Se connecterさらに自転車をこぐこと数時間、辺りが暗くなってきたので、そろそろ野宿の準備をしようと思った。
少し先に、大きな岩が点在しているところがあったので、その辺りで休もうと考えた。 「あの岩の辺りで、今日は野宿しようか」 「わかったわ」 「はい!」 チャーリー、次いでクルシェが返事する。 「クルシェは野宿大丈夫?」 「大丈夫です、あの誰とも仲良くなれない町に来るまでに何度か経験ありますので」 となぜか自慢げに言う。 「ひとりで野宿してたの? モンスターとかに襲われなかった?」 と僕が訊くと、彼女は胸を反って、 「いえ、旅の途中で出会った、旅人や冒険者や行商人とかと一緒に旅をしていたので、襲われたときもありましたが、対処できました。それに私もちょっとは戦えるんですよ」 「へぇ」 それは意外だ。彼女の華奢な体を見るに、肉弾戦が得意なようには見えないけど、どういう風に戦うのだろう? なんて考えているうちに、休憩場所に着いたので、自転車を停めた。 比較的座りごこちのよさそうな岩を見つけ、その上に腰を落ち着ける。 「お腹減ったし、食事にしよう」 バッグから干し肉が入った袋を二つ取り出して、クルシェに片方を差し出す。 「はい、クルシェの分」 彼女は受け取った袋の中をじーっと眺めている。 僕は干し肉をかじりながら、そんな彼女を見て、 「どうした、食べないの、干し肉、嫌いだった?」 「いえ、そういうわけではないんですけど、あの、いつもこういうものを食べているのですか?」 「野宿するときはそうだね」 「不健康よね、こいつの食生活」 チャーリーがやれやれと言った感じで言う。 「そうだったんですか、こんなものばかり……わかりました、今日は私に料理させてください!」 ドン、と効果音がつきそうな威厳で言う彼女。 「料理? してくれるならうれしいけど、でも、食材は……」 「ありますよ、屋敷を追い出される前に、少しメイド長に頂いたんです」 と彼女は自転車のかごに入れていたバッグからキャベツや玉ねぎ、トマト缶などを取り出していた。 「今から作りますから、ちょっと待っててくださいね」 なんてニコって笑ってから、岩の上に板を敷いて、そこに野菜を置いて、包丁で切り始めた。 切った野菜は隣に置いた鍋に入れていく。 「何か手伝えることある?」 「そうですね。では木の枝を集めてください」 そう言われたので、彼女が野菜などを切っている間に、枝を集めておいた。 これぐらいあれば十分かな、という量をあつめた後、野菜を切っている彼女の元へ行く。 ちょうど、切り終えたところだったようで、彼女は鍋に具材と水を入れていた 。 「これぐらいあればいいかな?」 と抱えた木の枝を少し持ち上げると、 「はい、十分です、そこら辺においてください」 彼女に指し示された場所らへんに集めた木の枝を置く。 すると、クルシェは自転車の方へ行き、かごに入れてあるバッグから何やら袋を取り出し、こちらにきた。 そして袋の中にあるものを取り出す。 トライポッドだった。 それを木の枝があるところに接地すると、彼女は先ほど具材を入れた鍋をトライポッドのチェーンにつるした。 「火はどうする? 僕がつけようか?」 「いえ、大丈夫です」 と彼女は言うと集めた枝に手の平を向けて、 「イグニス」 と魔法を唱え、ぼっと火を起こした。 「魔法、使えたんだ」 「ええ、幼いころに教わっていたので、こう見えて故郷を出てからあの町にたどり着くまで、一人でモンスターとかを倒しながら移動してたんですよ」 魔法はだいたい家庭教師か魔法学校に通って教えてもらうのが一般的だ。 どちらも裕福な家庭じゃないとできないことだ。 僕はチャーリーに教わったから多少扱えるけど。 やっぱり、彼女は結構いいとこのお嬢さんなのかもしれないな。 それから待つこと十分くらい、彼女は鍋にトマト缶の中身を入れた。 さらに五分ほど待ち、鍋からいいにおいがし始めたとき、 「できましたよ、野菜たっぷりのトマトスープです」 と言って、彼女が鍋から器にできたばかりのスープを入れて、、朴に渡してきた。 これは、僕の元々いた世界でいうところのミネストローネという料理に似ている。 「食べていいですよ」 「いや、ちょっと待って。