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第8話「THINK ABOUT MY DAUGHTER」

last update 公開日: 2026-07-11 23:01:55

さて料理勝負の決定後、いつものように湧いて出てくる審査員と観客たち。

チーム戦というのはしばしば見られる勝負方式ではあるが、修羅が集う食堂こと『町食堂 かがやき』の面々が順に闘うというのはこの花宮町では最大のイベントだ。観客たちの声援もいつもより気合が入っている。

だが影光としては、それよりリリスの変化の方が重要だった。

彼女の真剣な表情というのは、この町に来てから一度も見たことがない。その彼女がここまでの顔をするというのは…おそらく、地上げ屋のおじさんの連れてきた専属シェフたちのいずれか、あるいは全員に起因しているのだろう。

それはフレイヤも同様に感じているようだった。母の珍しい表情に戸惑い、不安を感じているようだ。

ともかくまずは勝たなければ、と影光が一歩踏み出すが…。

「待て、少年。俺の相手はお前ではない」

同じように前に出た『包丁の伊蔵』が影光を制した。疑問に思う影光だが…伊蔵は続けて言う。

「考えてもみよ、こっちは三連敗したらタワマンを作らされるのだ。それに対してそっちは三連敗しても年増としまの交際のみ…。しかもさっさと別れてしまえばそれまでよ。背負うリスクから考えると、こっちが対戦相手を指名しても不公平ではないと思うが?」

誰が年増よ!と後ろで怒るリリス三十五歳だが…確かにそれも一理あるということで、審査員は伊蔵の要求を認める。

そして伊蔵が対戦相手として指名したのは…フレイヤだった。

「俺の相手は、お前…いや、貴方です。フレイヤ様」

そう言うと伊蔵は恭しく頭を下げる。戸惑うフレイヤだが…そんな彼女に伊蔵はさらに告げた。

「大恩ある『オーディン』様のご息女に無礼を働くこと、どうかお許しください」

「えっ…?誰それ?しかも、ご息女って…?」

「…やはりリリスは話しておりませんでしたか、あの裏切り者め…しかしながら勝負となれば別。全力をもってお相手させていただきます」

それだけ言って、伊蔵は己の持ち場へ戻っていった。呆然とするフレイヤだが…そこで、審査員が料理テーマを発表する。

今回のテーマは…『刺身』!

「おおっ、刺身とは!包丁の伊蔵なる異名を持つ者からすれば得意分野では!?」

「しかし、フレイヤも包丁さばきなら負けていないぞ!」

「ううっ、だがあの精神状態でまともに料理ができるのか…?」

毎回テーマを決めるのは審査員だが、今回は勝負のリスクもあってかちょっとえこひいきが入っているのかもしれない。ざわつく観客だが…その中に混ざり、勝負を観戦していたサイラスが忌々しげに吐き捨てる。

「伊蔵め、フレイヤに揺さぶりをかけるとは…しばらく見ないうちにずいぶんとやり方が汚くなったじゃないか」

――――――――――

さあ、調理タイム開始だが…。

大型のマグロを丁寧に捌いていく伊蔵に対し、フレイヤは先の発言に戸惑っているのか、なかなか動き出すことができない。時間はまだあるので、落ち着きを取り戻すことを期待するしかないが…。

「リリスさん、さっきのはどういう意味なんですか?オーディン様のご息女って…それにあの伊蔵さんの態度は…」

その言葉にリリスが、それは、と答えに困っているところ…観客席からサイラスがこちらへ向かってきて影光に話しかける。

「それは私から話そう。リリスの口から語らせるにはあまりにも酷だ」

…サイラスが言うにはこうだった。

まず、『オーディン』とは、闇の料理組織『Genesisジェネシス-Ofオブ-Dishディッシュ』略して『G.O.D.』の創始者にして総帥。フレイヤは、大勢いる彼の子の一人ということだった。

しかし十年前、フレイヤは『才能無き失敗作』として父オーディンから育成を放棄される。オーディンの正妻はもちろん、側室であったフレイヤの母にして当時のリリスの上役でさえ、それに異議を述べなかったという。

G.O.D.に所属しつつもそれを不憫に思ったリリスは、秘密裏にフレイヤを連れ出し普通の親子として市井しせいで生活を始めた。

フレイヤも幼かったうえ捨てられたショックのせいか、当時の記憶はなかったのである。そして、同じく当時G.O.D.に所属していたサイラスも、姿は現さずとも陰ながらサポートしていたのだ。

