アシュトン様の執着は、日を追うごとにその度合いを増していった。
彼は、私の行動すべてを把握しようとするかのように、公爵邸での私の滞在時間を延ばし、私がどこへ行くにも、誰と会うにも、常に彼の許可を求めるようになった。 初めは、彼の唐突な変貌に戸惑いと警戒心を抱いていた私だが、彼の執着は、どこか幼稚な独占欲にも似ていて、妙な居心地の悪さを感じていた。「セリーナ、今日の社交会には参加するのか?」
朝食の席で、彼は唐突に尋ねた。 「はい。叔母様からお誘いを受けておりますので」 私が答えると、アシュトン様は眉をひそめた。 「誰と会うのだ?」 「……ただの社交です。特に意味はございません」 私の返答に、彼は不満げな表情を浮かべた。 「無意味な社交は必要ない。俺の許可なく、公爵邸を離れることは許さない」 彼の言葉に、私は思わず反論した。 「アシュトン様!私はまだフェルティア公爵家の娘です。社交の場に出ることは、貴族としての務めでもございます」 私の言葉に、アシュトン様の瞳が鋭く光った。 「務め、か。貴様はもうすぐ俺の妻となるのだ。フェルティア公爵家の務めよりも、ヴァルター公爵家、ひいては俺の隣にいることが貴様の務めとなる」 彼の言葉は、まるで私を囲い込もうとするかのような響きだった。私は、彼の執着に息が詰まる思いだった。
以前は私に興味すら示さなかった彼が、今では私のすべてを支配しようとしている。それは、私を尊重する「愛」とは程遠い、ただの「独占欲」でしかなかった。しかし、彼の執着は、時に私を驚かせるような行動にも表れた。
ある日、私が公爵邸の庭園で、足を滑らせて転びそうになった時、アシュトン様が信じられないほどの速さで駆け寄り、私を支えてくれたのだ。 彼の腕の中に抱きとめられた時、私は彼の体温と、かすかに聞こえる彼の心臓の音を感じた。 「……大丈夫か、セリーナ」 彼の声には、今まで聞いたことのないような、微かな焦りが含まれているように聞こえた。 「はい、アシュトン様。ありがとうございます」 私が礼を述べると、彼は私の腕を掴み、その指先が私の脈を測るかのように触れてきた。 「怪我はないか? どこか痛む場所は?」 彼の視線は、私の全身を細かく確認するように見ていた。 彼の行動に、私は戸惑った。これは、単なる心配なのだろうか? それとも、やはり「自分のモノ」を傷つけたくないという独占欲の発露なのだろうか?彼の執着は、執務にも影響を及ぼし始めた。
彼は、私が公爵邸にいる間、ほとんど執務室から出てこなかった以前とは違い、執務の合間にも頻繁に私の様子を見に来るようになった。 時には、私が読書をしている傍らで、静かに書類に目を通していることもあった。 その空間は、以前の凍てつくような冷たさとは違い、どこか不思議な、妙な居心地の良さを感じさせるものだった。「セリーナ、その本は面白いのか?」
ある時、アシュトン様が、私が読んでいた書物から顔を上げ、私に問いかけた。 「はい。異国の文化について書かれたもので、興味深く拝読しております」 私が答えると、彼は私の手元にあった書物をそっと取り上げ、そのページをめくり始めた。 「……なるほど。貴様は、こういったものに興味があるのか」 彼の視線は、書物に注がれていたが、その瞳の奥には、私への関心が揺らめいているように見えた。 「ええ。いつか、この目で様々な文化に触れてみたいと願っております」 私の言葉に、アシュトン様は書物を閉じ、私に視線を戻した。 「貴様の望みは、すべて俺が叶えてやる」 彼の言葉は、あまりにも唐突で、そして傲慢だった。 「……え?」 私が呆然とすると、彼は私の手を優しく握りしめた。 「貴様の望むものは、すべて俺が手に入れてやろう。どこへでも連れて行く。どんな知識でも与えてやる。だから、俺の傍を離れるな」 彼の言葉は、私を閉じ込める檻のように響いたが、同時に、今まで誰にも言われたことのない「望みを叶えてやる」という言葉に、私の心は微かに揺れた。しかし、彼の執着は、時として周囲の人々にも向けられるようになった。