まだ君の分を盛り付けていないじゃないか、一緒に食べよう」 「あ、そうですね、その方がいいですね」 「僕がよそうよ」 空いていた器にスープを入れて彼女に渡す。 「それじゃあ、いただきます」 僕が手を合わせると、クルシェがそれをじーっと見ていた。 「その食べる前に手を合わせるの、なんだか礼儀正しいですよね、変わった作法ですけど」 「ああ、僕の故郷の作法なんだ」 「私も真似してみようかな、いただきます」 と彼女も手を合わせてそう言う。 「べつに君はやらなくていいんだよ」 「でも、ご主人様はやっているじゃないですか、だから私もやってみたくなったんです、だめですか?」 「いや、だめではないけど」 「ならこれからもそうしますね」 これは僕がくせでやっているだけなので、別に彼女がやる必要はないのだけど、自分の文化を尊重してくれているのは嬉しい。 では、早速…… 料理を口に運んだ。 うん、トマトの酸味が効いていて、おいしい。 切られた野菜の大きさもちょうどよくて、食べやすい。 「すごくおいしいよ」 「そうですか、ふふ、ふふふふ」 「どうしたの、突然そんな笑い出して?」 「あ、違うんです、嬉しくて、ふふふ、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるのって、気分がいいものですね、故郷では料理人がいつも作っていたし、あの屋敷で働いていた時は料理を作ることもありましたけど、町長はおいしいなんて言ってくれたことありませんでしたし」 「おいしいというだけでそんなに喜んでくれるなら、君の作ったご飯を食べるときは毎回、おいしいと言うよ」 「ふふふ、嬉しいけど、まずい時はちゃんと正直に言ってくださいね」 「そんなにおいしいの? あたしも食べたかったわぁ」 なんてチャーリーがうらやましそうにぼやいている。 あっという間に彼女が作った料理を食べ終えてしまった。 その後、食器を濡れた布巾などで拭き、後片付けをした後、寝る準備に入った。 僕はバッグから二人分の寝袋を用意する。 「クルシェ、これで寝られる?」 「大丈夫です、硬い地面に横たわって寝たこともありますから」 意外とワイルドだな、と思っていると、 「あ、あのー、その、後ろ、向いててくれませんか?」 彼女が突然もじもじとしだす。 「え、なんで」 「この格好だと寝づらいので、寝間着に着替えたいのです」 「ああ、そうだよね、うん、着替え終わったら言ってね」 「はい」 そうして僕は彼女に背中を向けたのだけど、後ろから時折聞こえる布が肌と擦れる音が、なんかすごく気になる。 そんな僕の様子に感づいたのか、チャーリーがぼそっと「いやらしい」なんて言ってきた。 「うるさい」 「どうかしましたか?」 「い、いや、なんでもないよ」 ちょっとどもってしまった。 それからもドキドキしながら待つこと一分くらい、「もうこっち向いていいですよ」と言われた。 前を向くと、ワンピースタイプのパジャマを着たクルシェの姿があった。なに来ても似合いそうだな。 「あの、そんなじろじろ見られると、恥ずかしいです」 「あ、ご、ごめん」 なんだか少し気まずい雰囲気になる。 「ね、寝ようか」 「あ、そうですね」 と二人して、慌てた様子で寝袋へ入る。 チャーリーが「初夜を迎える夫婦みたいねぇ……」とぼそりと言っていたが無視しておく。 そして、お互い寝袋に入り、僕は目を閉じたのだが…… 「寝られん」 思わず声に出してしまう。 今まではすぐに眠ることができたのに。 たぶん、隣にクルシェが寝ているせいだ。 彼女が隣で寝ていると思うと、妙に落ち着かない。 「寝られないんですか?」 そんな時、クルシェが声をかけてきた。 「うん、クルシェもかい?」 「はい、どうも落ち着かなくて……」 まさか、彼女も僕と同じように、隣に異性がいることでドキドキしいてしまっているのだろうか。 「隣りにご主人様がいると思うと、落ち着かなくて……」 それを聞いた瞬間、ドキッとしてしまう、やっぱり彼女も僕のことを意識し―― 「寝た瞬間、隣のご主人様が私を襲いに来るんじゃないかって思うと、落ち着かなくて……」 「襲わないよ!」 思わず叫んでしまう。 ドキドキが一気に吹き飛んでしまった。 「君は僕がそんな奴に見えるのかい?」 