十年の夢が終わった

夫である三木雲翔（みき ゆきと）は本命彼女である東山蛍瑠（ひがしやま ほたる）に私たちの結婚式を見届けさせることを頑なに主張した。

式が新婦入場の段階に差し掛かった時、雲翔は突然、3分間の休憩を要求した。

そして、客席から白いドレスを着た蛍瑠を引き上げた。

すべてのゲストの前で、手をつないで赤い絨毯を歩いた。

彼は言った。「俺は蛍瑠に約束したんだ。必ず彼女と一緒に一度結婚式の赤い絨毯を歩くって」

蛍瑠は涙を流しながら雲翔の胸に飛び込んで、雲翔の両親に向かって言った。

「お義父さん、お義母さん、この人生で雲翔の嫁になるチャンスはないけど、それでもお義父さん、お義母さんと呼びたいです」

そう言うと、彼女は雲翔と熱烈にキスを交わし、離れがたそうだった。

会場は一斉にざわめき、誰もが私の失態を待ちわびてひそひそ話している。

だが、私は笑顔でドアを開け、白いヴェールを引き下ろしてから、蛍瑠の頭にかぶせた。

「雲翔の嫁になるチャンスがないって？そんなにクズ男が好きなら、今すぐあなたにあげるわ」

この言葉で、蛍瑠はその場で雲翔の腕の中で気を失った。

それでも、両手はしっかりと雲翔の肩を抱きしめて、離さなかった。

彼は一切ためらうことなく、すぐに蛍瑠を抱きかかえ、急いで病院へ向かった。

去る際、彼は私に対して「自己中心」や「心が狭い」と公然と叱りつけた。

さらに、私がたった3分間すら我慢できず、結婚式をわざと台無しにしたいと非難した。

雲翔と10年一緒に過ごし、私が妊娠しているため、雲翔の両親がようやく結婚式を挙げることに同意してくれた。

結婚式の10分前まで、私は男が結婚すれば遊びをやめるものだと信じていた。

そして、幸せな家庭を手に入れることができると思っていた。

しかし今、母の佐原幸子（さはら さちこ）は私を恥ずかしいと思った。しかも、テーブルの料理を私の顔にぶちまけて、離れた新郎を取り戻しなさいと泣きながら言った。

父の佐原誠夫（さはら まさお）も私を見ながら、がっかりした表情を浮かべ、私が手渡したブートニアを胸から引き裂き、地面に落として踏みつけた。

元々私を良く思っていない姑の三木直子（みき なおこ）は、ますます険しい顔つきになり、皆の前で私が自己中心的で、躾がなっていないと非難した。

彼女は私の腕をつかみ、冷ややかな口調で言った。

「三木家に嫁ぐには、妻としての躾をしっかり身につけなさい。たとえ辛くても、すべて耐え忍ばなければならないわ。

あなたがこの結婚式を台無しにしたのだから、もう二度と結婚式はできないと思いなさい」

直子の凄絶な表情を見ると、私はどんなに心を込めて接しても、相手から同じような返しを期待するのは無理だと感じた。

10年も経ったのだ。私はもう三木家の嫁なんてやりたくない。

私が何も言わないうちに、直子は私の手を引き、式場から押し出した。

「雲翔を取り戻せないなら、もう帰って来なくていい」

振り返ると、式場のドアはすでにがっちりと閉じられていた。

私の前には突如として激しい雨が降り、後ろには賑やかな結婚式場だ。

私は純白の華やかなウェディングドレスを着ているのに、まるで皆に見捨てられたように感じた。

涙がまだ落ちる前に、ドアが再び開いた。

両親が私の前に立った。

彼らを見た瞬間、私の胸の中の悔しさが爆発した。

声を抑えて、私は子供の頃のように静かに言った。「母さん」

しかし、次の瞬間、幸子の顔色が悪くなった。

「あなたの母親なんてやめるわ。わがままを言わないでって、何度も言ったでしょ。

なのに今、雲翔があなたに怒って去っていった。結婚式も台無しにした。あなたのせいで、恥をかいたわ」

冷徹な声が剣のように私の心に何度も突き刺さった。

「さっさと直子さんの言う通りに、雲翔を追いかけなさい。もし彼があなたをもう必要ないと言ったら、あなたの腹の子はどうするつもり？」

誠夫は何も言わず、ただ背を向けて、幸子と一緒に式場に戻った。

重いドアが再び閉じられた。

私はその場に立ち尽くし、ようやく涙が溢れた。

……

結婚式は郊外の別荘で行われたため、タクシーを呼ぶこともできなかった。

仕方なく、私は傘をさして大雨の中を歩き始めた。

大雨でウェディングドレスが濡れた。真っ白なドレスは泥をかぶり、嫌な灰色に変わった。

それはまるで私の恋愛のようだ。

どれくらい歩いたのかも分からない。雨水に浸ったウェディングドレスは、ますます重くなった。