「つまり、リリスさんとフレイヤさんは実の親子じゃないってことですか?そんなことが…」

「うむ…G.O.D.にとって調理人の逃亡はたまにあることだ。それゆえここ十年彼らがそれを咎めたことなどほとんどなかった。ところが最近になって、なぜか急にそれを問題視し始めたのだ。その理由は私にもわからんが、放っておくわけにもいかんと思ってな」

それを受けて心配そうにフレイヤを見る影光。

今の話は聞こえてなかったようだが、やはりかなり戸惑っている。刺身にする魚の選別にさえ困っているようだ。精神的に万全の料理ができる状態ではないのだろうが…かといって今の話を伝えるわけにはいかない。

(このままじゃ、フレイヤさんは負ける。でも…どうすればいい?何か方法は…)

そこまで考えて…影光はハッとあることを思いつく。そして、食堂の裏手に走り去っていった。

「少し席を外します!すぐ戻ってきますから!」

――――――――――

戸惑いながらも料理を進めようとするフレイヤを見て、伊蔵がため息を吐く。

(まったく、嫌になる。あんな少女に精神的な揺さぶりをかけねばならんとは…)

伊蔵とて料理の腕に秀でた者、正々堂々と勝負をしたかったのが本音である。しかし、ここでの敗北はG.O.D.からの追放を意味する。それでなくとも上役のラミアから『どんな手を使っても勝て』と念を押されているのだ、ここで敗北するわけにはいかない。

手早くマグロを捌いていく伊蔵。トロや中トロに赤身、さらには『中落ち』と呼ばれる部分まで丁寧に削ぎ落としていく。

「ううっ!なんと丁寧な仕事なんだ!!」

「寸分の乱れもない綺麗な包丁さばき…さすが包丁の伊蔵と異名をとるだけはある!」

「おおっ、中落ちまで包丁で削ぎ落としている!無駄な動きが一切ないぞ!」

観客も伊蔵の仕事に大絶賛である。伊蔵もその賞賛に当然だと言わんばかりの表情を浮かべるが…。

しばし経ち、観客がどよめき始める。

「うおっ!?な、なんだアレは!?」

「鮭か!?でも、あんな鮭見たことないぞ!

「持ち込みはOKとはいえ、あんな魚いったいどこから!?」

どうやら自分の仕事のことではないらしい、となればフレイヤの方で何かがあったか、とそちらを見る伊蔵だが…彼もあっと声を上げた。

フレイヤの調理台へ、影光が静かに蒼く光り輝く鮭を運んできていたからだ。

「な、なんだあの鮭は!?俺も見たことがない!」

思わず伊蔵が声を上げる。仲間のマキシマや杉森も唖然としているが…その中で、サイラスだけはニヤリと笑い解説を始めた。

「あれは…月海鮭げっかいざけ!幻の食材だ!」

「鮭?言われてみれば見た目は確かにそうね…でも今回のテーマは刺身でしょ?サーモンならともかく、鮭の刺身は危ないんじゃないかしら」

もっともなリリスの疑問にサイラスが自信満々に答える。

月海鮭げっかいざけ――

鮭は通常、川で生まれた後、数年にわたって海を回遊する。そして再び生まれた川へ戻り、産卵してその命を終える。だが稀に、産卵せず命を蓄えたまま再び海へ戻る鮭がいるという。

その鮭は何度も何度も鮭の一生のサイクルを繰り返し、同じ身で輪廻転生を続け、命の炎を凝縮し続けるのだとか。

その炎は寄生虫さえ焼き尽くし、寄り付くことすら許さない。さらにその鮭は高貴で孤高な存在のまま数百年を生き続けることもあるという!

それこそが月海鮭げっかいざけ、神とも呼ばれる幻の食材の一つである!――

「まさか月海鮭げっかいざけを出してくるとは…。ふふふ、さすがは暗黒食王クッキング・オブ・ダークネスの息子ということか。これはわからなくなってきたぞ」

「っていうかどこから持ってきたのかしら」

そのサイラスの説明とリリスのもっともな疑問が聞こえた伊蔵も俄然がぜんやる気を出し、大きく気勢を上げる。

「ふはははは!!そうか!あれが幻の食材…月海鮭げっかいざけか! まさかこんな場所でお目にかかることができるとはな!!

いいだろう!神に我が技が通じるか否か…。この包丁の伊蔵、全身全霊をもってお相手いたそう!!」

調理タイム中盤!勝負はまだ続く!!