「見えないですけど、でも、お母様が、昔、男は夜になると、けだものになると……だから二人きりになってはダメだと教えられて……」 「いやいや、ならないよ、いや、中にはそういうやつもいるかもしれないけど……」 「いるかもしれないんですか……」 と彼女は不安げな顔で僕を見る。 「いやいや、僕はしないよ、ていうか、クルシェ、そういうこと言う割には、以前、町長の屋敷で僕の部屋に呼んだ時、自分から脱いでたじゃないか」 「あ、あれは、雇い主である町長にああ言われていたので、しかたなく……本当は初めては、大切にしておきたいのです! 寝込みを襲われるようなのは嫌なのです!」 と顔を朱に染めながら力説する彼女。 あ、そういう経験はないんだ。 いや、そんなことよりも、 「とにかく、僕は襲わないから安心して」 「そうですか……わかりました……」 とは言うものの、彼女はまだ不安げな声だった。 「お二方、あたしのこと、忘れてない?」 チャーリーがあきれ混じりの声を上げた。 「大丈夫よ、クルシェちゃん、あたしがこの男を見張っておくわ」 この男って……。 「ありがとうございます、それなら安心ですね、これで寝られそうです!」 と晴れやかな笑顔をクルシェは浮かべる。 なんだか腑に落ちない……。 それからは会話がない時間が続くと、やがて、彼女の寝息が聞こえてきた。 その寝息を聞いているうちに、僕もいつのまにか眠っていた。 「ぐがーぐごー」 と謎の音が聞こえて、意識が覚醒する。 まぶたを開くと、眩しい光りが顔に注いできて、目を細めてしまう。 もう朝か、それにしてもうるさいな、なんだこの音は…… と思って顔を左右に動かしていると、どうやらチャーリーがいびきをしているようだった。 「見張っておくんじゃなかったのかよ」 嘆息を一つした後、クルシェの方を見る。 こちらは小さな寝息を立てて、ぐっすり寝ていた。 チャーリーとは大違いだな。 それにしても、寝顔もかわいいな…… なんて見つめていると、彼女の目がパチッと開いた。 「あ」 「え?」 と目をぱちくりとまばたきする彼女。 目が合ってしまった。 その次の瞬間、 「きゃあああ、襲われるうううう!」 「ちょ、ご、誤解だ」 「なんですってー、テル、あんた、昨日あんだけ言ったじゃないのー!」 チャーリーも目覚めたようだ。 「だから誤解だ!」 「雷の精霊よ、天上より現れたまえ、我に力を、罪深きものに聖なる裁きを――」 「上級魔法を詠唱するな、死ぬ、死ぬから、なんならオーバーキルだから」 クルシェとチャーリーが落ち着くのにそれから十分ほど要した。 「で、犯そうとしていないなら、なにしようとしてたってわけ?」 と訝しんだ声を出すチャーリー。 僕は正座していた。いや、別に二人がそうしろと言ったわけじゃないけど、なんとなくそうしないといけないような気がしたのだ。 「なにもしようとしてない、ただ寝顔を見つめていただけなんだ」 「いや、女の子の寝顔を見つめているだけでも、やばいと思うわよ」 とチャーリーが蔑んだ声で言ってくる。 「う、それはそうだな、ごめん」 「まぁ、なにもしてないのでしたら、いいですけど、それにしても、なんで私の寝顔なんて……」 「いや、寝ている顔もきれいだなって、つい、見とれてしまって」 「へっ、な、何を言い出すんですか、急に」 ぼっと顔を赤くする彼女。 「まぁ、ほめられて、悪い気分ではないですけど、でも、今後はいきなりそういうこと言うの禁止です」 「わかった、気を付けるよ」 「あ、でも、たまにならいいですよ」 どっちだよ。 「まぁ、今回は大目に見てあげるわ、これからはクルシェちゃんとも旅をしないといけないんだから、彼女に様々な面で配慮しないといけないわよ、テル」 「うん、そうだな、気をつけるよ」 「わかればよろしい、じゃ、そろそろ出発しましょうか」 「あ、ちょっと待ってください、私、メイド服に着替えてくるので!」 「ああ、じゃ、むこう向いてるよ」 彼女に背を向けると、チャーリーがふぅと疲れた感じの息を吐いた。 「どうした?」 「いえ、クルシェちゃんが来て、騒がしくなったなって」 「いやか?」 「いえ、楽しいわ」 「それはよかった」 「あなたはどう、クルシェちゃんと旅して?」 