私が公爵邸のメイドと談笑していると、彼は何も言わずに近寄ってきて、私をそっと連れて行ってしまう。 私が侍女にドレスの相談をしていると、彼は「俺が選ぶ」と一言告げ、私の意見を聞くことなく、自分の好みのドレスを押し付ける。 彼の行動は、私を「自分のモノ」として扱い、私の周りから私以外の人間を遠ざけようとしているかのように見えた。そんなある日、父であるフェルティア公爵が、アシュトン様に面会を求めて公爵邸を訪れた。
婚約破棄の件で、父がアシュトン様と直接交渉するのだろう。私は少し緊張しながら、執務室の前の廊下で待っていた。 しばらくすると、執務室の扉が開き、父が出てきた。その顔は、いつもより少しばかり疲れているように見えた。 「父様……」 私が声をかけると、父は私に優しく微笑んだ。 「セリーナ。話はついた。ヴァルター公爵は、君との婚約破棄には応じないそうだ」 父の言葉に、私は息を飲んだ。やはり、そうきたか。 「ですが、アシュトン様は、君の自由な行動を尊重すると約束してくださった。今後は、君が望むのであれば、社交の場にも自由に参加して良いとのことだ」 父の言葉に、私は驚きと混乱を覚えた。 自由な行動を尊重する? 彼の執着は、どこへ行ったのだろう?父が帰った後、私はアシュトン様の執務室に向かった。
「アシュトン様。父から伺いましたが……」 私が言いかけると、アシュトン様は私を静かに見つめた。 「ああ。貴様の父親には、多少の譲歩をしてやった」 彼の言葉は、まるで私が飼い慣らされた獣に与えられる褒美のようだった。 「ですが、なぜ……? 私を自由にさせたくないとおっしゃったはずでは」 私が尋ねると、彼は少しだけ口元を緩めた。 「貴様の父親が、あまりにもしつこかったものでな。それに、貴様を完全に閉じ込めてしまえば、貴様が壊れてしまうかもしれない」 彼の言葉に、私はぞくりとした。まるで、私が彼の所有物であるかのように、「壊れてしまう」という言葉を使うのだ。「だが、これで貴様が俺の傍から離れることを選べば……」
彼の瞳が、私を射抜くように見つめる。 「その時は、力ずくででも、貴様を取り戻す。それは覚えておけ」 彼の言葉は、私に自由を与えたようでいて、その実、私を逃がさないという強い意思を含んでいた。 私は、彼の執着の深さと、その歪さに、改めて恐怖を感じた。 しかし、同時に、彼の言葉の端々に、私への奇妙な「気遣い」のようなものが感じられるのは、私の気のせいだろうか。 冷徹な公爵の、歪んだ執着。それは、私の心を締め付けながらも、その中に小さな綻びを見せ始めていた。あれから半年。 アシュトン様との婚約は無事に継続され、公爵邸での私の生活は、以前では考えられないほど穏やかで、そして温かいものに満ちていた。 冷徹公爵と呼ばれたアシュトン様は、今ではすっかり「愛妻家公爵」などと揶揄される始末だ。もちろん、本人に直接言う者はいないけれど。「セリーナ。また、そんなところで居眠りを」 暖炉のそばの大きなソファで、日当たりの良さに誘われてうとうとしていた私に、低い声がかけられた。 ゆっくりと目を開けると、アシュトン様が、いつの間にか私の隣に座っていた。彼は執務の合間に、こうして私を覗きに来るのが常になっていた。「あら、アシュトン様。お仕事はもうよろしいのですか?」 私がにこやかに問いかけると、彼の眉間に薄く皺が寄った。「貴様の顔を見に来ただけだ」 相変わらず素っ気ない言い方だが、その瞳の奥には、確かな優しさが宿っている。