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5.歪んだ執着と小さな綻び

مؤلف: 霜月イヅミ
last update تاريخ النشر: 2025-07-02 09:17:41

 アシュトン様の執着は、日を追うごとにその度合いを増していった。

 彼は、私の行動すべてを把握しようとするかのように、公爵邸での私の滞在時間を延ばし、私がどこへ行くにも、誰と会うにも、常に彼の許可を求めるようになった。

 初めは、彼の唐突な変貌に戸惑いと警戒心を抱いていた私だが、彼の執着は、どこか幼稚な独占欲にも似ていて、妙な居心地の悪さを感じていた。

「セリーナ、今日の社交会には参加するのか?」

 朝食の席で、彼は唐突に尋ねた。

「はい。叔母様からお誘いを受けておりますので」

 私が答えると、アシュトン様は眉をひそめた。

「誰と会うのだ?」

「……ただの社交です。特に意味はございません」

 私の返答に、彼は不満げな表情を浮かべた。

「無意味な社交は必要ない。俺の許可なく、公爵邸を離れることは許さない」

 彼の言葉に、私は思わず反論した。

「アシュトン様!私はまだフェルティア公爵家の娘です。社交の場に出ることは、貴族としての務めでもございます」

 私の言葉に、アシュトン様の瞳が鋭く光った。

「務め、か。貴様はもうすぐ俺の妻となるのだ。フェルティア公爵家の務めよりも、ヴァルター公爵家、ひいては俺の隣にいることが貴様の務めとなる」

 彼の言葉は、まるで私を囲い込もうとするかのような響きだった。

 私は、彼の執着に息が詰まる思いだった。

 以前は私に興味すら示さなかった彼が、今では私のすべてを支配しようとしている。それは、私を尊重する「愛」とは程遠い、ただの「独占欲」でしかなかった。

 しかし、彼の執着は、時に私を驚かせるような行動にも表れた。

 ある日、私が公爵邸の庭園で、足を滑らせて転びそうになった時、アシュトン様が信じられないほどの速さで駆け寄り、私を支えてくれたのだ。

 彼の腕の中に抱きとめられた時、私は彼の体温と、かすかに聞こえる彼の心臓の音を感じた。

「……大丈夫か、セリーナ」

 彼の声には、今まで聞いたことのないような、微かな焦りが含まれているように聞こえた。

「はい、アシュトン様。ありがとうございます」

 私が礼を述べると、彼は私の腕を掴み、その指先が私の脈を測るかのように触れてきた。

「怪我はないか? どこか痛む場所は?」

 彼の視線は、私の全身を細かく確認するように見ていた。

 彼の行動に、私は戸惑った。これは、単なる心配なのだろうか? それとも、やはり「自分のモノ」を傷つけたくないという独占欲の発露なのだろうか?

