「蒼真さん、喜んでいましたよ。堂本先生が電話をくれたこと。そして……堂本先生に申し訳なかったって言っていました」「……そっか……。久しぶりに昨日は学生時代の頃のことを思い出しながら眠った」「そうなんですか?」「ああ。不思議と楽しかった思い出ばかりが浮かんできて……なんだか懐かしかった。いつまでも彼女のことを引きずっているなんて、未練がましくて情けないってことがわかったよ。ほんと、バカだった」先生の顔は、優しくて安堵感に溢れていた。「堂本先生……」「これからは、僕も新しい人生を楽しみたいって思ってる」「よかったです。めいっぱい楽しくて幸せな人生を送ってくださいね。私も蒼真さんも、堂本先生に素敵な未来が訪れるって信じてます」「ありがとう、嬉しいよ」「私も先生に負けないよう、楽しい人生を送れるようにしたいと思います」蒼真さんと蒼太と3人で……「そうだ。新しい病院が決まったんだ。僕の実家がある近くに友達のクリニックがあるんだけど、ずっと前から声をかけてもらっててね。そこで一緒に頑張っていこうと思う」「そうなんですね。寂しいですけど……頑張ってくださいね」「ああ。彼女とならうまくやっていけそうだし」「彼女?女医さんですか?」「僕の幼なじみ。幼稚園の頃からのくされ縁でね。本当に優秀な内科医なんだ。……なんだかね、昔から僕のことが好きみたい」「えっ!」「もちろん、僕にはまだ彼女に対して恋愛感情は無いけどね。まぁ、でも、この先はどうなのかわからないしね」幼なじみの間柄、何だか勝手に恋の予感を巡らせた。堂本先生がとても嬉しそうだからかな。いろんなことが吹っ切れたような爽やかな表情に、私は心からホッとした。「いつかまた……蒼真さんに会いに来てください。いつでも堂本先生のこと大歓迎ですよ。あの人も楽しみにしていると思います」「……そうだね、またいつか

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   3【another story】藍花の幸せ

    「藍花……」「蒼真さん……?」「もっともっと俺のことを好きになって……」「……あっ……」蒼真さんの手のひらが私の頬に触れる。そこから直に伝わってくる愛情。蒼真さんへのどうしようもない愛しさが、私の体を巡る。「でも、どれだけ俺を好きになっても、俺が君を好きな気持ちには勝てないけどね」キュンと胸を貫く甘い言葉。自然に唇を塞がれて、蕩けそうになる。こんなことが私の日常にあることが今でもまだ不思議で仕方ない。上から下まで、とてつもなく美しい蒼真さん。年齢を少し重ねた私達。それでも、この妖艶な魅力を醸し出す蒼真さんに、私はいつだって心を奪われる。「堂本先生の話を聞いて、改めて思った。君の心は、誰にも奪わせない。どんな宝石をも盗み出す怪盗にだって……この体と心は盗ませない」「蒼真さん……」「何があっても俺のそばから離れるな」「はい。絶対に離れません……」幸せだった。いくつになっても蒼真さんに抱かれる幸せは、私の最上の喜びだ。「藍花のこと気持ちよくしてやるから」その言葉をきっかけに、蒼真さんの愛撫が始まった。嬉しい……本当に……嬉しい。「ああんっ……はぁ……っ」「ここ、気持ちいいんだろ?」「はあっ、ダ、ダメっ」「ダメじゃないだろ……こんなに濡らしてるくせに」「で、でも……っ」「もっとしてほしい……って、言って」耳元にかかる熱い吐息。蒼真さんの唇がそっと耳に触れると、体が勝手に身震いした。「ああっ、も、もっと……して……」体中がしびれ、我慢できないほどの快感に包まれる。言葉で表すことのできない刺激的な快楽が押し寄せる。「藍花……可愛いよ」「蒼真さん……はぁっ、い、いいっ、気持ち……いい」蒼真さんの舌が私のいやらしい部分に這う。どうしようもなく濡れている場所をさらに愛撫され、私はもうどうなってもいいと思った。「イキたい?」「は、はい……もう……我慢できないっ」蒼真さんは、人差し指で私の秘部の奥を何度も突いた。こんなことをされたら……「ああっ!ダ、ダメぇ!もう……イッちゃう……」案の定、私は簡単にあっけなく絶頂を迎えた。蒼真さんに私の敏感な部分を全て知られ、逃げることなんてできない。もちろん……逃げたいなんて思わないけれど。「蒼真さん……」「ん?」「蒼真さんは……本当に私の体で満足してます