「ふふ、ありがとうございます」 私が身を起こすと、アシュトン様は私の髪に触れた。「髪が乱れているぞ」 そう言って、不器用な手つきで私の髪を直そうとする。以前の彼からは想像もできない行動に、私は小さく笑った。「あら、アシュトン様の手ほどきなんて、贅沢ですね」 私が揶揄うと、彼は少しだけ顔を赤らめた。「それより、セリーナ」 彼は、真顔に戻ると、私の手を握った。「今日の午後、王都の菓子店へ出かけると聞いたが、一人で行くつもりか?」 彼の言葉に、私は思わず目を瞬かせた。私が侍女に話しただけのことを、彼はなぜ知っているのだろう。「ええ。新しい菓子の材料を探しに」 私が答えると、アシュトン様はすぐに言った。「俺も同行する」「あら、お忙しいのではありませんか?」 私が尋ねると、彼はふいと顔をそらした。「……貴様を一人で行かせるのは、心配だ」 その言葉に、私はぷっと吹き出した。相変わらずの、隠しきれない執着ぶりだ。「もう、アシュトン様ったら。私が一人で何ができるというので
王妃の座を辞退するという、前代未聞の決断を下した後、私は王宮の廊下を、心穏やかに歩いていた。 私の胸には、国王陛下の言葉が響いていた。「真実の愛を選んだ貴殿の人生が、幸福に満ちたものとなることを願う」。 名誉や権力ではなく、私が本当に望むものを手に入れたのだという確かな充足感が、私の全身を包み込んでいた。 王宮を出て、待たせていた馬車に乗り込んだ。 馬車が公爵邸へと向かう間、私の心は、早くアシュトン様の元へと帰りたいという思いでいっぱいだった。 彼が、私の決断を知ったら、どんな顔をするだろう。 驚くだろうか、それとも、安堵してくれるだろうか。 彼の表情を思い浮かべると、自然と頬が緩んだ。 公爵邸の門が見えてきた。 門の前には、アシュトン様が、私を待っていたかのように、そこに立っていた。 彼の顔には、微かな不安の色が浮かんでいるように見えた。 私が馬車から降りると、アシュトン様は私に駆け寄ってきた。 「セリーナ……」 彼の声は、不安と、そして、私への強い想いが入り混じったような響きだった。 私は、彼の顔を見上げ、満面の笑みを浮かべた。 「アシュトン様。私、王妃の座を辞退してまいりました」 私の言葉に、アシュトン様の表情が、一瞬にして凍りついた。 そして、彼の瞳の奥に、深い絶望の色が浮かんだように見えた。 「だが……貴様は、最終合格者だったのだろう……?」 彼が何かを言おうとすると、私は彼の言葉を遮った。「はい。ですが、お伝えいたしました通り、私には王妃の務めを全うすることはできません。私の心は、すでにアシュトン様だけを愛しておりますから」 私の言葉に、アシュトン様の瞳が、驚きに見開かれた。 信じられないものを見るように、私を見つめている。 「どういうことだ……セリーナ……」 彼の声は、戸惑いと、そして、微かな希望が混じり合っているように聞こえた。 私は、彼の両手を握りしめ、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。 「愛のない結婚に意味はないと、私がお伝えし
王妃選定試験の最終結果が発表される日。 私は、公爵邸でアシュトン様と共にその知らせを待っていた。アシュトン様は、落ち着かない様子で執務室の窓辺に立ち、遠くの空を眺めていた。その横顔には、珍しく微かな緊張の色が浮かんでいるように見えた。 私は、彼の隣にそっと歩み寄った。「アシュトン様。もし、私が王妃に選ばれたら……」 私が言葉を切ると、アシュトン様は私を真っ直ぐに見つめた。「その時は、貴様の意思を尊重しよう。だが、貴様が望むのならば、俺は……」 彼の言葉は、そこで途切れた。彼の瞳の奥には、私への強い執着と、そして、失うことへの微かな恐怖が揺らめいているように見えた。 