 彼の執着は、執務にも影響を及ぼし始めた。

 彼は、私が公爵邸にいる間、ほとんど執務室から出てこなかった以前とは違い、執務の合間にも頻繁に私の様子を見に来るようになった。

 時には、私が読書をしている傍らで、静かに書類に目を通していることもあった。

 その空間は、以前の凍てつくような冷たさとは違い、どこか不思議な、妙な居心地の良さを感じさせるものだった。

「セリーナ、その本は面白いのか?」

 ある時、アシュトン様が、私が読んでいた書物から顔を上げ、私に問いかけた。

「はい。異国の文化について書かれたもので、興味深く拝読しております」

 私が答えると、彼は私の手元にあった書物をそっと取り上げ、そのページをめくり始めた。

「……なるほど。貴様は、こういったものに興味があるのか」

 彼の視線は、書物に注がれていたが、その瞳の奥には、私への関心が揺らめいているように見えた。

「ええ。いつか、この目で様々な文化に触れてみたいと願っております」

 私の言葉に、アシュトン様は書物を閉じ、私に視線を戻した。

「貴様の望みは、すべて俺が叶えてやる」

 彼の言葉は、あまりにも唐突で、そして傲慢だった。

「……え?」

 私が呆然とすると、彼は私の手を優しく握りしめた。

「貴様の望むものは、すべて俺が手に入れてやろう。どこへでも連れて行く。どんな知識でも与えてやる。だから、俺の傍を離れるな」

 彼の言葉は、私を閉じ込める檻のように響いたが、同時に、今まで誰にも言われたことのない「望みを叶えてやる」という言葉に、私の心は微かに揺れた。

 しかし、彼の執着は、時として周囲の人々にも向けられるようになった。

 私が公爵邸のメイドと談笑していると、彼は何も言わずに近寄ってきて、私をそっと連れて行ってしまう。

 私が侍女にドレスの相談をしていると、彼は「俺が選ぶ」と一言告げ、私の意見を聞くことなく、自分の好みのドレスを押し付ける。

 彼の行動は、私を「自分のモノ」として扱い、私の周りから私以外の人間を遠ざけようとしているかのように見えた。

 そんなある日、父であるフェルティア公爵が、アシュトン様に面会を求めて公爵邸を訪れた。

 婚約破棄の件で、父がアシュトン様と直接交渉するのだろう。私は少し緊張しながら、執務室の前の廊下で待っていた。

 しばらくすると、執務室の扉が開き、父が出てきた。その顔は、いつもより少しばかり疲れているように見えた。

「父様……」

 私が声をかけると、父は私に優しく微笑んだ。

「セリーナ。話はついた。ヴァルター公爵は、君との婚約破棄には応じないそうだ」

 父の言葉に、私は息を飲んだ。やはり、そうきたか。

「ですが、アシュトン様は、君の自由な行動を尊重すると約束してくださった。今後は、君が望むのであれば、社交の場にも自由に参加して良いとのことだ」

 父の言葉に、私は驚きと混乱を覚えた。

 自由な行動を尊重する? 彼の執着は、どこへ行ったのだろう?

 父が帰った後、私はアシュトン様の執務室に向かった。

「アシュトン様。父から伺いましたが……」

 私が言いかけると、アシュトン様は私を静かに見つめた。

「ああ。貴様の父親には、多少の譲歩をしてやった」

 彼の言葉は、まるで私が飼い慣らされた獣に与えられる褒美のようだった。

「ですが、なぜ……? 私を自由にさせたくないとおっしゃったはずでは」

 私が尋ねると、彼は少しだけ口元を緩めた。

「貴様の父親が、あまりにもしつこかったものでな。それに、貴様を完全に閉じ込めてしまえば、貴様が壊れてしまうかもしれない」

 彼の言葉に、私はぞくりとした。まるで、私が彼の所有物であるかのように、「壊れてしまう」という言葉を使うのだ。

「だが、これで貴様が俺の傍から離れることを選べば……」

 彼の瞳が、私を射抜くように見つめる。

「その時は、力ずくででも、貴様を取り戻す。それは覚えておけ」

 彼の言葉は、私に自由を与えたようでいて、その実、私を逃がさないという強い意思を含んでいた。

 私は、彼の執着の深さと、その歪さに、改めて恐怖を感じた。

 しかし、同時に、彼の言葉の端々に、私への奇妙な「気遣い」のようなものが感じられるのは、私の気のせいだろうか。

 冷徹な公爵の、歪んだ執着。それは、私の心を締め付けながらも、その中に小さな綻びを見せ始めていた。

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  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   10.私の決意