「楽しいよ、今のとこ」 「そっ、ならよかったわ」 「着替え終わりましたー」 とメイド服姿の彼女がバッグを持ってこちらに来る。 彼女はかごに荷物を置いて、僕の後ろに座る。 「よし、行こうか、次の目的地へ向けて」 自転車のペダルに足をのせる。 そして、僕たちはまだまだ終わりが見えない旅を続けていく。テトラに告白された次の日、あたしはライオットを夜の学園の中庭に呼び出した。 もうとっくにすべての講義が終わってる時間なので、ここにはあたしと彼以外誰もいなかった。 「話って、なんだよ」 ズボンのポケットに両手を突っ込んで、神妙な顔で彼は言う。 あたしは、なんて切り出そうか迷った。 十秒くらい迷った末に、もう単刀直入に言うことにした。「ライオット、あたしは、あなたが好き、なの……」 彼はそれを聞いて、目を閉じて、しばらく黙り込んだ後、ゆっくりと目を開いた。「なぁ、それは、友達として好き、ていうわけでは、ないんだよな」「ええ、恋愛の対象としての好きよ、同性同士だけど、でも、あたし、この気持ちを抑えられないの……」「そうか……」 そう言って、彼は空を見上げた。だけど、すぐに顔を元の位置に戻して、あたしを真っすぐに見つめた。「すまん、実は俺、フィオナと付き合っているんだ」「え……」 ガツン、と頭を鈍器か何かで殴られたような気がした。 断られることは予想していたけど、それは想定していなかった。「い、いつの、まに……」「お前との勉強会にフィオナを連れてきたことがあったよな。実はあの時にはもう、彼女と付き合っていたんだ」 そんな、あの時点で、付き合っていただなんて。「これは俺の落ち度だ。ほんとはもっと早く言っておくべきだった。でも、あの四人でつるむのは居心地が良くてさ、俺とフィオナが付き合っているって知られたら、今までの関係が壊れてしまうんじゃないかと思うと、怖くて言えなかった。でも、それは間違っていたな……」 あたしは、何も言えなかった。ただ、彼とフィオナがあたしの知らない間、ずっと付き合っていたということがショックで、それで頭がいっぱいだった。「そういうことだから、お前のことは、いい親友だとは思っているけど、恋愛対象としては、見ることができない……悪いな」 最後にそう言って、彼は気まずそうに、あたしの目を直視せず、去っていった。 あたしはしばらくその場を動けなかった……。 それから、あたしとライオットとフィオナとテトラの四人は、なんだかぎくしゃくしてしまった。あれほど仲良かったのに。 別に喧嘩するというわけではないが、依然と同じように皆会話ができなくて、どこかよそよそしくて、講義も以前はみんな近くの席で受けていたのに、ラ
公国の魔法学院に入学するには生徒か先生にまず推薦されないといけない、その後、実技試験と筆記試験を受けることになる。 あの時、図書館で出会い、恋した彼――ライオットに、あたしは推薦されて、入学試験を受けることになった。 実技は初級の魔法が使えるかどうかのテスト。 使えさせすればよくて、どれだけ威力が低かったり、魔法の効果範囲が狭くても、魔法が出せれば基本的には合格点がもらえる。 筆記のテストは読解力と数的思考力のテスト。 魔法使いは頭が良くないとなれない。 魔法書は難解で、中級、上級と上がるにつれて、さらに内容が難しくなっていく。上級魔法について書かれた本は教授陣でさえ、理解している人は少ない。だから魔法書を読み解ける能力が必要なのだ。 また、魔法は使用するときに魔法式を計算しないといけない。しかも魔法を使うときはその計算を頭の中だけでやらないといけない。 だから魔法使いには数的思考力が必要なのだ。 受験した結果、あたしは実技も筆記も両方満点だった。 両方満点を取った生徒は、学費が全額免除される。 晴れて合格したあたしは、魔法学院のキャンパス内にある寮に入ることにした。公国の辺境の方に住んでいる人か他国から来た人が基本的には寮に住む。あたしは自宅から通える範囲だったけど、あれから両親とは少し気まずくなってしまったから、学院にお願いして寮に入れてもらえることになった。入試の成績が良く無かったら許されなかったと思う。 この学院は男子と女子で制服が分かれているのだけど、あたしは女子の制服を着ていた。これも学院側に特別に許可をいただいている。 