夕食後、窓から見える景色はすっかり赤らんでいた。
打ち解けた様子のホイットニーは幼い子供達と輪になって歌ったり踊ったりし、ラシャドはそれを見て豪快に笑っていた。
隣の椅子に座っていたライリーが、自分達の近況を穏やかな顔で話してくれる。
「剣の稽古以外、普段の僕達は街へ行き貴族の靴を磨いたり、裏庭で作った野菜を町で売ったりして暮らしています。
アデリナ様に頂いたお金は、いざという時のために貯金してあるんです。」「そっか。無駄遣いしてないんだ。
皆偉いね。」「いえこれくらい普通ですよ、えへへ。」
うわーん、照れたライリー可愛いー!
お風呂に入った後の服は確かに、質素なシャツにズボン。
袖部分に綻びがあるし、多分結構古い。 皆似た様な格好だ。 アデリナが子供達のためにと支援してくれたお金を、大事に取っているらしい。 謙虚。いい子達過ぎる。何なら一生貢いでいてあげたい。 課金とかできるシステム……?現実の私には子供がいなかったけど、子供ができたらこんなに可愛いものなんだろうか?
もしもヴァレンティンがこの世に生まれたとしたら……きっと可愛いんだろうな。
それから私は気になっているラシャドに、思い切って疑問を全部ぶつける事にした。 知らないけど、知ってる風に接するのは本当に難しい。 「あの……前に聞いたのかも知れないんだけど、ラシャドはどうしてこの子達の師範を始めたのかしら?」分からないから聞いておこう。本物のアデリナは知っていたのかもしれないけど。
厳つい顔に似合わないような、大きな瞳をカッと見開き、ラシャドが私の方を向いた。「あらら。俺、アデリナ様には話していませんでしたか?……そうですか。
実は俺には娘がいまして。」&mdas
どこかで聞いた事あるような声。 薄水色にも見える銀の髪。 それが、暗闇を照らす松明の明かりの中で左右に揺れる。 「ぎゃあああああ!!」 こちらに手を伸ばしていた男の腕に、剣先がめり込む。 遅れて血が吹き出した。顔に血が跳ねる。 こんなにバイオレンスな瞬間を初めて目にし、私は全く動けなくなっていた。 彼の背後にはたくさんの兵がいて、剣を持ち、馬で駆け回り、その場にいた男達を次々と薙ぎ倒していってる。 これって、小説にも度々登場した、クブルクの騎兵隊……? 軽装騎兵とかいう…… 「アデリナ………!アデリナ!! 大丈夫か…………!!!」 長めの剣を持ち、馬に乗り、目の前で男の腕を切り、中を蒼白な顔して覗き込む男。 「ロー……ラン、ド?」 切れ長の目が細められ、呼吸を荒げ、額にはダラリと汗が流れていた。 眉を顰め、緊迫した表情で私をじっと見つめている。 何で、ローランドがここにいるんだろう? そんなに必死で、一体どうしたの? ◇ 「バカ者………! 王妃が護衛も付けずに城外に出るなんて、一体何を考えてるんだ!」 確かに…………!! あの山賊の様な奴らは討伐され、私とホイットニーは無事にローランド達に救出された。 御者は足を切られていたが、命に別状はないらしい。良かった。 大量の松明を焚く、騎兵隊の一行。 あの男達は一人だけ残し、あとは多分斬り殺されている。 うわ。えぐう……… 私はと言うと、傾いた馬車の台座の上に座らされ、怪我してないかをローランドに念入りに確認された後、説教を食らっていた。 「陛下、私がアデリナ様を無理やりお連れしたのです!責めるなら私を…!」 「お前は黙っていろ。ホイットニー。 お前には後からゆっくり尋問する。」 必死になって庇ってくれたホイットニーを一瞥後、ローランド
