ログインさて、試合会場ではマキシマと影光の闘いで盛り上がっている頃…。試合会場の遠くに停めた超絶高級車『ロールスロイス ファントム』から、その勝負を窺う者がいた。運転席にいたサングラスの女性…闇の料理組織『G.O.D.』の幹部の一人である『ラミア』が沸き立つ観客を見て忌々しげに呟く。「ふん…あの三人、本当に使えないわね。観客を沸き立たせてどうする。虫けらを圧倒的な力で踏み潰してこそのG.O.D.でしょうが」会場に忍ばせた調査員から聞いた話では、一試合目は引き分けになったという。この勝負もどう転ぶかわからない、とのこと。それでは目的に反している…ラミアはそう考えた。総帥オーディンの子ながらも失敗作の烙印を押されたフレイヤ、そしてそれを秘密裏に連れ出し育てたリリスへの制裁にはならないのだ。特にリリスには徹底的に潰れてもらわなければならない。もう二度と料理などしたくないと思わせるほどに。舌打ちをするラミアだが…後部座席に座っていた男が静かに言う。「…なればやはり。余が出るべきであろう、な」「え!?そ、そんな!貴方様自らが出るほどでは…」ラミアは慌ててそう言うが…後部座席の男は止まらない。「よい。時には下々の者へ、余自ら教えてやらねばならぬ。料理とは楽しいものではない。笑い合い、愛を育むものではない。食材を支配し、他者を蹂躙し、命を弄ぶものだと。そう…すべてを圧倒的な絶望に沈めるものだ、と」明らかに偏った危険思想を吐きながら、後部座席のその男は車から降りる。そして…花宮町の地をその足で踏みしめた。――――――――――さあ、両者の料理が出揃う。まずはマキシマ作のラーメン…『黄金比率の中華そば』から、審査員実食!審査員A曰く:「おおっ、スープが黄金色に輝いている!鶏の芳醇な旨味とまろやかな醤油のスープ、鶏油の芳しき香りが見事に調和し、麺と具に力を与えている!ううむ、何口飲んでもまったく飽きさせないぞ!」審査員B曰く:「ほほー!これは美味い!すべての素材が隠れず、しかし主張しすぎないスープ!このスープの
さあ、結集したG.O.D.チームとかがやきチーム。第二試合であと一戦を残しながらも、この闘いはすでに総力決戦の様相を呈していた。「サイラスが向こうにつくことは想定していた。だが、あの影真という男…これは想定していなかったな。奴もサイラス同様、とんでもない手練れだぞ」かがやきチームのメンツを見て杉森が眉間にしわを寄せる。サイラスに影真…料理を生業とする者ならば、知らぬ者はモグリと言えるほどの料理人だ。これは苦戦を強いられるだろうと全員が考え込むが…。「…フッ、どのみちいずれ倒さなきゃいけねえ敵だ。たまたまそれが今だっただけのこと。行くぞ、俺達の力を結集して勝利を掴み取る!」マキシマが杉森と伊蔵を鼓舞するようにそう言う。そして…自らのラーメンについて完成形を語った。マキシマのラーメン…それは言わば『黄金の中華そば』。鶏清湯をベースに醤油ダレと鶏油を用いる。麺は自分たちで用意した縮れ麺、具は豚肩ロースの低温チャーシューに鶏むねチャーシュー、穂先メンマに九条ねぎ、そしてゆずの皮を少し。万人向けのラーメンといったものだ。(ラーメンとはあまりにも多種多様、好みも千差万別だ。万人が100点を出すラーメンなど作れるわけがねえ。ならば俺が選ぶのは…最大公約数のラーメンだ!)そう、マキシマのラーメンの完成形はそこにあった。百人が食べて百人が80点以上を出すラーメン…。こと料理勝負においては勝利への最適解とも言えるだろう。そう考えて動き出したマキシマたちだが…ちらりと影光の方を見る。彼はサイラスと影真に自分の完成形ラーメンを話しているようだ。内容までは聞き取れないが、サイラスは深く頷き、影真はガッツポーズを取っている。いったい何を作るつもりなのか…?しかし、それを気にしても仕方がないとマキシマはスープの準備を進めた。(フッ、何を作ろうが構わねえ。いや、むしろ見せてもらいたいもんだぜ。天才たちが結集して作る『万人が好むラーメン』を!)――――――――――一方、マキシマが動き出した少し後に影光たちも動き出す。「影光様!この影真、まずは必殺の出汁とタレを持ってまいりますぞ!こういうこともあろうかと、もちろん用意しておりました!もちろん麺も!すべてお任せ下され!!」そう言って影真が走り出す。影光のラーメンに必要なものを準備しに。そ