ちっちゃいころはともかく、あたしはだいぶ成長して顔つきも体も男らしくなってきたので、見るからに男が女装している、とわかるような姿になってしまった。 そのため、あたしはやはりほとんどの人から良く思われていないようだった。 と言っても、子供の時みたいに、露骨にいじめられることはなくなったが。でも、こそこそと悪口を言われることはよくあった。 その日も、あたしは陰口を言われていた。 入学してから早半年。 一週間前に行われたテストの成績の上位50名が記載された紙が、本棟の一階にある学内掲示板に張り出されていた。 一位の欄にあたしの名前が書かれていた。 「おい、またあいつが一位なのか?」「本当に一位だ
チャーリーの前世の墓を見た後、僕たちは宿屋へ行き、客室に入った。 すると、チャーリーが話したいことがあるというので、僕は椅子に、クルシェはベッドに座って、聞く姿勢を取った。「いつかはあたしの前世について話さないといけないとは思っていたんだけど……これがいい機会ね、ちょっと長くなるかもしれないけど、聞いてほしい、あたしの前世、マグレガー・リガルディーの物語を」 そして、彼は語り出した――* * * あたしはすごい裕福ってわけではないけど、かといって貧乏では決してない、普通の家庭に生まれたわ。基本的に両親は優しかったし、生活するのに不便は特になかった。 だけど、あたしの母親には、少々困ったところがあった。「ねぇねぇ、これ、着てみてよ」 買い物から帰ってきたばかりの母が、リビングで袋から服を取り出す。 それは白いフリルがついたスカートだった。 あたしは男なのに……。 母は女の子が欲しかったらしくて、一人息子のあたしに、女の子用の服をよく着せようとした。「これ、女の子の服だよね、僕、男、なんだけど……」「あ、そう……やっぱり、嫌よね……」 と母が悲しそうな顔をするので、あたしは慌てて、「あ、着るよ、実はちょっと興味があったんだ」「そう、嬉しいわ」 それから、あたしは女の子の格好をするようになった。 母が喜ぶので、あたしは一人称も僕からあたしに変えて、口調も女の子っぽくした。 はじめはそれは単に母を喜ばせるためのものに過ぎなかった。だけど、だんだんそれがあたしの中で自然になって、いつのまにか自分は男であることに、違和感を持つようにすらなってしまった。 そんな女みたいな振る舞いをしているから、あたしはいじめられていた。「おい、なんでお前、そんなかっこしてんだよ」「お前、男だろ、話し方もなんでそんな女みたいなんだよ」「きめぇな」 公園で、殴る、蹴る、の暴行。一人で砂場で遊んでいたのに、近所の悪ガキ三人があたしを見つけると、攻撃をしに来た。「おい、見ろ、こいつ、パンツまで女のやつはいてるぜ」「いやぁ、やめてぇ」 スカートをめくられ、下着を晒される。 抵抗しようとするも、三人がかりで拘束され、抜け出せない。 あたしが泣き叫んでも、やめてくれない。 ぎゃはははとただ笑ってるだけ。 他の人たちに目で助けを求めるが、すっと視
「ねぇ、今、もしかしてこの乗り物がしゃべった? すごいわね、こんなに自然に喋らせる魔法が使えるんだ」 とこちらに来た運び屋の女性が言う。髪が赤毛で顔にそばかすのある女の子だった。「で、なにを運んでほしいの? あ、人もひとりまでなら乗せてあげられるわよ?」「いや、あたしたちは乗らない。この荷物をアリアナの宿屋まで運んでほしいんだけど」 と僕が手に持っている荷物の方へ、チャーリーが視線を向ける。「いいわよ、ちょっと待って。今、荷物を箒に括り付けるから」 と言って彼女は背負っていたバッグから丈夫そうなひもを取り出す。 その時だった。「おーい、ちょっとちょっと!」 と白い鎧をつけた騎士がこちらに駆けつけてくる。「君、さっき、法定速度を違反していたよ」「え、そ、そんな、久しぶりに、依頼が来て、ちょっと舞い上がっちゃって」「言い訳してもダメ、二点減点ね」「そんなぁー、免許の更新あと一か月後だったのに! アダマンタイトクラスの運び屋だったのにぃぃぃ、ミスリルクラスになっちゃうぅ!」 とその運び屋は頭を抱えていた。 それを見ていたチャーリーが僕に言う。「……違う人に頼みましょうか」「そうだな」「ちょっと、ちょっとーー! なんでよー!」 