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   2【another story】藍花の幸せ

    「……残念だな。確かに……嘘だよ」「……う、嘘?」「彼は、僕の彼女の告白を見事に断った。僕のことを裏切った彼女にも腹が立つけど、1番憎いのは白川先生だよ。彼は何もかも持っているのに、誰1人女性を相手にしようとしなかった。そういうところがめちゃくちゃ嫌いだったよ。余裕があるっていうか……」嘘だったと聞いて、信じていたとは言え、心からホッとした自分がいた。「蒼真さんは誠実な人なのに、勝手に悪者にしないでください。そんな理由……ひどいです」「……君はほんとに彼のことが好きなんだね。よくわかったよ。それに、白川先生も……嘘偽りなく藍花さんのことが好きなんだろうね」「……」そうだといいなと、一瞬考えてしまった。蒼真さんに嘘偽りなく愛されたい――私は心からそう思った。「どんな女も寄せつけない男が選んだんだ、君は相当良い女なんだろう」「そ、それは……。で、でも、これ以上、蒼真さんに何か言ったり変なことしたら私、許しませんよ」「強いな、君は。別に、今まで彼に何かをしようと思った事はないよ。もう忘れていたし、僕は僕の道を進んでいた。なのに、白川先生が突然連絡してきて……。あれだけ女性を相手にしなかったくせに、君みたいなとても素敵な女性を奥さんにしていたから……。結局、ああいう男が、君みたいないい女を手に入れるんだと思うと、なんだか無性に腹が立ってきて……。あの時彼女を奪われた僕の気持ちを白川先生にも味合わせてやろうと思ってね」「そんな……」「僕の密かな企みは結局失敗に終わったけどね。残念だけど、僕じゃ、彼には到底かなわないってことだな」堂本先生は苦笑いした。「僕はね、あれから誰かを好きになることができなくなってしまったんだ」「えっ?そんな……」「本当のことだよ。彼女ができても、またフラれるんじゃないか、誰かに盗られるんじゃないかって思うと怖くてね。情けないけど、誰かを好きになることができなくなってしまって」「堂本先生……」何だかその告白に胸が痛くなった。トラウマになってしまった先生の気持ちはわからなくはない。でも、それは蒼真さんのせいではない。彼氏がいながら、他の男性に告白した女性が悪いと思う。「今の病院すごくいいでしょ?働きやすくて、みんないい人ばかりだ。正直、そんな中でこんな歪んだ心を持った自分が、これから先、うまくやっていける自信は

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   1【another story】藍花の幸せ

    蒼太が小学校の高学年になり、私は蒼真さんの勧めで、近くの病院で看護師として働きだした。蒼真さんの知り合いの内科の先生がいる地元では有名な総合病院。松下総合病院と比べると、かなり規模は小さいがそれなりに立派な病院だった。いろいろ教えてくれる中川師長のような頼りになる先輩がいてくれて、とてもありがたかった。私は、外科の病棟に勤務していた。「藍花さん。少しは慣れましたか?」「あっ、堂本先生。はい……と言いたいところですが、まだまだです。堂本先生がこちらの病院を紹介していただいたおかげで本当に助かりました。ありがとうございました」「いえいえ。白川先生から頼まれると断れません。彼は僕の学生時代の友達ですから」「主人からも聞いています。堂本先生はとても優秀だから、勉強させてもらいなさいと」スラット背が高く、白衣も似合っていて、とても落ち着いた雰囲気のある真面目な先生だ。病院内の評判もとても良い。看護師達からの信頼も厚く、患者さんにも人気がある。松下総合病院で頑張っている蒼真さんと同じだ。「とんでもない。学生時代から彼の方がとても優秀で、僕なんか足元にも及ばないですよ」「……あっ、いえ。短期間ですが、先生を見ていて立派な方だとわかります」「ありがとうございます。あなたにそう言ってもらえると嬉しいです」「よかったら、1度、食事でもいかがですか?」「本当ですか?主人も喜びます」「……あ、いや。できれば、藍花さんと2人で話がしたいんですけど……。いろいろと……」えっ、2人きりで?……と、心の声が口から出そうになった。堂本先生の突然の誘いに驚き、なんと答えればいいのかわからなかった。「……ダメかな?」「す、すみません。2人きりはちょっと……。ナースステーションの誰かを誘ってみんなで行きませんか?」そう言った途端、堂本先生の顔つきが険しくなった。「みんなでワイワイするのは好きじゃないんだ。落ち着いたところで、白川先生の学生時代の話とか……できたらいいんだけど……」「主人の学生時代の話ですか?」そう言われると、とても興味がある。それでも蒼真さんに内緒で行くことはできない。「ああ、そうだよ。学生時代の白川先生のことを君に教えてあげたくて。聞きたくないの?」「き、聞きたくないことはないです。でも……」「とても興味が湧く話だと思うけどね」