その時、公爵邸の執事が慌ただしく執務室に飛び込んできた。「アシュトン様!セリーナ様!王宮から、伝令でございます!」 執事の手には、厳重な封がされた書状が握られていた。 アシュトン様は、その書状を受け取ると、ゆっくりと封を破り、中身に目を通した。 彼の表情が、見る見るうちに硬直していくのが見えた。「……そうか」 彼は、低い声で呟いた。「アシュトン様、何と書かれていましたの?」 私が尋ねると、アシュトン様は書状を私に手渡した。 私は、震える手で書状を受け取り、その内容に目を通した。 『セリーナ・フェルティア嬢を、次期王妃候補の最終合格者と定める。よって、改めて王妃の座への意向を問う』 私は、その言葉に、息を飲んだ。 私が、王妃に選ばれる可能性が最も高かったのだ。つまり、王妃になるか否かは、私の最終的な意思にかかっている。「セリーナ……」 アシュトン様が、私の名を呼んだ。 私は、彼に視線を向けた。彼の瞳は、私を深く見つめていたが、その奥には、複雑な感情が渦巻いているように見えた。「貴様が、望んだ結果か?」 彼の問いかけに、私は、迷いなく答えた。「いいえ、アシュトン様。これは、私の
王妃選定試験は佳境に入り、最終候補の三人への注目は日々高まっていった。私、セリーナ・フェルティア。そして、最後まで残ったのは、私と、もう一人、侯爵令嬢のリアーナ・クレメンス嬢だった。エルメリア嬢は、アシュトン様の介入により早々に辞退を余儀なくされ、王妃の座を巡る争いは、私とリアーナ嬢の一騎打ちとなっていた。 アシュトン様の執着は、王宮でも知れ渡るようになり、私がどこへ行っても彼の護衛が影のように付き従った。周囲の令嬢たちからは好奇の目で見られたが、私にとって彼の存在は、重圧であると同時に、漠然とした不安を打ち消してくれる唯一のよりどころになりつつあった。彼の歪んだ執着の中に、私への確かな「特別」があることを、私の心は感じ取っていたのだ。 ある日の夕食後、私はアシュトン様の執務室に呼び出された。 「セリーナ。王妃選定試験の進捗は?」 彼の声は、いつも通り感情の起伏が少なかったが、その瞳は私を深く見つめていた。 「滞りなく進んでおります。最終選考に残ったのは、私とリアーナ嬢の二人でございます」 私がそう答えると、彼は静かに頷いた。 「国王陛下は、貴様を高く評価していると聞く。貴様は、本当に王妃になるつもりか?」 彼の問いかけに、私は言葉に詰まった。王妃の座は、名誉であり、フェルティア公爵家の繁栄にも繋がる。しかし、それは同時に、アシュトン様の隣から離れることを意味していた。「……王命に背くことはできません」 私は、そう答えるのが精一杯だった。 アシュトン様は、私の言葉を聞くと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。 そして、私の前に立ち、私の頬にそっと手を触れた。 彼の指先は、ひんやりと冷たかったが、その温度とは裏腹に、私の心臓は熱く脈打った。「セリーナ。貴様は、本当に愛のない結婚に意味はないと、そう思っているのか?」 彼の問いかけは、まるで私の心を覗き込もうとするかのような響きだった。 「……はい」 私は、震える声で答えた。 「ならば、俺は……貴様を、愛せば良いのか?」 アシュトン様の言葉に、私は息を飲んだ。 愛する? 彼が? 感情を知らないと語っていた彼が、私を? 彼の瞳は、私を真剣に見つめていた。そこには、今まで見たことのないような、迷いや、戸惑いのような感情が揺らめいているように見えた。「アシュトン