     王妃選定試験は、予想以上に熾烈なものだった。 私を含め、選ばれた令嬢たちは皆、それぞれの家柄と教養を背景に、王妃の座を巡って静かに火花を散らしていた。 私は、アシュトン様の視線を感じながらも、試験に集中しようと努めた。彼の執着は、私にとって重圧であると同時に、どこか奇妙な安心感を与えていることに、私自身が困惑していた。 試験の一環として、各令嬢は王族の前で自身の才覚を披露することになった。 私は、幼い頃から学んできたピアノを披露することにした。それは、私にとって、唯一の自己表現の場だった。 演奏の順番を待っている間、私は控え室で最後の練習をしていた。 その時、扉がノックされ、アシュトン様が姿を現した。「セリーナ。貴様は、ピアノを弾くのか」 彼の声には、僅かな驚きが混じっているように聞こえた。「はい。幼い頃から習っておりましたので」 私が答えると、アシュトン様は私の隣に立ち、私の手元にある楽譜に視線を落とした。「……貴様は、まだ私に何も明かしていないことがあったのだな」 彼の言葉には、どこか不満げな響きがあったが、その瞳の奥には、私への好奇心のような光が揺らめいているように見えた。「アシュトン様は、音楽がお好きではないと伺っておりましたが……」 私がそう言うと、彼は私に視線を向けた。「俺は、貴様の奏でる音ならば、聞いてやっても良い」 彼の言葉は、彼なりの精一杯の譲歩なのかもしれない。私は、彼の意外な言葉に、少しだけ心が温かくなった。 そして、私の番が来た。 私は、緊張しながら舞台へと向かった。客席には、国王陛下を始め、王族の方々、そして数多くの貴族たちが座っていた。 その中に、アシュトン様の姿もあった。彼の視線は、私を真っ直ぐに捉えていた。 私は、深呼吸をし、鍵盤に指を置いた。 私が演奏したのは、幼い頃から好きだった、故郷の風景を思い起こさせるような、穏やかな曲だった。 私の指が鍵盤の上を滑るたびに、澄んだ音色が広間に響き渡った。

  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   9.王妃選定試験

     陛下の突然の来訪、そして私を次期王妃候補とする命令は、私の日常に大きな波紋を投げかけた。 アシュトン様は、私を王妃選定試験に参加させまいと、ますますその執着を強めた。公爵邸は、まるで私を閉じ込めるための厳重な檻と化したかのようだった。「セリーナ、今日は外出しないのか?」 朝食の席で、アシュトン様が私に尋ねた。彼の視線は、私の行動を常に探っているかのようだった。「はい。今日は、公爵邸の図書室で過ごそうかと」 私がそう答えると、彼は満足げに頷いた。「賢明な判断だ。外は騒がしい」 彼の言葉に、私は息苦しさを感じた。彼は、私が自主的に公爵邸に留まっていると思っているのだろうが、実際は彼の監視下から逃れることができないだけだ。 しかし、王妃選定試験への参加は、王命である。私が拒否すれば、フェルティア公爵家が危うくなる。 私は、アシュトン様の目を盗んで、父に手紙を送った。王命に背くことはできない、と。 数日後、父からの返信が届いた。そこには、王妃選定試験には必ず参加するように、という指示が書かれていた。そして、アシュトン様には、私が王妃選定試験に参加せざるを得ない状況であることを、それとなく伝えるように、とも。 私は、手紙を読み終えると、覚悟を決めた。 私は、王妃選定試験に参加する。それが、私の使命だ。 その夜、私はアシュトン様に、王妃選定試験に参加する旨を伝えようとした。 夕食の席で、彼がデザートに手を伸ばした時、私は意を決して口を開いた。「アシュトン様。私、王妃選定試験に参加させていただきます」 私の言葉に、アシュトン様の手がぴたりと止まった。 彼の顔から、一瞬にして血の気が引いていくのが見えた。 そして、ゆっくりと顔を上げ、私を射抜くような視線で睨みつけた。「……何を言っている?」 彼の声は、低く、そして怒りに満ちていた。「陛下からの命令でございます。フェルティア公爵家として、王命に背くことはできません」 私がそう言うと、アシュトン様は立ち上がり、テーブルを

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  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   6.秘められた過去

     アシュトン様の、私への歪んだ執着は、日を追うごとに巧妙になっていった。 彼は私に「自由」を与えると宣言しながらも、その実は、見えない鎖で私を縛りつけようとしていたのだ。 社交の場には、彼の護衛が必ず同行するようになった。彼らは私を影のように見守り、私が誰かと長く話し込めば、さりげなく会話を遮り、私を彼の元へと連れ戻そうとする。 友人たちも、私の変化に気づき始めていた。「セリーナ、最近、ヴァルター公爵の執着が噂になっているわ。大丈夫なの?」 親友であるリーゼロッテが、心配そうに尋ねてきた。「ええ、大丈夫よ。アシュトン様は、私に興味を持ってくださっただけだから」 私は努めて明るく

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