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   3【afterstory】蒼太の幸せ

    僕はその結果に心からホッとしながらも、正直、自分を情けなく思った。自分にとって何よりも大切な人がこんなになるまで頑張っていたのに……無理していることに気づいてあげることができなかった。結果、桜子に不安を与えてしまい、痛い思いをさせてしまった。医師として、そして、彼氏として本当に申し訳ないことをしたと心底反省した。医師だから、体も心も強いわけではない。もがきながら、苦しみながら、逃げ出したい気持ちもある中で、みんな必死に患者さんのために頑張っている。僕も今回の事を教訓にして、桜子の体調も気にしながら、お互い励ましあって、支え合って生きていきたいと思った。もう二度と桜子を不安にさせないと、心に誓った。「ごめんね。本当に心配かけて。何だかみんなに心配をかけてしまって……恥ずかしい。これからは、一生懸命、妊婦さんや婦人科の病気を抱えている人のために頑張っていくね。あ、でも、自分の体にも気をつけていきます」「……うん。そうだね。僕もたくさんの人の命を守りたい。その気持ちを永遠に持ち続けて、そして、桜子のこと、必ず……幸せにしたい」「蒼太さん……?」「本当はもっとロマンチックな形で言いたかったけど、今どうしても君に伝えたいから」「えっ?」「桜子。僕たち結婚して、夫婦にならないか?」「……蒼太……さん?」「お互いに支え合って、いつまでもずっと一緒にいよう。絶対幸せにするから、僕についてきてほしい」「……嬉しい。蒼太さん、私、とっても嬉しいよ」「ほんと?」「うん、私を選んでくれて本当に本当にありがとう」「こちらこそ……。うわっ、すごくドキドキした」あまりの緊張に思わず心臓を抑えた。「私もドキドキしたよ。ありがとう、ほんとに嬉しい」「うん、僕も嬉しい。良かった……」病院の片隅、僕たちは永遠の愛を誓った。泣きながら笑うなんて変だけど……でも、こんなに幸せでいられることに感謝しかなかった。***それからしばらくして、両親と僕たちは川の近くにあるキャンプ場にやってきた。流れる水がとても綺麗で、心地よい風が吹いている。最高のキャンプ日和だ。早速、近くにテントを張ってバーベキューの準備をする。父も母も、桜子の元気な姿を見て、とても嬉しそうだった。「何だか蒼太の子供の頃を思い出すわね。川辺で遊んでいる姿がとても可愛かったわよね。ほ