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    さて料理勝負の決定後、いつものように湧いて出てくる審査員と観客たち。チーム戦というのはしばしば見られる勝負方式ではあるが、修羅が集う食堂こと『町食堂 かがやき』の面々が順に闘うというのはこの花宮町では最大のイベントだ。観客たちの声援もいつもより気合が入っている。だが影光としては、それよりリリスの変化の方が重要だった。彼女の真剣な表情というのは、この町に来てから一度も見たことがない。その彼女がここまでの顔をするというのは…おそらく、地上げ屋のおじさんの連れてきた専属シェフたちのいずれか、あるいは全員に起因しているのだろう。それはフレイヤも同様に感じているようだった。母の珍しい表情に戸惑い、不安を感じているようだ。ともかくまずは勝たなければ、と影光が一歩踏み出すが…。「待て、少年。俺の相手はお前ではない」同じように前に出た『包丁の伊蔵』が影光を制した。疑問に思う影光だが…伊蔵は続けて言う。「考えてもみよ、こっちは三連敗したらタワマンを作らされるのだ。それに対してそっちは三連敗しても年増の交際のみ…。しかもさっさと別れてしまえばそれまでよ。背負うリスクから考えると、こっちが対戦相手を指名しても不公平ではないと思うが?」誰が年増よ!と後ろで怒るリリス三十五歳だが…確かにそれも一理あるということで、審査員は伊蔵の要求を認める。そして伊蔵が対戦相手として指名したのは…フレイヤだった。「俺の相手は、お前…いや、貴方です。フレイヤ様」そう言うと伊蔵は恭しく頭を下げる。戸惑うフレイヤだが…そんな彼女に伊蔵はさらに告げた。「大恩ある『オーディン』様のご息女に無礼を働くこと、どうかお許しください」「えっ…?誰それ?しかも、ご息女って…?」「…やはりリリスは話しておりませんでしたか、あの裏切り者め…しかしながら勝負となれば別。全力をもってお相手させていただきます」

  • 料理の時間~Cooking Showdown Begins!~   第9話「Be Awake」

    さあ、調理タイムも中盤に差し掛かった。いざ月海鮭を前にしたフレイヤだが…それを持ってきた影光に尋ねる。「こ、こんな魚捌いたことないんだけど…どう切ればいいわけ?」そう、あくまで包丁で魚を捌かなければいけないのはフレイヤだ。食材の用意や下ごしらえ、アドバイスなどは急遽加わったアシスタントの影光が行ってもいいが、調理の本質となる部分はメインの料理人であるフレイヤが行わなければいけない。ましてや、相手は幻の神食材『月海鮭』。生半可な包丁さばきが通る魚ではない。神食材とは調理も困難だからこそまさに『神』なのだ。しかし…影光は、確信を持って言った。月海鮭は、刃を選ぶのではない、料理人を選ぶ。そう言われる食材だ、と。「フレイヤさん。月海鮭に理屈は通じない。必要なのは食材への敬意と、美味しいものを食べさせたいという強い気持ちのみ。君ならきっとできる。月海鮭も心を開いてくれるはず!」「えっ?ちょ、意味が分からないんだけど…?」「僕は月海鮭に合う最高の醤油と薬味を用意する!じゃあ、任せたよ!」そう言って影光は醤油や薬味の準備に取り掛かる。フレイヤが何度聞いても『気持ちで行ける!』『愛があれば大丈夫!』と完全に精神論でしか答えない。野球で例えるなら「ビューンと球が来るでしょ、それをカキーンと打つでしょ。そしたらスゥーッとスタンドに入るってわけ」レベルで何にも通じないアドバイスである。ため息を吐いたフレイヤだが…まあ確かに今から伊蔵に勝つにはこの魚を刺身にするしかないだろう。諦めてとりあえず包丁を入れようとするフレイヤだが…。包丁はあっさりその身に弾かれる。「包丁、弾かれちゃうんですけど…?」「それはたぶん気持ちが入ってないから!大丈夫!君ならできる!」あ、ダメだこれ、とフレイヤは諦めて腕を組む。気持ちで行けと言われてもどうすればいいというのか。精神論は嫌いではないが、

