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last update Last Updated: 2025-11-11 14:52:48

 お祖父様は私の説明を真剣に聞いてくれて、最初のひとつを箸先で持ち上げ、光に透かすようにしてから口へ運んだ。咀嚼のわずかな間。視線だけがこちらへ戻る。

「——なぜ、これを作ろうと思ったのか、聞かせてくれないか?」

 問われて、私は膝の内側で指をそっと握り直す。

「御門の茶会を、手軽に集まれる集いにしたかったからです」

 声は震えない。言葉を選び、畳の目をひとつ数えてから続ける。

「この家は格式が高く、美しい作法で満ちています。でも、ときにその格式の高さは、人の距離を遠くしてしまいます。だから、茶の湯に寄り添う甘味を、御門の皆さまが同じ時間を持てる形にしたいと考えました」

 私は食籠の花びら皿を一枚撫でる。

「蓮司さんから、たこ焼きパーティーをしたことがないと伺いました。だったらみなさんも、たこ焼きパーティーなんて無縁の生活を送られてきたことでしょう。私は庶民ですから、家にたこ焼き機もありますし、一家団欒でパーティーをすることはしょっちゅうです。だから皆様にも、同じ食卓を囲んで笑ってほしいと思いました。肩書きも年齢も関係なく、家族・親族として」

 笑いを取りにいく軽口ではない。誰かひとりが息を飲む気配。私は重ねた両掌を少し深く重くした。

「古い型を壊すのではありません。良いものはそのままに——でも、次の時代の空気をこの家に運びたいと考えました。御門家の門が、柔らかく開くように。……それがこの多幸(たこ)です」

 一拍置き、最後の言葉を置く場所を探す。蓮司がくれたブレスレッドが袖の中で勇気をくれる。

「そして、いちばんは——お祖父様の“ご多幸”を願って作りました。どうかこの先も、季節のたびにおいしい食事を摂り、笑っていただけますように、と」

 頭を下げると、隣で椅子がきしんだ。立ち上がった蓮司が私の前に出る。

「——俺からも申し上げます」

 低く、よく通る声だった。

「俺は彼女以外を、妻に据えるつもりはありません。もしこの場で許されないなら、俺は御門家を出ます。家名よりも、彼女と共に生きることをここで誓います。俺の妻は、ひかり以外考えられない」

 広間の空気が、釜の湯気よりさらに密になる。お祖父様はじっと蓮司を見た。長い沈黙——そして口角が、ほんの僅かに上がる。

「よく言った」

 乾いた掌が膝の上で一度だけ叩かれる。訓戒のそれではなく、合図の音。

「茶の湯は守り伝える
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