◇◇◇ 「すっかり遅くなってしまったわね。 ありがとうライリー。ラシャド。皆。 ご飯とても美味しかったわ。」 「いえ、こちらこそ。引き止めてしまい申し訳ありませんでした。」 済まなそうにラシャドが言う。 外はすっかり暗くなり、出口辺りで白い街灯が光っていた。 馬車と御者のいる前で皆に手を振る。 「アデリナ様、また来てください。 僕達はいつもアデリナ様を待っています。」 名残惜しそうにライリーが呟き、小さく手を振った。 子供達も大騒ぎである。 「アデリナさまー!また来てねー!」 「絶対だよー!」 馬車が走り出し、見えなくなるその瞬間まで、子供達は私達に懸命に手を振っていた。 ◇ 馬車が走り出してから数分後。 森に近い道を走っていると、突然何かに襲われて馬車が傾いた。 「え…………何…………?」 「あ、アデリナ様」 「何だお前達は……っ、ギャアア!」 御者の悲鳴の様な声。 何か馬車の外にいる。人の足音? 話し声……? 窓からは暗くてよく見えない。 止まって傾いてしまった馬車の中で、ホイットニーが怯えた様に、私のドレスの裾を掴む。 「え、っと……ステータスオープン…」 [謎の集団▷陰謀の匂いがする] やだ……!陰謀って何の!!もっと説明下さいよ! 急に怖い展開なんですけど! 「中にいるのは王妃陛下ですか?へへへ。悪いんですが出て来て下さいヨォ。」 「何……あんた達誰……!?」 強引にドアがこじ開けられて
「どうして……!!なぜ子供達の人生を奪う! 子供達に一体何の罪がある……!」 そんな絶望を抱えたラシャドの前に現れたのが、アデリナだった。 「大の男が何かをする前から大泣き? 情けないわね。」 傲慢で我儘な王妃。 話には聞いていた。 だがアデリナは自身の権力と金を使い、屈強な傭兵団を雇い、奴隷商人達の闇市をぶっ潰し、闇組織を壊滅させ、なんと攫われた子供達を全員連れ帰ってきたのだ。 その中にはあのライリーもいた。 「俺が子供達に剣術を教えようと思ったのは、アデリナ様に感化されたからです。」 ローランドに我儘を言って大量に宝石や店を買い占めたのは、子供達の暮らす教会や食事代のため。 大量の剣の購入のため。 つまり軍資金に充てていたのだ。 「不明金が出れば夫《ローランド》が煩いから。」 「だから宝石なら疑われない。 買った宝石は難なく換金できるわ。 飽きたからと言えばいいしね。 このお金は、この子達のために使ってちょうだい。」 アデリナは、高い場所から人を見下したような態度でラシャドに言った。 それがとても気高く、誇り高く見えた。愛情深い方だとラシャドは感動したらしい。 ……アデリナ…… アンタやっぱり凄くいい奴……!! 見かけには我儘にローランドにお金を出させておいて、実際はローランドの身の安全の為に使っていたって事なんでしょ? って……言いなさいよ!本当に不器用なんだから! 「貴方が、クブルクの王のために精鋭部隊を作りたいと言ったから…… ならば俺は、子供達に自分の身を自分で守れるように、剣を教えようと思ったのです。」 子供達を愛おしそうに見
夕食後、窓から見える景色はすっかり赤らんでいた。 打ち解けた様子のホイットニーは幼い子供達と輪になって歌ったり踊ったりし、ラシャドはそれを見て豪快に笑っていた。 隣の椅子に座っていたライリーが、自分達の近況を穏やかな顔で話してくれる。 「剣の稽古以外、普段の僕達は街へ行き貴族の靴を磨いたり、裏庭で作った野菜を町で売ったりして暮らしています。 アデリナ様に頂いたお金は、いざという時のために貯金してあるんです。」 「そっか。無駄遣いしてないんだ。 皆偉いね。」 「いえこれくらい普通ですよ、えへへ。」 うわーん、照れたライリー可愛いー! お風呂に入った後の服は確かに、質素なシャツにズボン。 袖部分に綻びがあるし、多分結構古い。 皆似た様な格好だ。 アデリナが子供達のためにと支援してくれたお金を、大事に取っているらしい。 謙虚。いい子達過ぎる。何なら一生貢いでいてあげたい。 課金とかできるシステム……? 現実の私には子供がいなかったけど、子供ができたらこんなに可愛いものなんだろうか? もしもヴァレンティンがこの世に生まれたとしたら……きっと可愛いんだろうな。 