  • 料理の時間~Cooking Showdown Begins!~   第7話「THE FATAL HOUR HAS COME」

    さて、影光がこの町『花宮町』に来てから二週間が経った。かつてとは変わり、多くの客が訪れている『町食堂 かがやき』でのアルバイトは忙しくも楽しく、研鑽の日々でもあった。一応アルバイトの期間は影光が花宮町に留まる一か月間と決めていたが、延長してもいいかな…と考え始めてもいた。そんなある日…店に、ある因縁の人物が現れる。ギラギラとした下品なスーツ、禿げあがった頭、妙に整えたヒゲに似合わないサングラス…そんなファッションをした小柄な五十代ほどの男性。そう、いつもの地上げ屋のおじさんだ。「お~う、フレイヤちゃん。お母さんおるか~?」「いない。帰ったら?」その姿を見るなりフレイヤがそう発言するが、地上げ屋のおじさんは今日は客として来たと言い張る。それでも帰れと言うフレイヤに対し、影光がなだめるように言う。「まあまあ、お客さんとして来たんだから。で、ご注文は?」「おう、カレーじゃ。普通のカレー。坊主、ワレが作ったカレーを食わせてもらおうかい」まるで何かを企んでいるかのようにニヤニヤと笑うおじさんだが…。まあそのくらいなら別にいいやとカレーを作る影光と、なんか変なことを言い出したら代金を百倍、いや五百倍にしてやるからねと思うフレイヤであった。当然ながら、この時はまだほとんど誰も気づいていなかった。闇の料理組織『G.O.D.』の魔の手は静かに伸びており、それが『町食堂 かがやき』の面々を大きな陰謀の渦に巻き込んでいくことを。――――――――――目の前に運ばれた『普通のカレー』600円を一口食べる地上げ屋のおじさん。だが…彼はその一口で食べるのを止め、店員の影光を呼んだ。「ふん、お勘定や。もう食う価値もないわ。これならワシが新たに雇った専属シェフのカレーの方が圧倒的に美味いわ。坊主、才能無いのう?ワレ」「えっ…」唐突にされたダメ出しに思わず声が出る影光。しかしすかさずフレイヤが…。「はいどうも。お勘定、迷惑料込みで300万円になりまーす」「えっ」地上げ屋のおじさんに対し、何の脈絡も

  • 料理の時間~Cooking Showdown Begins!~   第6話「Upstream Children」

    調理タイム終了!まずは影光の冷やしうどん。キリリと冷えたうどんに、いりこ出汁と醤油ベースの冷たいつゆ、薄切りの酢橘と白髪ねぎ、最後の仕上げに乗せたミニトマトという清涼を感じるうどんである。影光曰く、名付けて『香徳』。讃岐うどんの『香川』と酢橘の『徳島』を合わせた、ちょっとした言葉遊びである。さて、審査員実食!審査員A曰く:「うむむっ!コシが強く、うどんの茹で方シメ方ともに不足なし!うどんの旨味を十二分に引き出している!なんと見事な見極めだ!」審査員B曰く:「むふう、このツユも見事だ!醤油といりこ出汁をベースに酢橘の爽やかさが駆け抜ける!梅肉の酸味がほのかに香り、そこにミニトマトのアクセント!これは夏にはたまらない爽快感の贈り物だ!」審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私だが、私の店では出ないタイプの料理だ。だが、味は申し分ない!毎日食べたい料理と言えるだろう!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」「うどんでもダメなんだ。同じ麺料理なのに。妥協しないなあ、あのラーメンおじさん」そんな審査員Dに対する影光の皮肉を流して、フレイヤの料理が出される。熱いうどんにほのかに赤いツユ、その上には堂々と座るかしわ天と、それに寄り添う温玉と大根おろし。名付けて『 C . F . H . 』!「何その名前」「え?昔漫画で見たから」そんな影光とフレイヤの会話を横目に、さあ審査員実食!審査員A曰く:「むほー!熱い!辛い!しかしこれはどうしたことだ!箸が、箸が止まらない!旨味が!辛いだけではないツユの旨味がコシの強いうどんと見事に調和している!夏でも辛さはやっぱり欲しい!」審査員B曰く:「むむむ、ただの麺とつゆの調和ではないぞ!まるで両者が宿命のライバルの如く高め合い上昇気流に乗り、より高みへ上っているのだ!そこにこのかしわ天が両者を助け、大根おろしと温玉が辛みを優しく包み、味全体をまろやかにまとめている!ま、まさにうどんの三種の神器!!」審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私だが、このバランスは見事!一つでも味が強く、また弱ければすべてブチ壊しになる!うむむ、この若さで恐ろしいバランス感覚だ…!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」さて、両者の料理