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   2【afterstory】蒼太の幸せ

    数日して、桜子が胃カメラを受ける日がやってきた。一旦腹痛も治まり、翌日には退院して、仕事にも戻っていた。僕の両親と桜子、4人でその話をしたら、父も母もとても心配していた。父は外科医、母は看護師、2人とも熱い志を持って今も仕事をしている。2人とも可愛い桜子に対して何かしてあげたいとの思いを語ってくれた。「お父さん、お母さん。私のことをそんなに心配してくださって、本当にありがとうございます。産婦人科医として働いている自分が病気になるなんて……すごく情けないです」桜子は沈痛な面持ちで頭を下げた。「何を言ってるの。人間は病気になるものよ。でも病院に行って治療を受ければ大丈夫。病院と先生を信じてね。きっと良くなるわ。情けないなんて言っちゃだめよ」母が丁寧に諭すように言った。看護師としての母も、普段の母も、とても穏やかで優しい人だ。「お母さん……。励ましていただいてとっても心強いです」「いえいえ、私は昔、外科医である主人によく怒られていたのよ。笑顔で患者さんに接して、決して不安にさせてはいけないって」「別に怒っていたわけじゃないよ」父が照れながら言う。僕にはわかるけどね、父は母のことが大好きで、でも、うまく気持ちを伝えられずに、そういう態度で接してしまっていたんだって――「とにかく患者さんに優しく不安を与えずに治療を続ける主人を見て、とても感動したの。患者さんは先生に頼るしかない。わからないから不安になる、だから、先生に優しくされたら心から安心するのよね。主人と関わる患者さんは皆そうだったわ」「……そのくらいでいいから」「お父さん、照れすぎだよ。お母さんはそんなお父さんのことをいつだって尊敬していた。僕もその姿を見ていたから、お医者さんになりたいって子供の時から決めてたよ。無事に父さんと同じ外科医になれて本当に良かったと思ってる」「そうよね。だってそのおかげで蒼太は、桜子さんと出会うことができたんだもの」「お母さんがお父さんと出会ったように……ですね」桜子が少し目を潤ませて、そう言った。「そうね。私も主人と出会えて本当に幸せよ。可愛い桜子さん、本当に蒼太と出会ってくれてありがとうね。病気の事はきっと大丈夫だから。信じましょう。元気になったら、みんなでバーベキューでも行きましょう」「うわぁ、楽しみです。バーベキューなんて小学生の時以来で

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   1【afterstory】蒼太の幸せ

    優秀な外科医である父の背中を見て育った僕は、昨年研修医を経て、無事に父と同じ外科医となった。まだまだ未熟だけれど、志は熱い。これからたくさんのことを学んで、多くの患者さんを救いたいと心に誓っている。大学病院の外科での仕事は大変だけれど、それを支えてくれる父や母、そして、僕の彼女の「相川 桜子」、みんなのおかげでモチベーション高く頑張れている。桜子は同じ大学で医学を学んだ同士であり、現在は産婦人科医として頑張っている。父や母の知り合いの七海先生の話はよく聞いていたが、僕も、産婦人科医はとても大変で尊い仕事だと認識している。桜子とは新米の医者同士、励ましあったり、知識を共有したりして、お互い尊敬しあっていてとても良い関係だ。そう、彼女は、僕の最高のパートナー。来年あたり結婚して、仲の良い楽しい家庭を作りたいと思っている。もちろん、授かることができれば、かわいい赤ちゃんも欲しい。僕の両親もそのことをとても喜んでくれていて、優しくて品があって、努力家の桜子のことをすでに娘みたいに可愛がってくれている。***そんなある日のこと。桜子はいつものように実家から大学病院に向かった。電車を降りて病院まで歩いている途中の事だった。桜子が急に腹痛を訴えて倒れ込み、たまたま近くにいた人が救急車を呼んでくれ、僕たちが勤める大学病院に運ばれた。知らせを聞いて、僕は慌てて桜子の元に飛んでいった。桜子はお腹を押さえ、冷や汗をかいてベッドに横たわっていた。「桜子!大丈夫か?」「あっ、ごめんね。仕事中なのに」「何言ってるんだ。そんなこと気にするな。それより大丈夫なのか?」「……うん、急にお腹を刺すような痛みがして……」僕は目の前にいる桜子を見て、胸が張り裂けそうなくらい不安になった。一体何が起こったのかと心配で心配でたまらない。なのに、今の自分には何もしてあげることができず、医師として情けなくて悲しくて、無力さを痛感した。「蒼太先生。桜子先生は今から検査に入ります。すみませんが、しばらく待っていて下さいね」「わかりました。先生、どうかよろしくお願いします」 「大丈夫ですよ。しっかり検査させていただきます。終わったらまた連絡しますね」「お世話になります。ありがとうございます」僕はそう言って、担当の先生に頭を下げ、不安な気持ちを抱えたまま外科に戻った