それから私は気になっているラシャドに、思い切って疑問を全部ぶつける事にした。 知らないけど、知ってる風に接するのは本当に難しい。 「あの……前に聞いたのかも知れないんだけど、ラシャドはどうしてこの子達の師範を始めたのかしら?」 分からないから聞いておこう。本物のアデリナは知っていたのかもしれないけど。 厳つい顔に似合わないような、大きな瞳をカッと見開き、ラシャドが私の方を向いた。 「あらら。俺、アデリナ様には話していませんでしたか?……そうですか。 実は俺には娘がいまして。」 &mdas
思わぬ人物に愛されていたもんだ。 隣国の王子は無理でも、もうこの際ライリーと駆け落ちすれば良くない? ……とは言えライリーってこのくらいだとまだ14歳とかその辺りだっけ? まだ中学生かあ。 だとしたら犯罪になるな。 それにアデリナも近いうちに離婚予定ではあるものの、まだ一応人妻だ。 本気で残念だ。 「アデリナ様。ご無沙汰しております。」 さっきまで子供達に剣を教えていた、ちょっと厳つい村人のような格好の男が近寄ってきた。 髪は白くて短く、顔は角ばって薄ら顎髭を生やしている男性。 まず丁寧に頭を下げる。 見た目に分かるほど屈強な肉体。 汗まみれの額を首にかけていた布でガシガシと拭いていた。 「どうも……?」(ステータスオープン…) [ラシャド▷剣術師範 Lv55 ライリー達に剣を教えている 現在の親密度36] 遠目に見て何となく分かっていたけど、やっぱりライリー達の先生みたい。 ……ていうかレベルと親密度の数字が微妙で良く分からないんですけど。 振り返り、懸命に稽古に励む少年達を眺める。 「アデリナ様のお陰で皆元気になりました。 貴方はあの子達の命の恩人だ。」 「そんな……私は何も。」 実際にライリー達を救ったのは本物のアデリナだ。 でも誰の目にもアデリナはやはりアデリナにしか見えないのだろう。 複雑だが微笑む事にする。 「いつもありがとう、ラシャド。」 「いえ。 あの。もし宜しければアデリナ様もあの子達と一緒に夕食を食べませんか?」 ラシャドの正体は未だよく分からないが、性悪だと言われているアデリナを警戒する様子は全くない。 よほど信頼しているんだろう。 「いいわ。食べましょう。」
そうだ………!! 思い出した! 確かあの戦争の最中、アデリナ達が秘密の精鋭部隊を投入し、ローランドの軍を追い詰めるというエピソードがあった! それがクブルク内部にいたもんだから、ローランドはかなり苦戦したのよね。 じゃあ、あれって……元はアデリナが奴隷少年達を買って育てていた部隊だったの!? しかも最初はローランドのために作った部隊だったのね? アデリナ、やっぱりアンタ凄くローランドを愛してたのね! 何で秘密にしとくのよ! あ!不器用だからか! ……て、事は……このまま小説通りにストーリーが進むとこの子達は全滅するわけ……で。 隣に佇んでいたライリーが腰を低くし、私の右手をそっと握った。 そのまま手の甲に触れるようなキスをする。 まるでファンタジー世界の騎士の誓いの様な仕草。 純朴な瞳がなぜか熱を帯びている。 「アデリナ様。僕達はアデリナ様の命令ならばローランド王を助けます。 ですが…もしアデリナ様がお望みなら、いつでもそのローランド王を殺せます。」 うん、うん、ううんーーー!!? 物騒!何言ってるんだねライリー君!!! フラグ立てたら駄目ーーー!!! とにかく私がこのライリーを買った訳ではないが、これは相当アデリナに忠誠を誓っているみたい。 「あ、ありがとう……?」 「いえ……アデリナ様にキスできて僕は本当に幸せです。」 嬉しそうに微笑んでライリーは名残惜しそうに私の手を離した。 顔が真っ赤である。 えっと……これはどういう事かな。 とりあえず現在のライリーのステータスを確認する事に。