  • 料理の時間~Cooking Showdown Begins!~   第5話「冒険は日常の中に」

    さて、影光が『町食堂 かがやき』に来てから一週間後…。店は、今まで閑古鳥が鳴いていたのが嘘のようにお客さんであふれ返り、大繁盛していた。近所の住民はもちろん、ちょっと離れた隣町や隣県からも来ている様子である。影光やフレイヤも今までとは打って変わって朝から夕方まで大忙しの様子だ。母のリリスはあんまりいつもと変わらない様子であるが。――ここまで急に客が押し寄せるきっかけになったのは、影光のたった一つのアイデア。『お客さんには喧嘩を売られない限り、無意味に勝負を吹っ掛けない』それだけである。それをわざわざ店の前に張り紙までして周知したところ…敬遠していた客が押し寄せたのだ。もともと味は絶品で値段もわりと安く、実年齢より十歳から十五歳は若く見えるゆるふわ系美人店主(三十五歳)が適当に接客してくれるので、そりゃ来るわ来るわの大騒ぎであった。「とほほ~こんなに忙しくなるなんて思わなかったよ」などとフレイヤもこぼすほどである。また、たまに喧嘩を吹っ掛けてくる腕自慢の修羅がいても、以下のように正当な理由を付けて断っていた。『他のお客さんの対応で忙しいから今は無理。どうしてもやるならまず食べて待ってて』客も修羅も優先度は同じ、先着順というわけである。さらに地上げ屋のおじさんも来たが『帰れ』の一言でショボーンとして帰っていった。さてそんな中、影光はというと…実は少し困っていた。店が繁盛するのは良いことだ。文句を言いながらもイキイキとしているフレイヤやその母リリスを見ると嬉しいのは事実である。だが、せっかくだからやはり料理勝負をして腕を磨きたい気持ちもある。腕自慢の修羅が勝負を断られてショボーンとして帰っていくのは、やっぱりちょっと成長の機会が失われてもったいない気がした。もっともその修羅たちも店で影光やフレイヤの料理を食べて『うう、負けた…』と諦め帰っていくので、そもそも勝負をするまでもないのかもしれないが。…そんな影光を見てフレイヤも何か思うところがあったのか、昼休憩中に影光に話しかけてきた。「勝ち負けの条件はなしで、料理勝負しようか?ほら、私もお客さんに勝負を吹っ掛けられなくてつまらないし」フレイヤが影光に気をつかっているのか、それともとにかく喧嘩をしたいバーサーカーなのかは知らないが…フレイヤなら相手に不足はない、とその申し出をありがたく承諾す

  • 料理の時間~Cooking Showdown Begins!~   第4話「BALANCE」

    さあ、影光&フレイヤとサイラスの料理が出揃った。いよいよ、審査員の実食開始!まずは影光側から料理を出す。皿の中央には、三日月のように弧を描く半熟オムレツ。その下には、赤く艶めくチキンライスが大地のように広がっている。影光曰く…名付けて『黄金の三日月』!審査員A曰く:「ふおおっ…溶ける!フォークを入れただけで卵が溶けるぞ!黄金に輝く半熟のオムレツに色鮮やかなチキンライス…なんと鮮やかな色彩のバランスだ!」審査員B曰く:「味も申し分ない!味の強いチキンライスを卵の優しき甘さが包む!力強くも大地を踏みしめる勇者と、それを優しく見守る姫のようだ!世界を救う僕たちの旅はここから始まる、と言っているようだ!!」審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私だが、これほどまでに調和の取れたオムライスはなかなかお目にかかれん…味、色彩、温度…全てにおいて非のつけようがない!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」最後の評価に少しため息を吐く影光だが、審査員の反応は上々のようだ。その分、なんで審査員Dのラーメンおじさんは許されているんだろうと考え込んでしまう。(でも…誰も文句を言わないのなら、仕方ないのかもしれない。何か凄い人なのかもしれないし…)ともかく、影光は相手のサイラスの反応を見るが…。なんと、サイラスはまったく動じず静かに笑っている。まるですべて予想済み、こちらは掌の上だとでも言いたげな余裕だ。(あの人、まったく動じていない…なぜだ?自分の料理にそれほど自信があるのか?)フレイヤもまた別の意味でサイラスのことが気になっていたようで、彼の方を見る。「あれほどの人が、なんで地上げ屋の専属シェフなんてやってるんだろうね?お金で動くような人でもなさそうだし」と、やっぱりそこは疑問に思っているようである。おそらく、会場の人間みんながそれを思っているのではないだろうか。――次に、サイラスが前に出る。「では、私の番だな。ご覧いただこう。これがこのサイラスの卵料理…その名も『卵貫全席』だ」そこに出された皿は五品…それを見て観客がうおおおっ!?と声を上げる。第一の品はまるで小籠包…しかし、卵白を皮のように薄く焼き、中には卵黄の餡。第二の品は黄身の低温固め…まるで黄身漬けのようだ。第三の品

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