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   2【after story】 歩夢の幸せ

    伯母さんに結婚をせかされてから数日後、僕は、いつものように松下総合病院で仕事をしていた。「歩夢さん。あの……私、もうすぐ退院ですよね」「そうですね。よく頑張りましたね」「あの……退院する前に話しておきたいことがあって……」しばらく入院していた田川 紗英さんに、突然話しかけられてびっくりした。「……どうかしましたか?田川さん」「……入院中、仲良くしてくれてありがとうございました。すごく不安で仕方なかったけど、歩夢さんのおかげでリラックスして手術も受けれたし、術後もいっぱい励ましてもらったから今日まで頑張れました」僕より2つ年下の彼女。気づけば、田川さんは僕のことを名前で呼んでくれていた。「ありがとうございます。そう言ってもらえたら嬉しいです。少しでも田川さんのお役に立てたならよかったです」「少しだなんて。歩夢さんにはたくさんたくさん励ましてもらいました。私、すごく……幸せでした」「そんな大げさですよ、幸せだなんて。これから先、あなたにはたくさん幸せなことが待っていますから」「そうですかね……。私にも何か良いことありますかね」「もちろんですよ。絶対あります。田川さんは、退院したらやりたいこととかあるんですか?」田川さんは、小柄で女性らしいふんわりとした印象のある、とても可愛らしい人だ。しかも、性格が良い。趣味の話や、テレビや食べ物の話など、いろいろなことを話している中で意気投合することも多かった。きっと、こんな人と結婚したら毎日楽しんだろうなと、ほんの少し思ったりもした。「……やりたい事はたくさんありますよ。映画も見たいし、ショッピングもしたい。キャンプに行ってバーベキューもしてみたいし、夜空の星を見るツアーにも参加してみたい。あっ、遊園地にも行きたいですね。あとは……う~ん、まだまだやりたい事がいっぱいあってまとまりません」必死に語る田川さんが可愛く思えた。「いいじゃないですか。楽しみがいっぱいですね」「でも……」「でも?」「どれもこれも1人では寂しいです。2人でなら楽しいことばかりですけど……」田川さんは目を閉じて、そして、何かを想像するかのように微笑んだ。「ん?仲良しの友達がいるんですか?」「……友達はいますけど……そういう楽しいことを一緒にしたいと思うのは、やっぱり……」田川さんは、急に僕から視線を外し戸惑

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   1【after story 】歩夢の幸せ

    「歩夢、いい加減、そろそろあなたも結婚とか考えたらどうなの?いつまでも1人じゃ寂しいでしょ」伯母の中川師長にまた同じ質問をされた。もう何度目だろう。もちろん、伯母さんだって本当は言いたくないだろうけど……「だから、いつも言ってるように、僕には彼女がいないんだから結婚なんてできないよ。相手がいなきゃ、結婚はできないんだからね」「当たり前でしょ。そんなことわかってるわ。ほんとに毎回毎回同じことばかり。歩夢にはその気がないの?」今日の伯母さんはいつも以上に必死だ。「その気がないわけじゃないよ。でも……病院にいたら出会いなんてないよ」「そうはいうけど、今どきネットとか出会いはたくさんああるんでしょ?何か試して前に進んでみたら?この間も、私の知り合いの娘さんが、その……なんて言うのかしら?マッチングアプリ?そういうので、素敵な人と出会ったらしいわよ。いろんな相手がいてね、こちらが興味を示したらボタンを押すんですって。それを見て相手も興味を持ってくれたら、会ったりするんですって~。すごいわよねぇ~」伯母さんの口からマッチングアプリなんていう言葉が飛び出すとは思ってもみなかった。確かに……伯母さんの助言は有難いと思う。だけど、今の僕には誰かと付き合うなんてまだ考えられない。正直、藍花さんと離れて数年、他の誰かを好きになることはなかった。無理して誰かを好きになろうとも思わなかった。僕は……きっとこのまま独身のまま人生を終えるのだと……そんな気がしていた。それでもいいとさえ思っていた。「伯母さんの気持ちは本当にありがたいけど、もう少し今は仕事を頑張っていたいんだ。まだまだ未熟だし、仕事が1番楽しい。もっと勉強して、いろんなことを知りたいから。そうだ、伯母さんこそマッチングアプリとかしてみれば?良い相手が見つかるかも知れないよ」「な、な、何を言ってるのよ!伯母さんをからかわないで。ま、全く何を言ってるのかしらね。私がマッチングアプリなんてするわけないでしょ」かなり慌ててる伯母さんをみたら、さらにからかいたくなった。「伯母さんも第2の人生を楽しんでみたら?イケメンでお金持ちの人もいるかも、僕、断然応援するよ」「私のことはいいのよ、ほんとにもう。歩夢……。あなた、もしかして、まだ藍花ちゃんのことを?」伯母さんにはとっくの昔から僕の気持ちを見抜かれ

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status