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春ぬく、届かない陽だまりへ
春ぬく、届かない陽だまりへ
مؤلف: むぎこ

第1話

مؤلف: むぎこ
結婚式直前、京藤文彦(きょうとう ふみひこ)は新人インターンとの夜の密会をスクープされた。

逆上した朝日陽子(あさひ ようこ)は、気分転換に飛行機で旅立った。しかし、なんと5年後の世界に来てしまったのだ。

彼女はまず両親に電話をかけたが、その番号はもう使われていなかった。次に開いたノートパソコンには【当該IDは死亡により抹消されました】という通知画面――それを見た瞬間、足元がぐらついた。

俯くたびに、涙が雫となってスマホに落ちる。すると、その衝撃でスリープ画面が光りだした。映り込んだのは、文彦とのウェディングフォトだ。

ようやく状況を飲み込んだ陽子は、慌てて画面ロックを解除し、文彦への通話ボタンを押す。

受話器からは発信音だけが響く。彼女は息を殺してその音を数え続く。

すると、次の瞬間。聞き慣れた声が耳の奥に響いた。「もしもし?」

張り詰めていた心が一気に緩み、困惑と悔しさが堰を切ったように溢れ出る。「あなた、何かおかしいことが起きてる……怖い……今、迎えに来てくれる?」

文彦は一瞬の沈黙の後、それから冷静に答える。「わかった」

……

懐かしいオフィスにたどり着いて、初めて陽子は安心感を得た。彼女は文彦に駆け寄り、その胸に顔を埋めて声を詰まらせた。

しばらくして、文彦は眉をひそめて彼女を離した。

「タイムスリップした、だと?」

陽子が慌ててうなずくと、彼はため息混じりに笑った。

「相変わらずだな、でたらめを平気で言うのは。五年前に逃げ出したくせに、今度はとんでもない言い訳を持って来やがって」

「私の言うこと、信じないの?」ついこの間まで一緒に結婚写真に収まっていたというのに、今目の前の男は見知らぬ他人のように冷たかった。

「どう信じろというんだ?

五年前、お前が消えてから、俺たちの婚約は周りの笑いものになった。お前の両親は必死に探し回り、疲労運転で事故を起こして他界したんだぞ」

陽子は苦しげに目を閉じ、震える体を必死に堪えた。

ようやく声を取り戻して問うた。「それなら…あなたは、この五年間、私を探してくれたの?」

文彦の視線は冷ややかなまま、沈黙を貫いた。

その時、優しい女の声がドアの方から聞こえた。「文彦、差し入れだよ……」

陽子の体は一瞬で硬直し、血の気が引いていくのを感じた。

振り向く勇気もなかったが、背後から近づく足音がはっきりと聞こえた。

文彦は来た女性を優しく肩に抱き、口調を和らげて言った。「見ての通り、俺は結婚している。こちらが妻の京藤美優だ」

陽子の目に映ったのは、まさしく五年前、文彦と深夜に一緒にいるところをスクープされたあのインターンだった。

京藤美優(きょうとう みゆう)はルーズ感でオシャレな髪型に、上品な微笑みを浮かべて言った。「ごきげんよう」

陽子は足元が崩れるような衝撃を覚えた。

この一日で、彼女は両親を失い、そして愛する人をも失ってしまったのだ。

陽子はよろめくように振り返り、ふらふらと外へ歩き出した。

「陽子」

文彦の口調は相変わらず冷静だった。「お前、行く当てがあるわけでもないだろ。

……昔の情けだ。とりあえず俺の家に住みなさい。今後のことは追って考えよう」

美優が陽子の手を握り、優しく囁く。「ええ、何があったのか詳しい事情はわかりませんけど、お辛そうですね。

何かお困りでしたら、一度私たちについて来てくださいませんか」

胸の奥をえぐられるような鈍い痛みが陽子を襲った。

昔、文彦が「一緒に家に帰ろう」と言ったのは、二人の愛の巣だった。

今、彼が口にする「家」は、他の女との生活の場だ。

そうして陽子は地下駐車場へ連れて行かれた。

文彦が助手席のドアを開けると、陽子は無意識にそこへ座った。

少しだけ眉をひそめたが、文彦は何も言わず、代わりに美優を優しく後部座席に導いた。

手のひらに力を込め、自身の不行儀に気づいた陽子は、いたたまれない気持ちになった。

文彦の助手席は、確かに昔は彼女だけの専用席だった。

けれど今、美優こそが彼の妻なのだ。

エンジンがかかり、車内には陽子の好きだったジャズやビートではなく、穏やかなインストゥルメンタルが流れていた。

車は陽子の記憶にある通りの道を進み、ついに見覚えのある一軒家の前で停まった。

ここは、二人がこれから新婚生活を築くはずだった家。

室内から庭まで、すべてが陽子の好みで設計され、飾られていた場所。

今は、すっかり見知らぬ景色に変わっていた。

陽子は一階の客室に案内されたが、腰を下ろす間もなく使用人たちが入ってきた。

「朝日さんですよね。奥様がご妊娠中のため、危険物の有無を確認させていただきます」

「妊娠」という言葉が針のように陽子のこめかみを刺し、目の前が一瞬揺らめいた。

まさか子どもまで……?

五年前に花嫁となるはずだった自分は、今ではよそ者同然の扱いだ。

無反応の陽子に、使用人はためらいなくカバンに手を伸ばした。「失礼いたします」

掌に爪が食い込む痛みで、ようやく陽子は我に返った。

以前はここで女主人でありながら、今では危害を加えるかもしれない嫌疑すらかけられている。

顔を上げ、冷たく言い放った。「文彦の指示なの?」

「はい、旦那様のご指示で、奥様の安全を第一にと」

「それなら、本人に直接調べさせてください」

その言葉に使用人たちはたじろぎ、互いに顔を見合わせるとその場を離れた。

部屋に独り残され、押し寄せるのはまたしても見捨てられた感覚だった。

陽子はドアに背を凭せて座り込み、膝を抱えて泣きじゃくった。

涙で滲む視界の隅、床に落ちたカバンから航空券の切れ端が見えている。

泣き声が止み、それを手に取って確認した瞬間、鼓動が早まった――

日付欄には【7日後、2020年9月30日帰り】と明記されていた。

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