――さて、料理テーマを早めに発表した審査員たちが何やら大騒ぎだ。審査員Dことラーメンおじさんがだいぶ荒ぶっており、他の審査員がそれをなだめている始末である。(料理テーマってどうやって決めてるんだ?毎回ランダムなのかな?まあ、意図的だったらラーメンの類は省くだろうな。あんな騒ぎになることだし)などと考える影光だが…気を入れ替えて、目の前の相手を見る。相手は『温度管理のマキシマ』。異名の通りだとすれば、ラーメンにおいてかなりの強敵となるだろう。警戒する影光だが…相手のマキシマは気さくに話しかけてきた。「坊主、いい面構えだな。さすがあの暗黒食王の息子だ」「…マキシマさん、僕の父さんを知ってるんですか?」「フッ、当たり前だ。いや、この世界に生まれて、料理の道に生きる者で暗黒食王を知らねえ奴ァいねえ。我が主『オーディン』様と並ぶ日本料理界の双極だからな」見ると、マキシマは嬉しそうに語っている。温度管理のマキシマ…背丈は高く横幅も大きくまるでプロレスラーのような体格であるが、性格は悪くなさそうだ。しかし、先の伊蔵のように精神的揺さぶりをかけてくる可能性もあるし、いい人だったらそもそも地上げ屋の専属シェフにはならないだろう。そう考えて警戒を続ける影光だが…。「心配するな。このマキシマ、そこまで深いことは考えられないよ。何と言っても見た目の通り熱血そのものだからな。まあ、私が知ってるマキシマのままなら…だが」後ろからサイラスが笑いながら影光に声をかけた。マキシマもそれを見て軽く頭を下げる。どうやらサイラスとマキシマは旧知の仲のようだ。「あれ?サイラスさん、お知り合いなんですか?」「ああ、かつては|同じ組織…G.O.D.にいたからな。それより、久しぶりだなマキシマ。お前がまさか地上げ屋の走狗になるとは思わなかったぞ」(サイラスさんだって地上げ屋の専属シェフとかやってたじゃん)ちょっとそんなことを思う影光だが、そんな気持ちも知らずサイラスとマキシマは会話をしている。
さあ、フレイヤと伊蔵の刺身料理対決…審査員実食開始!まず審査員の前に運ばれたのは、伊蔵のマグロ尽くしの刺身盛りである。マグロの赤身に中トロ、大トロ、そして中落ち。だがもう一つ、見慣れない部位があるが…?「おお!なんと見事な彩り…あれぞまさにマグロそのものだ!」「だが、あの見慣れない刺身はなんだ?あれもマグロなのか?」「ううっ、普段の刺身では見たことはないが…」いらんことは知っているくせに重要なことを知らない、なんというかよく出来た観客の声を背に伊蔵は言う。「これぞ俺が信じる究極の刺身料理…名付けて『真黒奔烈』!」さて、審査員が食べ始めるが…。審査員A曰く:「ふ、ふおっ!?この赤身…なんと清涼な味!大トロも中トロも上品な脂の乗りだ!中落ちも綺麗に整えてある…すべて適切な大きさだ!生臭さなど一切ない、マグロの旨味を100%活かしている職人包丁の極致だ!」審査員B曰く:「ぬわー!トロの脂が醤油に溶け出している!新鮮そのもの、これは包丁の技術なのか!?身が死んでいない!生きたまま赤身が、中トロが、大トロが、中落ちが、私の身に活力を与えてくれる!私の体という海を生きたマグロが刺身となって泳ぎ始めている!」審査員C曰く:「残った部位…こ、これは!かつて高級料亭に勤めていた私ならわかる!これは…マグロの脳天!一匹から少量しか取れない希少部位だ!こ、これほど丁寧な包丁さばきとは…!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」まさか脳天の刺身を出すとは!?とざわざわし始める観客。「脳天の刺身か…腐っても伊蔵、なかなかの腕と選択だ。赤身、大トロに中トロ、中落ち、そして脳天…。マグロの味を十分に引き出しているというわけだな」「食べたいわねえ、あの刺身。うちで出すならいくらぐらい取るべきかしら?」サイラスが納得したように頷き、リリスが俗っぽいことを言い出す。地上げ屋のおじさんを始めとした相手方もすでに勝ちムードだ。それも仕方ないだろう、マグロといえばもはや刺身の王と言っても過言ではない。そして対するフレイヤの月海鮭の刺身…。フレイヤ曰く『LUNATIC-PARTY』!いざ、実食!といくところだが…審査員の一人Aが、その前に口を出してきた。「さて、フレイヤ嬢、影光氏。まず一つ聞きたい。鮭の刺身がポピュラーで