と抗議してくるが、僕たちは無視した。「あそこにいる人はどうだ?」「あれはダメよ、よく見なさい、箒にひよこマークを付けてるでしょ?」「ひよこマーク?」「運び屋になってから一年経ってない者はあれをつけないといけないのよ」 と僕たちが会話しているところに、先ほどの運び屋が割って入ってくる「ちょっと、話を聞きなさいよ、私でいいじゃないの私で―!」「でも、ミスリルクラスになったんだろ?」「まだアダマンタイトクラスよ、まだ!」 でも、一か月後はミスリルクラスになっているんだろ? とは思ったけど、言わないでおいた。 それからもしつこくその運び屋は自分をアピールしてくるので、結局その運び屋に運んでもらうことにした。 荷物を箒に括り付けた後、その運び屋は空を飛んでいった。 大丈夫かな……と思っていると、先ほど彼女を注意した騎士団の人が声をかけてきた。「見慣れない乗り物がありますけど、あなたは旅人ですか?」「ええ、そうですけど」「運び屋には気を付けてくださいね、最近、運び屋の起こす事故が増えているん
老人しかいない村を出て、野宿をしながら三日間、自転車で移動した。 そして、着いたのが、ロスガヘレル公国の領内にある町――魔法都市シャリア。 この町は生活の様々なところで魔法が活用されているらしい。 門番からの許可を得て、門をくぐると、そこには、転移する前の僕が期待していたような異世界の光景が広がっていた。「おお……」 と思わず、感嘆の声を上げてしまう。 レンガ造りの家が点在していて、遠くには瀟洒な城のような建物や大きな時計台や教会の鐘が見える。往来では全体の半数くらい獣の耳をつけた人達が歩いていて、空では、魔法使い風の格好をしている人達が箒に乗って飛行していたり、どういう原理かはわからないが、色とりどりの花々が浮かんでいたりする。 「これだよ、これ、僕はこういう異世界を望んでいたんだよ」「はしゃぎすぎよ、こんくらいで」 と、チャーリーが我が子を叱るような感じで言ってくる。「わー、すごいです、空を飛んでる人がこんなにいますよ、ご主人様!」 クルシェが目をキラキラさせてあっちを見たり、こっちを見たり、と忙しない。「まったく、あんたたちは……これだから田舎者は嫌だわ。あたしまで変な目で見られちゃう」 そうは言っても、どのみちお前がいる時点で変な目で見られると思うけどな。 実際、さっきから遠巻きにチラチラと自転車の方を見ている人たちがいるし。「見てください、空に花が浮かんでいます!」 とクルシェがチャーリーを見ながら、空の花々を指さす。「フライフラワーね、この町の名物よ、魔法の力で浮いているわ」「チャーリー、あれはなんだ、町の中をなんかキャスターが下についた小屋みたいなのが移動しているが」「あれは自動移動式トイレね」「え、あれ、トイレなのか?」「ええ、男用と女用、それぞれ数十個はあるトイレが町を巡回しているわ。急にお手洗いへ行きたくなってもたいていは近くにあるからとても便利よ」 確かによく見ると、小屋の入り口の上にこの世界の男子トイレのマークである赤色の棒人間が描かれている。「あ、あんたまた女子トイレに入るつもりじゃないでしょうね?」「……入らないよ」 と言うが、チャーリーは依然として猜疑心に満ちた視線を送ってくる。 実はこの異世界では、男性は赤色で女性は青色というイメージがあるから、トイレの色が日本にいたときと逆で
目的地である洞窟に着いて、僕たちは中に入った、そこは大人が数人くらい入っても余裕なくらいの広さで、スペース的には全く問題なかったのだが、「暗いわね」 とサフィラさんが四方を見て、僕の思ったことを代弁してくれたかのように言う。「安心してください、自転車のライトが点くんで」 僕がそう言った直後、ママチャリに着けられていたオートライトがパッと点灯して先を照らした。「多少ましになったけど、これじゃあ物足りないわね……」 チャーリーがそう言って魔法陣を展開させる。「イルミナ!」 そう叫ぶと、自転車のフロントバスケットの上らへんに、サッカーボールくらいのサイズの光る球体が現れて、一気に辺りが明るくなった。「これなら安心して進めるわ」 とサフィラさんが進んでいくので、僕も自転車を押しながらついていく。 