王妃選定試験は、予想以上に熾烈なものだった。 私を含め、選ばれた令嬢たちは皆、それぞれの家柄と教養を背景に、王妃の座を巡って静かに火花を散らしていた。 私は、アシュトン様の視線を感じながらも、試験に集中しようと努めた。彼の執着は、私にとって重圧であると同時に、どこか奇妙な安心感を与えていることに、私自身が困惑していた。 試験の一環として、各令嬢は王族の前で自身の才覚を披露することになった。 私は、幼い頃から学んできたピアノを披露することにした。それは、私にとって、唯一の自己表現の場だった。 演奏の順番を待っている間、私は控え室で最後の練習をしていた。 その時、扉がノックされ、アシュトン様が姿を現した。「セリーナ。貴様は、ピアノを弾くのか」 彼の声には、僅かな驚きが混じっているように聞こえた。「はい。幼い頃から習っておりましたので」 私が答えると、アシュトン様は私の隣に立ち、私の手元にある楽譜に視線を落とした。「……貴様は、まだ私に何も明かしていないことがあったのだな」 彼の言葉には、どこか不満げな響きがあったが、その瞳の奥には、私への好奇心のような光が揺らめいているように見えた。「アシュトン様は、音楽がお好きではないと伺っておりましたが……」 私がそう言うと、彼は私に視線を向けた。「俺は、貴様の奏でる音ならば、聞いてやっても良い」 彼の言葉は、彼なりの精一杯の譲歩なのかもしれない。私は、彼の意外な言葉に、少しだけ心が温かくなった。 そして、私の番が来た。 私は、緊張しながら舞台へと向かった。客席には、国王陛下を始め、王族の方々、そして数多くの貴族たちが座っていた。 その中に、アシュトン様の姿もあった。彼の視線は、私を真っ直ぐに捉えていた。 私は、深呼吸をし、鍵盤に指を置いた。 私が演奏したのは、幼い頃から好きだった、故郷の風景を思い起こさせるような、穏やかな曲だった。 私の指が鍵盤の上を滑るたびに、澄んだ音色が広間に響き渡った。
陛下の突然の来訪、そして私を次期王妃候補とする命令は、私の日常に大きな波紋を投げかけた。 アシュトン様は、私を王妃選定試験に参加させまいと、ますますその執着を強めた。公爵邸は、まるで私を閉じ込めるための厳重な檻と化したかのようだった。「セリーナ、今日は外出しないのか?」 朝食の席で、アシュトン様が私に尋ねた。彼の視線は、私の行動を常に探っているかのようだった。「はい。今日は、公爵邸の図書室で過ごそうかと」 私がそう答えると、彼は満足げに頷いた。「賢明な判断だ。外は騒がしい」 彼の言葉に、私は息苦しさを感じた。彼は、私が自主的に公爵邸に留まっていると思っているのだろうが、実際は彼の監視下から逃れることができないだけだ。 しかし、王妃選定試験への参加は、王命である。私が拒否すれば、フェルティア公爵家が危うくなる。 私は、アシュトン様の目を盗んで、父に手紙を送った。王命に背くことはできない、と。 数日後、父からの返信が届いた。そこには、王妃選定試験には必ず参加するように、という指示が書かれていた。そして、アシュトン様には、私が王妃選定試験に参加せざるを得ない状況であることを、それとなく伝えるように、とも。 私は、手紙を読み終えると、覚悟を決めた。 私は、王妃選定試験に参加する。それが、私の使命だ。 その夜、私はアシュトン様に、王妃選定試験に参加する旨を伝えようとした。 夕食の席で、彼がデザートに手を伸ばした時、私は意を決して口を開いた。「アシュトン様。私、王妃選定試験に参加させていただきます」 私の言葉に、アシュトン様の手がぴたりと止まった。 彼の顔から、一瞬にして血の気が引いていくのが見えた。 そして、ゆっくりと顔を上げ、私を射抜くような視線で睨みつけた。「……何を言っている?」 彼の声は、低く、そして怒りに満ちていた。「陛下からの命令でございます。フェルティア公爵家として、王命に背くことはできません」 私がそう言うと、アシュトン様は立ち上がり、テーブルを