さて料理勝負の決定後、いつものように湧いて出てくる審査員と観客たち。チーム戦というのはしばしば見られる勝負方式ではあるが、修羅が集う食堂こと『町食堂 かがやき』の面々が順に闘うというのはこの花宮町では最大のイベントだ。観客たちの声援もいつもより気合が入っている。だが影光としては、それよりリリスの変化の方が重要だった。彼女の真剣な表情というのは、この町に来てから一度も見たことがない。その彼女がここまでの顔をするというのは…おそらく、地上げ屋のおじさんの連れてきた専属シェフたちのいずれか、あるいは全員に起因しているのだろう。それはフレイヤも同様に感じているようだった。母の珍しい表情に戸惑い、不安を感じているようだ。ともかくまずは勝たなければ、と影光が一歩踏み出すが…。「待て、少年。俺の相手はお前ではない」同じように前に出た『包丁の伊蔵』が影光を制した。疑問に思う影光だが…伊蔵は続けて言う。「考えてもみよ、こっちは三連敗したらタワマンを作らされるのだ。それに対してそっちは三連敗しても年増の交際のみ…。しかもさっさと別れてしまえばそれまでよ。背負うリスクから考えると、こっちが対戦相手を指名しても不公平ではないと思うが?」誰が年増よ!と後ろで怒るリリス三十五歳だが…確かにそれも一理あるということで、審査員は伊蔵の要求を認める。そして伊蔵が対戦相手として指名したのは…フレイヤだった。「俺の相手は、お前…いや、貴方です。フレイヤ様」そう言うと伊蔵は恭しく頭を下げる。戸惑うフレイヤだが…そんな彼女に伊蔵はさらに告げた。「大恩ある『オーディン』様のご息女に無礼を働くこと、どうかお許しください」「えっ…?誰それ?しかも、ご息女って…?」「…やはりリリスは話しておりませんでしたか、あの裏切り者め…しかしながら勝負となれば別。全力をもってお相手させていただきます」
さあ、調理タイムも中盤に差し掛かった。いざ月海鮭を前にしたフレイヤだが…それを持ってきた影光に尋ねる。「こ、こんな魚捌いたことないんだけど…どう切ればいいわけ?」そう、あくまで包丁で魚を捌かなければいけないのはフレイヤだ。食材の用意や下ごしらえ、アドバイスなどは急遽加わったアシスタントの影光が行ってもいいが、調理の本質となる部分はメインの料理人であるフレイヤが行わなければいけない。ましてや、相手は幻の神食材『月海鮭』。生半可な包丁さばきが通る魚ではない。神食材とは調理も困難だからこそまさに『神』なのだ。しかし…影光は、確信を持って言った。月海鮭は、刃を選ぶのではない、料理人を選ぶ。そう言われる食材だ、と。「フレイヤさん。月海鮭に理屈は通じない。必要なのは食材への敬意と、美味しいものを食べさせたいという強い気持ちのみ。君ならきっとできる。月海鮭も心を開いてくれるはず!」「えっ?ちょ、意味が分からないんだけど…?」「僕は月海鮭に合う最高の醤油と薬味を用意する!じゃあ、任せたよ!」そう言って影光は醤油や薬味の準備に取り掛かる。フレイヤが何度聞いても『気持ちで行ける!』『愛があれば大丈夫!』と完全に精神論でしか答えない。野球で例えるなら「ビューンと球が来るでしょ、それをカキーンと打つでしょ。そしたらスゥーッとスタンドに入るってわけ」レベルで何にも通じないアドバイスである。ため息を吐いたフレイヤだが…まあ確かに今から伊蔵に勝つにはこの魚を刺身にするしかないだろう。諦めてとりあえず包丁を入れようとするフレイヤだが…。包丁はあっさりその身に弾かれる。「包丁、弾かれちゃうんですけど…?」「それはたぶん気持ちが入ってないから!大丈夫!君ならできる!」あ、ダメだこれ、とフレイヤは諦めて腕を組む。気持ちで行けと言われてもどうすればいいというのか。精神論は嫌いではないが、