モンスターがいないか周囲を警戒しながら歩いたが、不思議と一体も出くわさなかった。 奥に強力なモンスターがいるという話だからそいつを恐れてここには寄り付かないのかもしれない。 そのまま三十分くらい歩いて、ついに例のモンスターと出くわした。「ようやく来たか……遅いぞ。もう腹ペコだ」 とそのモンスターは横たえていた体を起こす。 筋骨隆々とした巨躯の、目が1つしかないモンスターだった。その右手には、木製の棍棒のようなものが握られている。 僕がいた世界のファンタジー作品とかに出てくる、サイクロプスというモンスターに似ている。確か元はギリシャ神話に出てくる怪物かなんかだったかな。「ん……? よく見れば、お前べリックじゃないな、他にもメスが一人、あとなんか変なのがいるな……まぁいいや、お前らが代わりに貢物をくれるのか?」「変なの……それ、まさかあたしのこと?」 チャーリーから殺気のようなものを感じるが、とりあえずスルーして、モンスターの問いには僕が答えた。「いや、貢物はない、べリックさんも僕たちももう持ってくるつもりはない」「あ?」 ピキキッとこめかみに青筋を立てるモンスター。 チャーリーが先ほどのあいつの発言に怒っているようで、煽るようなことを言う。「食料くらい自分で取りなさいよ、まさかあんた、食い物も自分で取れないわけ?」「お前ら……今まで食料を届けてくれたから見逃していたが、もう怒ったぞ。まずお前らを殺して、その後、村へ行って皆殺しだ
翌日、朝早く目覚めてしまったので、散歩でもしようかとドアを開けようとしたとき、「なに、どこか行くの、あたしも連れて行きなさいよ」 とチャーリーが声をかけてくる。 先程までいびきをかいていたので、ついさっき起きたみたいだ。「うーん……なんですか、ご主人様、一人でどこへ行くつもりですか……私も行きます……」 クルシェもまぶたをこすりながら、ベッドから起き上がってくる。「散歩に行くだけだよ、二人も行く?」 はい、と二人とも返事をしたので、クルシェが顔を洗って、着替えるのを待ってから出発することにした。 一階に降り、玄関へ向かうと、モップで床を掃除しているあの従業員に出くわした。コ
それから五分ぐらい歩いて、宿に着いた。 受付で宿屋の主人に部屋が空いているか聞くと、二人用の部屋と一人用の部屋がそれぞれ一つ空いていると返答が来た。「どうしようか、やっぱり、クルシェとは別々の部屋の方がいいよな……」 金銭的なことを考えると同じ部屋にしておきたいんだけど……。「え、同じでいいですよ、お金、もったいないじゃないですか」「そう? クルシェがいいならそうするけど……」「なに、同じ部屋だとあんた、なんかするの?」 とチャーリーが訝しんだ声を発する。「いやいや、まさか……」 と顔の前で手を左右にぶんぶんと振る。「追加料金を払えば、夕食と朝食をつけられますが、どうし
数時間おきに休憩をはさみながら自転車をこいでいると、遠くに村が見えてきた。「あれが次の目的地ね、不幸な人が誰もいない村と呼ばれているわ」 チャーリーがそう言うと、クルシェは目をキラキラとさせた。「不幸な人が誰もいない? ほんとだとしたら、とても素敵なところですね!」 不幸な人が誰もいない……本当なのだろうか? まぁ行ってみないとわからないか。 それからさらに数十分くらい自転車をこいで、村に到着した。 自転車を降りて、入り口を通ると、じろじろと村人たちから視線を浴びる。「旅人かい?」 近くに寄ってきたガタイのいい村人から声をかけられたので、僕は慌てて返事をした。「あ、はい
誰とも仲良くなれない町を出て、しばらく自転車を街道に沿ってこいでいた。 先程から周囲がほぼ草木しかない光景が続いている。 たまにゴブリンやスライムなどの低級のモンスターが襲い掛かってきたが、自転車でそのまま轢いて吹っ飛ばして進んでいく。 数時間くらいこぎ続けているので、そろそろ一休みしたいな、と思っていた時、ちょうど数十メートルくらい先に、大きな木を見つけた。「あそこの木陰で休憩しよう」「わかりました」「オッケー」 クルシェさん、次いでチャーリーが返事をした。 やがて、大きな木の前に着いたので、その近くに自転車を停めて、木に持たれるようにして座り込む。「ふぅ」「お疲れ様







